軍事要塞化を思わせる異様な都市改造に、下関では多くの市民が不気味さを感じている。開発はもっぱら響灘方面に集中しており、垢田の沖合人工島を中心地点にして巨大な道路群があらわれ、鉄道輸送の幡生ヤードや下関インターチェンジへと連結するつくりになっている。そして人口減少のおりに、不可解なまでに大規模な区画整理がおこなわれ、新幹線駅に隣接する川中・伊倉地区には30・6㌶(総事業費六六億円)、下関インターチェンジに接続する新椋野地区には24・4㌶(総事業費56億円)の住宅用地が出現。何者かが集団移住することを見込んだ動きになっている。北朝鮮のミサイル・核騒動になると、やたら興奮するのが安倍晋三元首相で武力攻撃に異様な執着を見せる。臨検港(軍事衝突を意味する)に名指しされた下関で、明らかに軍事都市を指向した街づくりが進行しており、将来的に海上自衛隊及び米海軍の前線基地を誘致するつもりと見られている。
最近、自民党の広報車が市内中を走り回り、安倍内閣時期の防衛省昇格を褒め称えたり、自画自賛をやっている。安倍代議士は、東京から評論家の桜井よし子氏を連れてきて、「軍事力に裏付けされた外交」「北朝鮮への圧力重視」を熱弁したり、勇ましさをアピールしはじめた。衆議院選を前にして争点にしているのが軍事・戦争で、たいへん鼻息が荒くなっているのが特徴だ。
5月25日には福岡市内の講演で、「(日本政府は)時にはリスクをとって孤立を恐れない外交をしなければならない。北朝鮮の核保有、核武装を認めるわけにはいかない。断固たる経済制裁を行うべきだ」「北朝鮮のミサイルは性能を上げている。そして核実験をした。われわれはその備えをしっかりしないといけない。ミサイル発射基地を攻撃する能力も具体的に検討していくことは当然だ」と述べ、持論の敵基地攻撃論を展開した。先制攻撃するのだから全面戦争突入ということになる。戦争させられるのは国民である。
人工島へ集中する大道路群
近年、下関では「すべての道は“人工島”へ」といわんばかりの巨大な道路群が出現した。ところが日頃はほとんど車が走っていない。人工島は何もない無人島で、ゲートから向こうには入れないし、用事がある市民などいないのである。物流拠点として、3月から一部供用開始になったものの、誰も利用していない。第1期工事だけで700億円近い税金をブチ込んでつくったものの、今のところは「利用価値のない島」になっている。
そして一連の道路のなかで国土交通省が鳴り物入りで進めているのが下関北バイパス(国道191号、総事業費が約720億円、計画延長6・8㌔)。渋滞緩和を掲げて、現在は汐入から人工島―幡生ヤード―下関インターチェンジへとつながる動脈路と連結する部分が完成している。そこから垢田中学校前を抜ける部分が建設中で、綾羅木方面の土地買収が進んでいる。大急ぎで優先的につくったのは人工島道路までだ。
下関北バイパスの陰に隠れて、それよりもむしろ巨大な姿をあらわしたのが、人工島ゲートから一直線で幡生の大高架橋へと連結する市道。北バイパスが片側1車線であるのにたいして、それよりも利用者が少ないはずのこちらは、片側2車線の計四車線というつくりになっている。重量クラスの車両が、山ほど走る想定だ。緊急事態にでもなれば、縁石をずらすだけで容易に片側3車線になる。
人工島から武久海岸沿いに走るこの「武久新垢田西線」(総工費32億円)から県にバトンタッチして幡生駅をまたぐ「武久椋野線」(総工費163億円)。巨大な大高架橋が幡生駅をまたいで下関インターチェンジ、関門トンネルへとつながる。あるいは途中で191号線に下りると大量のコンテナ輸送が可能な鉄道・幡生ヤードにアクセスする構造になっている。右側に県営住宅が連なり、左側は海。それ以外にはなにもない。いわゆる市民の需要に基づいた“生活道路”でないことは一目瞭然だ。人工島道路を走ってみると「北バイパス」はむしろ“おまけ”の取り付け道路のようにも見える。
周辺が完璧なまでに整備された人工島であるが、使い道になると表向きはサッパリで、旧通産省が音頭をとったテクノライナー(高速船)計画は早くから白紙になっている。今のところ岬之町コンテナを移動させる以外に利用目的の展望がないが、岬之町の業者たちも移転には消極的で、船舶の保険会社も「人工島は冬風が強く、事故の確率が高まる」と嫌悪感を抱いている始末だ。「ならば誰が利用するのか?」と話題になっている。
目的や見通しがないものに中央省庁が予算を下ろさないのは行政の常識で、一連の国家プロジェクトには明確な意図が貫かれているのは疑いない。巨額の資金を投入した開発にもかかわらず、利用価値がはっきりしないというのもあり得ないことである。ここで不可解極まりないのは、無謀な都市開発について市議会でもウンともスンとも論議にならないことで、知っているクセに市民に黙って何が動いているのか? という薄気味悪さをみなが感じている。
臨検想定の軍港化が現実味
こうして現在、もっとも想定されるのが軍港化である。泉田元市長が周囲に吹聴していた構想では防衛施設庁に売り払えば市財政の借金(港湾事業債は約400億円、利子だけで、毎年7億円ちかくを負担)もペイできて、自衛隊が施設を構えて5000人規模が集団移住すれば外需を呼び込むことができる。なおかつ防衛予算にぶら下がることが出来るというものだったが、十分に現実味を帯びている。
ここ数年、人工島と目と鼻の先の六連島を舞台に、官邸直結で「北朝鮮の潜水艦が攻めてくる!」と全国初の実働訓練が繰り広げられたり、下関港には海上自衛隊の頻繁な寄港が目立つようになった。米軍艦船も寄港するようになった。北朝鮮行動の後の休憩ポイントにもなっている。自衛隊ヘリポートを備えた防災公園を整備すると安倍派がやかましく主張したり、江島前市長が横須賀の海上自衛隊に視察に出かけたり、海軍好きだったのも、市長の軍事趣味という以前に、背後勢力から見て下関がそのような軍事要衝と見なされていることを物語っているし、臨検港指定が正直に証明している。北朝鮮船籍を引っ張ってきて、下関港で人質にするという内容であった。
需要がないのに異常なまでに安倍派グループ企業が宅地開発を繰り広げている事も「5000人規模の移住者」等を確実視しているとすれば、何ら不思議なことではない。広大な区画整理も決して「需要がないのにバカみたいに開発している」のではない事になる。川中・伊倉地区も新椋野地区も人工島やインター・新幹線に接続する重要ポイントで、下関港に面した海峡沿いをあけて市役所を新下関地区に移転させる計画も、一連の大がかりな都市改造の中心に「軍港化」が座っているとすれば、全てに合点がいく関係になっている。
さんざん市財政に借金を背負わせたのち、米軍あるいは自衛隊の軍需物資集積ターミナル・最前線出撃基地にされかねない。それはまるで宅地開発とダマして、実ははじめから米軍住宅化を計画していた岩国・愛宕山開発とそっくりで、瀬戸内海の奥座敷には極東最大の米軍出撃基地や呉軍港を控え、緊急の際には新幹線で1時間程度で移動することも可能。物資の移動にもベストポイントになる。北九州の響コンテナターミナルとも連携すれば空母だって接岸可能になる。日本列島戦場化の最前線ポイントにされるというのは、「タカ派」を自慢する安倍元首相が武力攻撃や憲法改悪を叫び、下関を踏み台にしている姿とも重ねた実感である。
朝鮮半島をにらんだ最前線
近年、政府が有事体制を強化するなかで、下関においても具体化が進んだ。もともと関門地域が狙われる動機などないのに、安倍代議士の子飼いである江島前市長も「敵が攻めてくる」といって大騒ぎしてきた。米軍艦船が好き放題に利用できる港になりテロ対策として港にはフェンスが張り巡らされた。テロ対策訓練には自治会などを動員し、「武力攻撃を受ける街」づくりが熱心に進められてきた経緯がある。
下関の地理的な特徴としては、戦時中も軍事要塞が置かれていたように、海上交通の要衝で、とくに朝鮮半島を意識した最前線ポイントになっているのは前述した通り。海上自衛隊の主な母港は横須賀、大湊、舞鶴、佐世保、呉で、日本海で軍事行動を終えて帰港する際、物資補給をしたり、三菱重工のドックも完備されている。南下して佐世保に移動したり、あるいは瀬戸内海をのぼって呉港や横須賀港など主要な軍港に北上する起点ルートにあたる。
1990年からの20年来で、「アメリカの盾になって戦争をする国」づくりは格段に進行。カンボジア派遣どころかイラクの戦地にまで出撃するまでになった。基地や民間空港・港湾の利用も米軍・自衛隊が自由にできるように法整備が進み、周辺事態法・武力攻撃事態法、国民保護法によって自治体や民間企業、市民にいたるまで戦争の際には協力させる法律もつくらせるなど、状況は様変わりしている。そこで憲法改悪、武力攻撃を叫ぶのが安倍代議士を筆頭にした一連の勢力になっている。
目下進められているのが、在日米軍再編で、アジア太平洋を行動範囲にした米軍の陸・海・空・海兵隊の4軍の司令部や部隊を日本国内に集中配備し、前線の盾にする事を狙いにしている。米軍と自衛隊司令部の統合、すなわち自衛隊が前線のコマとして米軍指揮下で下請け軍隊になる体制も整備している。アメリカは、海外の基地に20万人の兵力を駐留させているうち、日本国内には5万1000人を配備している。これは韓国の3万6000人よりも多い。その最大の拠点にしようとしているのが米軍岩国基地で、アジア太平洋地域を視野に入れた大増強がはかられている。
下関の軍事都市化も一連の動きと決して無関係ではなく、人工島を中心にした都市改造の動きは今後とも注視されている。
衆議院選は、安倍戦争政治が重要な争点になる。