下関の街が急速に衰退し、深刻な貧困状態が広がっていることへの危機感が、市内の各所で語られている。身の回りで失業や企業倒産、夜逃げ、保険金をあてにした自殺、払う金がどこにもないのに行政から市県民税や固定資産税の滞納を責め立てられて破産状態に追い込まれたり、言葉を失うような悲劇や生活の困難を耳にしない日がない。「アベノミクス」で有頂天になっている者が政治の上層部に巣くい、行政を迂回して箱物天国のような大散財が繰り広げられている一方で、市民生活は急激に冷え込んでいる実態が浮き彫りになっている。下関は以前から人口減少率や少子高齢化率、生活保護率などの数値が全国の自治体と比較してもトップ10入りするほど抜きん出た衰退都市、貧困都市として知られてきた。首相のお膝元で、日本社会の将来を暗示するような深刻な状態が広がっている。
わざと疲弊させ軍事都市化
今月8日、市役所から近い上田中町の民家で、60代の男性が餓死しかかった状態で発見され、救急車やパトカーが出動して周囲は騒然とした雰囲気に包まれた。
30年近くこの地域で暮らし、言葉は少ないものの堅実に日雇いの土方作業に出て働いていたこと、雨が降ったら仕事がなく自宅にいたことなど、住民たちは昔から付き合いのあった男性の印象を語る。何年か前に同居していた母親が亡くなり、最近は仕事がなかったのか周囲ともあまり接触を持とうとせず家にこもっており、地デジ移行を機にテレビの音も聞こえなくなり、そのうち夜になっても電灯がつかなくなって「入院したのだろうか?」と心配されていた。男性の家には電話も引かれていなかった。
発見される3~4日前になって、隣人がかすかなうめき声に気づき、自治会役員に相談に行ったところ、警察に連絡が行き、みなで表の玄関を叩いても反応がないことから裏扉に回り、室内に男性が横たわっていたのが発見された。既に肌は変色して60代とは思えないほど衰弱した状態に変わり果てていた。救急車に運ばれる際、「保険証はありますか?」と尋ねられたのに対して、男性は首を横に振るのが精一杯だった。
その後、搬送先の病院で一時間ほどして亡くなったことが住民たちに伝えられ、「なぜ気づけなかったか…」と悔やまれていた。自治会長が発見直後から生活保護の申請に動くなど、どうにかして男性を支えたいと走り回っていたが、周囲の思いも虚しく息を引き取ることとなった。自治会費も払えない状態が続き、生活がままならなかったことをうかがわせた。
収入僅かで栄養失調に 旧市内の関係者語る
11日には丸山町でも74歳の高齢婦人が孤独死していたのが発見された。この日昼過ぎに救急車とパトカーが駆けつけ、救急隊や関係者が室内に入ったものの、既に死後数カ月は経っているであろう変色した亡骸になっていたといわれている。喉頭ガンを患って7月に入院し、その後退院して自宅療養していたが、再検査を予定していた今月6日になっても病院にあらわれず、連絡すら取れないことから、病院が市役所に連絡し、そこから民生委員に話が伝わり、見つかったときには変わり果てた姿になっていた。以前から認知症が進行していたのを住民たちは気に掛けていたが、一人暮らしで引き取る身よりもあらわれず、本人は貴船園に入りたいと希望していたが入所できなかったことなどが語られていた。
自治会関係者や救急、老人福祉に携わっている人人のなかでは、とりわけ旧市内で老人の孤独死があいついでいること、焦げ茶色に変色した痩せぎすの状態で発見され、心臓だけ動いている状態の人もいたことなど、悲惨な実態が語られている。さらに50~60代の一人暮らしの男性が家族を失い、生活破綻状態に置かれている例が増加傾向にあるという。市営住宅が集合する白雲台でも、今年の夏は電気代を節約するためにクーラーをつけない年寄りが多くみなが必死に生きていたが、その甲斐なく孤独死がたて続けに発見されたと話題にされている。
自治会関係者の男性は「うちの自治会にも、痴呆で施設に入れない母親(80代)と同居している50代の男性がいる。老人を抱えたら働きにも出られず、親の年金が命綱になる。しかし親が亡くなったらいっさいの生活資金が絶たれ、しかも年齢からして就職は厳しく、行き場がない状態に追い込まれてしまう。躊躇せずに生活保護を申請してほしい。行政側も門前払いせずに受け入れなければ、似たような悲劇は繰り返される。それができないのなら、50~60代世代に対応した失業対策事業などを実施するべきだ」といった。
別の自治会関係者は「家族でどうにかなる間はいい。ところが、いざ老人が施設に入ろうと思ったら、毎月13万~14万円は必要になる。国民年金の最低額で1カ月の収入が5万~6万円の人はその時点ではじかれてしまう。高齢者のなかでも年金額には差があり、5万~6万円しか収入のない人は医者にもかかれない。家賃・光熱費を支払ったら食費はわずかしか残らない。それで栄養失調になったり、健康を壊していく。よっぽど生活保護を受けて毎月12万~13万円を支給された方が生活が安定するが、役所に行っても追い払われる。社会福祉などあってないようなものだ」と憤まんやるかたない思いを語った。
近所の年寄りを訪問して声かけしたり、留守の家には「寒くなりましたが、身体には気をつけてくださいね」「困ったことがあれば、いつでも連絡してください」と簡単な手紙を残したり、自治会関係者たちが努力している町内もある。ただ、抜本的な解決策にはなり得ていないのが実情だ。介護保険はとられるばかりでサービスは梨のつぶて。年寄りを受け入れる施設もビジネス化で金をとることばかり迫ってくるので行き場がなく、ひっそりと亡くなっていく事例が後を絶たない。
こうした貧困状態や生活苦は高齢者だけに限らない。現役世代のなかでも生きていくのに必死な状況が普遍的だ。
夫婦共働きで一人の子どもを育てている30代の母親は、2万6000円だった市県民税が今年から3万4000円に値上がりしたことに頭を抱え、出費ばかりがかさむことを悩んでいる。2万7000円の保育料も毎月支払い、車の車検代ももうじき必要だ。夫の勤務先の都合で健康保険はまず建設国保に入るよういわれ、手続きをしようとしていた矢先に子どもが病気になった。病院に行くと、治療費として10割負担分が請求されたのもきつかった。
今後も建設国保に毎月いくら支払わなければならないのか等等の心配の種は尽きない。税金を滞納しないように頑張っているものの、払えないのに次から次へと高負担が押し寄せて、財布からむしりとっていく。パートで稼ぐ7万~8万円の収入はあっという間に消えていき、「食べていくのに精一杯」といった。
差押えでレジの金奪う 件数5年で1万3000
こうしたなかで、市県民税や固定資産税など税金を滞納すると、追い剥ぎのようにして市役所が財産を奪いに来ることが問題になっている。払えず苦しんでいる市民を犯罪者扱いして、「あなたは市役所をだましましたね!」「あなたには誠意がない!」などといって、最後の拠り所にしている財産を差し押えていくことに尋常でない怒りが充満している。
中尾市政になって5年だけで差押え件数は1万3000件近くに上っている。12万世帯のうち1割近くが差押えを経験している計算で、よその自治体関係者から見ても「下関は異常」といわれるほど強烈な取り立てを実施している。菊川町では、差押えによって自殺者まで出たことが話題になっている。
市内で理髪店を営んでいる男性は、今年7月某日に、市役所から五人の職員がやってきて、店に踏み込むなり「あなたには誠意がない」といい放ってレジを開けて現金を押さえ、さらに店のロッカーを開いて鞄の中にあった財布の中身にいたるまで物色し、お札をみな没収される経験をした。総額にして22万4000円。客がいるなかでお構いなしに差押え任務は遂行され、カットの最中だった客の代金も先払いで頂戴されて持って行かれた。待合の机の上に「日本銀行券」が並べられて差押調書に枚数が記帳され、手元に残ったのは100円玉や10円玉の硬貨だけだった。「これだけ持って行かれたら家賃が払えない……」と訴えても、「それは知らない」の一点張りだった。
やむを得ぬ事情で毎月5万5000円の市県民税を滞納してしまい、その総額が95万円。それに対して延滞金が約60万円。昨年、生命保険を差し押さえる旨の通知が届き、預金口座を凍結され、現金商売を余儀なくされていた。市役所とも話をして毎月1万5000円ずつ支払っていたが、今年3月と4月にどうしても払えず、七月の差押えとなった。
「固定資産税の滞納もあって、家内の生命保険を解約して何とか対応していた。それでも足りず、家内の働いている会社にも給料を差押えに来ていた。最後は自宅を売却するしかないが、抵当権の関係もあって、やるとしたら任意売却で安値になってしまう。あの日レジにお金があったのは、7月に売上がよかったからだった。それを説明しても“7月だけ売上が伸びるはずがない…”といって相手にされなかった。金曜日にお金をみな持って行かれて、月曜日に市役所に呼び出された際、税理士にも見てもらっているうちの収支を説明すると“あっ、ほんとだ…。商売頑張ってください”といわれた。市職員がなぜこれほど私らの生活を破壊する権限を持たされているのか理解ができない。家賃が払えなかったら商売はやっていけないし、店を維持しようと思ったら支払の優先順位がどうしてもある。事情も聞こうとせずに、あるものはみな持っていくやり方で、ヤクザよりもひどい。自殺する人が出てきたり、廃業せざるを得ない人が出てきたり、こういうやり方が下関のためになるのか」と胸の内をぶつけた。
市役所の差押えが強化されたのがこの五年来で、金融機関に問い合わせて預金や保険が見当たらなかった場合、自宅や店舗に直接踏み込んで、ありったけの現金を回収する方式になった。現金がなければ車や骨董品にいたるまで何でも押さえ、インターネットで競売にかけていく。勤め先を解雇されてローンが払えず、税金を滞納した現役世代のマイホームが差押えられるケースも頻発。
売却代金から払うようにすればいいのに、売却の現場に踏み込んでストップをかけ、差し押さえて二束三文で売り飛ばしていく事例も多発し、不動産関係者たちが「あんまりじゃないか」と中尾市長に申し入れする事態にもなった。
取った税金特定企業へ 箱物三昧の中尾市政
大不況のなかで税金を払えない市民が増えている。ところが来年からも市県民税は上がり、下関では屋外看板条例という新種の税金条例までが加わる。みなが苦しい折に税金は取り立てられるばかりで、おかげで生活や商売が破綻して非課税世帯に追い込まれるという、元も子もないような事例も急増している。
下関市役所では以前、問答無用に生活保護を切り捨てられた男性が、職員を刺した事件があった。それとは別に包丁を抱えて役所に乗り込み、警備員が刺されたこともあった。差押えを強化した担当者が功績を買われて出世し、箱物利権を采配してさらなる出世を目論んでいたり市民の犠牲のうえに黒黒とした政治が展開されることへの怒りは強く、火焔瓶が投げ込まれた宝塚市役所の二の舞を心配する声も強まっている。
さらに、みなが問題にしているのは、そうやって巻き上げられた税金の使い道である。何の規制もうけずに新庁舎関連事業に200億円、新博物館に20億円、駅前整備に55億円、人工島に760億円といった調子で大盤振る舞いされていくことに対して、「人の苦労を何と思っているのか」という思いが強まっている。消費税増税を決定して、ゼネコン救済の「国土強靱化」でばらまくのとそっくりなことが、下関では先行実施されている。
箱物三昧の異常さを多くの市民が問題にしている中尾市政であるが、一方では財源不足も深刻で、税金滞納者に対する差押えをさらに集中強化することや、下関限定の法定外税を導入していくこと、公共施設の使用料や課税水準の見直しなどを実施し、市民負担をさまざまな形で増大させていこうとしている。学校統廃合などを進めて、公共施設も徹底的に整理縮小していく方向を打ち出している。
毎年2000人近くの人口減少に直面し、しかも不況によって個人所得も伸びないなかで税収が増える見込みがない。固定資産税といっても市街地が更地や廃屋ばかりになって増える見込みなどなく、自主財源は減るばかりとなっている。そのうえ、27年度からは合併特例期間が終了し、普通交付税がその後5年間にかけて毎年20%ずつ減額され、最終的に35億円も減額される。
財政的には非常に厳しい状況に直面することが明らかとなっているが、特定企業や代議士紐付き企業に融通された大型事業はゴリ押しし、足りない分は市民負担に転嫁して、「憲法第30条(納税の義務)を知らないのか?」(市議会議員・鵜原明人)などといっている。「税の公平性」を掲げて徴収しながら、使う側は公平でないというのは国政も市政も共通で、そのもっとも典型的な姿を暴露している。
80年代にアメリカに行って金儲け好き放題の新自由主義を勉強してきた安倍晋三首相と林芳正代議士のバックで続いた江島市政と中尾市政の下で、下関は全国先端の貧困都市になってきた。そして、一方では軍港化のために膨大な資金と労力が注がれてきた。米軍がいつの間にか朝鮮有事の際の重要港湾に指定し、人工島も含めた響灘側の不気味な都市改造には1000億円以上の費用が注ぎ込まれてきた。産業振興のための施策は皆無で、むしろわざとでも疲弊させて軍事都市に転用していく。
「軍隊が来たら、外貨が落ちて市財政が潤う」「軍艦が下関を母港にするだけで防衛予算が固定収入として入ってくるのに」などと真顔で語る行政幹部や政治家がいるのが実態で、安倍戦争政治の先取りが経済面においても、軍事面においても突出してあらわれている。
戦後68年が経過して、下関だけでなく、日本はまぎれもなく、まともに生きていけない貧困社会になってしまった。しかしみなが貧乏なのではなく、大企業は280兆円(2012年時点)の内部留保をかかえ、なおかつ社会的責任などかなぐり捨てて海外に移転すれば、そこでも日本政府が海外インフラ整備のため、つまり海外移転、国内工場閉鎖促進のために何千億円というODA(政府開発援助)を惜しげもなく出していく。極めつけがアメリカで、米軍再編の軍事費を巻き上げるだけではなく、米国債を購入させて日本政府からもメガバンクや保険会社などからも膨大な資金を吸い上げて、おかげで日本国内にはカネが循環しない。
消費税増税、TPP参加でこうした経済情勢の悪化や貧困状況がますますひどくなることは疑いなく、たたかわなければ生きていけない限界まできていることを突きつけている。