安岡の住民側は控訴を検討
下関市の安岡沖洋上風力発電建設をめぐり、前田建設工業(東京)が実施しようとした2014年9月14日の環境調査が妨害されたとして、反対する会の有光哲也氏ら3人の住民が「威力業務妨害」で刑事告訴されている裁判の判決公判が24日、山口市の山口地方裁判所一号法廷であった。井野憲司裁判長は検察の主張を認め、有光氏に懲役1年・執行猶予2年を、他の2人の住民に懲役8カ月・執行猶予2年をいい渡した。これに対して住民側は、「正当な住民の抗議行動だ」として控訴を検討するとともに、「裁判ですべてが決まるわけではない。12月9日に予定されている1000人デモ行進をはじめ、住民運動をいっそう盛り上げよう」と話しあっている。
問題になっている2014年9月14日の環境調査は、その前の8月の調査が住民の抗議で中止になり、前田建設工業の社員がみずから測定機器を撤去したことを受けておこなわれた。この日は前田の社員が集まった数十人の住民の抗議を聞き入れなかったので、住民たちが協力して測定機器を安岡本町にある同社従業員宿舎前まで返しに行った。
この裁判では、検察は「住民3人は共謀して、前田建設工業が横野町に設置した測定機器をトラックの荷台に積み込み、従業員宿舎前に運んで環境調査をできなくさせた。これは威力業務妨害罪にあたる」とし、有光氏に禁固1年を、他の2人に禁固8カ月を求刑していた。
これに対して住民側は次のように主張していた。
医師らによる反対意見、安岡自治連合会による反対決議や環境調査中止の申し入れ、10万人の反対署名、また下関市議会による反対決議や、公判中にあった下関市長の建設反対発言に見られるように、安岡沖洋上風力に反対する意見は下関市民の多数意見になっている。問題の調査は、住民の理解を得ないまま違法、不当に強行されたもので、環境影響評価法の趣旨に反した違法な調査だった。住民の行動は憲法21条(表現の自由)で認められた正当な抗議活動である。一方前田建設工業は、住民の抗議を察知したうえで、ダミーを置くなどして住民を罠にかけ、訴訟によって反対運動を萎縮させようとした。したがって被告には無罪判決が下されるべきであり、住民の運動を妨害する意図を持って告訴に及んだ同社こそ厳しく糾弾されるべきである。また、この裁判の証人尋問のなかで、前田建設工業が測定機器を入れた鉄製ロッカーの中にコンクリートブロックも一緒に入れていたことがわかり、「住民が揺すれば壊れるようにしていたのではないか」と話題になっていた。
ところがこの日の判決で井野裁判長は、「前田建設工業の環境調査は、環境影響評価法にのっとり、警察署長の許可を得て実行したもの」とし、住民の抗議活動については「実力行使をもって阻止することは法治国家において違法な妨害活動であり、憲法二一条にもとづく保護に値しない」とのべた。また、自治会の決議には法的拘束力はなく、「合法的に阻止するのであれば差し止め訴訟などを起こすべきである」とした。「住民を罠にかけようとした」という訴えも退けた。
この日、下関から約20人の住民が傍聴に訪れた。住民の1人は、「検察はモリ&カケではまったく動こうとしないのに、住民が風力発電に反対して機械を返しに行っただけで起訴するし、裁判所は国策を忖度する判決をくり返す。この国には三権分立はなくなった」と憤った。
別の住民は「下関で事業をしようと思うなら、日を追うごとに住民との信頼関係が深まっていかなくてはならないはずが、逆に信頼関係は裂け目を広げるばかりで、いまや崩壊状態だ。今後、前田建設が地元の同意を得ようとしても、もはや誰も納得しないのではないか」とのべた。
反対する会は、10万人署名をさらに広げるとともに、12月9日にJR下関駅前で4度目の1000人デモ行進をおこなうことを決めた。住民たちは「裁判だけですべてが決まるわけではない。住民運動をもっと大きなものにして風力発電をストップさせる。1000人デモでだめなら1500人集めたい」と口口に語っている。