いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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軍事都市化狙う意図的疲弊  戦争政治の「先進地」下関

 記者座談会
 
 人口減少、少子高齢化、市民生活の貧困化など、安倍晋三自民党総裁や林芳正総裁候補のお膝元である下関では、地域経済の衰退や産業崩壊が著しくあらわれている。大企業の撤退や切り捨てられた中小企業の苦境、商店街の深刻な寂れ方など全国共通の問題もあるが、この10~20年来、なぜこれほどまでに街が寂れ、市民が生活できない状況に至ったのか、そして下関は今後どうなっていくのか、政治や行政の在り方、国政ともつなげて考え、現状を打開する最大の力を持っている市民運動の方向性について、記者座談会で論議した。
 
 産業の衰退や空洞化が加速

 A もうすぐ師走だが、はじめに市内の状況から出し合ってみたい。
  リーマン・ショックからの四年はとりわけ経済的な困難が商業面でも労働面でもひどい状況になっている。それ以前から産業の衰退や空洞化、人口流出、少子高齢化がひどかったが、スピードが加速している。最近、廃屋街になっている笹山町の解体民家から人骨が発見されて騒ぎになっているが、全体としてゴーストタウン化が進んでいるような印象だ。
  老人たちの生活の厳しさがどこでも話題になる。年金支給額によって格差もひどいが、4万~5万円の年金生活者などはやっていけない。彦島のあるお婆さんと話していると、平成11年に少し年金が上がったものの、この2~3年前から「物価が下がった」とかさまざまな理由で8000円くらい下がったといっていた。「かりに病気になったら生活は破綻するし、老人ホームに入るような身になったらどうしよう…」と不安を抱いていた。ニュースで放送されるギリシャのゼネストやデモを見て、「国会が近かったら私もデモに参加したいくらい」と思いを語っていた。6月に東京で「原発再稼働反対」の首相官邸前デモがやられ、20万人が国会をとり囲んだが、そのお婆さんだけでなく、直接行動に訴える機運が充満しているのを感じる。
  老人の生活保護受給者が増えている。年金よりも生活保護を受けたほうがはるかに楽になる。しかし辛抱して国の世話にはなるまい、迷惑をかけてはいけないと踏ん張っている人が圧倒的だ。毎月4万~5万円の年金であれば、家賃を払って光熱費を払って、食費がわずかしか残らない。不動産業者に聞くと、3万円だった家賃を1万円まで下げてあげたり、実質的に宿を提供しているような独居老人が増えているという。追い出すのも忍びないという人情で、なんとかアパートで暮らす老人たちの生活が成り立っている。
 ショッピングモールに行くと平日の閑散とした店内に年寄りだけは集まってきている。買い物をするわけではなく、光熱費がもったいないから家を出てきて、涼んだり、温まったり、談笑して輪ができている。病院のハシゴも最近では年金が減って難しい。水道代も値上げされたし、ガス代も上がるばかりだ。
  病院に行かないのは年寄りだけじゃない。診療所や総合病院の医者たちのなかでも現役世代の受診患者が減り続けていることが問題にされている。3割負担が直接の引き金を引いたが、この不況が追い討ちをかけていると。知り合いの50代のタクシー運転手がバイク事故で膝をパックリ切って大けがしていたが、「病院に行けば五針くらい縫わないといけないから…」といって自力で消毒しながら辛抱していた。社会保険には入っているけど、3割の窓口負担が払えないし、家計に余裕がないからだ。タクシー会社も下手に休めない。そうやってけがで大変だった矢先に、役所からは老朽化した自宅の固定資産税を払えといって給料差押えの通知が届いていた。
  景気が全体として冷え込んでいるから、商店や飲食店の経営難もすごい。唐戸地域では9月末で10店舗近くが閉店していった。この年末から来年はもっと厳しい状況になると語られている。豊前田の飲み屋でも「来年は危ない」と真顔で語られている。飲食店組合のカネを持ち逃げして姿をくらました経営者がいたり、それこそ中尾市長の選対を取り仕切っていた人物もふぐ連盟のカネを使い込んでクビになった後、豊前田にバーを出していたが、そっちも家賃を踏み倒して姿をくらましたと話題になっている。
  飲み屋街に酒を卸している酒店では「代金が回収できない店が増えている」と集金担当のお兄ちゃんたちが困っていた。魚市場の仲買のなかでも同じようなことが語られている。取引先が代金を滞納して払えなかったり、ひどいのになると踏み倒して夜逃げとかのケースがあとを絶たない。豊前田で威勢がいいのは公務員と教師、議員、マスコミ関係者くらいで、夜に遊び回っているような層は減っている。「とくに若い子の姿が減った。カネがないんだろう」とタクシー運転手は話していた。代行タクシーで深夜まで働いている人たちは、昼間の仕事と掛け持ちの現役世代が多い。寝る間を惜しんで女房子どもを養うために父ちゃんが稼いでいる。
  
 産業政策ない市政 箱物に加えイズミが乱出店 草刈場と化す

  産業政策がまるで機能していないのが特徴だ。この緊急事態に対して行政が有効な手立てを講じようとしない。ルネサスやNECの大量解雇で揺れている山陽小野田では部長クラスが市内企業を総出で巡回して、頭を下げて求人の依頼をしている。市内の実態について部長たちも肌身に触れてピリッと緊張が走っている。隣の行政と比較しても下関はそんな必死さが乏しいと思う。中尾市長が山口銀行あたりに頭を下げに行って「協力してください」とパフォーマンスしているが、ズレている。あそこに融資を引き上げられたり、整理した後に捨てられた企業がどれほど多いか。
  昔のように失対事業で緊急的な雇用を創出して公園整備をするとか、郡部の耕作放棄地に手をいれるとか、里山を整備するとかできることはある。しかし国の予算待ちで、せっかく予算化された「緊急雇用」も一過性で終わる。市の嘱託を増やして落選市議を潜り込ませたり恣意的な使い方もされて、みんなに行き渡らない。生活保護費が年間80億円もあるなら、働ける人は働くことによって稼ぐようにした方が、精神的にも良いことは歴然としている。東北の被災地でも生産者が強調していた。そのための産業施策が機能しなければならない。しかしなにもやらないか、効果のないことばかりにカネをかけるから悪化する。
  地場産業が衰退しようが興味がないし、市議会で一般質問をされてもせせら笑っている。あの感覚がなんなのかも問題にしないわけにいかない。イズミ(広島市)の乱出店が象徴しているが、江島市政の時代から市外県外企業を引っ張ってきては地元排除をやり、郊外には大型店を誘致して中小企業も商店もやっていけなくなった。大型店では長府のゆめタウン、川中・伊倉のゆめシティに続いて、新椋野にもイズミが進出してくる。下関駅の名店街も地元商店を追い出してイズミの食品スーパーを誘致することになった。30万人の商圏をイズミが独占する格好だ。
 しかし購買力が落ちているから市民がモノを買わない。ゆめシティでも店舗がすぐに撤退して次次と入れ替わる。ショッピングモールの必要性から作っているのではなくて、あれは不動産業になっている。金融機関にそそのかされたマンション業者が次次とマンションを建てて、最終的に資金繰りが破綻するのとも似ていて、需要と供給のバランスから起こっている動きではない。だからみんなが異常さを感じている。
 E 大型店ラッシュで小売店がなくなるから豆腐屋が困ってつぶれたり、水産市場でも仲買が廃業したりしている。新たな取引先を求めて大手スーパーに納めても薄利多売でやっていけない。彦島には肉屋が15軒あったのが今では3軒まで減った。イズミの「ゆめ○○」ばかり増えているが、どこに夢があるのか? と話題になっている。県外資本の上陸はイズミだけではない、駅前開発でもJR西日本(本社大阪)がゴッソリもうけていく仕組みで、市役所のまともな職員はみんな腹を立てている。「強欲にも程がある」と。復興予算がゼネコンや大手企業の不況対策予算になっているのと同じで、もうける側は遠慮なく公共投資に食らいついている。
  社会教育複合施設は森喜朗の故郷・石川県で倒産寸前だった真柄建設を政治家絡みで引っ張ってきて仕事をあてがった。指定管理導入といって民間開放した市民球場にはスポーツメーカーのミズノが参入してきて、最近ではこの春から指定管理に移行する陸上競技場、体育館と3点セットで受注しようと動き回っている。政治家絡みの引きずり引っ張りの世界がこじれて、体育協会でも揉めごとに発展している。公共施設の運営利権争奪戦だ。深坂の森や吉見フィッシングパークも指定管理で大阪や東京の業者が入ってきた。社会教育複合施設の運営企業も広島の合人社だ。
 A 広島から企業がきて下関を草刈り場にしていく動きは、山口銀行がもみじ銀行と組んでから拍車がかかっている。ハコモノがおさまらないのも指定銀行として行政資金を引き受けている金融機関が、大不況だからこそ公共投資にしがみついている関係がある。市政の流れが市民生活の崩壊に無頓着で、やっていることは巨額箱物と市街地の不動産利権、人工島や周囲のインフラ整備など、軍事都市化だ。
  人口減少や少子高齢化、貧困化は、人口20万人以上の都市ランキングを見ても、ワースト10のなかで呉、佐世保、長崎、旭川、横須賀といった軍港や自衛隊駐屯地が上位を占めている。下関もすべてにワースト10入りしている。意図的な地域破壊がやられていると見なさなければ、現状の下関の衰退ぶりは説明がつかない。
 
 響灘の要塞化進行 抵抗する市民いない地域ほど好都合 米軍も重視

  人工島が軍港島にされるという危機感は市民のなかでも強いものになっている。オスプレイが岩国に配備された途端に下関の市街地上空を飛んでいったが、天皇の下関視察でもヘリ空母を接岸させ、全国から3000人態勢の警察が送り込まれ、戦争がきたような騒ぎをやっていく。米軍が中国・朝鮮有事に備えた重要港湾として下関を指定していたことが年初めに発覚したが、米軍艦船が何度も下関港に入港してきたし、その都度使い勝手を調査していた。軍事都市化への傾斜も目立っている。
  マリコン(海上土木業者)大手OBで原発建設などにもかかわったことがある男性が、「90年代から下関港は軍事的に目をつけられていた。私らの業界ではみんな知っていること。当時からピックアップされていたのが下関と新潟」と話していた。
  有事法ではことあらば人の動きや公共施設、民間企業の経済活動に至るまでが軍事的な動きに縛られて戦争動員されることになっている。邪魔になるモノが排除されたり、私権が制限され、ある種の無法状態というか軍優先状態になる。下関でも六連島実働訓練がやられたり、港湾でのテロ訓練が全国のどこよりも多く実施されてきた。軍事都市なら市民がいない抵抗力の乏しい疲弊した街が最適だ、というのが為政者から見た都合だ。
 沖縄も全国一の貧乏県。岩国も山口県内では下関と互角の貧困都市だ。行財政が破綻したところで原発のように予算をちらつかせて軍事的要求を飲ませていくというのが沖縄でも岩国でもパターン化している。愛宕山も借金まみれになるのがわかっていて、今になって米軍住宅にするといっている。「米軍再編に協力しなければ市庁舎予算を出さない」とやったのが当時の安倍政府だった。下関の沖合人工島も750億円かけて使い道がなく、似たような状況になりかねない。オスプレイが出撃する際に、佐世保に配備されたボノム・リシャール(オスプレイ12機搭載する専用の強襲揚陸艦)が関門海峡まで迎えに来て、積んでいくといったことは十分考えられる。最前線基地だ。
 E 箱物をバカみたいにやりながら、市財政は窮乏の一途をたどっている。市役所職員でも「財政が破綻するのはわかりきっているのに、どうしてこれほど箱物をやるのか」と戸惑っている人が少なくない。しかし下関の軍事都市化への予算が、人工島やその周囲の巨大な道路群へは国主導で遠慮なく注ぎ込まれていく。まるで響灘の要塞化だ。以前、安倍派市議で「核シェルターをつくれ!」と真顔で一般質問しているのがいたが、さんざん地域経済を食いつぶしておいて、今度は軍事利権、防衛省利権という投機的な流れだ。「人工島も防衛省に売り払えばいいじゃないか」といってはばからない。
  サンデンが岩国基地の軍民共用化で業務を請け負ったり、林芳正元防衛相が石破元防衛相や民主党の前原誠司のようなのと並んで軍需産業に可愛がられている。そしてもっとも好戦的なのが安倍晋三・自民党総裁だ。
 A 下関は安倍支配の街だというのはだれも疑わない。どうして下関がこれほど疲弊してしまったのか、どうなろうとしているのかは、国政の動きと切り離れたところで考えても答えは出てこない。対中国、対朝鮮戦争に向けた要塞都市にする意図が上から意識的に働いている。安倍後援会が櫻井よしこや山谷えり子、田母神といった面面を下関に連れてきて講演会をやったり、よそと比べても右傾化のあらわれは先をいっている。飛び上がっているのが「日共」集団で、「尖閣は日本固有の領土です」と街宣車で叫んで回っている。
  「右翼の街宣車かと思った」と市民も驚いている。
 
 米中の緊張も激化 「貧乏になり戦争」と同じ様相 懲罰化も露骨

  米国でサブプライムローンが破綻してリーマン・ショックになり、その後は米国も欧州も中央銀行が金融緩和でジャブジャブとお札を刷り散らかして、かつがつ金融機関がつぶれずにすんでいる。過剰生産をなんとか海外市場で打開しようと通貨安競争もひどいことになっている。それでTPPという中国封じ込めのブロック経済政策にアメリカは舵を切っている。「中国を以前のような貧乏国家にしてやる」とヒラリーが主張したり、米中の緊張も激化している。大恐慌になり、通貨安競争が起き、ブロック化が台頭し、戦争に突っ込んでいったのが、半世紀以上前の第2次世界大戦だった。「みんなが貧乏になって戦争になっていった」のと同じ流れになっている。
 尖閣問題はその過程で急浮上した。米国ネオコン勢力のシンクタンクに行った石原慎太郎が入れ知恵されて「購入」を表明し、軍事衝突すら起きかねない勢いで日中の緊張が高まっている。米国本土防衛の盾になって日本全土が対中戦争の戦火に巻き込まれかねない。そういう情勢だ。
  下関では近年懲罰化もすごい。タバコもとりしまりを強化。駐車違反もしかり。市税を滞納したら即差押え、文句をいったら警察が逮捕。市民はいつも悪いことをしている犯罪者予備軍であり、懲罰をあたりまえと思えという風潮が押し寄せている。うかつにものがいえない空気はまさに戦前の様相だ。街中を歩けば監視カメラが設置され、道路を走ればNシステムでナンバーがチェックされ、いつも警察にマークされた状態。国民総背番号制(現在はマイナンバー)といって、一人一人に番号をつけて、ICチップ付きカードを持たせ、職業、年齢、収入から、役所でどんな手続きをして、どこの病院に行ったかまですべて国が一元管理する体制もつくろうとしている。
 C それで市政も国政も聞く耳がない。国民生活の放り投げ。心配するつもりもなければ、その能力もない。下関で中尾市長が選挙の公約をみな破れば、民主党野田政府も消費税増税や普天間移設も選挙公約はみな破棄していく。選挙はないのと同じで、日本には議会制民主主義や国民主権などないことを教えている。さながら下関は「独裁国家」の先進地のようだ。市議会には市民の会の本池議員が送り込まれ、風穴があいたが、大勢はオール与党態勢。
 A 国政もオール親米の翼賛政治だが、国民の意志を代表する政治がなくなった戦争動員の重要な特徴だ。戦争は「今から始めたいが賛成か反対か」などといって始まるのではない。気付いたときには始まっていて、そのときにはがんじがらめでどうにもできないというのが戦前の経験だ。
 今人が気付くまえに、市民生活の周辺でひそかに確実に、戦争への誘いが進行している。この現実を市民の大論議にしていく重要性が増している。戦争体験者は今こそ、かつての忌まわしい体験を若い世代に語ることが重要になっている。若い世代は、社会を担う現役として、地域から職場から、そして全国につなげて、戦争に引きずり込もうとしている日米同盟・安保と対決したたたかいにいどむことが待ったなしの課題となっている。貧困政治と戦争政治はセットで、これに対して全市民的な世論と運動を盛り上げていくこと、市長選もあるが、そのような政治構造を根本からひっくり返していく運動を強めていくことが求められている。

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