いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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記者座談会 下関市長選 お膝元で吹き荒れる粛清の嵐

ポスト奪いにいく安倍派 叩き潰された関谷議長

 

 安倍首相のお膝元である下関では、森友学園への国有地払い下げ問題に全国的な関心が高まっているなかにあって、逆風もなんのそので安倍派が市長ポスト奪還に燃えている。

 昨年から安倍派、林派という地元自民党の2トップを形成してきた派閥が揉めに揉めて、下関市政の実権をどちらが手に入れるか「オレのもの」争いをくり広げてきた。林派は現職の中尾友昭、安倍派は安倍事務所秘書出身の前田晋太郎(元市議会議員)を担ぎ上げ、そこに安岡沖洋上風力反対を掲げて元市議会議員の松村正剛も加わって三つ巴の本選に突入しようとしている。

 このなかで、告示を直前にして関谷博議長が粛清される事態に発展して物議を醸している。いったい何が起こっているのか、選挙情勢とあわせて分析してみた。
 
 森友学園問題への苛立ち反映か 反旗翻す者への制裁

 司会 相変わらず街中のしらけ方には驚かされるものがあるが、選挙模様はどうなっているだろうか。


  いよいよ告示を迎えるが、一部の人間のみが盛り上がってしまって、各陣営と有権者との温度差が酷いのが特徴だ。世論は安倍林について「同じ穴のムジナだろうに…」と見なして冷めきっている。胸を熱くしているのは陣営に集っている一部だけだ。最近、市議補選に出馬する星出(自民党推薦)がチラシを新聞折り込みにして配ったものだから、「(市長選に)4人目が出馬するんですね」と勘違いしている主婦までいる。それくらい市長選や市議補選の立候補者について有権者は「誰?」と思っている状態だ。


  安倍派も林派も投票率は47、48%程度と見込んでいるようだ。これが住民投票なら50%を下回るようなものは無効で有権者の総意とは見なされない。市長選や市議選、国政選挙もそろそろ「50%以下」について厳密に制度的対応をしないと、政党政治への幻滅を逆手にとった姑息な政治がはびこってしまう。現状では、47、48%も危ういのではないかと思うほど有権者は冷めている。それで自民党員や企業関係、公明党や労働組合の連合といった組織票がどっちにつくか、安倍派と林派のどっちがマシかを競っている。


  市長選の抗争ともかかわって注目されたのが、2日におこなわれた市議会の議長選だった。10年近くにわたって議長を務めてきた関谷が安倍事務所から粛清され、すべてのポストから排除された。全国市議会議長会の会長までやった男が、見事なまでに叩き潰された。これは議会内33人の力関係の変化をもとに起こった出来事ではない。関谷を粛清するという明確な意図を持って外側から力が加わり、本人も抗うことすらできずに散っていった。「安倍事務所に逆らったから粛清されたのだ」と誰もが見なしている。


  『産経新聞』が「下関市議会議長選で“ドン”が不出馬」と報じたが、まず第一に関谷を市議会のドンと思っている人がどれだけいるだろうか。その関谷も含めて下関市議会を揺り動かすほど力を持っているドンは安倍事務所だろうが――というのが常識的な見方だ。確かに議長を10年やって本人が驕り高ぶっていた側面はあるし、さまざまな利権に首を突っ込んでいるのも評判になっていた。自民党の他の市議たちからみて多少の不満もあっただろう。しかし、反旗を翻した議員たちの動機はそこではない。むしろ最大会派の仲間として何の矛盾もなくやっていたではないかというのが実感だ。関谷粛清の本質を「独断専行への不満」等等で歪めてはいけない。もっと黒黒とした背景がある。それこそ下関市議会すら抗えない力でドンが粛清したといった方が正確だろう。


  関谷は昔から安倍派で、母親の代から安倍晋太郎の支援者だった。林派ではない。ところが、今回の市長選で中尾応援に回った。中尾が3期務めあげた後に市長ポストを禅譲するということで、現職市長と現職議長は利害関係を切り結んだようだ。前田晋太郎が市長になってしまうと自分の芽がないと判断したのかもしれない。従って、林派と組んで未来の市長ポストをもぎとりにいくという行動に及んだ。それがドンの逆鱗に触れたわけだ。まだ中尾しか出馬表明していない時期に、関谷率いる志誠会(市議会最大会派)は中尾応援をいち早く表明した。それは出馬を願望していた前田への牽制でもあったように思う。


  ただ、今回は安倍派にとって3連敗阻止が至上命題だったようで、その後、前田が出馬表明すると安倍事務所がグイグイ前面に出てきて旗を振り始めた。これまでとは様相が異なるものだった。


 以前なら選挙区の平穏を優先して、安倍事務所なり安倍晋三が特定の候補者を指名して支援することなどなかった。国会議員選挙にシコリが残るからだ。せいぜい裏街道で暗躍する程度で、秘書軍団が企業や支持者に大号令をかけたりしている今回のような対応は異例中の異例だろう。それだけ本気で市長ポストをもぎとりにきたことや、市長利権の大きさを浮き彫りにしている。

 注目の市議会議長選挙 戸澤が新議長に選出

  安倍事務所なり代議士が前田支持を態度表明したのは1月初旬の新春の集いだった。

 前田が年末に立候補表明したものの、それまでは「よきにはからえ」で過去2回と同じようにやり過ごすのだろうと見なされていた。安倍林の全面戦争などあり得ないと思っていた人が多かった。しかし新春の集いを境に局面が変化した。出馬の動きを見せていた香川も、あの場での前田の扱いを見て断念することになった。「安倍先生は僕じゃないのだ…」と愕然としたのかもしれない。水面下では矛盾が激化していたが、ようやく企業関係や支援者たちも異変を察知した。これは安倍派がムキになって市長ポストを奪いにきているし、林派も面子をかけて挑んでいるぞ――、今回の市長選は両派閥が微笑みながらつねりあっているようなものではなく、どうも顔が笑ってないぞ――と。経緯を振り返ったらそんな感じだろう。


  中尾や関谷の判断ミスは、まさか安倍事務所がここまで市長選に介入するとは思っていなかったことだろう。新春の集いを途中退席した中尾は、豆鉄砲を喰らった鳩みたいな顔をしていた。しかし、その後も抵抗して中尾応援を貫いたために関谷は議長を追われた。安倍派の裏切り者として安倍事務所なり代議士の逆鱗に触れたのだともっぱらの噂だ。

 前田晋太郎が「関谷は終わりだ!」と息巻いているのも評判だ。40歳が目上を呼び捨てにするのもいかがなものかと思うが、安倍派の感情を正直に映し出したものだろう。この抗争で本人たちは頭に血が上っているし、どうしようもない。「敵の友は敵」であるし、「敵の敵は友」なわけだ。本能を丸出しにして争っている。


  結局2日の議長選で関谷は出馬することすら叶わなかった。得票が見込めなかったからだ。議会内ではみんなが安倍事務所に右へならえで離れていき、無血開城みたいなものだ。最大会派として13人を擁していた志誠会は現在では8人しかいない。新春の集い以後に志誠会は分裂し、親分の梯子を外した五人が新会派「みらい下関」を立ち上げたからだ。

 議長選では、この「みらい下関」の戸澤(豊浦町出身)が33人のうち25票を得て新議長に選出された。同じ会派で仲間としてやってきた者の寝首を掻いてのし上がるのだからたいしたもんだ。志誠会の残りのメンバーは白票を投じる勇気すらなく多くが「戸澤」と記名している。哀れなものだ。関谷みたく自分たちまで粛清されてはたまらない…という心象世界を映し出している。


  議長選ではほかに関谷と記名したのが1票、あとは消化試合で出馬した「日共」候補に4票、無効票が3票だった。戸澤の推薦人には公明党の浦岡と「創世下関」の亀田(元市長で市議に転身)が名前を連ねていた。「創世下関」は自民党会派でありながら長年志誠会に主導権を奪われてきたが、前田応援の功績が買われて「みらい下関」とも手を握り、冷や飯脱出に成功したようだ。


  そして副議長になったのが80歳の亀田だ。この推薦人には連合の菅原(神戸製鋼出身)と「みらい下関」の林透が名前を連ねた。つまり、労働組合の連合や自民党、公明党、社民党がみな手を握って関谷粛清をやり遂げ、自分たちは何もなかったように新しい議会の権力ポストを分け合った。それで戸澤も亀田も共に25票を得た。この真っ黒黒助たちの暗闘には本当に言葉を失う。社民の山下隆夫も監査委員ポストを分け与えてもらった。議運委員長には公明党の藤村、総務委員会の委員長ポストは公明党の浦岡、建設消防委員会の委員長は菅原といった具合だ。議長選と関わったポスト争奪でもっとも美味しい思いをしたのは、労働組合出身者で構成する市民連合だといわれている。


  関谷について特に可哀想とも思わないが、身内なのにやることがあまりに露骨で、泣くな関谷! うつむくな関谷!と関係ないこっちまでが思ってしまう。不動産ブローカーのAKGとの件で県警が捜査しているとか、身から出た錆みたいな部分もあるかもしれないが、塚本幼稚園の園児たちみたいに、関谷がんばれ! 関谷がんばれ! と応援してあげる人がいないと心が折れてしまうのではないか。政治に非情な権力闘争はつきものかもしれない。しかし、これほどあっけなく陥落してしまうと何ともいえないものがある。


 それで、蛇に睨まれたカエルならぬ安倍事務所に睨まれた議員どもが「僕たちは楯突いてません!」面をして、かつての親分を踏み台にしてポスト争奪ではしゃいでいる。この精神構造もどうかしている。コイツらたぶん、戦場で撃たれた仲間を見殺しにして自分だけが一目散に逃げていくタイプに違いないと思う。何なら仲間を弾よけに使いそうな勢いすら感じさせている。自分に弾が当たってでも倒れた仲間を担ぎ上げていくようなタイプがいない。日頃の振る舞いは別として、まだ一票を関谷に投じた田辺よし子の方が義理堅さを感じさせる。やれ自民党だとか保守だとか威張る割には浅薄すぎるのが特徴だ。善悪よりも損得を! が性根なのだろう。


  2日の議長選が終わって議長室には新議長の戸澤のまわりに何人か集まっているのか、男たちの野太い笑い声が議会事務局の部屋まで聞こえていた。無事に関谷を追い落として喜んでいたのだろう。議員たちは仲間同士で連れ合って控え室や委員会室を行ったり来たりしていたが、関谷が一人ぼっちで移動している後ろ姿が印象的だった。公開処刑というか、黒黒とした世界を感じさせる。これは子ども議会に来る子どもたちに「これが下関の大人たちの姿なんだよ」「こうやって下関市政は運営されているんだよ」「何事も逃げ足の早さが大切だと君たちに教えているんだよ」「民主主義というのはね、議場で決まるものではないんだよ。安倍事務所が決めるものと思っているんだよ」といって、しっかり見せないといけない。


  だいたい、戸澤が単独で議会を仕切るほど実力を持ち合わせているとは誰も思っていない。関谷もそうだが、安倍事務所の力添えがあるから威張れるのであって、本人たちもそのことは重々承知している。中尾応援に回ったから首が飛んだという単純な話だ。林透が「議会改革のため」に志誠会を出たのだと発言していたが、このような歯が浮くようなセリフで本質をフェイクしてはならない。というより、高尚なことを述べる前に自分改革をして、1回でもいいから一般質問をやってみろ! 議場で寝るな!と市職員の多くは思っている。日頃から居眠り大会をしているくせに、こんな抗争の時だけ議員たちが張り切ってしまってどうしようもない。関谷粛清も「他人の不幸は蜜の味」なわけだ。

 誰のための市長選か?甚しい市政私物化

  関谷の乱は終わった。あっけなく散っていった。本番は市長選で、次は中尾を叩き潰そうと鼻息を荒くしているのが安倍派だ。それに対して、林派も評判の悪い中尾を抱えて必死に抗っている。公明党があっちについた、こっちについたの噂が飛び回って、不気味な風見鶏をしている。どっちにしろ勝ち馬に乗るのがいつもの癖だ。常識的には安倍派と一心同体の組織と見なされてきた。今回の関谷粛清にも一役買った。


  前田陣営には安倍昭恵が何度も足を運んで応援演説に励んでいる。森友学園問題で渦中の人なのに、こんな下関の市長選に首を突っ込んでいてみなを驚かせている。それよりも国会に参考人として出て行って、森友学園の経緯についてのべる方が先だろうにと話題になっている。「お騒がせしております…」といって目の前の聴衆をお騒がせさせている。それで演説するのは、主人が如何に放り投げ以後頑張ってきたかという内容だ。下関市長選の勝敗は森友学園の問題以上に重要な意味合いを持っているのだろうか。「お膝元で敗北」というのが中央政界での権力基盤にも影響をもたらすのかは知らないが、とにかく「どうしてこれほど本気なのか?」と有権者は話題にしている。某国大使館の外交官が下関市長選の行方を面白がって注目していると在京メディアでは話題になっているという。


  森友学園の件は、さすがに選挙戦にも影響を及ぼしている風だ。面と向かっていわなくてもいまだに「そこのけ、そこのけ、安倍派が通る」をやっていることと重ねて見ている有権者も多い。というより、海峡沿いの開発と重ねて「森友学園をやるなよ」と思っている人までいる。あと、中央で権力基盤が揺らいでいるのを中尾陣営が大喜びしているのも特徴で「神風が吹いた!」といっている者までいる。それも含めて、いったいこれは誰のための、何の選挙ですか? と思わせている。どこまでいっても安倍林は下関の街をどうするのかがない。互いに「天下をとったらオレたちのものだぜ」くらいしか熱意が伝わってこない。だから有権者がしらけているのだ。政策はフレーズだけが宙に浮き上がって、実際には企業関係にいたるまで「安倍先生の面子を潰すのか」「林先生の面子を潰すのか」「どっちに与するのか」といって、名簿の提出を迫ったり、争点がとぼけている。市政の私物化とオレのもの争いも大概にしないといけない。


  一般の有権者は蚊帳の外に置かれて、判断に困っている人が多い。安倍派でも林派でもない人間が大半であることを示している。この街では自民党の2トップの権力基盤は実際にはそれぞれ脆弱で、公明党や連合などの組織も含めたオール与党体制の馴れ合いによって、かつがつ保ってきた関係を暴露している。しかし、そのオール与党体制も微笑んでつねり合いっこする余裕を失い、真顔で安倍林の抗争が勃発している。崩壊の序章にも見える。一方で、だからといって有権者の支持が松村正剛に向かわないのは、本人がこの安倍・林代理市政の一翼を担ってきたこととも無関係ではない。支持してくれない市民を恨む前に、みずからのおこないを深刻に振り返らなければ政治家としては厳しい。


  市長選の争点については何度かの記者座談会で論議もしてきた。この安倍・林代理市政の下ではどっちに転んでも展望など見えないが、現状ではその他に期待できる候補者がおらず、どう有権者の意志を突きつけるのか難しいものがある。ただ、市政は一党一派の私物ではないということを示さないといけない。


  仮に前田が敗北したら、逆ギレしてお膝元は粛清の嵐が襲うかもしれない。江島がやった時以上に激しいものすら想像される。しかし、粛清する側が粛清される可能性だってある。安倍林もどのように戦後処理と和平に繋げていくのかはわからないが、トム&ジェリーのように、もっと仲良く喧嘩してくれというのが企業関係者たちの本音だ。選挙のシコリは面倒臭いという意見が方方で挙がっており、迷惑千万と見なしている人がどれだけいるか。いずれにしても有権者に迷惑をかけている選挙であることだけは疑いない。選挙後も下関市政はしばらく落ち着きを失いそうだ。

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