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風力撤回求める住民が圧倒  下関市綾羅木地区で説明会

 下関市の安岡沖で進められている洋上風力発電建設にむけて、前田建設工業(本社・東京)による「計画と環境調査」の説明会が9日、綾羅木地区で開かれた。計画予定地から2㌔圏内に入る綾羅木地区で説明会が開かれるのは今回が初めて。昨年10月に安岡地区住民を中心に反対する会が発足し、市内で反対署名が盛り上がりを見せているなかで、綾羅木地区住民を中心に近隣地区などから約120人が参加し、建設ありきで突き進む前田建設工業に対して、住民たちが怒りをぶつける場となった。
 
 反対署名は3万筆をこえる

 はじめに事業者である前田建設工業下関プロジェクト準備室のメンバーが紹介され、事業計画、環境影響調査についての説明をおこなった。平成21年に調査を開始したことや、安岡の沖に最大20基(6万㌔㍗)の風力発電を設置する計画であること、すでに風況調査、海底地質調査などを終え、昨年12月からは環境影響調査(騒音・低周波音、景観、風車の配置)を開始していること、今後、前田建設を主体とした合同会社をつくって進めていくことが説明された。
 続いて質疑応答に移ったとたん、幾人もが挙手して住民たちが思いをぶつけた。最初に発言した男性は、「平成21年度から基本調査をやっているというが、“水面下で進められているので広めないでほしい”といわれていたことも聞いている。だいたい、平成21年からどれだけ時間がたっているのか。なめているのか」と発言し、会場からも「そうだ、綾羅木をなめているのか!」と怒りの声が飛んだ。前田建設側が、「連合自治会には何度かうかがってご説明していた」と答えたのに対して、「自治会のせいにしないでください」「これは国・県の事業ではなく民間の事業だ。民間企業がなぜ地元を分断するようなことをいうのか!」とのっけから住民の怒りが噴き出すことになった。
 ある男性は、オーストラリア最大の投資銀行・マッコーリーが、昨年10月に前田建設工業と提携し、再生エネルギー事業に乗り出したこと、前田建設工業のホームページに「安岡沖の洋上風力発電の成功事例をもって全国に展開する」と書いてあることを指摘。会場から「あなたたちは下関を外資に売るつもりか」と声が上がった。
 別の男性は「調査基準は原則1㌔、余裕をみて2㌔とあるが、これは今から15年前の平成10年のもので、風力発電も500㌔㍗で健康被害に関してはわかっていなかったときのものだ。しかも今度できるのは3000㌔㍗が20台だという。なぜ意味のない基準を持ってくるのか」と問うた。

 外資に街を売飛ばすな 住民無視に怒り噴出 

 また、熊毛郡平生町の風力発電所の近くに住む住民から、反対する会のホームページに寄せられたメールが紹介された。平生町の風力発電は、日本風力開発の運営でスタートしたが、資金繰りが困難になり、現在は大阪ガスの子会社が運営していること、差出人の自宅は600㍍しか離れておらず、「夏は天井や床から響き渡る音がして気が狂いそう。転居したいがガンを煩い、我慢してなんとか生活している状況。被害のひどい3世帯のうち1世帯は半年前に家を出た」といい、頭痛やめまい、まっすぐ歩けない症状が出ていること、そうした健康被害について町役場を訪ねても相手にされず、議員に訴えても梨のつぶてであることを綴っていた。読みあげた男性が、「これでも、“調査しているから問題ない”というのか。反対署名が3万筆をこえたことについてどう考えているのか。2㌔圏内に3万人、3㌔圏内には5万人もが住んでいる。回答書には、“地元のみなさまに貢献する”とあるが、地元のことを考えるのであれば勇気ある撤退をお願いしたい」といい、大きな拍手が起こった。
 別の男性は、「風力発電は、これまでは山の中の人口密度の少ないところにつくっていた。今度はこれだけ住宅の多い、人口密度の高いところにつくるという。知人に風力にかかわる人がいるので話を聞いたが、1㌔以上離れた場所で農作業をした人が幾人もいきなり倒れたことがあったという。それが公然の秘密になっている。水俣病の健康被害と一緒で原因不明というだけでなく、医学的に立証されてから住宅密集地につくるのが本当ではないか」といった。
 さらに「北浦では北西の風が常時吹く。この設置のエリアを見て、風向きを考えると、垢田中の方面に向かってちょうど風向きがぴったり合っている。70年以上ここに住んでいるが、昔から北浦海岸は風口になるから工場はつくってはいけないとされてきた。工場は海上に煙や騒音が抜ける山陽側に集中している」と発言した。
 前田建設側は回答に窮し、「環境調査を通じて、みなさまにどんどん情報を文書や数字で公開していきたい。少しでもご理解をいただきたいということしかない」といった対応に終始し、不信感を煽る結果となった。

 低周波で住めない街に 「下関全体の問題」

 地元の医師は、風力発電による騒音、低周波に関する健康被害について調べたことを住民に発信した。低周波が人体に及ぼす影響については世界中で研究が進められているとし、ワシントン大学の教授の論文を市大の教授とともに翻訳したものを公表。耳に聞こえる騒音以外に聞こえない超低周波音によるリンパの動きから、内耳疾患であるメニエル症候群を引き起こすことなどを指摘し、「直す方法は、去るしかない。風力発電ができたら安岡・綾羅木・伊倉・垢田はゴーストタウンになる。安岡・綾羅木地区だけの問題ではない。なぜ一私企業のために下関が潰されないといけないのかという問題だ。核実験を監視する軍事施設には10㌔以内に風力発電をつくってはいけないとなっている。彼等は非常に正確なデータをもっているが、低周波の影響があるということだ」とのべた。
 そして、全国の風力発電立地点では、夜眠れないために車で寝たり、頭痛、吐き気をもよおすなどの症状が出ていること、ビニールハウスで気分が悪くなったり、鶏が鶏舎に入りたがらなかったり、子牛の死産や奇形が出ていること、下関市内で32基が林立する豊北町でも、牛の乳が出なくなるなどの被害があり、酪農を廃業した人もいることを報告。その経験からも「豊北町の住民が署名にたくさん協力してくれた」と話し、「風力発電が建ったら三年後に病院を閉じます。それほど本気で反対運動をやっている。絶対に許可してはいけない。“環境影響調査”の項目には人体に対する影響は入っていないし、建ってもいないのにデータを出すとは、全くのインチキデータだ」とのべた。
 前田建設側からは既存の立地点の健康被害などが何ら明らかにされないなかで、住民が独自に調べて事業者に突きつける格好で説明会は進行した。健康被害について問われた事業者側が「医学的にはわからないが、報告書を読ませてもらって、超低周波音とは直接的な因果関係が認められていないと認識している」と答えたり、環境調査について「何ヘルツから調査しているのか」と問われたさいに「私のほうでは把握していない。低周波音についてはやっているが、超低周波音についてはちょっと…。すぐに調べる」と答えるなど、いい加減さを露呈する度に会場がどよめき、住民たちを唖然とさせていた。

 しどろもどろの企業側 いい加減な姿勢追及 

 20代、30代からも意見が上がった。ある男性は、「安岡・綾羅木の住民一人一人を説得するつもりがあるのか。それとも国からOKが出たら無視して進めていくのか。その辺の企業倫理について聞きたい」とのべた。別の男性は「子どもとかかわる仕事をしているが、日頃、自分は子どもたちに、“曖昧なことはいうんじゃない”“はっきりいいなさい”と教えている。大人を手本にするようにともいっている。曖昧にせずにはっきりと答えてほしい。詳しい知識はないが、言葉にはしっかり責任をもってほしい」と語り、「洋上風力発電を見て子どもがどう思うだろうか、未来の子どもたちにとっても大事な問題。そこを無視されるのは非常に残念に思う」とのべた。
 不動産関係に勤める婦人は、1昨年夏に富任に家を建てた人が売りに来たこと、別の建設会社も安岡に土地を買って開発をかけたがすでに2件キャンセルがきており、さらに大手の業者も土地を購入しているが心配していることを明かした。「こんなところに住めないということが現実に出ている。人間が生きてはじめて電力が必要になる。みんながいなくなるところに風力発電は必要だろうか。本当に撤退していただきたい」といった。男性は「これだけ反対意見が出ているのになぜそんなに急ぐのか。資料を見ると今年の10月には“基礎製作”開始とある。住民に説明するための資料に、審査の結果が出る前に基礎をつくるという計画が出ているのは、“反対してもだめなんだな”とみなが思うことを考えてつくっているのではないか」とのべた。
 前田建設工業が「~ぐらい」「~など」といった曖昧な発言をくり返すことに苛立った住民がそのことを指摘するのに対して、会場に来ていた「日共」県議が、「前田建設の事業説明会であって反対集会ではない。言葉尻をとって現場の所長をいじめてもしょうがない。手順がある。お互いわきまえたほうがいい」などと住民側を批判するひと幕もあり、「あいつら何しに来たんだ?」と違和感を与えていた。

 立場こえ団結する機運 先行事例にさせぬ 

 その後発言した婦人は、「すでに風力発電ができているところで健康被害が出ているのを聞いて、基準値がどうこうではない、反対だと思った。人の健康はお金にかえられない。原発も同じで、いつの間にかできて、あれだけの被害を出している。もうつくらないでほしい」といった。
 自治会の関係者は、「冒頭、連合会に説明して了解を得たようなニュアンスに聞こえたが、地元の者としてそんな話はない。連合会が前田建設に従って、賛成しているように受け止められるようなことはいわないでほしい。訂正してほしい」と怒りを込めて発言した。若い父親は、「計画されている風力発電の真ん前に去年家を建て、子どもも去年生まれたが、こういう状況のなかで家を売りに出した。売れるかどうかもわからないが、売れなかったらどうするのか。そういうところに住めるのか。子どもに被害が出たらどうするのか」と迫った。
 「これでは欠陥商品を押しつけられているようなもの。綾羅木の景観や風向きは公共の財産であって独り占めすることはできない。福島の止められない汚染水のこともあるが、低周波も止められないというのであればやってはいけない。綾羅木地区には不適当、見直してもらいたい」「数字的なものが出てくるかと思ったが、健康被害はテレビなどでもとり上げられているにもかかわらず、まったく無頓着。もっと住民が納得いくように、平生町や豊北町・豊浦町の被害の数値を建てる前に出すのが本当の説明会だ。福島もいまだにふるさとに帰れない。そういうことになってはいけない」「安岡の漁師はみな反対している。漁師は今、月に3万円しかないなかで一番かわいそうだ。魚もとれなくなっており、生活の基盤も失ううえ、住むところもなくなる。“漁業権を考えた”などとよくいえたものだ」という意見も上がった。
 予定されていた2時間を1時間以上も延長し、その間、ひっきりなしに住民たちが思いをぶつけた。今後、前田建設工業が平生町や豊北町などすでに風力発電が林立している地域に調査に出かけ、再び安岡・綾羅木で説明会をおこなうことを約束して説明会は終了した。
 参加した住民たちは、「ウソばかりだ」「いい加減すぎる」といいながら会場を後にする人も少なくなかった。技術者の男性は、TPPに含まれるISD条項とも重ねて、外資が郷土を乗っとっていく先行事例になりかねないこと、「ハゲタカファンドに売り渡すことになるのが一番許せない。これを許したら下関を突破口に日本全国でやられる。下関だけの問題ではない」といい、幕末に4カ国連合艦隊が来たときに独立を守った先祖の誇りにかけて「絶対にやらせてはいけない」と強く語っていた。住民のなかでは問題意識が鮮明なものになり、さまざまな立場をこえて力を合わせていく機運がみなぎる説明会となった。

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