工場閉鎖や大企業の大量解雇が相次いでいる下関では、産業振興と雇用確保が市民にとって最も必要な施策になっている。リーマンショックからの四年間で仕事を失った市民がひきもきらず職安に押し掛け、3月1日に卒業式を迎えた高校生たちのなかでは、とくに商業系で地元採用の受け入れ先がないことが問題になっている。年度末の中小企業では赤字決算を無理矢理にでも黒字計上にして、かつがつ資金繰りを回しているところが少なくない。そうでもしなければ銀行が融資をストップしたり、公共事業から排除されるからである。産業の衰退に歯止めを掛け、雇用をどう作り出すかが下関市民の生活にとって第一義の課題になっている。そのなかで行政運営が人工島を中心とした軍港化や大型箱物建設、観光開発、市街地開発など市民の必要性とは無関係の事業ばかりに熱を上げていること、産業や雇用施策を放置して人口が減るようなことばかりしていることへ強烈な怒りがうっ積している。
人口減・税収減のなかで市庁舎や人工島
中尾市政が発表した来年度予算は、引き続き大型箱物への偏重が目を引いている。市民の多くが「何を考えているんだ!」「箱物をやっている場合ではない」「優先順位が違う」と話題にしている。肝心な緊急雇用のための費用は、国に右へ習えで4億円に半減。県の雇用対策も光、周南が重点地域となって下関は対象から漏れた。
来年度実行しようとしている雇用対策を見てみると、本来市職員の業務としてやるべきもののなかから単純作業を拾い出し、市道の草抜きや保育所の環境管理、学校図書館の校務補助といったもので、対象者は212人に過ぎない。産業振興についても際だった政策は見あたらず、「観光」以外は従来コースの踏襲である。これでは人口減少の加速や、税収の激減状況はさらにひどくならざるを得ない。
財源の柱である市民税が4年間で28億円も減っていることが、人口減少や産業の衰退を顕著にあらわしている。平成17年度の国勢調査では29万693人だった人口が、22年度には28万978人まで約1万人減少。年間約2000人ペースという驚異的なスピードで人口減少が加速している。高齢化率も28・5%と同規模の自治体では群を抜く。国立社会保障・人口問題研究所の推計では2035年には下関の人口は20万人まで3分の1減少するともいわれている。ところがこの現状に対して、ならばどう市民生活を立て直すかが政策として打ち出されないまま夕張のような観光行政にのめり込んだり、箱物偏重の暴走市政が続いている。
将来予想も度外視 過剰な市庁舎・浄水場 異様な駅前開発
来年度、巨額の費用が注ぎ込まれる目玉事業に市庁舎建設がある。選挙で「建て替えない!」と叫んでいたのが、退任間際の最終予算で駆け込み発注しようと8億円を計上している。本庁舎のコンクリートは良質で、鉄筋が入っている深さ3㌢までコンクリの中性化が進行するには残り78年かかることが明らかになっている。「50年はもつ建物」という結論が出ている。ところが約2倍の新庁舎を追加することになる。50年後に人口が15万人ないしは10万人になっていたとして、庁舎は現在の約3倍規模という、将来予想など度外視した事業となっている。過剰整備が問題視されているのは長府浄水場も同じで、250億円かけて整備し終えたときには、その水を必要とする市民は3分の1も減っているというデタラメさが指摘されている。おかげで水道料は平均15%の値上げとなった。
箱物関連では、JR西日本や山口銀行のためのばらまきも遠慮を知らない。150億円を投じる下関駅にぎわいプロジェクトには、昨年に続いて25億円程度注ぎ込んでいる。30億円使った長府駅は完成してみると不便極まりないものだったことが住民の話題をさらっているが、梶栗駅にせよ、それほど市民が必要としていないものに巨費を投じる。そして駅舎関連になると工事は広成建設(JR子会社)が独占的に請け負う仕組みになっている。
下関駅開発では駅舎消失の責任を問われるべき当時の鉄道部長が、処分されるどころかJR西日本広島支社の次長に栄転するなど、奇妙な出来事が連続しながらごり押しされてきた。隣接のシーモール下関からは店舗撤退が相次ぎ、幽霊屋敷化が現実問題になっている。周囲のビル街からは企業が軒並み退去し、空洞化も深刻である。このなかで、“JRにぎわいプロジェクト”“山口銀行にぎわいプロジェクト”だけが盛り上がり異様な不動産利権の様相を呈している。
人工島軸に都市大改造 市民使わぬ大道路群
下関市財政の最大の荷物になってきたのが垢田沖の人工島で、これまでに760億円かけてきた。来年度はさらに7億~8億円を注ぎ込む計画になっている。島だけでなく、周囲で膨大な市予算を投じて整備しているのが道路網で、すべての道は人工島に向かって伸び、つぎつぎとパーツが連結していく。海上自衛隊がある吉見から安岡にかけて走っている海岸通りの四車線化も浮上し、そこから北バイパスを走って一直線で人工島につながる計画もある。新幹線からも直線で結ばれ、鉄道貨物の幡生ヤードやインターチェンジとも一直線で結ばれる。
市民生活にとって必要性がないため、日頃はほとんど車が走らない。現在の人工島も利用する船はなく、だれがそれほどの道路群を必要としているのかまったく明らかになっていない。しかし役所担当者の思惑をこえたところで国土交通省が予算を認め、国が主導する形で都市改造だけが大規模に進められている。
この利用価値としては軍港しかなく、以前から指摘されてきた海上自衛隊の基地、あるいは米兵が朝鮮有事で利用する出撃拠点にされることが現実問題になっている。今年に入って米軍が下関港を重点港として目を付けていたことが明るみに出たが、「使い物にならないものに、どうしてそれほど予算を投じるのか?」という市民の長年の疑問が、「はじめから軍港にするつもりだった」というなら説明がつくものになっている。岩国から周南に抜けて下関に接続するバイパス網が巨大化してきたが、人がそれほど住んでいない北浦地域に過剰な道路群があらわれた謎も、朝鮮半島有事を意識した軍事都市作りだったというなら説明がつく。だれの目から見ても生活道路ではないのだ。
市庁舎、駅前、そして軍港島。市民以外の外部勢力の必要から下関を食いつぶす政治との対決が迫られている。新市庁舎にしても、市民がこれほど貧困状態に置かれているときに、また人口が減り税収が減るのがわかっていながら、将来にわたってツケを残そうとしていることを多くの市民が問題にしている。
合併特例債なのでいずれ国が地方交付税として面倒を見てくれるといっても、その建設費はみな市債によってまかなわれている。地方交付税の枠は決まっているので増えるわけがなく、将来的に市予算のどこを削るかという話にしかなりようがない。新庁舎や関連した200億円規模の建設事業を中止し、山口銀行の所有地を買い上げた新博物館の建設等、不要不急の散財事業を中止して、市民経済の活性化のために回すことが待ったなしとなっている。
無謀な事業としては、高潮被害の実績がある岬之町の埋立地に消防署を建設する計画も見直しが求められている。国の防災会議が四月に南海・東南海地震の津波シミュレーションや新たな防災基準を発表するとし、高知県をはじめとした行政や国交省も想定見直し作業に着手している。このなかで、下関市は「津波や高潮に備えて80㌢土地をかさましするので大丈夫」「津波が建物を抜けていけるように、シャッター方式の建物にします」といって来年度予算に建屋建設の費用を計上している。
津波被害を想定してつくるという自爆行為をやめて、より安全な現在地の岩盤の上につくる方が、市民の生命や安全を守るために良いことは歴然としている。のちのち禍根を残すようなことはすべきでないという市民の声が圧倒している。津波で流されるような場所に整備すれば、消防システム統合が俎上にのぼっている美祢市にも迷惑をかけることになる。
市民徹底して搾る 福祉も教育も切捨て 箱物財源を捻出
中尾市長は3月議会に先立って「財政健全化推進本部」を立ち上げた。歳入については①課税水準の見直し、②未収金の回収(市税徴収・債権回収の強化)、③施設使用料等の受益者負担の見直し(公共料金の値上げ)、④基金の有効活用、⑤未利用財産の売却・有効活用、⑥新たな収入の確保を検討項目としてあげている。歳出については、①補助金の見直し、②予算編成システムの見直し、③公共工事のコスト縮減、④資金運用の見直し、⑤人件費の抑制を列記した。四年間で差押えを強化してきたが、さらに徹底して巻き上げていくことを宣言している。
昨年には水道料金を平均15%値上げし、保育料、印鑑登録料など一連の値上げラッシュがあった。今後はさらに学校給食費が値上げとなり、国民健康保険料も値上げ、介護保険料は保険料の基準額を月額4200円から5300円に値上げするとしている。箱物で大散財を繰り広げながら、一方で「受益者負担」を増やして、福祉や教育にかかるサービスを切り捨てる施策が相次いでいる。
就学援助も助成額や基準を見直すことによって、来年度だけで3200万円削減するほか、障害者が利用する福祉タクシーのチケット助成は1700万円削減。敬老祝いのカタログギフト方式を見直すといって前年度は4400万円だった予算を2000万円へと半減させた。老人クラブの活動費助成も高齢者が銭湯を利用する際の助成も減額となった。
「歳出の無駄を省く」といって力を入れているのが保育園統廃合で、豊北町で一カ所集約したのに続いて、豊浦町や市内中心部でも幼保一体化施設に統廃合する計画が進行している。JR駅舎のなかに何億もかけて「次世代育成施設」をつくりながら、既存の保育園は耐震審査でEランク判定が出たものがそのまま放置されている。小中学校も下関市内の建物の老朽化は県内でも突出している。統廃合で既存の施設を縮小したり行政サービスを効率化させ、箱物財源を捻出する関係になっている。
市立大学を独立行政法人化で行政から切り離したのに続いて、四月からは市立中央病院も独立行政法人に移行する。中央病院ではこの間、独法化することが明らかになって以後、看護師が次次と辞めていったことが病棟閉鎖にまでつながった。「独立行政法人がいいのだ」といいながら肝心な医者や看護師が逃げ、新たな人材が集まらない。地域医療を担ってきた公立病院が存亡の縁に立たされていることを医療関係者たちは危惧してきた。このまま独法化を強行して予算執行して良いのかが問われている。
近年は民間委託が相次ぎ、公共施設の管理運営を特定の私企業に委ねる「アウトソーシング」にも拍車がかかっている。管理公社を廃止していく流れとセットで、公共施設を「初期投資ゼロ物件」として民間企業に切り売りしている。全国的にも指定管理者制度の導入が推進されているなかで、下関では細江町の下関中央図書館・社会教育複合施設も広島市の「合人社」が管理するようになり、書籍購入は「紀伊国屋」の独壇場といった調子で、県外企業が地方都市にまで進出して公共施設利権をさらっていくようになった。行政から委託料を受け、非正規雇用化によって人件費を削りもうける手法だ。社会教育複合施設には、単年度で3億8000万円が注ぎ込まれ、市民生活や地域団体への補助金が削減されるのとは裏腹に、莫大な経費をかけるようになった。10年運営しただけで38億円がこれらの市外企業の懐に消えていく。
吉見フィッシングパークの管理運営企業には大阪の企業、深坂自然の森と、森の家下関の管理運営は東京の企業、下関球場はスポーツメーカーの「ミズノ」が参入。老人休養ホーム満珠荘は老人福祉とは切り離し、高齢者の宿泊料金が三倍になった。風呂上がりに囲碁をするにも部屋代として1時間1000円とられるようになった。
「官から民へ」といって特定企業のもうけの具にし、公共性を否定する方向がますます強まっている。行政運営は「株式会社下関市」となって私物化され、山口銀行や政治家周辺、JR西日本のような企業を喜ばせることばかり夢中になり、あるかぽーと、駅前、市庁舎など、よそから来た者に対して見てくれだけを誇張する、グローバル化対応の街作りが進められている。
人口が減っても構わず、むしろ減った方が都合がよいという市政運営の先にあるのが軍事都市、軍港化では市民はたまったものではない。下関で暮らしている市民が必要としている施策、産業振興や雇用対策を最重要課題として来年度予算に反映させること、行政サービスを削減するまえに何百億円もする箱物事業を中止させることが求められている。