下関市では、市民生活が困難さを増すなか、人工島を中心にした巨大な道路建設には惜しげもなく1000億円を超える金がつぎ込まれ、不気味な姿をあらわしている。多くの市民、とりわけかつての戦争を体験した人人は、市民生活の身近なところで戦争の足音が高まっていることをひしひしと感じている。関門海峡に面した下関は戦争中、大陸侵攻の窓口であり、また全国を結ぶ物資や人員流通の戦略的な要衝であり、自由にものをいうことも写真を撮ることも禁止された要塞都市であった。先の大戦の経験と重ねて、現在市民生活の身近で進行する戦争への足音を見ることが重要になっている。
市民の貧困化はわざと加速
港湾関係の仕事に携わっていた男性は、「人工島が軍港になるのではないかと私たちは早くから感じていた。岩国でも海兵隊の移転に知事や市長が驚いて反対する振りをしていたが、実は早くから決まっていることを芝居しながら実行に移しているだけだ。人工島も同じだ」と話す。
9・11ニューヨークテロ事件以後の緊張したなかで仕事をしていたが、「港はフェンスに囲まれ、監視カメラもついて、ものものしい雰囲気になった。米軍の船が着くと、商船より米軍優先で仕事は進まなくなるし、いったいだれの港なのかという雰囲気になっていった。黙っていたら、人工島も下関港も米軍が勝手に使う港になってしまう」と危惧を語る。
人工島が軍港だという市民世論は、それに連結する巨大道路の出現を見て、緊張感を持って急速に広がっている。しかしそれだけではなく、軍港化・戦争態勢は着着と進んでいる。
9・11直後に、下関港にも鉄条網付きのフェンスが張り巡らされた。「テロ対策を強化する」といってSOLAS条約が改定されたことによる。そのため市民が入れなくなると同時に、監視カメラや照明器具が設置されて24時間監視体制が敷かれた。
そして2003年2月に入ってきたのが、米海軍佐世保基地所属の掃海艦「パトリオット」であった。東大和町の第一突堤北側の一部をコンテナで通行止めにしたうえで、拳銃を持った米軍兵士が出入口に立ちはだかって、普段は国内外からの物資が行き交う民間倉庫の前は封鎖されものものしい米軍専用バースに変わった。日米地位協定にもとづく入港で、米兵以外は出入りが制限され、日本側の関係者は前もって伝えられたアルファベットの記号を示して、警戒線内に入っての作業。新ガイドラインが策定され、民間業者でも協力を拒否すれば罰則となるなかで、「ひどい条件で、ボランティアに等しいものだった」と関係者のあいだで語られていた。
以来頻繁に米軍艦船が入港するようになり、2010年11月までで13回にのぼっている(東日本大震災のあった昨年は入港していない)。「友好」と称して入港し、児童福祉施設にボランティアに行ったり、市立大学でコンサートを開くなどしながら、港の使い勝手を調査したり、実績作りをしてきた。
初入港の翌年には、下関国際ターミナルと関釜フェリーで、門司海上保安部や山口県警、福岡県警など約700人を動員して、全国初という大規模なテロ対策訓練がおこなわれた。下関市内は彦島から吉見にかけて、響灘に面する自治会などから住民が集められ、なんの説明も受けないまま「シージャック」された船室内に閉じ込められて、首に救命具をつけて避難する訓練に動員された。参加した住民から抗議が殺到し、山口県警本部がおわびの手紙を送る事態になった。
05年には国民保護法が策定されて、全国の自治体で「国民保護計画」が策定された。下関市では戦争好きの江島市長の下で、全国でもまれな実動訓練が六連島でおこなわれた。当初の想定は「武装兵士が六連島に潜水艦で潜入し、石油タンクを時限爆弾で破壊する」というもので、自衛隊や海上保安庁、警察の対処処置と住民避難、自治会の炊き出しという内容だった。ところが国民保護計画の内容と訓練の実施を知った市民のなかから、想定がバカげていることや、「なぜ今頃戦時訓練なのか」との批判世論が噴出し、実際には避難訓練で終わった。
北朝鮮の不審船騒動とかかわって下関は臨検港に指定された。臨検とは、外国の船舶を連行してとり調べるというもので、戦争行為にあたる。関門海峡では保安庁、警察などが何度もテロ対策訓練をやっている。
そして最近では、米軍が下関港を博多、長崎、鹿児島など全国六港湾のひとつとして重要港湾指定にしていたことが明らかにされた。アメリカは北朝鮮、中国との戦争態勢をとっているが下関を米軍が使用し、補給、出撃拠点にするということであり、逆にいえばミサイルの標的にすることを意味する。
沖合人工島は、橋一本でつながれ、入り口は門が閉められ、守衛が立っている。石垣島のPAC3配備も、橋一本でつながった人工島であった。名称も同じ新港だった。人工島ははじめから軍港として計画されたことは疑いない事態となっている。
昔天皇、今は米国の為 関門海峡の監視強化
沿岸漁師たちのあいだでは、関門海峡の監視・とりしまりが、ここ10年で強化されてきたことが語られている。魚が久しぶりに大量に湧いたので漁師が殺到すると、保安庁がすぐに来て「国際航路のじゃまをするな」「逆らったら漁業ができなくさせる」といったため、目の前にいる魚をとれなかったことも語られている。
海上保安庁によると、関門海峡は全海域を24時間赤外線レーダーで監視しており、怪しい船を見つけたらカメラで追尾できるシステムも備えているということだ。
漁師の一人は、「昔から福岡県になる馬島や姶ノ島にお金を払って漁をさせてもらってきた。県の水産振興局の取締船もその事情を知っていたのでとりしまらなかったし、警察もそれほど厳しくいわなかった。しかし10年くらい前から海上保安庁第七管区が“うちにはそんな経緯は関係ない”“1㍍でも100㍍でも違反は違反”といって厳しくとりしまり始めた」と話す。若松など他管区の取締船も沖合で入り乱れているため、この数年でも同じ浜の漁師や近隣の漁師がつかまったという。「六連島の手前でもタンクの陰は福岡県など、境界は複雑なのに、捕まれば密漁になるので莫大な罰金を払わないといけない。漁業が廃れて漁師の生活が厳しいのは放置したままで、なぜとりしまりだけを強化するのか」と疑問を語った。
70代の男性は、「漁師の生活が、こんな形でとりしまられるのを見るたびに、だんだんとりしまりが厳しくなり、物がいえなくなっていった戦時中と重なって、戦争が近づいていることをひしひしと感じる。昔は天皇陛下のいいなりだったが、今の政府はアメリカのいいなり。国民の生活はこれほど大変なのに、アメリカのためならいくらでも金を出している。本当に腹が立って仕方がない」と語っていた。
箱物をやめぬ中尾市政 戦争へ通じる貧困化
戦争体験者は、「みんなが貧乏になって戦争になっていった」と語る。アメリカでも黒人をはじめ貧乏人が兵隊になって一番犠牲になっており、「兵隊になったら大学に行く資金が得られる」などといって兵隊集めをしている。下関の経済の疲弊、市民の貧困はすさまじい進行ぶりとなっている。
大企業は労働者や地域の協力で大もうけをしてきたことなど知ったことではないという調子で社会的な責任などまったくなく、次次に工場を閉鎖し海外に移転する。大型店の出店は野放しで、地元の商業者をつぶしてもうからなくなったらさっさと撤退して買い物難民をつくる。
その上に中尾市政は、市民経済を振興するとか、働く者の仕事をつくるとか、市民の福祉を守るとか、なんの関心もなく、市庁舎建て替えや駅ビル建設などハコモノ利権をやめようともしない。市政は株式会社と同じであり、市長はオーナーか経営者であって、公共性とか公益性とか知ったことではないという政治が横行する。
国内をさんざんに貧乏にして、大きな資本は安い労働力を求めて海外進出し、果てしもない利潤獲得競争にうつつを抜かす。海外の工場、設備など資産を守り、現地の労働者や住民の反発、また現地政府を押さえ込む最大の手段は軍事力であり、米軍の「核の傘」である。自衛隊の海外派遣はアメリカと日本の財界の海外資産を守り、現地での法外な搾取を守るためだというのは、戦前の教訓である。
下関の市民の貧困は、中尾市政のハコモノ狂いのバブル政治によって促進されている。市民を貧乏にすることは、軍事都市にするため、戦争準備をするため、市民を戦争に駆り立てるため、という意図的な政治が働いているとみることができる。
市民は警察が徹底監視 公約破りは野放し
戦争体制の重要な特徴は、国内におけるファッショ化、弾圧体制である。
市民生活の身辺では、ここ数年懲罰ばやりになっている。6年前には駐車違反のとりしまりを強化し、下関市では唐戸、豊前田、グリーンモールが重点地域に指定された。それまでは駐車禁止区域でも、パトカーが巡回して一定の時間が経過したらとりしまっていたが、重点区域では巡視員(警察OBの食い扶持)に見つかれば、1秒の駐車でも即罰金。駐車場のない古い商店街では、客足がぱったり途絶え、ただでさえ大型店のおかげで苦しんでいるうえに、商店街の首を絞めるようなことをする。
同じ年に飲酒運転による事故で幼児3人が死亡したことが問題となり、飲酒運転も厳罰化が決まった。即逮捕、30万円の罰金どころか、先日下関でも酒気帯び運転をしたが事故をして迷惑をかけたわけでもない小学校教師が懲戒免職となって退職金も吹っ飛び、自己破産に追い込まれた。校長や教頭も管理責任といってしぼられる。
教師だけではなく子どももひどい扱いである。中学校で暴れた子どもたちが、高校では受け入れられず、就職しようにも中卒では職安でも相手にされない。だれが見てもおもしろくない学校はそのままにして、暴れただけで社会から排除し、人生を狂わせる。残酷な懲罰社会である。
タバコもとりしまりを強化。あるかぽーとや細江町など指定区域内でタバコを吸っているところを巡視員に見つかったら1000円の過料が科せられる。
市税を滞納したら即差し押さえ、文句をいったら警察が逮捕。市民はいつも悪いことをしている犯罪者予備軍であり、懲罰をあたりまえと思えという風潮が押し寄せている。うかつにものがいえない空気はまさに戦前の様相である。
街中を歩けば監視カメラが設置され、道路を走ればNシステムでナンバーがチェックされいつも警察にマークされた状態。国民総背番号制(現在はマイナンバー)といって、一人一人に番号をつけて、ICチップ付きカードを持たせ職業、年齢、収入から、役所でどんな手続きをして、どこの病院に行ったかまですべて国が一元管理する体制もつくろうとしている。
市政も国政も市民に聞く耳がないのが近年の特徴である。下関で中尾市長が選挙の公約をみな破るのなら、民主党野田政府もまた、消費税増税や普天間移設も選挙公約はみな破棄していく。選挙はないのと同じであり、日本には議会制民主主義はないこと、国民主権などないことを教えている。実態はまぎれもなく独裁国家である。北朝鮮やイランなどをならず者の独裁国家といっているが、人のことをいえるガラではないのだ。
昔は「天皇の命令」が絶対で戦争にいったが、今は「アメリカの命令」が絶対で戦争へ進む。日本の国家は、主権など国民にはなくてアメリカと財界の独裁国家というのが、あるがままの実際である。
オール親米の総与党化 国政より下関が先行
自民党も民主党もダメだが、そのほかの野党もあてにならない。その点では国政より下関市政の方が先行している。下関では連合も公明党も昔から自民党安倍派で、総与党体制を長年続けてきた。「共産党」の看板をかかげる連中も選挙の不正請求をやって開き直る状態で、ドブイタあさりの与党状態。下関市議会は昨年の選挙でやっと、市民の会の本池議員が送り込まれ、風穴があいたが、大勢はオール与党態勢である。国政も下関の後追いでそういう格好になった。オール親米の翼賛政治は、国民の意志を代表する政治がなくなり、戦争動員の重要な特徴である。
再び戦争の道具と化す 教育も報道も
教育は戦争の道具となったことを反省して戦後が始まった。戦前は「お国のため」「天皇のため」といって戦争に駆り立てた。今は「自分のため」で戦争に駆り立てる。アメリカがその手であり、自分のため、カネのために戦争にいく。「子どもの権利」とか「個性重視」などといういい方で助け合い協力しあっていく働く人民の健全な思想が破壊され、極端な自己中心を煽り、人をけ落としてはい上がっていく、人をおとしめて得をしていくといった、ヘッジファンドのような冷酷きわまるものが煽られる。
新聞やテレビはウソばかりやる。東日本大震災や福島原発事故も、学者も政府もメディアもウソばかり。真実などクソくらえで、金持ちのチンドン屋ばかりがはびこる。昔大本営発表、今ペンタゴン発表である。
市民論議に付す重要性 日米同盟との対決
戦争は「今から始めたいが賛成か反対か」などといって始まるのではない。気付いたときには始まっていて、そのときにはがんじがらめでどうにもできないというのが戦前の経験である。
今人が気付くまえに、市民生活の周辺でひそかに確実に、戦争への誘いが進行している。この現実を市民の大論議に付す重要性が増している。戦争体験者は今こそ、かつての忌まわしい体験を若い世代に語ることが重要になっている。若い世代は、社会を担う現役として、地域から職場から、そして全国につなげて、戦争に引きずり込もうとしている日米同盟・安保と対決したたたかいにいどむことが待ったなしの課題となっている。