統一地方選まで1カ月とわずかにまで迫ったが、下関市長選は現職の江島潔氏以外に出馬表明がなく、無投票という異常事態へとすすんでいる。この八年間、江島市政のもとで教育、福祉関連予算は全国に先駆けて削減され、地元経済は衰退の一途をたどってきた。批判は全市的に渦巻いているが、なぜか選挙にならない。選挙という最低の民主主義すらなくなって、まるで専制君主をいただいているかのようになっている。どうしてそうなっているのか、経過をふり返りながら考えてみたい。
浮かんでは消えた候補者 安倍派軸の専制構造
下関市長選をめぐっては1年以上まえから、元山口県副知事、地元経営者、病院経営者など、いく度となく候補者の名前が浮かんでは消えてきた。擁立にかかわってきた1人の60代会社経営者は、「立候補の最終決断になると、“お金がないから”などと引いてしまう。ほんとうの断る理由は、安倍、林事務所の隠然とした圧力がかかっているからと、わたしたちもわかっていた」と語る。
現職批判として対抗馬の擁立をすすめてきたのは、保守系でも非主流の地元経済界といわれる。江島市政が安倍事務所がらみの神戸製鋼所など、大企業にばかり税金をたれ流すことに批判的で、地元経済の活性化を求める声はかつてなく高まっていた。しかし候補者擁立になると金と権力の力に恐れ、最終段階でみんなが二の足を踏んだといわれる。
反自民票も自民票も集めた95年市長選
95年の市長選で再出馬した江島潔氏は、「官僚16年の地方政治を打破し、開かれた市民市政へ」「国民健康保険料の値下げ」「沖合人工島を考えなおす」など公約し、自民党批判をいってみせることで自民批判の票を集めた。ところが江島氏や私設秘書の疋田善丸氏らは、反自民で後援会となっていた「市民連合」を裏切って、自民党・安倍事務所と手を結んだ。江島氏はもともと清和会に弟子入りしたのが政治に絡むスタートで、もともとが安倍派であった。
反自民票をとりこみながら安倍事務所に応援してもらい、両方の票を集めるというマジックで市長のイスについた。確かに選挙は票を多くとった方が勝ちで、それは選挙ゲームという調子である。政治信念があってその支持を得るという普通の日本人が考える考え方とは違うのである。そして市長のイスにつくなり、「人工島を考えなおす」との公約は若気のいたりでしたなどとホゴにして、国民健康保険の県下一値下げも投げ捨てた。反自民で決意して応援した人人は簡単に裏切られた。
安倍・林事務所の連合軍で二期目は圧勝
99年の2期目の市長選では、批判が渦巻くなかで、三つどもえ選挙となったが、7万5000票の圧勝となった。安倍、林事務所の連合軍が票を集めた。安倍事務所絡みの人物が「古賀は自殺した新井代議士と親せきで、北朝鮮から送りこまれた人物で、市長になると税金を祖国に送金する」と選挙妨害の謀略ビラもばらまいた。
連合下関の労働貴族や公明などにも“現ナマ”が打たれたといわれ、終盤戦になるとなだれをうって江島市長支持へと傾いていった。「日共」修正主義集団がまったく動かなかったことも疑念がもたれた。
再選後は業者排除徹底的な報復攻撃
再選された江島市長は、対抗馬をおした建設業者らへ徹底的な報復攻撃をおこなった。前例のない執拗な業者排除である。A建設はこれまで市の指名競争入札に年間約52回参加していたが、99~2000年はゼロ回になった。B建設も40数回参加していたが、完全に排除された。業者排除は入札だけにかぎらず下請、孫請業者にまでおよんだ。市長のもとにはA級戦犯、B級戦犯などとに分類された「戦犯リスト」なるものがつくられ、地元業者のなかには2年以上も入札から排除された例もあった。その異常さは、小学生首切り殺人の神戸事件、池田小の児童殺人事件などを思い起こすような印象を与えている。
当の対抗馬となった亀田氏は日韓高速船絡みで「日共」田川弁護士によって数億円の個人負担を背負わされて青息吐息となり、古賀氏は日東建設がまったくさびれてしまう羽目となっている。対抗者がつぶれるまでの凄惨なる攻撃はいままでないものだと語られる。
警察も選挙潰すために動く
さらに多くの人のあいだで語られているのは、下関署が選挙違反をとりしまるどころか、選挙つぶしにいっしょになってかかわっていることである。対抗馬のある後援者は、選挙事務所から自宅まで下関署のパトカーから尾行された経験がある。自宅に入ったところで刑事がチャイムを鳴らすので戸をあけると、「お酒を飲んでいませんか。なにか出ませんでしたか」と尋問まがいの質問をされたという。選挙事務所前にはパトカーがはりつき、出てくる人人に逐一いやがらせの「飲酒検査」をおこない、人が気持ち悪がって寄りつかないように仕むけたりした。
「下関の市長選をたたかっているのに、安倍事務所から警察、革新政党まで全部を敵に回したような選挙戦で、とほうもない闇世界を相手にしているようだった」と、ある選挙参謀はふり返る。倒産するかどうかの瀬戸際においつめられた地元業者らは、安倍事務所に「もう二度と反旗はひるがえさない」と誓いをたてて、やっと市の公共事業に入れるようになったという。
談合情報がいくら出ても調べようともしない下関署に疑問が強まっている。安倍事務所は清和会の警察官僚と関係して山口県警の人事にまで影響力をもつといわれており、それに逆らえば警察が動くというのが常識と語られている。商業マスコミも江島、安倍絡みとなると、黙して語らずで買われていると評価されている。
江島市長が大型公共事業でもっとも手厚くしたのが、安倍晋三代議士の出身の神戸製鋼所である。奥山工場ゴミ焼却炉、リサイクルプラザ建設と約170億円を一括発注している。さらに毎年50億円をつぎこんでいる下関沖合人工島事業である。これらの利権にありつけるのは安倍事務所絡みの建設業だけでしめられている。
市財政はパンク寸前であり、借金を雪だるま式にふくらましている。2003年度末までに1906億円にのぼり、市民は老人から赤ちゃんまで1人当り約76万円の借金を背負っていることになる。不況で財源がふえる見込みのないにもかかわらず、不要不急の大型公共事業を強行するために市債を乱発したからである。
地方切り捨ての先端国政に売り込み図る
江島市長の政治は、グローバル化・地方切り捨ての国政の先端を行って、市民が苦しむことが国政に売り込む自慢になっているという特徴を持っている。
今年度の下関市予算では、学生が納める金すらも大学に使わせずに、市がピンハネするという全国の公立大学でも例がない事態となった。授業料、入学料など学生から徴収する収入が13億2000万円であるのにたいして支出は12億9000万円と、3000万円がぬきとられていることになる。
そのうえに、市大があることで国から入ってくる地方交付税をまきあげている。下関市の市大があることで下りる地方交付税は、2000年度で3億2100万円、1999年度で2億9000万円、1998年度で2億3000万円と、この10年間で少なくとも25億円にのぼるが、これもすべて土建事業につぎこんでいる。こうした事情は市立の小・中学校も同じで、子どもの図書費、行事費、修繕費といったものすべてが削減の対象とされている。
介護保険料は基準額で3980円(24%アップ)と、県下14市で最高額に上げられた。6月からは一般ゴミも有料化となり、北九州市など周辺自治体と比べても数倍高い指定袋を押しつけられる。また施設の公共料金、使用料は上げられている。
アメリカ方式の「民主主義」
関係者のあいだで怒りが語られているのは、江島市長が中央では教育、福祉費削減を自慢のタネとしていることである。「日本国民はいままであまりにも恩恵を受けすぎた。時代の流れはアメリカンスタンダード。自己責任、自己管理能力がないものは、生きる資格はない」と、社会的弱者を冷淡に切り捨てられる感覚を自慢としているのである。
また地元業者泣かせの電子入札の導入も小泉首相の横須賀市についで実施。国が個人情報を一元的に管理するために、国民総背番号制の住基ネットをおこなえば、全国に先駆けて下関みらいカードをつくり個人情報収集をおこなう。健康状況、思想、財産など、徴兵制度や納税システムづくりのために、市民情報を利用しようというものである。
また市長としては異例の海外旅行をやり、まるで外務大臣のようなふるまいをしてきた。「韓国」、中国などで日本の教科書問題の批判などが起きると、内政干渉だなどと毒づいたりして、排外主義外交の先端を走る。各都市は嫌がるなかで、米掃海艦が来れば全国でも異例の歓迎式典までやって米軍艦長ごときにこびをうり、商港を米軍や自衛隊の軍港にすることを歓迎する。
そして下関には市議会というものがあるが、議会各派は年収1000万円の報酬とプラスアルファーに充足して、まるで去勢された猫のようになってまったく批判力がなく、市議会はどこにあるのかわからない。
選挙は安倍、林事務所連合で守られ、連合や「革新系」も抱き込み、警察の応援する態勢をとり、対抗者への報復を徹底して押さえこみ、専制君主のような地位を得る。政治は市民に嫌われる国政の方向をよそより先んじて実施し、小泉政府からの点数を上げる、というよりアメリカ人脈に認められることには心からの喜びを感じる、その方向の国政のおべんちゃらをすることで、また市長のポストを安泰にしてもらうという構造となっている。
ブッシュは選挙ではなく裁判所が選んだ大統領であるが、それが日本占領方式でイラクや中東でその地域の人人の意志を無視した「民主化」をやるのだとおかしなことをいっている。安倍事務所に守られた江島市長の「民主主義」はこのアメリカ方式にほかならない。
全市的な大論議を郷土の発展の為
こうして、市民の要求などどこ吹く風の市長ができてきた。下関経済は、観光施設ばかりができて、造船、鉄工、水産などの伝統的な力のある産業は時代遅れとばかりに片隅に追いやられる。商港も平和貿易を切り捨てて、軍港を歓迎する方向をすすむ。建設業などはダンピング競争を強いられた上に、市内業者の排除をすすめる。地方経済を守って、卒業生徒の就職を保障するという気はない。アメリカのグローバリズムが絶対の真理で、自助努力、受益者負担が当然であり、弱いものがつぶれるのは当然のことだというわけである。郷土愛とか、地方経済を守るとか、信義とか人情とかいうのは悪しき日本の時代遅れというのである。
そして郷土の歴史もまたなんの価値もない。近代建築物として貴重な第一別館も放置したままである。下関の全国にない誇りである高杉晋作が眠る東行庵の記念館をつぶすことになんのためらいもない。あのとき、欧米資本主義国に従属しておけば時代遅れにならずによかったのだ、というのであろう。
この江島市長が今回無投票で再選となれば、この4年と比較にならぬほど横暴をきわめることが予想される。また下関の江島市長方式が全国の各都市に広がったのでは、全国は大迷惑になる。さしあたり豊浦郡四町との合併をすれば、豊浦郡への大迷惑となることは疑いない。
このような状況のなかで、決定的な問題は江島市政の性質、というより安倍事務所の支配、わずかな補助金でなれ合っている林事務所の専制支配について全市民的な論議を起こし、全市民的な運動を強めることが決定的に重要である。いかなる権力をふるうものも団結した市民以上の力はない。全市民的な論議を広げ、全市に結びつけて大論議を起こし、このようなインチキ政治をあばきたてなければならない。統一地方選はそのような力を大結集して、郷土のまともな発展の道筋を見いだすものにしなければならない。