下関陸上競技場(下関市向洋町)の公認をとり消される可能性が浮上していた問題で、日本陸上競技連盟は4日に開催した施設用器具委員会で審議した結果、「第2種公認陸上競技場の公認については保留(不合格)とする」との決定を下関市に通知した。なお、生徒や保護者、陸上関係者らが心配していた山口県中学校陸上競技選手権の記録は公認された。通知が届いたのを受けて下関市は9日、結果を公表するとともに今後の整備の方向性や財源の確保などについて検討を始めている。
下関市の発表によると、公認期間(6月28日)から1年以内に、昨年12月に同連盟が出した指導事項に適合するよう改修を実施して検定を受ければ公認は継続される(ただし合格までは公認競技会の開催はできない)。このまま対応がなされなければ公認はとり消しとなる。
通知では、検定の結果として、「全天候舗装が1~2レーンの走路を除いて、走路、助走路に全面的な経年劣化が生じ弾力性がなく、著しい摩耗により所定の厚みが確保されていない」「マーキングも全天候舗装の劣化により、すぐに剥がれるような状態となっている」などの点をはじめ、指導事項について改善するところが多くあると指摘しており、「この状態では競技会、競技者の練習に支障があり、また危険があり、公認競技会を開催することは困難であり、適切な施設として認定できない」としている。
問題になってきたのはおもにトラックの3~8レーンの劣化だ。5年前の検定で「次回検定までに3~8レーンの全面張り替えをすること」という条件が付されていたにもかかわらず、ずるずると放置し続けた結果、1年間の保留期間が与えられたとはいえ、公認陸上競技場として「不合格」という結果を突きつけられている。「公共施設マネジメント」が進行している最中にあって、マネジメントどころか、市民の財産である公共施設の管理・手続きのずさんさが全国に知れわたってしまった。下関市にとっても大変恥ずかしい事態だ。
市スポーツ振興課は、「昨年12月の事前調査のとき、“6月検定では3~8レーンの張り替え条件は付くだろうが、条件付きでも通るよう頑張ってみましょう”というお話をいただき、その言葉に甘えた部分があった」「条件付きではあるがしのげるのではないかという期待を持っていた」と、このたびの経緯について説明。今後、長期的な視野を持って工法や財源、改修後の利用ルールなどを検討するとしている。
今回の公認問題をめぐっては、6月16、17日開催の山口県中学校陸上競技選手権の記録が公認されるかどうか、一生懸命走った生徒たちやその保護者、教師らはもっとも心配し、代替大会の開催も視野に入れながら結果が出るのを見守ってきた。日本陸上競技連盟は、これについて「検定日(6月14日)から公認期限(6月27日)までの競技場の公認を認める」とし、1000人余の生徒たちの記録は守られることとなった。
関係者らによると、この1週間あまり、日本中学校体育連盟が「全国大会を夢見て努力してきた選手、自己ベスト記録を出そうと必死に練習に取り組んできた選手にとっては、すべての努力が無駄になりかねない」として、記録の救済を求める嘆願書を提出しており、日本陸連側も、「予選で負けた選手も自己ベストを出していたかもしれない」「何とか子どもたちの記録を救済したい」との意向で検討を重ねてきたという。子どもたちの頑張りを無にせぬよう、多くの関係者が動いた結果だといえる。ただ、県選手権の救済が精一杯だったともいわれ、通知の文面からは、下関市陸上選手権(4月1日)、高校総体地区予選(4月21、22日)、中学校西部県体(5月19日)の記録は無効であると読みとれる。
焦点の記録が公認されてほっとしたとはいえ、関係者らのなかにこの間の市の対応の不誠実さについて指摘する声が広がっている。
そもそも子どもたちを巻き込むことになったのは、下関市が「6月の検定を少しでもよい条件で通るように」と、今年3月にスタートライン付近の張り替えなど一部改修をおこなって以後、検定を受けずにいたのが原因だ。しかし、下関市は「遡って公認をとり消すとする通知は山口県陸上競技協会に届いたもので、下関市に正式な通知はない。伝聞で動くことはできない」とし、子どもたちのために奔走することもなかった。再三にわたって市に要請があったにもかかわらず関係者らに対する経緯の説明もしないまま、この件に関して無言を貫いている。その対応について「不誠実」「子どもたちに対する心配りが感じられない」と多くの関係者らが感じている。
直近で県内の陸上関係者らが集まるのは、7月22、23日に開催予定の全日本中学校通信陸上競技大会だという。その場に市担当者が来て謝罪なり、今回の経緯について説明するのかどうか、注目されている。
なお、3~8レーンは2010、11年に国の補助を受けて全面改修したが、2013年には全面張り替えが条件に付されている。劣化が早い理由について、利用頻度の高さもあるが、陸上関係者のなかには改修のさい使った素材がスーパーXであったことに対する疑問の声もある。スーパーXは劣化が早い素材であり、長期的に見るとコストが高くつくという。一部関係者に市議会議員(みらい下関所属)も絡んで、多くの陸上関係者らに相談もなく工法が決まったという、聞き捨てならない話もかわされている。事態が落ち着いたのちに、そうした経緯の検証も含めて徹底的に真相を究明することが求められている。