最適な環境の日本でなぜ衰退するのか
ドイツの生産額は日本の10倍
下関市の菊川ふれあい会館(アブニール)で28日、下関市が主催する自伐型林業講演会「山林所有者や地域自ら森林経営・施業を行う自立自営の林業とは」があった。高知県いの町在住のNPO法人・自伐型林業推進協会の中嶋建造代表理事が基調講演をおこない、市内外の森林所有者や林業関係者、地域住民など約90人が参加した。総面積の6割超を森林が占める下関市においても、森林の荒廃は長年の課題で、シカやイノシシなどの行動範囲が拡大する一因とも指摘されており、林業に対する関心の高さをうかがわせた。
中嶋氏は、日本は国土の7割を森林が占め、温帯で四季があり、雨が多いという樹木にとっては最適な環境で、スギ・ヒノキが大量にあるほか、広葉樹のケヤキやミズナラ、クリなど質・量ともに世界一だとのべ、「世界一の林業が展開されておかしくない日本で、林業が衰退産業の代名詞のようになっている」と現状への疑問をのべた。
現行の林業を見ると山林所有者は赤字であり、国有林は約3兆円の赤字を積み上げ、県公林で破綻したところも多い。森林組合も経営の7割を補助金で補わなければ成り立たない現実がある。しかし国の政策が根本療法へと向かわず、大規模な事業体にのみ補助金を倍増するなど対症療法的政策にとどまっていることを指摘。その結果、林業生産額は約2000億円(日本のGDPの0・1%以下)と、補助金額(年間3000億円)を下回る産業となり、就業者はピーク時の10分の1まで減少しているとのべた。日本の四割の森林面積であるドイツは、自然環境は日本に劣るにもかかわらず、生産量は5倍、生産額は10倍で、就業者数は120万人と自動車産業より多いことも紹介した。
日本の林業政策の問題点の一つとして、すべての作業を委託する「所有と経営の分離」をあげた。所有と経営の分離は、昭和40年頃から林野庁が推進してきたもので現在も進行しており、森林・林業再生プランも、多数の山主の山林を集約し、森林組合などが請け負う形が前提となっている。小規模な山林所有者を切り捨てる政策であり、山林所有者の林業離れはこうした政策の結果であると指摘した。
また現行の材価では「皆伐施業」の手法は採算が合わないうえ、50年たった木材を皆伐すると、その後出荷する材がなくなる問題や、皆伐した山は土砂流出が激しく、災害が頻発するなどの問題をはらんでいることを指摘した。また大規模化は高性能機械の導入が必要で、1億円の機械投資に加えて作業員の人件費、修理費、燃料費などコストがかかるうえ、広い作業道の敷設が山林崩壊や土砂災害を頻発させているとのべた。
大量生産・大量消費という皆伐を生む現行林業と反対に、自伐型林業は所有・経営・施業をできるだけ近づける形だという。小規模な作業道を高密度に敷設し、2㌧車などで作業をおこなうため、コストもかからず地域住民や山林所有者の参入も容易だとのべた。長期的な多間伐施業で、2割以下の間伐をくり返し、残った木が成長することで10年後の間伐時には材積が上がり、収入が増える仕組みだ。中嶋氏によると50年からが良質な材をつくるスタートで「50年で切ってしまうのはもったいない」という。現在ほとんどがB材として扱われているが、50年以上たてばA材として出荷できる。限られた山から継続的に収入を得るためには良好な森の維持が不可欠で、それが子や孫と多世代にわたる定住策ともなることを強調した。
高知県をはじめ全国で自伐型林業に参入する若者も増えており、20歳前後の若者が年間500万円を稼ぎ出したり、ミカンと兼業で1000万円を稼ぐ4年目の参入者もあることを紹介。人が山に入ることでシカの被害も劇的に減ったとのべた。質疑では森林組合との関係や小規模所有者の多い下関の現状なども踏まえて質問が出されていた。現状放置では山林の荒廃や中山間地域の人口減少は進む一方であり、こうした他県の実践例を踏まえ、下関の実情に即した対策について議論を深めることが求められている。