総選挙が近づくなかで、年金の減額や「前期高齢者」の医療費負担を1割から2割にすることなど、高齢者の生活を直撃する内容が次次に決まろうとしており、下関市内でも高齢者が集まると、「年金は少なくなって、介護保険料も健康保険料も税金も、なにもかも上がって、いったい年寄りをなんと思っているのか」と話題になっている。商店主や地域のなかでもここ数年で高齢者の生活の貧困化が急速に進行していることが問題にされており、高齢者から搾れるだけ搾る一方で、医療や介護を切り捨てていくことに、底深い怒りが語られている。
買い物も以前と違う節約の光景
下関市内の八百屋の店頭で、年配の婦人たち数人が、小さなサツマイモ10個入り150円の袋を手にして「これをおやつにするとちょうどいい」と語り合っていた。一袋全部は食べきれないから、何人かで分け合うという。80代の一人は、この店が安いから、リュックサックを背負い歩いて買い物に来る。息子も市内にいるが、小さな会社に勤めていて「今度はボーナスもないかもしれない」といっていたと話し、「私も国民年金だし、子どももあてにはできない。年に1回くらいは具合が悪くなって救急車で運ばれるが、点滴して日帰りするときには10割払わないといけない。そのための1万数千円というお金がないという思いをしたこともある。金がなければ病院にもかかれない」といった。
婦人たちは、「もうすぐ総選挙があるが、テレビを見ていたら安倍さんが野田総理に何回も“ほんとにほんとでしょうね”といっていた。国民のためにいっているのではなくて自分たちのためにいっている」「国会議員や市長などは何十円の野菜を買うためにここまで歩いて来る人の気持ちなんか、なにもわかってはいない。どこの党が政権をとろうと同じだ。この世の中はどうなるのだろうか」と話し合っていた。
八百屋の店主は、最近高齢者の節約ぶりが以前とは違うと話す。キュウリは4本150円だがそれを2本だけ買いたいとか、半分で150円のカボチャをさらに他の人と半分に分けて買っていく高齢者もいる。持って帰るのが重たいからだけではなく、「本当にいる物しか買わない。以前は年金月のときだけは高齢者の買い物客が増えていたが、今は年金日の15日が来ても客が増えない。こんな状況は前はなかった」と話していた。
婦人用の高級服を販売してきた衣料品店の店主も、「これまでは季節の変わり目に1枚、1枚と買ってもらっていたが、最近は“高いのは買えないのよ”“これからどうなるか不安”といわれる」と話す。客の多くが70代前後の高齢者。店頭に1500円、2100円という衣類を出すと、「それだったら」と買う人がいるが、「年金生活者は今まで通りの買い物はしない。もっと手の出る価格の安い物をそろえていかないと、店の存亡にかかわってくる」といった。
下関市内ではここ1、2年で尋常でないほど消費が落ち込んでおり、商店の閉店も後を絶たないが、若い世代の失業とともに高齢者が買い物をしなくなったことが、どの店でも共通して語られている。「年金が減らされるなかで、介護費用や医療費などで出費は多くなっていく。最近は子どもたちもいつ首になるかわからないような状況で、年寄りの面倒を見るどころではないから、高齢者がぎりぎりに切り詰めた生活をしている」といわれる。
認知症でも施設入れず 厳しさ増す老老介護
下関市内では人口約28万人のうち65歳以上の高齢者が約8万人と、高齢化率は30%に迫っているが、生活保護を申請する高齢者も増え続けており、全保護世帯の半数以上を占めている。また若い世代が市外に流出するなかで、1人暮らしの高齢者(65歳以上)は1万4099人、75歳以上の2人暮らしは4394世帯と増加を続け、老老介護や孤独死は深刻な社会問題となっている。
認知症の妻を20年近く介護している70代の男性は、「毎回引かれる額が違うので、受け取るときに初めて引かれものがどれだけあるかわかる。30年も40年も働いてかけてきた年金がいざもらうときになるとどんどん減らされる。今でもぎりぎりの生活費なのに、消費税が10%になったら生活できない」と憤りを語る。
男性の年金は2カ月で15万円ほどあるが、10月分をみるとそこから、介護保険が1万1780円、後期高齢者医療保険が1万7266円、所得税が3700円引かれていた。妻の年金12万円と合わせて24万円(1カ月12万円)での生活。そこから光熱水道費で2万円、妻のデイサービスやショートステイで月に約3万5000円、おむつやゴミ袋代もかなりの額になる。自分の病院代も月に4000円は必ずかかる。「娘が母子家庭で、夜8時過ぎまで仕事をしているので、平日は娘と小学生の孫の食事もつくっている。2、3日に1回買い物に行って、2000円以内に納めようと思うけど、男だからなかなか切り詰めるのが難しくて、どうしても2500円から3000円になってしまう」と話した。妻を施設に入れようと思うが、300人待ちでなかなか入れない。「親父の代から自民党に入れてきたが、消費税増税を三党が野合して決めた。もう選挙に行っても仕方がないと思っている」と怒りを語っていた。
1人暮らしの70代の婦人は、主人の年金の半額を受け取って生活しているが、6万~7万円しかないので、以前勤めていた会社から声がかかったときには時給600円で草刈りの手伝いに行く。だがそれでも足りないため総菜屋で朝5時半から8時半まで働いている。「足も悪いし、夏の暑さと朝晩の寒さの変化で、咳が出て治らないから医療費もいる。今まで力仕事をしてきたが、体が弱ってもう働けないのではないかと不安になる。今でも年金だけでは生活していけないのに、これから消費税とかどんどん払うものが増えてくると余裕がない」と語っていた。
国民年金で1人暮らしをしている80代の婦人も、介護保険料や後期高齢者医療保険料などを引かれると手取りは5万円ほどしかなく、家賃や光熱費などを払ったら手元に食費は残らないため、貯金を取り崩しながら生活している実情を語り、「貯金も底をつき始めた。80代といっても自分が死にたいときに死ねるわけではなく、後何年生きるかもわからない。それまでどうやって生活しようかと考えてしまう」と話す。国民年金で入れる施設もなく、近所の高齢者が集まると「年金を放棄して生活保護を受けようか」と話になるという。
「隣は奥さんが倒れてから60代の息子が関西から帰ってきたものの職がなく、年金をかけていなかったようで収入もない。国の方は、今からは家族がいたら在宅でないといけないといっているが、子どもたちも自分の生活で精一杯。そこに年寄りを抱えたら、家族みんなが大変になる。私たちも姥捨て山に連れて行かれるのは嫌だけど、子どもたちにそんな思いはさせたくない。総選挙で安倍さんが張り切っているが、あまりにも生活実感とかけ離れている。テレビで“国民、国民”というが、年寄りを守るでもなく、若い人を支えるでもない。あの人たちのいう“国民”とはいったいだれのことなのだろうか」と深い怒りを込めて話していた。