下関市安岡沖の洋上風力発電建設をめぐり、山口県漁協下関ひびき支店の漁師らが事業者・前田建設工業(東京)に対して工事差し止めを求めた裁判で、8回目の弁論準備(非公開)が10月31日に山口地裁下関支部でおこなわれた。約20人の漁師や住民が傍聴に訪れた。
今回、漁師側の代理人弁護士が、ひびき支店の漁師らが操業している場所を地図で示した(地図参照)。前田建設工業が風力発電の建設を予定している海域は、共同漁業権第37号、その外側に共同漁業権第39号、この2つを含めた共同漁業権第40号が設定されている。ひびき支店の漁師たちは、共第37号と共第39号の海域で十数㍍潜ってアマ漁をおこない、共第40号海域内で建網漁業やイカカゴ漁業をおこなっている。
前田建設工業は15基の風車を、そのど真ん中の来留見ノ瀬に建てようとしている。風車は一基あたり縦横55㍍、深さ3㍍の範囲を浚渫(しゅんせつ)し、巨大なブロックの上に直径5㍍、高さ153㍍のタワーを建て、20年にわたってこの海域を占拠する。漁師側弁護士は、掘削工事による海水の濁りや潮の流れの変化、風車の振動や騒音の影響、送電ケーブル敷設による漁場の喪失などを指摘し、風力発電の建設がひびき支店の漁師の漁業権を侵害し、漁業をできなくさせるものだと指摘している。
また、共第37号の第一種共同漁業権行使規則は「裸もぐり漁は禁止」「ただし地区管理委員会の同意を得て操業することができる」「そのさい、漁業者の裸もぐり漁に対する生活依存度を勘案して決めなければならない」としている。漁師側弁護士は、ひびき支店組合員らは先祖代代この海域で操業を続けており、2015年5月に廣田弘光氏の名前で「アマ漁の操業停止」が通知されるまで誰からも違法操業といわれておらず、アマ漁は暗黙の承認を受けていたと指摘している。
共第39号も同じである。そして廣田氏自身がこの通知を送った動機を「ひびき支店組合員が風力に反対したから」とのべており、それは反対意見を封殺するための嫌がらせ目的であると指摘している。
これに対して前田側の代理人弁護士は、6月に提出した準備書面を再度引用して「共第37号も共第39号も管理委員会は存在せず、廣田弘光氏が同漁業権代表権者に任命され、管理委員会に代わって管理をおこなってきた」とし、「もぐり漁は共第37号も共第39号も禁止されており、原告に漁業を営む権利はない」とのべた。
この日は同じ下関支部で、安岡風力の環境調査が妨害され測定機器が壊されたとして、前田建設工業が住民4人に1000万円以上の損害賠償を請求した民事訴訟の弁論準備(非公開)も同時におこなわれた。
住民側弁護士は改めて、前田建設工業が下関市安岡町の前岡製綱駐車場に設置した測定機器がダミーであったと判明したこと、それは住民の抗議行動を予見してあえて環境調査を強行することで、住民による撤去を誘って刑事告訴・民事訴訟をおこなったものだと指摘した。これは違法なおとり捜査と類似のもの(罠)で、こうしたやり方で住民を訴えるのは権利の濫用であるとのべた。
一方、前田側弁護士はダミーとの指摘に対して、「駐車場だけでなく工場敷地内も借りられたので、念のために同種の機器を二カ所に設置しただけ」「捜査機関には駐車場の機器をダミーと答えたが、両方とも同じ機器を設置していた」「前岡製綱の調査地点のみこのような措置をとった」とのべた。
二つの裁判は今後、12月6日に証人尋問についての確認をおこない、来年1月から漁師や住民の証人尋問に移る。損害賠償請求訴訟では、1月19日午後1時30分から安岡沖洋上風力発電建設に反対する会の有光哲也氏と前田建設工業下関プロジェクト準備室の三輪享氏、1月30日午後1時30分からは他の3人の住民の証人尋問がおこなわれる。