山口県周防大島町で今月11日、柳井市から水道水を供給する送水管が破断し、町内全域約1万世帯以上に数日間にわたって水が届かない事故が起きた。13日に破断した部分の交換がおこなわれ徐徐に送水が再開し、18日現在、ほとんどの世帯に届くようになったが、場所によっては時間がかかった地域もあり、それまでのあいだ断水は続いた。再び水が来るようになり住民は安堵しているが、安定的な給水体制のあり方を考えさせるものとなった。
破断が発見されたのは11日夜。大島大橋の真下を通る直径45㌢の送水管から水が漏れているのが見つかり、すぐに復旧作業に入った。住民には断水になると知らせが行き渡り、慌てて水をためるなどの対策を施したが、大島地区や久賀地区など世帯数が多い地域では、翌日から徐徐に断水が始まり、町内は大騒ぎになった。
町内の学校では、12日に断水になるという知らせが来たが、早い地域ではその日の昼ごろに断水になった。給食の食器を洗っている最中に水が止まってしまったところもある。トイレや洗面所から水が出なくなったために教師たちがプールの水をバケツで汲んで用意したり、トイレ後に手が洗えず病気になることがあってはいけないと、全小・中学校に手洗い用のジェルが配布された。町内の小・中学校の給食は4つのセンターで作っているが、水が出なければ給食もつくれないため、15日分の給食は休止して弁当持参とした。しかし復旧に時間がかかる場合は家庭にも負担になるため、地域のスーパーに児童・生徒用の菓子パンを納入させるように手配した。幸い土日を挟んでいたために影響は少なく、月曜日以降の給食は再開できたが、復旧できなかった場合に備え、職員総出で学校にパンを届ける体制を整えていたという。
各家庭では、断水直後から給水タンクの確保にみなが走り回った。県内各地から給水車がかけつけたが、水を汲むためのタンクが町内のホームセンターではすぐに売り切れになり、隣接の柳井市でも売り切れ状態。何軒もホームセンターを回って確保し、なかには平生町でやっと手にいれた人もいた。町外に買い出しに出る人人で橋は渋滞し、橋を渡り終えるのに1時間ほどかかったという。
風呂もトイレも使えず、飲料水もないなかで、困り果てている高齢者の自宅には民生委員が水を届けた。柳井市が無料開放したウェルネスパークの風呂に入りに行った住民もいた。初めての経験ではあったが、小さな地域ならではの人の繋がりの強さで乗り切ったこと、また、県内の各自治体がそれぞれ迅速に給水車を派遣したことへ感謝の思いが語られている。
周防大島町(平成16年に久賀町、大島町、東和町、橘町の四町が合併)は昔から水不足が深刻な地域で、住民の生活のために水の確保が長年の課題だった。島の中心に急傾斜の高い山があり、雨が降っても水がとどまらない。現在の広域水道(平成12年送水開始)になる前は、小さな集落規模につき一つの簡易水道を利用していた。しかし水は常に不足ぎみで、盆や正月など人が多くなる時期には足りなくなることもあった。その後、水洗トイレやシャワーの普及など生活様式の変化にともない水の需要はさらに高まっていった。
現在使っている広域水道は弥栄ダム(山口県岩国市と広島県大竹市にまたがる)を水源としており、柳井市日積の浄水場を経て、由宇町、柳井市、周防大島町、平生町、上関町などへ3ルートで送水されている。周防大島に送水された水は、町内9カ所の貯水タンク(配水池)にたまり、さらに高い場所の配水池に送られるなどして家庭へ届く流れになっている。これまでの簡易水道から広域水道にしたおかげで水不足は解消され、安定供給が可能になったが、このたびの事故で浮き彫りになったのは、広域水道事業に潜む弱点や怖さでもあった。簡易水道時代であればリスクは分散されたに違いないが、ひとたび大島大橋なり給水管に問題が起きれば、たちまち町内全体が麻痺してしまうという、生活環境の変化である。
送水管破断の原因はまだ明らかにされていないが、たった1本の送水管の破断で1万7000人の暮らしが脅かされる現実と、水が人人の暮らしにとってきわめて重要なライフラインであることを思い知らされる一件となった。予期せぬ地震や天災に備えて、離島が水を安心して確保できる体制をつくるためにはどうしたらいいか対策を練ることが求められている。