事業者に申し入れを 言葉より大切なのは行動
下関市議会の6月定例会の一般質問で、下関市民の会の本池妙子市議(長周新聞社)は、下関で大きな問題となっている安岡沖洋上風力発電建設計画について質問した。計画浮上からすでに9年が経過するなかで、住民の反対世論の高まりと根強い反対運動によって建設計画は進んでいない。このなかで、市長選のさいに「住民の反対があるかぎり賛成することはできない」とのべた前田市長の見解を追及した。これに対し前田市長は住民がかかえる不安と反対世論の広がりにふれ、再度「絶対に進めるべきではない」と反対の意志を表明した。
本池市議は、この5年余りのあいだに安岡地区や綾羅木地区の自治連合会、医師会や商工会、宅建協会、漁業者など20団体以上が風力反対の陳情をおこなってきたこと、住民による1000人規模のデモ行進が3回おこなわれ、横野地区では毎月国道沿いに立って風力反対を訴える街頭活動がのべ1万人をこえる住民の参加のもとで継続しておこなわれてきたこと、反対署名は10万2200筆をこえるなど、住民運動が急速に広がっていることをのべた。そして、「みなさんがこれほどまでに真剣に反対運動を続けるのは、風力発電が生み出す低周波音による健康被害の不安が払拭できないからだ。風力の低周波音については、全国・世界各国で苦情があいついでいる。住民がもっとも不安に思っているこの低周波音の問題について、市民の健康と暮らしを守るための環境保全と公害防止の役割を担っている環境部はどのように認識しているのか」と問い、市が独自の調査をしているのかも問うた。
これに対し水津環境部長は、反対運動がおこなわれていることは十分認識しており、署名についても大変貴重な意見として受けとめているとのべ、低周波音の問題については市単独で独自の調査はしていないと答弁した。
本池市議は、低周波音の被害の実例として、豊北町の牛農家の廃業や、三重県青山高原、和歌山県由良町、静岡県東伊豆など全国各地の風車の近くに住む住民が、睡眠障害、頭痛、耳鳴り、めまい、吐き気という共通した症状を訴えていること、医師や研究者はその原因は低周波音にあり、転居以外に解決方法はないといっていることをのべた。しかし国は、低周波音について厳格な測定も医師による疫学調査もおこなっておらず、規制基準もつくっていない。そしてそれを逆手にとって、事業者の側が住民の反対を無視して自然エネルギーの補助金ビジネスに突き進む構造になっている実態を指摘した。
実際に、前田建設工業が平成28年の準備書説明会で、風力がまだ稼働してもいないのに「低周波の影響は問題ない」といい、「風車騒音は耳に聞こえない超低周波音ではなく、聞こえる騒音の問題として扱う」といっていることにふれ、「こういう姿勢なら、仮に風車が建設され住民が健康被害を訴えたとしても、“因果関係は認められない”といって相手にされない事態を心配しなければならない」とのべ、「市民の暮らしにとってゆるがせにできないのであれば、解明が進むまで待ったをかけるなり、責任ある対応を地方自治体としてはやらなければならない」とのべた。
続いて、昨年3月の市長選のさいに安岡公民館で「地元の賛同が得られていない以上、風力発電を絶対に推進するわけにはいかない」とのべた前田市長に、再度見解を問うた。これに対し市長は、「安岡沖の風力発電事業においては、地元安岡地区・綾羅木地区のみなさんが非常にご心配をされていることが今でも続いていると理解しているし、心配な気持ちが私自身にもある」として、「住民の反対がこれだけ多くある以上、この事業は絶対に進めるべきではない、という気持ちは選挙のときから一貫して今でもまったく変わっていない。この場でも大きな声でみなさんにお伝えしておきたい」とのべた。
市議が、環境アセス準備書にかかる市長意見で前田市長がはっきりした態度表明をしなかったことに住民のなかで大きな失望が広がったとのべ、「市長としては、科学的解明も明らかでなく、よくわからないのに、事業者が風力発電を建設するのを開けて通すのか、それとも民意を代表してストップをかける意志があるのか」と問うと、市長は、「私はこの事業に対して、すべきでないと一貫していっている。(事業を)応援しているかのようないいまわしはまったく違い非常に遺憾に思う。私は一貫して、みなさんがご心配される以上進めるべきではないといい続けている。低周波については、私は医者ではないし、医学的見地の結果的な臨床がきちんとされていないから、そこに首長として判断を突っ込むというのは私の立場としては越権していると思っているからいっていないだけだ。みなさんがこれだけ大きく(反対)しているというのは知っているし、その心配を払拭したいし、市民の安心安全を守りたいから、首長として、やるべきではないといい続けている」と強くのべた。そして「この話が来るまで下関は平和だった。それがこういうふうになってしまったというのは残念で悲しく思っている。今までケンカする必要のなかった人たちが非常に仲が悪くなったり、いい争ったりしてとんでもない迷惑だ」と腹立たしさを込めて語った。
本池市議は最後に、欧米では環境規制が進んだ結果風力発電のブームが去り、大量の在庫が日本に押しつけられようとしている背景にふれ、「関門地域が洋上風力の実験台にされ、在庫のはけ口にされるのではたまったものではない。環境アセスの手続きにかかわりなく、前田市長は安岡沖洋上風力発電に反対する態度を表明すべきだ」と訴えた。
なお、前田市長については、真に郷土を思い、住民の暮らしを守る気慨があるのなら、経済産業省及び前田建設工業に対して、「やめてくれ!」と正式に申し入れに行くことが求められている。それでも相手にされないのであれば、地元同意や首長判断すら超越した力で進められる事業とは何なのか、地方自治とは何なのかを問い、制度の歪みを是正させるべく、国や関係機関にも出向いて交渉することが求められている。具体的行動がともなうのか否かをみなが注目している。
10万署名は市長の得票の2倍超にもなるもので、その対応は2期目を考えるうえでも重要な指標となる。