小中学校16校の閉校も計画
総務省の号令のもと、地方自治体の財政健全化の一環として公共施設の削減計画が進んでいる。下関市も2016年2月に「下関市公共施設等総合管理計画」を策定しており、現在、市内にある1107の公共施設それぞれの方向性を示した「公共施設の適正配置に関する方向性」の案についてパブリックコメント(意見募集)をおこなっている。公民館などを含む集会施設、文化施設、医療保健福祉施設、スポーツ施設、学校や児童クラブ、市営住宅、消防機庫、公園便所など、対象は市民生活に密接にかかわるものも多く含まれている。だが、意見募集の開始に気づく市民は少なく、市が計4740人に送付したアンケートで内容を知り、驚きが広がっている。手続き上のパブリックコメントが終了し、「方向性」が決定されれば、この内容に沿って各担当課が具体化していくことになる。
全国的に、昭和40年代半ばから50年代に多くの公共施設が作られ、今後10~20年のあいだにそれらがいっせいに更新時期を迎える。建物ばかりではなく、上下水道管などの生活インフラの老朽化についても、専門家や業者らが「新しい物をつくっている場合ではない」と深刻さを指摘してきた。一方、日本全国で人口減少が進んでおり、地方自治体は現役世代の減少による税収減が止まらず、更新・維持管理に割く金がないという状態に直面している。今後、人口増なり税収増に持ち直す展望を持っている自治体は数えるほどだ。そこで、これまで公共財産として維持・管理してきた公共施設を廃止、売却、民間譲渡などの形で縮減していこうというのが「公共施設の適正配置」で、緊縮路線の具体化として動いている。
福祉・保養施設は民間に譲渡
下関市の公共施設は2014年段階で1107施設、延床面積にして約154万7000平方㍍ある。市は、これらのうち六割近くがすでに建築後30年以上を経過しているとしており、今後多額の更新費用が必要になることを縮減の目的としてあげている。また、人口減少などにより利用率が低い施設や維持管理費が高い施設について検討する必要があるとして、2015~2034年度までの20年間で、公共施設の延床面積を最低でも30%以上縮減する数値目標をうち出している。前期(2015~2022年度)、中期(2023~2028年度)、後期(2029~2034年度)にわけ、前期7%、中期10%、後期13%の削減をめざす。
下関市の公共施設の延床面積のうち約30%は学校教育施設で、約30%を市営住宅などが占めている。そのほかのスポーツ施設や文化施設、保養観光施設、産業振興施設などすべてを合わせて40%ほどだ。学校や幼稚園は少子化を理由に統廃合が加速しており、市営住宅は老朽化を理由にしたとり壊し計画が出るなどしてきたが、数値目標の達成をめざす側から見ると、学校や市営住宅は「お荷物」であり、削減対象に他ならない。
おもだった広域施設を見ると、建て替えが始まっている市役所庁舎が完成すると、上田中庁舎や田中町庁舎、カラトピア四階などを集約するほか、集会施設では下関勤労福祉会館、青年の家、下関市勤労婦人センター(山の田)、下関市勤労青少年ホーム(彦島)、豊浦勤労青少年ホーム(豊浦)などの集約化や複合化をあげている。
文化施設では図書館について、「急速に進化した情報技術や社会環境の変化により、取り巻く環境も、求められる役割も変わってきている」として長府・菊川図書館を複合化する方針だ。
またスポーツ施設では市民プールや下関市体育館など「老朽化した施設が多数ある」とし、各地にある5つの武道館(彦島、長府、川中、菊川、豊田)をはじめ、相撲場や弓道場を集約化、射撃場は譲渡する方針を示している。築55年となる下関市体育館については建て替える方針だが、複合化やPFI手法などについて検討をおこなうとしている。
譲渡の方針が列挙されているのが、「民間でも提供可能」とする福祉施設や保養施設だ。
環境上や経済的な理由で自宅での生活が困難な高齢者を受け入れている養護老人ホーム「下関市陽光苑」(永田郷)や同デイサービス、心身に障害を持ち、独立して生活を営めない市民を受け入れている救護施設「梅花園」(いずれも下関市社会福祉事業団が指定管理者として運営)を譲渡するほか、豊北町にあるデイサービスセンター2カ所も譲渡するとしている。
また改築にともなって、存続を求める10万人署名運動が起こった満珠荘をはじめ、火の山ユースホステル、市営国民宿舎・海峡ビューしものせき、サングリーン菊川、きくがわ温泉華陽など保養観光施設は基本的に「民間活力の導入」のため譲渡する方針となっている。満珠荘や火の山ユースホステルは税金を投入し全面改装したばかりだ。
園芸センターは規模縮小と他の公共施設と複合化する方向性が示されている。安岡地区の住民のなかでは、「安岡支所・公民館が園芸センターと合体して園芸センターの場所に移るそうだ」ともっぱらの噂だ。まったく用途の違う施設を複合化するだけでなく、住民の住む区域から遠く離れた場所に公民館や支所が移転することに疑問の声が方方で語られている。ちなみに吉見にあるフィッシングパークは廃止することになっている。
産業振興施設は「適切な維持管理を進める」ことを基本とするものの、地方卸売市場新下関市場の規模縮小や、「利用者が少ない」とされる豊田のライスセンター、豊田肉用牛繁殖肥育センターなどを譲渡する。
また関山納骨堂や斎場(豊田、豊浦)の集約化も盛り込まれている。火葬場は現在の需要のみで判断することができない施設であり、近年火葬場の順番待ちで葬儀がおこなえない状態が恒常化している自治体があることも問題になっているところだ。目立たず、営利には委ねられない業務であるだけに、安易な判断は避けるべき事案だと、行政内部でも慎重な検討を求める声は強い。
公園トイレ60カ所廃止
これら広域施設もさることながら、衝撃を呼んでいるのが各地区ごとに示された計画、なかでも学校の統廃合が決定事項のように記載されていることだ。
旧市内では王江・関西小学校・文洋中学校、彦島では本村小学校、市東部地区では王喜・吉田小学校、内日地区では内日小学校、吉見地区では吉母小学校、豊田町では豊田中・豊田下小学校、豊浦町では宇賀小学校、豊北町では角島・神田・阿川・粟野・神玉の5小学校の閉校を見込んでいる。
これらの学校は「市立学校適正規模・適正配置基本計画」で2015~2019年度に集約をめざす計画となっているとし、「集約による適正配置と施設総量の縮減を図ることは、公共施設マネジメントの方針とも整合している」として、集約後、建物の状態によって「譲渡」「解体」の方針を示している。
この計画を目にした該当地区のまちづくり協議会や自治会の会合では怒りの声が上がっている。とくに農漁村部では小学校が地域振興の核となっており、「学校がなくなれば地域もなくなる」との思いから、地域住民がボランティアで子育て世帯の支援をするなど、学校を残す努力をしている地域も多い。統廃合するかどうか、親や地域住民が悩みながら検討を重ねており、まだ結論が出ていない地域もある。そうした地域住民の思いや努力など意に介さない計画が、頭越しに示されたことに対する怒りは深いものとなっている。
同じく「学校教育施設」に分類される幼稚園の閉園も盛り込まれている。すでに廃園・休園となっている幼稚園も多いが、今後、向山幼稚園、豊浦幼稚園(長府)、内日幼稚園(現在休園)、第五幼稚園(川中地区)、川中西幼稚園、垢田幼稚園を閉園またはこども園に集約化することが盛り込まれている。
これらの計画をすべて達成した場合、前期(2015~2022年度)でもっとも削減されるのは学校教育施設(9万8350平方㍍、20・30%減)となる。ちなみに話題となってきた公園トイレは各地区合計で60カ所以上が廃止対象となっている。
下関市では先日、下関陸上競技場の整備を怠っていたため、公認取り消しの可能性が浮上したばかりだ。市民から預かった公共財産を大切に管理する姿勢の欠如、ずさんさを生み出す背景に、公共施設マネジメントに貫かれている「金がかかるから処分したい」という本音があるとも思われる。
小泉改革以降、「受益者負担」「自己責任」などのかけ声で、公共の守備範囲は狭まってきた。人口減少や少子高齢化が進むなかで、「金がない」を合言葉に、一気に公共施設の縮小が始まっている。金融緩和によって財政支出を増大させながら、一方で「小さな政府」路線を実行する緊縮策が押しつけられている。総務省が旗を振るのは、そのことによって地方交付税や各種の補助金を削減し、別の用途にふり向ける意図があるからにほかならない。
公共施設の3割カットによって、市民生活はどうなっていくのか、重大な関心が注がれている。