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辺野古に隠れ進む岩国の要塞化 嘉手納に匹敵する出撃拠点に

艦載機部隊移駐に備え、米軍住宅270戸を建設中の愛宕山(岩国市、2月5日)

 山口県岩国市の米軍岩国基地が、厚木基地の空母艦載機移転を前にして、極東最大の軍事要塞に変貌しようとしていることに市民の危惧(ぐ)と怒りが高まっている。基地が沖合拡張によって巨大化しただけでなく、施設や兵舎もすべて建て替え、愛宕山も米軍に奪われ、基地に向かって巨大道路が次次と接続するなど、米軍による岩国の乗っ取りが進行しているからだ。メディアは沖縄の辺野古新基地建設や高江のヘリパッドに国民の目を釘付けにする一方で、それどころではない軍事要塞化が進んでいる岩国については報道しない。本紙は岩国現地を取材し、記者座談会をもって何が動いているのかを描いてみた。

 市民騙し売り飛ばしの25年 都市改造で大変貌



  この10年余り岩国ではいっきに都市改造が進み、街は景観も含めて様変わりしている。基地は沖合にもう1本滑走路ができて倍ぐらいになった印象だ。戦斗機の格納庫も沖に移してつくり直し、新しい管制塔もでき、その他の建物もみな沖に移動させて新しくつくり直している。そして基地内の手前側には住宅や兵舎をたくさんつくっている。古い物はみな建て替えた。愛宕山では、1戸につき約100坪もある将校用の住宅260戸が建設中で、住宅の周囲をフェンスで囲っている。基地が沖合拡張しただけでなく、愛宕山も米軍に接収されたといっていい。岩国駅前から西岩国に向かう途中には、基地に向けて新しい道路がズドーンと走っている。でき上がったのは、まさに極東最大の軍事要塞だ。通勤・通学道路は50年前と同じで、車が行き交うのも難しく、そこを中・高校生が自転車で通学する危険性は昔からいわれているが何も変わっていない。基地のためだけにカネが注ぎ込まれ、巨大道路群も含めて「すべての道は米軍基地へ」がやられている。米軍仕様の街作りだ。「基地の街」ではなく「街が基地」になろうとしている。


  2013年頃から周辺を大渋滞させ、「基地内の軍事施設や兵舎の7割をリニューアルする」といって工事が続いてきた。工事開始当初から「1本15㍍もある杭を地中に打ち込み、巨大な地下施設をつくっている」「中国や北朝鮮のミサイル攻撃も想定したシェルターではないか」と周辺住民が問題にしていたがいよいよ艦載機が来るという状況のなかで街が様変わりしている。


 基地に接続する道路も建設中で、今、川下の市街地のど真ん中を縦断する楠―中津線(南バイパスから正門に一直線に抜けるもの)の建設にあたって立ち退きが始まっている。幅が22㍍で、相当な立ち退き件数になる。それに連結し、愛宕山の下を通る南バイパスは由宇まで伸ばすという。東は大竹までつながって高速道路と連結する。有事の際には、国道188号線の混雑を避けるための米軍専用道路に簡単に変わってしまう。愛宕山から米軍基地にアクセスできる道路も整備されている。


 愛宕山の米軍住宅も市民の目の届かないところで着着と進んでいる。1000人規模で米兵や家族が暮らすことになり、一つの街ができている。そばには国立病院(医療センター)ができ、消防署ができ、野球場やサッカー場などのレクリエーション施設ができている。一連のスポーツ施設も米軍施設で、防衛省が整備し、「市民も利用できる」というが、誰のための開発なのかが一目瞭然だ。工事中の米軍住宅には、そこに行くための橋が架かっていて、入り口には基地並みのゲートがある。ここからは日本人は入れない。愛宕山は「夢の宅地開発」などといっていたが、米軍村として接収された。


  消防署も昨年2月、旧市内の市街地にあった中央消防署と西消防署、南岩国分遣所を閉鎖して、わざわざ愛宕山に集約・拠点化し、そばに国立医療センター、その前には防災広場やヘリポートをつくった。負傷者が出た場合はここが拠点になるし、米軍住宅で火災などがあればすぐに出動できる体制だ。同時に愛宕山にあったゴミ焼却施設は、築20年にも満たないのに「老朽化」といって市街地により近い日の出町に移転させた。米軍住宅のそばにあったら灰が降り注いで邪魔だという都合と、米軍基地から出る廃棄物の処理場としても基地付近に焼却場が必要という関係があるようだ。日の出町と基地をつなぐ橋もいずれできるのではないか。


  米軍住宅は将校住宅で1戸9000万円、下級兵士の家族住宅でも1戸6000万円はするといわれている。驚いたのは犬舎(イヌの家)で、1匹につき6畳ほどの部屋を与えられ、エアコンが1台ずつとりつけられるという。かかる金もすごいが、これが全部日本国民の税金だ。基地の中で仕事をする業者ほどそういう状態を見ているので頭にきている。


  岩国市ではすべてが米軍最優先でことが動く。国の頭越しに米軍が発表し、市民に知らされるときにはすべてが「決定事項」になっている。国の主権や地方自治などないに等しく、行政関係者の怒りも尋常ではない。そもそも岩国市は建前上、厚木からの移駐をまだ認めていないが、それにお構いなく国が米軍のために粛粛と工事を進める。当初は米軍住宅を260戸ではなく900戸つくるといっていた。以前は国が市に説明をしていたが、最近は国の頭越しに米軍が発表して、次次に実行してくることも当たり前になっている。厚木の空母艦載機の移駐は「7月以降」というのも米軍の発表だった。59機といっていたのが61機になったのも、先行移駐で早期警戒機E2Dを2月に岩国にもってきて訓練するというのもそうだ。地元同意とか手続きなどどうでもよいと見なしている。

 基地人口は1万人超え 6000億円を投入

 

米軍岩国基地内でも大規模工事が続いている。(2月5日)


  岩国市民が歴史的に経験してきたのは、市民を欺くだましの連続だった。1968年に九州大学構内にファントムが墜落し、市民の基地撤去世論が高まると「騒音や事故の被害軽減のために基地を沖合に移設する」「跡地は返還する」といってきた。90年代の埋め立て工事開始から3000億円を投じてきたが、できたのは2440㍍の新滑走路と、空母も接岸できる水深13㍍の大型岸壁で、跡地は返還せず、基地面積は1・5倍となって横田基地を上回る規模となった。


 愛宕山も「市民のためのニュータウン建設」と宣伝した当初から、「大赤字必至の無謀な事業」と関係者は話題にしていた。それをごり押しして案の定250億円の大赤字となると、2006年に山口県が唐突に事業廃止を発表。防衛省から「米軍住宅用地として買い取りたい」と打診があったのを受けて、当時の二井県政が売り飛ばした。初めから米軍部隊の移転と基地の大拡張を想定した計画だったことを暴露している。


  岩国基地は沖縄や佐世保とともに、本州では唯一の海兵隊基地、つまり侵略戦争の際に真っ先に投入される殴り込み部隊の基地だ。現在、岩国基地には2014年に沖縄・普天間基地から空中給油機KC130 15機と隊員や家族870人が移駐しており、今年1月からFA18ホーネットと入れ替えて、ステルス戦斗機F35Bの米本土からの配備(合計16機)が始まっている。F35Bは張り巡らされたレーダーをかいくぐって都市への核攻撃をおこなえるよう攻撃・破壊能力を格段に向上させたものだ。これに神奈川・厚木基地から空母艦載機61機と、兵員、軍属、家族約3800人が七月以降に移駐してくることになる。戦斗機だけでも130機以上になり、嘉手納基地を抜いて極東では最大だ。厚木からの移駐で米兵や家族が1万人をこえれば、人の動きから街の構造も大きく変わっていく。空母艦載機部隊は横須賀あたりでは評判が悪いし、7月以降岩国はどうなるのかとみんなが危惧している。


 E 今、沖縄の嘉手納が極東最大だが、これになりかわるぐらいの極東最大の軍事要塞に岩国基地が変貌している。厚木よりもより北朝鮮や中国に近い場所にこのような最前線の出撃拠点ができたということだ。沖合拡張のための工事を始めたのが1994年、米連邦議会が普天間基地機能を岩国か嘉手納に全面移転する最終報告を出し、米軍再編が動き始めたのが2005年だが、この米軍再編のなかで岩国基地の大増強計画は突出した位置にある。


 C 岩国は街のど真ん中のもっとも肥沃な土地を米軍に占領されてきたが、戦後70年たった現在、今後さらに何十年も使える軍事要塞として新規リニューアルしている。いったい何年居座るつもりなのかだ。そのためにオリンピック村どころでない税金が注ぎ込まれている。国が支出した岩国基地の再編関連予算は、わかっているだけで平成27年度までの10年間で5000億円をこえ、平成28年度を加えると6000億円に迫る。その内容は、基地内の格納庫など軍事施設、宿舎、学校、スーパー、病院、ガソリンスタンド、また愛宕山の諸施設など至れり尽くせりで、それをゼネコンがつかみどりしている。被災地どころでない数のクレーンが首を伸ばして、せっせと建築に励んでいる。


  沖縄では、辺野古の新基地建設反対ですごく盛り上がっている。それは全国を激励している。しかしメディアはここに国民の目を釘付けにして、岩国ではそれどころでない大改造をやっているのをあまり報道しない。陰に隠れてこんなことをやっているという実情を、山口県から全国に知らせないといけない。それは岩国だけの問題ではなく、全国的な問題だ。


 B 岩国基地のF35Bは有事の際には空母ロナルド・レーガンとともに侵攻作戦に加わる。普天間基地に24機配備されたオスプレイも岩国を作戦行動の拠点としており、これも佐世保の強襲揚陸艦に乗る。岩国基地が中国や北朝鮮に対する侵略の拠点、核攻撃の拠点になるということだ。それは岩国のみならず日本列島が、米本土を守るための核ミサイル戦争の盾にされ、再び原水爆戦争の焼け野原にされかねないことを意味している。被爆国にとって屈辱きわまりないものだ。

 主権放棄の「日米安保」 現実は軍事支配

  岩国では、すでに日本の敗戦が決まっていた終戦の前日、しかも昼間の上下線が到着するもっとも人出の多い時間を狙いすまして、米軍が岩国駅前に雨あられと爆弾を投下して1000人以上の老若男女を殺した。陸軍燃料廠に学徒動員に行っていた女学生が防空壕に逃げるのを見て、米軍が防空壕に爆弾を投げつけて皆殺しにしたこともあった。その米軍が戦後は岩国を占拠した。朝鮮戦争やベトナム戦争で最前線に投入され、気が狂う目にあっている海兵隊員がものすごく荒れて、岩国で次次と凶悪犯罪を起こすが、日本の警察も裁判所もまともに処罰したことはない。基地内に逃げ込めば泣き寝入りだ。畑仕事をしていた男性が「カモと間違えた」といって撃ち殺されたり、老人が橋の上から投げ落とされて殺されたり、娼婦や小学生の女子生徒までもが暴行されて殺されたりした事件を市民は忘れてはいない。米軍は日本人など人間と思っていない。


  敗戦後の米軍の土地とりあげに対しては、川下の農民と労働者や教師が団結してたたかったし、全国から米兵相手の娼婦が集められ植民地的退廃の子どもへの影響が深刻になると、教師たちの子どもを守り平和の担い手に育てる運動が発展した。盆踊りに乱入して女性に乱暴しようとした酔っぱらい米兵たちを青年団がボコボコに殴り倒して制裁を加え、弾圧に駆けつけた米軍は住民全員が立ちはだかって追い返すなど、岩国市民は負けていなかった。沖縄と同じように軍事支配に抵抗してきた歴史がある。運動として表面化しているかいないかの違いだけだ。


  基地を巡っては、2001年の9・11テロ事件以後の意識の変化が大きい。米軍は市民を守るどころか、市民を敵扱いして、市民に銃口を向けて巡回していた。基地の出入りの業者や基地従業員まで皆疑われ、基地内に入るときには弁当箱の中身まで開けて調べられた。米軍基地を警備する自衛隊員も身体検査された。ある老婦人が畑に種蒔きにいったところ、軍用ヘリが真上で止まってサーチライトで追ってくるので、「こんな婆さんがそれほど恐ろしいかね」といっていた。米軍というものが何のために来ているのか。それは日本人を守るためではないことを正直に暴露していた。実際に、9・11の後は本国帰還訓練ばかりしていたのが米軍だった。いざとなったら守るのではなく、一目散に逃げる。岩国はそのような前線基地であると彼ら自身が見なしている。


  基地の街で戦後70年にわたって市民を抑えつけてきたのは、「基地は日本の安全のためにある」「日本を守るため」という宣伝だった。この「日米安保」のインチキが、沖縄でも岩国でも通用しなくなっている。米軍は日本人を守るためにいるわけではない。自分たちのためにいる。日本の税金で基地の経費をみな出させて、米本土防衛の盾として海外侵略の拠点にしているし、終いには自衛隊を下請にして武力参戦させるまで法整備は完了している。


  岩国は街全体が軍事要塞化してしまっている。主権も地方自治もまるでない。市議会はおもちゃのようなもので、市長も日本政府も飾りものだ。アメリカはそれをとびこえてワンストップでどんどん動かし、奪っていく。岩国を「オレたちのもの」とみなしている。このような軍事支配の力が岩国の上空を覆い、物言えぬ空気を作り出している。

 全国連帯し斗う力充満 孤立する裏切り潮流

  岩国は歴史的に基地立地点のなかでは「静かでおとなしい」といわれ、米軍や日本政府は高をくくっていた。しかし、2006年の住民投票では「艦載機移転反対」が圧勝し、あれだけの住民運動になった。積年の怒りが噴き上がったものだった。岩国市民の本当の思いはあそこに表現されている。それが、井原元市長をして「移転反対」を表明させる力になったし、08年の衆院2区補選、09年の総選挙で自民党候補をたたき落とす力になった。沖縄で島ぐるみ斗争が盛り上がっているが、沖縄以前に岩国も立ち上がっていた。


 それは戦後60年にわたって日本人を虫けら同然とみなす米軍支配に対して、一種の民衆蜂起ともいえる意志の表明だった。その力は今も消えたわけではない。


  しかしその後、住民投票にあらわれた運動がつぶされていったことは、今の沖縄の島ぐるみ斗争がつぶされないためにも教訓にしないといけない問題を含んでいる。当時、民主党がたちまち裏切って「米軍再編見直し」の公約を投げ捨てた。同時にもっとも悪質だったのが「日共」集団で、盛り上がった市民の運動を乗っ取って私物化し、「わが党の運動」のようにして自分たちの宣伝に利用して市民を蹴散らした。そして反対運動は市民から浮き上がって孤立していった。


  愛宕山の座り込みからもだんだん人がいなくなった。嫌われ者であることを自覚しているうえで、政治勢力が運動つぶしをやった。きわめて悪質だ。


  どの運動でもそうだが、正面の敵ができることは脅迫や買収くらいしかない。住民運動をつぶすためにもっとも手っ取り早い方法は、内部から運動を変質させたり、過激派風情を潜り込ませて飛び跳ねさせ、市民からひんしゅくを買って孤立化させたり、揉ませることだ。CIAが世界各国で政権転覆を謀る手口を見てもそうだ。わざわざ爆撃しなくても内部の矛盾を突いて転覆をはかっていく。岩国で「日共」集団が「わが党の運動だ」とやり始めたら、市民の足が遠のいていくことはわかりきっている。これは自民党にはできない芸当だ。そして市長選でも3人目の独自候補を立てて票を分散させたり、自民党候補を喜ばせた。効果から見て、米軍支配への最大の貢献者といってもいい。それで住民運動が雲散霧消して喜ぶのは米軍だ。岩国市民のなかには「共産党は米軍の仲間か」と語る人も少なくない。


 E 一方では、井原市長時代に首相だった安倍晋三が市庁舎建設の金を下ろさないとか、強面で経済制裁を加える。それと連動して「反対」の仮面をかぶった連中が、運動に市民を近づけないようにするという二刀流だ。あの運動は市民が怖がってつぶれたわけではない。権力が強権でくるだけなら屁みたいなものだ。それを崩したのは「反対」を掲げたインチキ勢力であり、その犯罪性は大きい。


  市民のなかには「これまでさんざんやってきたのにダメだった」「もうなにをいっても無駄だ」という声もある。しかし軍事要塞が目の前に立ちあらわれ、軍事支配が露骨になるなかで、子どもや孫のためにもそれでは済まないところまできている。この岩国が最前線の出撃拠点である以上、ミサイル攻撃の標的にされるのが現実だからだ。これは仕方がない…では済まない。


 C 井原選挙にかかわった人が、「ここまで来て、市民を代表する者が一人もいなくなった」といっていた。既存の政治勢力に頼れるものはないと。市民を代表する本物を求めているし、どうこの現状に立ち向かっていくかをみんなが真剣に考えている。


  岩国は産業が衰退し、高齢化が県内でも顕著だ。1人当りの平均所得は約291万円と県内でも低い。岩国市の人口は合併したときには15万3000人いたが、年間1000人ずつ減って、今は13万5000人。とくに労働人口が減っている。かつては三井化学、日本製紙、帝人、東洋紡の工場群が海沿いに林立し、市の経済を支えていたが、基地の拡張と反比例してどんどん人がいなくなっている。日本製紙は生産規模を縮小し、課も統合されているようだ。工場周辺の人絹町では、商店会そのものが「あと10年もたないかも」と話されていた。


  極東最大の基地になろうかという横で、わざわざ物をつくろうともならない。大企業からしてもミサイル攻撃のとばっちりを心配するのはあたりまえだ。かつて日の出町の帝人は、飛行訓練の邪魔だといって煙突を切らされ、拠点を松山に移し、ピーク時に6000人いたといわれる労働者は1000人を切ったといわれている。人口流出の一方で軍人だけが増える。腰を据えて製造業の拠点にしようとならない要素も働いている。大企業優先でもなく、米軍優先なのだ。


  米兵や家族が4000人も増えれば「経済効果があるのでは」というむきもあるが、市民のなかに幻想がまったくない。基地周辺の川下地区はシャッター通りになって、もはや潤う店もない。基地内にある免税店で大概の物はそろうし、米兵も金がないのか、基地の外の店ではそんなに買い物をしない。駅前でも米兵が来る店は決まっていて、フィリピン人や中国人が経営しているという。最近は広島の流川で米兵の暴行事件が頻発しており、被爆地・広島にも影響は大だ。


  福田市長は国からの基地交付金を待つだけで、それはまるで「親鳥から餌がもらえるのを口を開けて待っているひな鳥みたいだ」と話題になっている。岩国としてどう産業振興、地域振興をやって自力で成り立たせるかという構えがまるでないことに、誰も未来を感じていない。だいたい交付金で給食費や医療費を無料にしたり、豪華な役所や施設ができたところで、ミサイルが飛んでくればすべてがパーだ。電源交付金でデラックスな温泉施設やスポーツ施設を抱えていた福島原発の立地町は、福島事故の後は廃虚になった。同じように目先の損得勘定で騙されるわけにはいかない。


  戦後ずっと岸・佐藤のお膝元だった山口2区で、郷土を差し出して自分をアメリカに売り込む政治の産物として岩国基地がある。安倍晋三はその末裔だ。岩国基地の沖合拡張は94年からやってきたが、安倍が出てきたのが93年。山口県出身の政治家が中央で大きな顔をできるのも、岩国基地や上関原発など、全国がどこも嫌がっている施策を受け入れ、米軍や電力会社などに奉仕しているからにほかならない。


  2区では元通産大臣の佐藤信二が2000年の総選挙で「上関原発はわししかできない」と叫んで有権者の総スカンをくらい、棚ぼたで民主党の平岡秀夫が勝った。岸・佐藤のお膝元で自民党をたたきつぶした力は、上関原発反対の世論と同時に基地問題を抱える岩国が大きかった。しかし政権交代して平岡が裏切ったものだから、沖縄同様に落選という形で成敗された。裏切り者を許さない力はそのように厳しいものがある。今までの全経験が証明しているのは、既存の政党に依存しても彼らはすぐに裏切るし、運動をつぶす。これに対抗しようと思ったら、政党政派をこえた全市民的な力で縛り上げ、新しい政治家を担ぎ上げる展望をもって、もう一回奮起してやる以外にない。沖縄でも島ぐるみのたたかいがリーダーを突き上げている。


  「日共」だけでなく、基地反対をメシの種にして生息している面面も少なからずいる。「反対」を標榜する者のなかにもいろいろいるが、基地がなくなれば失職する基地依存派が旗を振っているようでは斗争にならないということだ。住民の願いや運動をねじ曲げる者については、保守革新にかかわらず容赦のない暴露がいる。上関の祝島でも反対運動の内部に巣くう獅子身中の虫を炙り出してから、島民の斗争は強いものになった。いずれにしても市民の力を束ねていく勢力が必要だ。「反福田」とか市長に誰がなるかというような低レベルの次元ではなく、アメリカの植民地支配に対して沖縄や全国と連帯してたたかう運動として力を結集することが次の展望につながる。


  「沖縄の痛みをわかちあえ」と煽った結果が本土の沖縄化であり、岩国の軍事要塞化だった。岩国だけのたたかいではなく、そういう日本社会の現実をどうひっくり返していくかという問題だ。安倍晋三の朝貢外交にしても、いまや売国政治が度を超して酷くなり、身も蓋もないものになっている。この為政者のもとでは「美しい国・ニッポン」ではなく無様な国・ニッポンにしかなり得ない。米軍によって蹂躙される岩国の姿は日本社会の縮図だ。沖縄の島ぐるみ斗争と連帯して、山口県から同じ質の運動を盛り上げていくことが待ったなしだ。

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