【本紙記者座談会】
下関市安岡沖に前田建設工業(東京都千代田区)が建設しようとしている洋上風力発電(20基・6万㌔㍗)をめぐって、地域住民をはじめとした各界各層の反対行動が広がり、6月22日には川中公民館で大規模な集会が開かれようとしている。経済産業省が鳴り物入りで首相お膝元の響灘に計画を持ち込み、国内最大規模の洋上風力集積地にしようとしてきたが、自然エネルギー・ビジネスのためには後は野となれで住民の生活環境をもてあそんでいくやり方に反発が高まり、計画撤回を求める世論が急速に広がっている。記者座談会を持って、その後の情勢や問題の性質について論議した。
安岡中心に高揚する反対運動
A 昨年から安岡地区や綾羅木地区の住民たちが果敢に行動して洋上風力の問題が全市に知れわたってきた。その後どうなっているか様子から出しあってみたい。
B 昨年から反対の会の署名がとりくまれ、今年に入ってからは3月と4月に安岡公民館、川中公民館で住民集会が開かれた。それぞれ200~250人くらい集まった。反対署名は4万6000筆にもなっている。最近では自治会の動きが活発になっている。4月2日には安岡新町自治会が前田建設に環境アセス拒否の通告をおこない、中尾市長に風力発電に反対表明するよう陳情にも行っている。4月末には綾羅木地区連合自治会の14の自治会が同様に陳情へ行き、5月に入ってからも横野新町自治会と富任下仲自治会が陳情に行っている。今後も自治会として陳情に行く準備をしているところがある。連合自治会の上層部が「陳情に行くな!」と圧力をかけているが、もうおさまらない。住民の八~九割方が反対しているという意志を確認したうえで自治会として動き始めているところがほとんどだ。
C 安岡連合自治会が実施したアンケートでも、圧倒的な反対が示されていることが明らかになっている。連合自治会の幹部2~3人が懸命に結果発表を拒んでいるが、もうみんながわかっているのだから隠しても仕方がない。「漁師は賛成が多い」といわれてきたが、漁師町の自治会ではアンケートと同時に全戸に反対署名が回され、対象の住民(中学生以上)の95・5%が反対署名に応じていた。漁師町のもうひとつの自治会でも回収したアンケートのうち9割が反対で、先日開かれた自治会役員会で「町民の健康で安全平穏な日常生活を守る」と、洋上風力建設に反対することを決議し、それを全世帯に通知している。地権者のなかでも動きが出ている。洋上風力からの地中送電ケーブルが埋設される予定になっている横野海岸線に、共有地を持つ農民地権者の団体が先日、全員一致で風力発電に反対することを決議している。
D 「漁師は賛成」といって風説を流布していたのはだれなのかと思う。地域分断や疑心暗鬼を煽るのが原発誘致などでも頻繁に使われる手口で、上関でもいつも真実がねじ曲げられ、住民同士の対立が仕組まれたりする。アンケート結果の非公表については住民のなかでもみなが「おかしい」と問題にしている。公表したくないのは誰のためなのか? と語られている。民意を否定する動きは許さないという世論が包囲している。
A 中尾市長は洋上風力が行き詰まっていることについて「前田建設に頑張ってもらうしかない」と主張してきたが、市議会も3月議会では全会一致で反対決議を上げており、「議会の意思は重く、尊重させるつもりだ」と弱り切ったコメントを出している。経済産業省が国策として持ち込んだものだから、市長はじめ行政側は直立不動で協力を余儀なくされている。第三者などではない。しかし、あまり出しゃばると「前田建設工業のカネもうけになぜ市が荷担するのか」といわれ、難しい立場だ。議会は2月の改選が控えているものだから、とりあえず波風立てずにやり過ごしたいという印象だ。市民世論が急速に動いているから、これには逆らえない。
D 推進している側からすれば、予想外に住民の運動が熱を帯びてしまい、「手がつけられない…」と表現している者もいる。しばらく「環境調査」でお茶を濁しつつ、その調査結果が整った段階で、「影響がないなら建設してもいいじゃないか」という理屈で一気にたたみかけるつもりのようだ。しかし「低周波は人体に影響はありません」も含めて、いったいだれが断言できるのだろうか。御用学者のいい加減さについては原発事故やSTAP細胞を見ても言葉がないが、世界的に見ても科学的解明が進んでいないものについて、「安岡の洋上風力は影響ありません」とだれがお墨付きを与えるのかは注目すべき点だ。どんな研究結果にもとづいて結論づけたのか、それこそSTAP細胞ばりの検証が求められる。それとも「直ちに影響はありません」というつもりだろうか。
B 環境部長と仲が良い安岡連合自治会の一部の役員が、「環境調査が終わってから態度表明する」といっているのも、そうした動きと符合している。しかし原発を見てもわかるが、環境調査というのは建設にお墨付きを与えるための儀式でしかない。いつでも「影響はない」と結論づけて着工に持っていく。上関でも難しい顔をして1~2年ボーリング調査などをくり返し、20~30㌢ほど厚さがある環境影響評価書ができ上がって縦覧していた。素人がわからない専門用語をちりばめて、「絶対安全」だから建設してもよいという結論だ。おかげで福島はあのようになった。人工島でも環境影響調査は実施されたが、その結果どうなったかは安岡の漁師たちが一番よく知っている。海流が遮断されてヘドロが海底に堆積する海に変貌した。
C 環境調査そのものを拒否しようと、住民たちが目を光らせている。前田建設工業の作業員たちがやってくると、みなが呼びかけあって現地にかけつけ、「自治会の土地で勝手にやるな」と拒んでいる。自治会に断られると前田建設工業は市有地に移動して公園などで調査したりしている。市は容認してくれることを知っている。
住民が押しかけて調査を拒否していることへの対抗措置なのか脅しなのか、最近、安岡・綾羅木の海岸沿いで、背広を着た男が、行き交う住民に「あなたは何をしにここへ来たのですか?」と不審尋問していて気味悪がられている。私服刑事なのか身分はわからないが、あるお婆ちゃんは「私は20年間、ここを散歩するのが日課なのに悪いかね?」と答えていた。住民が遠慮して散歩しなければならないのだから転倒している。後からやってきて洋上風力をつくろうとする側こそ遠慮しなければならない関係だ。みんなで「オマエは何者か?」と問い詰めるしかない。
全面協力の市役所 反対運動に圧力 下関を実験台に
C だれが推進しているのかを鮮明にしないといけない。自治会幹部の一部が前田建設工業の代理人みたいな動きをしているが、背後にいるのは経済産業省だ。だから市も全面協力している。
A 市民に対しては「企業のやることだから市にはなにも権限がありません」と第三者を装っているが、実際には自治会幹部に入れ知恵したり誘導しているのが砂原環境部長だといわれている。「仕事なくなりますよ」と企業経営者に圧力をかけていたことも話題になっている。仮に環境部長の権限で仕事が干されるというのなら、それこそ議会で大問題にして見解を問うべきだろう。役所内でも江島市長の時代から環境部の利権整理は彼の担当といわれていた。「汚れ仕事も拒まないガッツ」や「たくましさ」が市長や安倍事務所に気に入られてきたと職員たちはいっている。江島が市長職を失った後、海響館を運営している海洋アカデミーの理事長ポスト(本来は市長が就任)にしがみついていたのが役所内で問題になっていたとき、だれもが躊躇するなかをかつての部下だった砂原が引導を渡しに行ったとかで、中尾グループが「よくやった」と取り立てている。
B 市役所の担当としては、県の市町課長をしていた坂本副市長が自治会対応などの窓口になっている。経済産業省が県や市と連携しながら推進している。その采配で前田建設工業が前線任務を任されている関係だ。経産省は前田建設工業に「二㌔㍍離したらOKを出す」とか直接の指示を出しているし、全国の突破口として下関を実験台にしようとしている。響灘が格好のターゲットにされて、北九州側にも70基という計画が持ち上がっている。響灘の海底に二酸化炭素を圧縮して閉じ込めるという研究も、丸紅や三菱商事といった名だたる大企業がとりくんでいるが、経済産業省が仲介になっていることは明らかだ。エネルギー・ビジネスのモデル都市として、モルモットにされようとしている。
計画そのものは五年前から水面下で動いていたが、福島事故が起きて、さらに安倍代議士が首相に再登板してから動きが活発になっている。「わたくしの地元である下関では洋上風力を導入し、まさに原発に依存しない国作りを実践しているところであります」などといえば、再稼働・新規立地推進の目くらまし効果にもなる。安倍首相が「やめろ」といえば前田建設工業も地元荒らしのような行為はできないし、経産省にしても首相の意向に逆らってごり押しする役人などいない。むしろ逆なのだろう。
社会潰す市場原理 原発やTPPも共通
C 「原発がだめなら風力はいい」、放射能が悪くて低周波がいいとはならない。風力発電の問題点は安岡・綾羅木や周辺自治会でも明らかになってきた。しかし低周波による住民の健康よりも企業の利潤追求が優先して動いている。
D 今年3月に国が洋上風力発電の固定買取価格を22円から36円に上げて、洋上風力発電を全面的に推進していく姿勢を示した。これによって企業の利益はすごいことになる。安岡沖でも前田建設が洋上風車を300億円の初期投資で20年間稼働すると、単純計算で670億円近い純利益が生まれる計算になる。大企業の金もうけのためには住民の健康や居住権を奪い去って当然というやり方に、みんなが怒りを持っている。しかも、いきなり乗り込んできた東京の大企業が、もともと住んでいた住民の暮らしを蹂躙していく。ODA(政府開発援助)とかの後進国略奪とそっくりなやり方だ。
A 「もうけのためならなにをしてもいい」というのが社会生活全般に貫かれている。遠慮がないというのはそういうことだ。TPP、消費税、税金、医療福祉などどの分野を見ても金融資本がもうけさえすればいいという市場原理主義がはびこり、そのためなら社会が崩壊しても、働く者がどれだけ貧乏になってもかまわないという政治が露骨にやられている。それを歴代政府がむしろ推進している。ことは洋上風力だが、そのあらわれはきわめて社会的な普遍性を持っている。農林漁業を潰して食料生産もできなくしたり、若者が子育てもできないような環境をもたらしたり、医療は混合診療にして貧乏人は医療にかかれないようにするなど、すべてに共通している。
B 下関では昨年から税務署が自治会から法人税をとったり、前代未聞の取締をしている。法人税は減税されると思っていたら大企業だけで自治会まで法人税の対象にするのだからたまらない。住民がどうなろうが知ったことではないというのは原発事故がまさにそうだったし、国のあり方からしてそうなっている。
C TPPも金融改革も含めて、日本の富をみなアメリカに差し出してしまうような行為が平然とやられている。大企業には景気底入れの補助金事業を山ほど与えながら、その金はみんなに回らなくなって国民はますます貧乏になる。あげくの果ては集団的自衛権でアメリカの鉄砲玉になって地球の裏側まで戦争に連れて行かれる。国民がいわば虫けら扱いになっている。オレたちが洋上風力をつくりたいのだから、オマエたち住民は低周波でもくらえ、という態度に住民の多くが怒っているが、遠慮を知らないカネもうけやそうした政治が珍しくない。洋上風力はいわばその象徴のようなものだ。
A 豊北・豊浦・油谷・平生などでは、農業の後継者がおらず高齢化が進む山間部に「エコでクリーンなエネルギー」といって風力発電が建てられ、騒音や低周波によって高齢者の体にも異変が起きたり、余計でも過疎高齢化を促進している。全国の立地点のほとんどが過疎化の進む山間部で、そういう場所を狙って都会の大企業が乗り込み、おもちゃにしていく。
B 「人間のいない田舎なんかどうなってもいい」「田舎の学校なんかいらないから学校統廃合だ」「コンパクトシティにして、みんなが都会に住めばいい」が真顔で実践されている。平気で地方を潰していく。農業を潰すことで国民の食料も保障できなくなると、今度は「食料は輸入すればいい」となり、あげく、国民はなにを食わされるのかわからない。それでいざ国際的な動乱や凶作に見舞われたさいには餓死しないといけなくなる。国民の生命、健康が蹂躙される。
D 働けど食えない。若い労働者もどうやって生活していけばいいのか、どうやって子どもを育てていこうか展望がないから少子化になる。昔は父ちゃんの一馬力で何人も子どもが育っていたが、今は母ちゃんまで働いてもきつい。働いたと思ったら保育料でがっぽり持っていかれる。少子化というがその親たちの貧困が根底にあることははっきりしている。ところが政治がなにをいい始めるかというと、「労働力不足は外国人で補おう」「賃金の安い移民を増やそう」だ。そうではなくて、いかに若者が食べていけるような労働条件や環境をつくるかを考えるのがまともな政府だが、大企業にとっての国際競争力を提供するために、国を解体するようなことをする。このままでは日本は潰れてしまう。
A 日米同盟、TPP、集団的自衛権などすべてにあらわれているが、国民生活を屁とも思っていない政治のあらわれだ。原発も同じで、あれだけ福島で難民を生み出して、なにも解決していないのに再稼働という。先日、福井地裁が大飯原発再稼働をめぐってまともな判決を出したが、あの判決がいっているように原発による発電コストの低減云々は国民の生命や財産よりも劣位に置かれる。焦点はここだ。生命や財産の方が大切だとだれもが思う。農民がTPP反対で運動したり、医者が混合診療反対を訴えているが、国民の健康や生命を守るためにどこも身体を張っている。全実感がそこにある。
D 「被害があってもいいじゃないか」と開き直っているのが原発再稼働だが、安岡でも低周波で被害が出ようが「それぐらいいいじゃないか」という調子ですすめている。「貧乏人なんて医療を受けなくてもいいじゃないか」「遺伝子組み換え食品や狂牛病牛肉でも食べさせたらいいじゃないか」「子どもが産み育てられなくてもいいじゃないか」「老人ばかり増えて人口が減っても、大企業が国際競争力にうち勝つためには仕方ないじゃないか」「非正規雇用でいいじゃないか」「米軍の鉄砲玉にされても仕方ないじゃないか」といって、国民生活を犠牲にしていく。だれのために「いいじゃないか」といっているかというと、みな大資本や米国のためだから、みなは納得しない。
議会縛る住民運動 全市的な世論喚起が要 地域のためで連帯
C 構造改革や規制緩和によって社会的な機能がいたる面で崩されてきたが、要するに大資本がカネもうけをするための自由を拡大し、社会的な規制をとり払っていった。それがJR西日本の列車事故や高速道路のトンネル崩落など、人の生命を犠牲にするまでになった。これを要求しているのがヘッジファンドなどの金融資本で、社会や人人の生活を犠牲にすることで暴利をむさぼっていく。自然エネルギーなども結局投機の対象でしかない。事実、前田建設が「安岡で洋上風力やります」といっただけで、あの会社の株価は上がった。昨年、オーストラリアの投資銀行と連携してエネルギー事業に乗り出している。
B 金もうけのためには詐欺でもなんでもやっていいという金融資本の強欲さが社会全体で矛盾をきたしている。しまいには労働力の再生産すら否定し始めている。これでは社会は持たないし、元に戻さないといけない。働く者が尊重される社会をつくらないことには日本は潰れてしまう。
A 風力反対の運動も、単に自分たちの経済的利益ではなく、みんなの要求を代表しているから、どんなに上から押さえつけようとしても跳ね返す力になっている。低周波だけでいえば身体に影響を感じるか、感じないかは人によって差異もあるし、つくってみないとわからない部分が大きい。しかし、そのやり方も含めて「いい加減にしろよ!」という鬱積した怒りが噴き上がっている。風力発電がある意味シンボルになって運動が盛り上がっている感じだ。市民の会も街頭やスーパー前で反対署名をとりくんでいる。この2カ月くらいでずいぶん雰囲気が変わってきたとメンバーは話していた。世論として浸透している。
C 下から運動を強めることが要になる。そこから議会にも圧力をかけないといけない。各地で議員を捕まえて、住民の側に立って行動させなければならないし、大企業のために働くというのであれば選挙で厳しい審判を下さなければならない。今は改選を控えているから、「傷ついたらいけない…」と思って無難な対応をとっている。紹介議員のくせに、「盛り上がり過ぎているから、下手しないように対応します」といっている者もいる。当選したら好き勝手にやるのも議員の習性で、相当にみながしばらないといけない。というより、市民の生活問題にかかわる重要なことなのだから、本来は下関市が地方自治の精神に立って、住民の生命や健康を脅かすものについては毅然とした対応をとらないといけない。環境部長が「低周波を浴びてください」といって住民の意思に逆らうようなことをごり押しするのなら、解任しなければならない。それを中尾が指示しているというのなら、市民が中尾を解任しなければならない。「3期目もやらせてください」と安倍事務所に懇願しているというし、なおさらだ。
D 市政のでたらめさをあらわしている。岬之町のガントリークレーンの故障を放置して、人工島に移転するよう強硬に誘導しているが、遊び場作りのために産業を破壊するようなことが平気でやられる。洋上風力は経産省や前田建設の下請になって推進しているが、この間続いた大型箱物事業でも、代議士関連の市外企業を引っ張ってきて合併特例債を大盤振舞したり、貢献すべき相手を履き違えている。下関駅でも「駅前にぎわいプロジェクト」といってきたが、にぎわっているのはJRと山口銀行だけで、市民はちっともにぎわっていない。駅ビルはほぼ市の負担によって建設されたが、所有権はJR西日本で、しかも3階に次世代育成施設を併設したために、年間の自由通路利用料や賃貸料としてJRに1億円近い固定収入を献上する関係だ。国の大企業優遇政治を地でやっている。
B 6月22日には住民集会とデモ行進がおこなわれる。この集会に向けて盛り上がっている。徹底的に下から世論と運動を喚起していくことが力関係を決定づける。推進する側はせいぜい自治会幹部やトップを抑えて、「地元同意」に持っていこうとしている。数十人の買収くらいわけない。20年間で600億円以上の純利益が国によって(電力買取価格)保証されているのだから、そのなかから代議士に数億円やっても痛くも痒くもない。というより、安岡に洋上風力が持ち込まれて唐突に買取価格がアップした背景は、そういう取引も含めた事情が含まれているのだろうかと疑問を抱かざるを得ない。
A 金のためか、社会のため、みんなのためかが分かれ目だ。安岡では医師たちを先頭にして運動が切り開かれてきた。住民のため、地域のためにみなが連帯して行動を広げている。個人的利害が及ぶ範囲の狭いことをいっているわけではないし、みんなのために身体を張っているから恐いものがない。全市にこの運動を広げて、下からみなが行動したらこれほど強いものはない。