下関税務署(稲田幹雄署長=昨年7月着任)が昨年11月ごろから、市内全域の自治会や関連する団体に対して、「収益事業」に対する法人税を取り立てていることが大きな問題になっている。ベンダー(災害対策用)の自動販売機や駐車場、町民館の使用料、コピー機の使用料などもみな「収益事業」とみなされ、「過去五年分」などの形で課税されたからである。波紋は市内全域に広がり、今後は自治会や学校PTAがおこなうバザーなども「収益事業」と見なされ、法人税の課税対象になるのではないかと戦戦恐恐とした思いが語られている。地域によっては「バザーをやれば法人税がとられるので、今年の地域運動会は中止する」と検討しているところも出てきており、税務署の取り立てをきっかけにして、自治会活動が麻痺しかねない状況がうまれている。東日本大震災を経て地域コミュニティーの意義や大切さが見直されている折りに、首相お膝元の下関では、自治会をターゲットにした取締が全国よりも前倒しでおこなわれている。
大企業減税の最中に矛先向く
下関市内では、昨年11月に下関税務署から市内全域の自治会や関連団体に対して、公民館に設置しているベンダーの自動販売機が「収益事業」にあたるとして、法人税の申告をするように通知があり、大騒ぎになった。ベンダーの自動販売機設置は、市教育委員会(その前は防災安全課)からの要請で自治会が災害対策用に設置したもので、「もうけ」のためではなく、災害時の住民の安全を第一に考えたもので、黒字、赤字に関係なく設置していた。
利用者の多い勝山や川中公民館の自動販売機は「黒字」であるが、その他は多くが「赤字」であった。「赤字」の自治会から法人税はとられなかったが、税務署が法人税の課税対象とみなしたことで、法人市・県民税がかかることになり、均等割として法人市民税約5万円、法人県民税約2万円の合計約7万円がとられた。しかも、申告義務があるにもかかわらず申告しなかった悪質な違反と見なされ、過去五年間にさかのぼって最低でも合計35万円がとられた。多いところでは約80万円を支払った自治会もあった。
「赤字」の自治会ではこれを契機にベンダーの自販機が全部撤去された。今後法人税はかかってこないが、せっかく災害対策用に設置した自動販売機がなくなり、仮に震災や災害に遭遇した時には、給水車が来るまで水分補給は待たなければならなくなった。平常時には自動販売機として活躍し、非常時には販売機に蓄えている飲料水が命をつなぐ、という目的で設置されたのに、僅か数年で「退場処分」を命じられた。自治会として市の施策に協力したつもりが、逆に税務署から目をつけられ、過去にさかのぼって課税処分まで受け、とんだ災難となった。
自治会関係者の一人は「自販機の売上は公民館の運営にあてられていた。市が公民館の運営予算を削り、その負担を自治会にかぶせてきていた。その自販機の売上に法人税をかけるというのはどういうことか。本来なら市が公民館の運営費をみなければならないはずだ。市が出すべき費用を自治会に肩代わりさせておいて、それに法人税をかけるとは、二重どり、三重どりではないか」と怒っていた。
また、同時に駐車場代や町民館の使用料、コピー機使用料、土地の貸地料なども「収益事業」として法人税がとられていった。ある自治会では、「駐車場代の収支の帳簿を見せろ」と税務署が要求してきたことが話題になっている。通常、駐車場収入だけの帳簿はつけておらず、自治会費のほかさまざまな収入をまとめて記帳している。自治会関係者の1人は「自治会の帳簿は普通とても簡単なものだ。法人税を申告するようにくわしく記帳していない。これから法人税を申告するとなると、自治会で税理士か会計士を1人雇わなければならないと話になっている。そんな金は自治会にはない。税務署は自治会をどうしようというのか」と、困惑気味に語っていた。法人税など約80万円を支払うために、これまで貯めてきた定期預金を解約した自治会もある。
町民館を塾に貸して使用料収入がある自治会の関係者は「町民館は地域の住民にとっていざというときの避難場所でもあり、日頃から最低限必要なものは揃えている。修繕や補修の費用もかかる。使用料はそれらに使っているので利益はない。それを“収益事業”で法人税を払えというのは納得がいかない。市はだまって見ているのだろうか。税務署に対して対応はとれないのだろうか」と納得のいかない思いを語っていた。
人口密度が低い旧郡部ではさらに深刻である。一つの自治会の世帯数も20~30戸で、旧市内の何百戸も抱えている自治会と比べて規模は小さいのに、自治会としての 維持費は同じようにかかる。そのうえ合併前は町から補助が出ていた祭りも、市からは補助が出なくなった。今回の税務署の取締では、自治会の土地を貸して入った収入にも法人税がかかり、まとまった金額が持って行かれた。
関係者の一人は「“収益事業”というが、その使途が問題ではないか。自治会の活動を維持するために使っているのであり、個人の懐に入るものではない。郡部は人口も少なく、一人当りの自治会費負担額も大きい。歳末助けあいの寄付も以前は自治会長らが無償でお願いして回って協力していた。しかしそれも難しくなり、自治会費のなかから住民の協力のもと払っている。さんざん協力しているのに、そのうえ法人税をとるなら、“協力できない”という気持ちになる。このようなことをしていては地域は崩壊する」と怒りをこめて話していた。
こうした税務署の取立ては当然にも全市の自治会関係者のなかで大問題になり、市との話しあいが何度も持たれた。「税務署に説明させるべきだ」という声も上がったが、一度も説明には来なかった。
この件に関して下関税務署に本紙が取材を申し入れたところ、山口税務署の税務広報広聴官が対応し、「具体的な事実に関しては守秘義務がありいっさい答えられない」の一点ばりで、分厚い税法関係の本をめくりながら、「第○条にはこう書いている」と読み上げる対応に終始。下関市内の自治会活動に大混乱をもたらしていることに対して、税務署としてどのような認識を持っているのか、以前とどのように基準が変化したのかといった点についても質問・返答という「対話」が成立しなかった。自治会関係者のなかには「泣く子と地頭には勝てない…」と語る人も少なくない。
自治会関係者の怒りは収まらず、直接税務署に出向いて抗議したところもある。一方、こうした喧騒が広がるなかで下関税務署の担当者は今年四月の人事で異動になった。
市内の税理士の一人は「税務署としてのいい分は、法律に定められている税金を徴収したというものだ。法律では、自治会やPTAなどは“人格なき社団”として分類され、“収益事業”をやれば法人税を払わなければならない義務がある。法人税がかかることを知らなかったといっても、知らないことこそが罪というものだ。これまで法人税はとっていなかったではないかといっても、これまでは大目にみていたとか、見逃していただけだというものだ」と指摘していた。また、「最近では景気が悪く、倒産や廃業などで法人税の徴収がやりにくくなっている。そこで目をつけたのが、自治会ではないか」とも話した。別の税理士は「とにかく大手はガードが固くて法人税の徴収もやりにくい。税務署としてはとりやすいところからとれということになったのではないのか。大目にみていたというが、それは額が少ないからというだけだ」と話していた。
バザー等で資金捻出 補助金削減が呼び水に
市内には819の自治会があり、67(旧市内47、旧郡部20)の連合自治会がある。自治会の構成人数は2人のところから1000人をこえるところもある。年齢層も高齢者からゼロ歳児まで幅広い。子どもの教育や安全を守るためにも大きな役割をはたし、高齢者の介護をはじめ、地域の福祉や防犯・防災、健康づくり、交通安全など住民生活にもっとも密着した組織として、年間を通じてきめこまかなとりくみをおこなっている。こども会、婦人会、敬老の祝い、成人の祝い、香典、出産祝い、運動会、お祭り、文化祭、産業祭、防犯灯の整備、公園の草抜きやゴミ捨て場の掃除等等のために当然にも活動費用が必要とされる。
自治会費は旧市内では月に1軒当り200~300円、多いところで500円というところもある。旧郡部では1000円前後が一般的。各自治会ではできるかぎり住民の負担を減らすために、廃品回収をおこなったり、駐車場や町民館の貸出しなど工夫をこらして活動費用を工面してきた。
ところが近年は市が夏祭りの補助削減など、ことあるごとに自治会や地域活動への予算を削っている。なおさら自力で必要経費を稼がなければならない構造ができていた。補助金カットを受けて夏祭りの規模を縮小したり、中止せざるを得ない事態に直面した自治会もある。「住民が楽しみにしている年に1回のお祭りだから」と、その分を地域全体で協力してバザーをやったり、廃品回収をして資金を捻出し、従来通り開催してきたことを誇りにしている自治会もある。
そんな各自治会の苦労にはおかまいなく「稼いだらとる」といって強面で税務署があらわれ、公共性や社会的な役割を抜きにして剥ぎとっていくから、みなが怒っている。自治会費や「収益事業」によって発生した資金は祭やイベントだけのために使われているのではない。前述したように市民生活とかかわった業務が様様あり、税金を徴収している行政が本来やらなければならない市民サービスを、ボランティア同然で土台となって住民自身が支えている。役所の下働きをして、なおかつ補助金カット分を補ったら課税対象にされて持っていかれ、踏んだり蹴ったりの状況となった。
駐車場代や町民館の使用料まで法人税をとられることになると、やむをえず自治会費を値上げせざるをえない自治会も出てくる。だが、近年生活がますます苦しくなるなかで、自治会費を「待ってほしい」という世帯や滞納者も増えている。市内中心部のある自治会では、250円の自治会費を500円に値上げしたのを契機に自治会脱退者があいついだ。法人税の取立てが自治会自体の存続も危うくすることになりかねないと危惧されている。
下関で先行実施 首相お膝元が突破口に
自治会から「収益事業」として法人税を取り立てているのは、現在のところ下関だけのようで、下関を突破口にして今後周辺に拡大していく趨勢と見られている。首相のお膝元で、しかも市長は税理士出身で、ここでの実績が全国に普及されていくようである。しかし、なぜ全国一斉実施ではなく、下関の自治会の「収益事業」だけが取り締まられて、よその都市は許されるのか? 下関は「自治会取締特区」なのか? 従来は大目に見てきて今後は許さないという場合の基準は何が根拠になっているのか?等等の疑問は山積している。
法人税といえば安倍政府のもとで「減税」が打ち出されているはずなのに、下関ではむしろ強化された。大企業は大減税されて、かわりに地方の小さな自治会がモグラたたきのように巻き上げられている。数十万円の追徴課税で目くじら立てて集めたとしても、自治会の「収益事業」から徴収できる額は微微たるものでしかない。自治会はそもそもカネのなる木でも打ち出の小槌でもないからである。税収が減るならもうかっている者から相応の負担を迫ればよいのに、社会維持の経費だけは大衆課税に転嫁されていく。その構造を端的に物語っている。
自治会の活動は直接住民と結びついた、地域コミュニティーの基礎となっており、住民生活に大きな役割をはたしてきた。東日本大震災を経験してその重要さはますます見直され、日頃からの地域における人と人とのつながりや団結が、如何に災害時や困難な時に力を発揮するかが指摘されてきた。法人税の取立てによって萎縮し、地域の運動会や祭り、文化祭やPTAの催しに制限がかかったり、地域コミュニティーが崩壊に向かうなら本末転倒で、衰退著しい下関にとっても大きな痛手となる。
いまや「税の公平性」を叫んだところで、誰も税が公平に徴収されていると思わず、公平に使われているとも思わない世の中になった。消費税は8%に引き上げられ、ガソリン税や環境税などこれでもかというほど税収奪が強まり、国民は何をするにも税金や罰金を強いられ、江戸時代の年貢奴隷と何ら変わらない。そして搾り上げた税金は国土強靱化といってゼネコンが食い物にしたり、ODA(政府開発援助)として諸外国にばらまかれ、大企業の海外移転を全面支援するために湯水の如く注がれる。「国にカネがない」のではなく、後は野となれで無制限に使いすぎるだけである。
安倍代理の行政運営が貫かれてきた下関でも、税理士出身の中尾市長が使うことだけ熱心で、さまざまな大型箱物事業を実施してきた。自治会活動が麻痺しかねない状況に直面しているもとで、「知らぬ存ぜぬ」を貫いた場合、ただ働き同然で市行政の業務を補完してきた人人のやる気を削ぎ、今度は行政自身が身を乗り出して市報配布にいたるまでやることになるのか、注目されている。税務署については、下関のような衰退著しい地域で自治会相手に重箱の隅をつつくのではなく、もっと莫大な税金がとれるであろう大企業や首相周辺の羽振りが良い連中を捜査せよ、の声が高まっている。