下関市議会9月定例会の補正予算のなかに、新市庁舎建設費約16億円が盛り込まれている。旧庁舎の解体など関連費用を含めると約22億円にも膨らむ事業で、旧庁舎に耐震補強を施すという中尾前市長の方針を覆し、前田市長になってから全面建て替えに切り替わったものだ。既にコンクリートが頑丈なことで知られた旧庁舎は解体され、見る影もなくなった。このなかで、建設の是非もさることながら、下関の公共建築物を巡っては完成する度に利用者にとって使いにくいものになってしまう事態が連続しており、「今回の設計は大丈夫なのだろうか?」という不安の声が高まっている。
もっとも問題になっているのは、中尾市長時代に強行した本庁舎新館や立体駐車場だ。下関市役所の本庁舎新館を訪れた市民がまず驚くのは、立体駐車場から目的の課にたどり着くまで、迷路のようにわかりにくいつくりになっていることだ。連絡通路は2階と4階にしかなく、初めて訪れた市民のなかにはウロウロとしている人が少なくない。そして庁舎に入ったものの、今度は目的の部署がどこにあるのかがわかりにくいつくりになっている。おろおろと庁舎内をさまよう高齢者が毎日のようにおり、市職員や他の来庁者に尋ねている光景がよくある。職員のなかでも「すでに50回以上は尋ねられた」「誰がこんなものをつくったのかと怒られた」と語られるほどだ。そのため、黒い壁には「○○課はこちら↑」といった貼り紙があちこちに貼られている。
本庁舎旧館の1階と地下にあった売店・銀行・食堂は、本庁舎新館4階に配置されたが、ここまで上がるにもエスカレーターは2階止まり、エレベーター3基のうち1基は3階止まりで、4階まで行くことができない。階段で上がるか最上階まで続く2基のエレベーターに乗るしかないのだが、なにも知らない市民はエスカレーターや3階止まりのエレベーターに乗って困惑している。このエレベーターは完成して間もない時期に雨漏りに見舞われて話題にもなった。
6階では、福祉政策課の福祉部長室の隣に空調機械室があるが、この機械が「ゴゴゴー」「ドドドドーン」とけたたましい音を鳴り響かせている。福祉部長室は拷問部屋ならぬ轟音部屋かと話題になっているほどだ。各階の同じ場所に空調機械室は設置されているが、真隣に執務室があるのは六階だけで、他の階はロッカー室などになっている。あまりにも大きな音なので「雷が鳴ったのか」と驚く人もいるほどだ。
音の原因は、入口と出口の弁の調整の加減にあるようだ。入った空気が外に出るさいに、圧が高まると音が鳴るのだという。気圧の影響などもあり、大きな音がするのは毎日ではないが、機械の機嫌が悪いと「ゴゴゴー」「ドドドドーン」と鳴り響く仕組みだ。とくに真夏や真冬など冷暖房をよく使う時期には必ず訪れる現象になっている。
ほかにも、建設ありきで急いで建てた本庁舎新館には、収納スペースがまったく足りていないことも職員のなかでは問題視されている。1階ロビーの焼け焦げたような柱もしかり、冷暖房の届かないインフォメーションや議会棟の受付などなど、内情を知れば知るほど「誰が設計したのか?」と思うようなつくりなのだ。設計したのは梓設計なのだという。
立体駐車場は今年5月、旧館解体にともなって駐車場入口が山口銀行側から移動して、田中町11号線にある出口の隣に設置された。一方通行の出入口が隣り合わせになることで混雑することも懸念されたが、それにも増して右折して一方通行を出て行く出口に対して、入り口がその先にあり、出庫車と入庫車が交差する状態になった。市民や業者が多く訪れたり、本庁舎で何らかの会合がある日はたちまち混雑し、山口銀行側から松琴堂前まで庁舎を取り囲むように長蛇の列ができている。片側一車線であるため、市役所に用事のない車まで巻き込んで大渋滞をもたらしている。これが新庁舎完成までの2年間続くことになる。
自転車やバイクで市庁舎を訪れる人人のなかでは、駐輪場も問題視されている。駐輪場は業者出入口側にあるが、その屋根は2つの屋根が重なりあった構造になっている。雨が降ればこの2枚の屋根の隙間から雨のしぶきが入りこみ、用事を終えて庁舎を出たころには自転車やバイクは大概びしょ濡れになっている。屋根の体をなしていないのだが、普通の屋根にすればよいものを格好つけたばっかりに、「びしょ濡れになる屋根つき駐車場」なるものができ上がったのだった。
JR下関駅周辺 自転車が通らない自転車道
大金をかけて使いにくい構造物をつくった例は市庁舎以外にもまだまだある。その最たるものが、2015年8月に開通したJR下関駅周辺の自転車専用道(全国初のモデル事業)だ。再開発の一環として自動車、自転車、歩行者の「三者の安全」を掲げ、車線を潰して自転車専用道をつくったものの、自転車は滅多に通らず、歩行者が歩く歩道と化した。安全どころか車道幅が狭くなったおかげで、駅に入ってきた車が縁石に乗り上げるなど危険な状態をつくり出した。車道幅が狭いために駅への送迎などで1台が止まれば身動きがとれず、ドライバー同士の衝突が頻繁に起こるなど、駅前の「平和」も乱れている。つかみあいの争いをする人人まで出てきている始末で、客待ちのタクシードライバーたちも「あの自転車道がすべての元凶だろうに…」とぼやいている。
交差点では自転車道を歩行者が歩くおかげで車は右折も左折もできず、詰まった挙げ句に信号が変わってしまうこともしばしばだ。「誰がこんなものをつくったのか」「自転車が通らない自転車道など全国どこにもない」と、強烈な批判と早急な撤去を求める声が噴き出し、今年2月になってようやく東口側の自転車道は一部撤去され、現在は送迎車両が数台だけ停車できるスペースがつくられた。とはいえ、危険な状況は東口側も国道側も解消されておらず、ひき続き撤去を求める声は強い。
また駅開発でリニューアルされたバスターミナルでも、国道側への自転車道敷設のために、すべてのバスがターミナル内で乗客の乗降をしなければならなくなった。ターミナルの真ん中には「中の島」があり、当初はここが全ての乗客が降りる降車場になる計画だった。新規のエレベーターまで設置されたが、それだけのスペースでは次次入ってくるバスに対応できないうえ、大型バスが回転できないとの指摘もあり、降車場計画は頓挫。仕方がないので、中の島は競艇行きのバス発着場として利用する以外は、バス休憩所となった。エレベーターを使う人などいない。
唐戸市場 鮮魚売場に冷房設備がなく「蒸し風呂市場」の異名も
設計がでたらめといえば、17年前の江島市政時代に約80億円(新庁舎を上回る破格の事業費)をかけて建設された唐戸市場では、ここ数年の真夏の猛暑にさいして、鮮魚売場に冷房設備がないことが大きな問題になっている。市場関係者の訴えによって数年前に12基の換気扇がとりつけられたもののまったく効果が得られず、昨年は移動式冷風機をリースで導入したがこれも効果がなかった。記録的猛暑といわれるなかで、鮮魚を扱う市場が蒸し風呂のような状態になっている。魚が傷んだり観光客が食中毒などを起こしたら大問題で、市場で仕事する人人にとっては猛暑への対応が切実な問題だが、市は「特別会計なので予算がない」という説明をくり返してきた。今年は7月半ばから大型冷風機が2台設置されたが、これも気休め程度で解決にはなっていない。
老朽化を理由に建て替えた市場だが、以前の市場は風が吹き抜けるつくりになっていた。しかし現在の市場は風が通らないつくりのうえに冷房施設もないため、場内にこもった熱が排出できない。8月中旬にトップライト工事をおこない、天井に穴をあけて場内の熱を放出する工事もおこなったが、実用は秋口になるようだ。「壁を開けられるようにして風が通る仕組みにしたらいいのでは」「天井のあちこちに冷風機や扇風機をつければ変わるのではないか」など、市場関係者たちは頭をひねっているが、そもそも建物の外観ばかりで鮮魚を扱う市場として設計されていないことが指摘されている。東側のガラス壁も太陽が差し込むことを意図したオシャレなものだったが、おかげで朝日がガンガンに差し込んで水産物を痛めてしまい、開設早々に黒塗りシートを貼り付けた経緯がある。
もともと空調は山口合同ガスのためにガス仕様でつくられており、このガス代もバカにならない。かといって大規模な改修を加えないことには蒸し風呂状態が解決されない。鮮度が命の商売をしている人人は「とにかくどうにかしてほしい」と願っている状態だ。
建物はその利用目的のためにつくられ、利用者にとって使いやすいことが大前提のはずだ。ところが大金をかけて蒸し風呂市場や自転車の通らない自転車道、雨漏りをしたり迷路みたいな新庁舎等等、「またか…」とため息が出るほど利用しづらいものばかりでき上がることに批判が強まっている。利用することに重きを置いておらず、つくることしか考えていないから、後の祭りみたいな事態が連続しているといえる。市民のなけなしの税金で、使いにくい公共建築物ばかりつくる癖をどうにかせいという声が強まっている。