9日に海峡メッセ下関で開かれた安倍晋三後援会主催の新春の集いにおいて、2カ月後に迫る下関市長選に自民党公認候補として立候補する前田晋太郎(安倍事務所秘書を経て市議)が紹介され、市長選への意気込みを演説したことが物議を醸している。自民党林派の現職・中尾友昭もいる目の前で、現役首相夫妻やその母親のお墨付きであることを印象付けるかのように壇上に上げ、安倍派が公然と本命候補を押し立てるパフォーマンスとなった。2500人の聴衆はどよめき、その後腹を立てたのか何なのか、中尾市長が途中退席していった姿も話題になっている。「次はオマエではない」の露骨なメッセージとして受け止めた者が大半を占めた。
林派中尾の目の前で……
首相お膝元の市長にだれがなるかを巡って、安倍林の代理戦争は想像以上にヒートアップしている模様で、これまで見たことがないような前哨戦をくり広げている。双方の支援者が対立陣営を感情的になって誹謗し、プロレスの煽りかと思うほど前哨戦は過熱気味である。知事ポストに続いて下関市長ポストも安倍人脈で固め、いまや山口県の主要な政治ポストを総なめするような勢いを見せているのが安倍派だ。「そこのけ、そこのけ、安倍首相に気に入られた子分たちが通る」で、見初められた者が天下取りに挑み、そうでない者が元気を失ったりする様が各所で話題になっている。
従来の市長選では選挙地盤内の軋轢を避けるためか、基本的に国会議員やその事務所が公衆の面前で本命候補扱いをする場面はなかった。ところが、今回は一歩も二歩も踏み込んだ印象を与えている。「林派を押しのけて、下関の街を名実ともに安倍一極支配の政治構造に塗り替えるべく、勝負に出ているような感すらある」と話題になっている。
新春の集いでは、中尾友昭と同じく目の前で前田晋太郎への寵愛ぶりを見せつけられたのが香川昌則で、「安倍派本命」「自民党公認」を向こうに回して、本当に市長選に立候補する度胸があるのか否かも注目されている。
また、中尾支援で「反前田」の結束を固めてきた市議会最大会派の志誠会が、自民党県連や下関支部の決定に対して処分覚悟で抗っていくのか、あるいは腰砕けになるのかも注目されている。さらに、どうしようもない自民党内のバトルが激化した場合、その後の衆院選や参院選でいかなる変化が起こるのか、同じ安倍派といっても世代によって異なる不均衡な扱いによって生じる不満や反発、一極支配で蓄積される歪みがどのような表現となって噴き出すのか、踏み絵を迫られる創価学会や連合などの労働組合、「日共」安倍派の面面などがどのような立ち回りをするのか等等、長期的な見通しを交えながら選挙の行く末が語り合われている。
選挙は有権者の投票行動によって勝敗が決まる。首相や安倍派・林派の指名制ではなく、選挙制度の形式としては二十数万人の有権者が選択することになっている。安倍林と「俺に任せろ」の松村正剛という三つ巴の構図のなかで、組織票が右を向いた左を向いたの動向以上に、下関をどのような街にしていくのか、山積する課題を見据えてまともに政策論議を広げることが切望されている。しかし、現状では安倍晋三の子分か、林芳正の子分かぐらいしか争っている中身がなく、目くそ鼻くその争いと見なして冷めている有権者も多い。そして約半分の有権者が棄権するという想定のもとで、各陣営が「五万票が当選ライン」などと早歌をうたい、勝った気になっている陣営までいる。
選挙まで残り2カ月。市役所や議会、商工会議所などの上澄みだけが一喜一憂するものではなく、より多くの有権者が主導的な力を見せつけ審判を下す選挙にすることが求められている。