下関市長選と市議補選が10日に投開票を迎え、市長は現職の中尾友昭、市議は鬼頭薫が当選した。候補者たちの顔を見比べながら「選びようがない…」と話題になっていた今回の選挙戦は、かつてなく有権者がシラケたなかでおこなわれ、投票率は過去最低の42・04%となった。前回選挙(53・47%)より11・43ポイントも落ち込む異常さで、およそ6割の有権者が中尾、西本および市議補選候補者たちを選択肢として見なさなかったことをあらわした。まれにみる“低レベル選挙”だと期間中から指摘されてきたものの、これほどひどい有権者離れも珍しく、実質的には無効選挙と認定すべき厳しい結果を突きつけた。
前代未聞の低投票率 6割が棄権
当日有権者数は22万9011人で、そのうち投票者数9万6269票に対して、棄権者数が13万2742人と大幅に上回るものとなった。無効票も1226票あった。
中尾友昭の得票は5万5383票で、三つ巴だった前回選挙の6万3000票から大幅に減らした。今回は安倍事務所からも林事務所からもお墨付きをもらい、市議会の保守系会派を筆頭に、宗教票1万8000票を持つ公明党・創価学会、労働組合の連合、民主党にいたるまで応援を受け、土建業者をフル動員して選挙戦を展開したのが特徴だった。ところが前回よりも盤石な組織票、いわば敵陣営の票だったものを大量にとり込んだにもかかわらず、市民票がドッサリと逃げていき、有権者からの支持率は24%という散散な結果に終わった。「前回よりも多い得票を!」と叫んでいたが、公約を破棄し続けた四年間に厳しい審判が下された。
一方で安倍派若手の西本健治郎の得票は3万9656票で、こちらは予想以上の伸びを見せた。安倍派若手でつくる市議会会派・Team政策が飛び跳ねていることに対して、この選挙で万が一市長ポストを得たなら、次の市長選で出馬機会を失うか、あるいは面目丸つぶれとなる先輩市議や県議たちは冷ややかな対応に終始し、自民党内や企業関係を見てもオール安倍派の応援はなかった。むしろ所属派内の大勢は「代議士が国政に専念している最中に、地元で林派ともめ事を起こすな」というもので、中尾応援か静観という対応が大半を占めた。そのなかで、「中尾だけは続投させたくない」という強烈な批判票が、選択肢がない以上「だれでもいいから西本」となり、泡沫と見られていた陣営に雪崩を打つ珍現象となった。
前回の市長選では、4期14年にわたって安倍代理市政を実行してきた江島前市長が引きずり下ろされ、自民党安倍派が総力戦態勢をとった友田氏が無惨に落選するなど、安倍派の落日を象徴する出来事が起きた。安倍代理市政および江島打倒の原動力となった市民の力が、さもしい林派として登場した中尾友昭の胡散臭さを認識しつつ、まずは安倍代理市政を断ち切ることを第一義にして投票したものだった。
ところが、選挙後は唯一のとり柄だった公約を立て続けに投げ捨てていく行動をとり、「建て替えない」と叫んでいた新庁舎は建設までこぎつけ、満珠荘は老人休養ホームではなく観光施設にする江島市政の計画を丸ごと引き継ぐなど、有権者を愚弄しながら安倍事務所、林事務所、さらに山口銀行、オール翼賛化した下関の政治構造の代理人として正体をあらわしていった。大型箱物や開発趣味は江島市政の上をいくものとなり、来年度予算は投資的経費の異様なる伸びを反映して過去最高額になることが必至。一方で差押えや税金とり立てが気狂いじみたものになり、公約裏切りと合わせて有権者の怒りを買った。
人をだまして市長ポストを得た者への批判世論は強く、四年たった今日では江島打倒に向かった有権者の怒りがすっかり中尾批判となって充満しきっていた。しかし対抗馬として出てきたのが安倍派若手・西本で、しかも主張の違いは市役所現庁舎を崩すか否か程度だった。魅力に欠ける似た者同士の小物が競り合っているようにしか見られず、圧倒的な有権者は幻滅して投票所に行く気すら失せるものになった。
当選後、中尾市長はひきつった表情を見せていたが、勝ったといって喜べるような代物ではなく、「相手が西本だから勝てたのだ」というのが大方の評価となっている。というより、まともな候補者を選定、擁立するところからやり替えろ! の声が高まるのは必至の情勢となっている。選管が無効選挙と認定して、やり直しさせても市民はだれも文句などいわない。前代未聞の低投票率は「二人とも市長のタマではない」と有権者が見なしたことをあらわした。
アベノミクス発祥の地・下関で、今後は新庁舎、総合支所、新博物館建設、駅前開発など、借金バブルの大型箱物事業がピークを迎えていく。このなかでまずは市長が市民から泡沫扱いをされる結果となった。泡沫候補に追い上げられる泡沫現職という、見たこともないような低レベルな選挙戦を有権者は見せつけられた。安倍・林代理市政の人材枯渇状況を象徴していると同時に、いまや欺瞞が効かず、安倍・林独裁の支配構造が弱体化していることを示す結果となった。江島前市長が打倒された後に咲いたあだ花は、賞味期限を迎えている。
市議選も無効投票数が1万1847票にも及び、選びようがない選挙だったことを示した。連合や民主党が推した候補や、市議会保守系会派の志誠会が全力応援した候補が伸び悩むなかで、新人、女性、無所属市民派を強調していた鬼頭薫が2万5000票を集めた。