東日本大震災は、被災地だけでなく全国に深刻な影響を与えている。震災後の混乱を理由にした資材の高騰や農産物価格の下落に加え、企業の倒産や首切りも始まっており、消費の冷え込みは段階を画して進行している。雇用の問題は全下関市内、全国の最大課題となっている。
長府商店街では、とくに飲食店で「タコの日(客がゼロの日)」が増えたことが語られる。ある商店主は「タコの日が続き、魚が腐るから怖くて仕入れができないという店主が多い。仕入れをしていない日に限ってお客が来て煮魚を注文したりするから断るしかなく、お客が逃げていくという悪循環に陥っている。やめたいけど借金があるからやめられない状態だ」と語る。商店主が集まると「このままいったら日本は崩壊する」と怒りが語られるという。
シーモール下関でも同じ状況が語られる。専門店の婦人は「土・日になると主婦層や女子高校生は、数千円でたくさん買える激安のしまむらに行く。その他の層は必要な物を買うために来るだけで、専門店に立ち寄って買い物をする状況ではない。ときどきワゴンの安売りを買って行くくらい」と語る。「ゆめシティにとられている面もあるが、そもそも購買力がないから向こうの専門店は厳しいみたいだ。大手が郊外にたくさん出てきているが、地場産業を振興しないと下関の発展はない」といった。
一方のゆめシティでも、経営が成り立たず撤退するテナントが後を絶たない。現在でも空き店舗や一時しのぎの短期契約で入った店舗、撤退する意向はあるがイズミ側から次のテナントが見つかるまで引き止められている店舗があることが語られている。フランチャイズの飲食店は、見た目は同じでもオーナーが次から次にかわっているという。
雑貨店の婦人は「うちも途中で経営がかわった。元元生活必需品ではないので売上はずっと低い。みんな生活が厳しいからよけいな物は買わないという雰囲気だ。同じグループでも福岡の方に入っている店は毎月売上が全然違う。北九州から上司が来て“下関は財布のひもが固いね”といわれるが、逆に福岡ではなにが売れるのだろうか?と思うくらい。ゆめシティ自体が下関の消費が落ち込んでいるところに出てきたから、大丈夫なのかと思う」と語る。
消費購買力が減退するなかで、ゆめシティが当初は月2回ほどだった「ポイント10倍の日」を最近毎週末にうつようになった。だがポイントを目的に買い物に行く客も食料品を買うくらいで、衣料品などを買い込むことはないという。「ポイントを10倍にするということは1割引きをさらに1割引きするようなもの。イズミも実際のところは利益は少ないはずだ」と語られている。
背景に深刻な失業問題 なぜ消費落込むか
下関でこれほど消費が冷え込んでいるのはなぜなのか。その背景に倒産や首切りなど、深刻な失業の問題がある。
長府地区では震災後、長府製作所がパートや派遣社員の首切りを始めていることが語られている。「パートの人が、1週間ほど前に会社から電話がかかり“よく働いてくれたが来月からもう来なくていいよ”といわれたと話していた」という。人を減らして工場内を統合し、敷地内に広い空き地ができたため、別の場所にあった下請会社が自社を引き払って移ってきた。
神戸製鋼所でも北工場で原発の被覆管をつくっていたが、今後受注がなくなるのではないかと噂されており、「そうなったら首を切られるのは日新運輸。労働者はいつ呼び出しがかかって首を切られるかと戦々恐々としている」と語られている。
深刻さを増しているのが建設業界だ。5月末で旧下関市の老舗工務店が1億数千万円の負債を抱えて倒産。下請など関連する建設会社は広範囲に及び、多額の損害を受けた建設会社もあり、今後影響がさらに波及することが危惧されている。
この工務店は元元個人住宅を専門とした工務店だが、住宅需要が減るなかで大手ハウスメーカーが資本力を武器に営業を展開し、地元工務店は太刀打ちできない状況に追い込まれるなかで、最近では公共工事に依存してきたという。しかし資材が値上がりするうえに公共工事は安値でたたかれるため、長年苦しい状況で資金を回してきた。受注がなければ銀行が融資をストップするため、どんなに安値でも資金繰りのために受注し続けなければならない。
関係者は「倒産の仕方も許せないが、今の社会は本当に弱者いじめの社会だ。建設業界もハウスメーカーがガンガン営業をかけて仕事をとって、下請に入るところだけがなんとか生き残る。消費が落ち込んだ下で競争しているから、デフレスパイラルになる。商店をつぶして大型店だけが生き残るのと同じで、大きいところだけが生き残る社会だ」と憤りを込めて語る。「今“震災”とつければなんでも許されるような風潮が流されて、消費税を10%にしようとしているが、そうなるとさらに買い控えが起こって大変なことになる。消費税は被災地にもかかるのだから、被災した人も追い込むようなものだ。そんなことよりアメリカ国債を売ったらいいではないか」と語った。
建設業界では豊北町でも五月末で工務店が9000万円の負債を抱えて倒産した。その他でも5月末で不渡りを出した建設業者が複数あることが語られている。震災後、「資材は被災地に優先して回す」ようになったことから、残った資材を大手が死にものぐるいで確保したため、地方の工務店には回って来なくなったことが追い打ちをかけたという。
こうしたなかで下関市内にはさらに職がない状況となっている。リーマン・ショック以後、雇用が回復せず、現在でも毎月6000人を超える市民が職を求めて職安に通っている。4月の有効求人倍率は0・71倍と昨年4月から数字上は若干回復したものの、「実情はまだまだ厳しい」と関係者は指摘する。求職者の多くは正規雇用を求めているが、求人の約4割はパート。正社員に限ると有効求人倍率は0・41倍(山口県全体)まで落ち込む。失業した状態が長期に続いている人も多い。
効果でぬ市の独自対策 就職支援の嘱託配置
切迫した実情に対して対策をとるべき市の動きが見えないことに市民の怒りが募っている。市の独自の対策としては年間約200万円で嘱託の「就職支援アドバイザー」を設置しているだけだ。国の緊急雇用創出事業で、昨年度は約7億6000万円、今年度は約8億8000万円の予算がおりてきているが、これは市役所の嘱託職員(半年契約で1回限りの更新、または1年契約で更新不可)を雇用する事業や、商店街活性化のための事務局職員の給与助成などに使われているという。今年度全体で421人雇用する予定(うち158人が市の非常勤嘱託職員)だ。
今年度限りで国の雇用対策事業もうち切られるが、「市が独自で負担することはできない」として今後の対策の見通しはない。「緊急雇用」で雇われた市の非常勤嘱託職員も正職員並みの仕事をしているのに、今後どうなるのか注目されている。
また豊前田商店街では緊急雇用創出事業で事務局職員を雇用するといって、年間720万円(うち人件費が360万円)を、中尾市長の選対に入っていた人物が得ようとしていたことが明らかとなっている。唐戸商店街でも市立大学のサテライトキャンパスに助成金がおり、そのことを商店街はまったく知らない状態で、本来の助成になっていないと話されている。