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山口県は関電のゴミ捨て場か? 「中電いい加減にしろ」の声鬱積 町民や周辺自治体に知らせぬまま調査開始 上関町の中間貯蔵施設計画

(2025年1月20日付掲載)

関西電力の使用済み核燃料のための中間貯蔵施設建設調査を受け入れた上関町の西哲夫町長。登庁時に抗議の住民たちに囲まれた(2023年8月、山口県上関町)

 山口県熊毛郡上関町で2023年8月、原発から出る使用済み核燃料の中間貯蔵施設を建設する計画が突如として浮上した。当時、町民の多くが何も知らされておらず、周辺市町の首長らも「寝耳に水」の状態であり、山口県中で物議を醸した。だが周囲の驚きとは裏腹に、上関の西町長は計画発表から半月も経たずして議会での議論もないまま立地可能性調査の受け入れを表明し、昨年4月から中国電力がボーリング調査を開始。中電は11月に調査を終え、適地かどうかの分析をおこなったうえで結果を公表するとともに、今後は規模や面積など施設の概要などについて町に提示する予定としている。計画が浮上してから1年半が経過しようとしているなか、町内では計画に対して「大歓迎」といった空気は乏しい。さらに周辺市町でもこの間の中電や上関町の計画の進め方や、国の無責任な姿勢に対する反発が強まっている。

 

参院選や周辺市長選でも重要な争点に

 

山口県上関町。上関大橋から長島(奥)と室津(手前)の両岸を臨む

 2023年8月2日、上関町役場を訪れた中国電力が町に対して中間貯蔵施設の建設を申し入れた。

 

 上関町では1982年に原発建設計画が浮上して以来、町内は「推進」「反対」で二分されてきたが、2011年の東日本大震災発生時に起きた福島第一原発事故を機に計画はストップしたままの状態が続いてきた。

 

 そうしたなかで急浮上した中間貯蔵施設計画。これまでも施設建設の議論はあったといわれているが、突然計画が発表され、多くの上関町民がニュース等の報道で初めて知り動揺が広がった。

 

 計画が浮上した経緯としては、上関原発の建設が見通せないなかで、上関町としては国の交付金もあてにできなくなり町財政がひっ迫。一方で町として独自の地域振興策を生み出せないなか、西町長が中電に対して地域振興の検討を要請。これに応える形で中電が中間貯蔵施設の建設を持ちかけ、そこに福井県内の原発施設内に使用済み核燃料を溜め続けている関西電力も加わった――。と表向きではいわれている。

 

 名目はあくまで「地域振興策」だが、実際に中間貯蔵施設を早急に必要としているのは上関町でも中電でもなく、関電であることは誰の目にも明らかだ。関電管内で稼働中の美浜、高浜、大飯の3原発内に貯蔵されている使用済み核燃料は、どこも許容量の80%以上に達しており、早ければ2~3年以内に上限に達するといわれている【図参照】。

 

 福井県はもともと関電の原発が稼働するさい、使用済み核燃料を県外へ搬出することを条件としていた。そのため関電は2026年度から使用済み燃料を搬出することを約束し、工程表まで県に示していた。しかし、搬出先としていた青森県六ヶ所村の使用済み核燃料再処理工場の完成延期(1993年の着工以来27回目)が発表されたことを受け、関電は工程表の見直しをよぎなくされた。

 

 これに対し福井県の杉本知事は、「誠に遺憾」「立地自治体との信頼関係がなければ原子力事業はない」とコメント。関電に対して早急に新たな工程表を提出するよう求めており、関電も今年2月議会までに新たな工程表を提出する予定としている。

 

 関電と福井県の間には、期限までに使用済み核燃料の搬出が確定できない場合、運転開始から40年をこえている美浜原発3号機、高浜原発1、2号機の運転を停止するという約束がある。そのため関電は、六ヶ所村の再処理工場の完成を待たずして県外搬出を実現するための中間貯蔵施設の確保を焦っている。そのため一時は東電と日本原電が共同出資して建設した青森県むつ市の中間貯蔵施設に、関電の使用済み核燃料を搬出するという強引な話も出たが、むつ市の猛反発を受けて頓挫。福井県内の原発に使用済み核燃料を溜め込み続ける関電に、刻一刻と「タイムリミット」が迫っている。

 

 こうした事情もあり、1年半前に上関町での中間貯蔵施設建設計画が急浮上した。町内では驚きの声とともに、原発反対派だけでなく推進派町民からも「中電どころか、なぜ関電のゴミをもらわなければならないのか」「なぜ中電は町民に何も説明しないのか」といった怒りの声が噴出した。

 

 西町長は、2023年8月に計画が浮上してからわずか半月たらずで町議会の議決もなしに中電の立地可能性調査の受け入れを表明し、すぐに中電が調査を開始。調査を開始した年からは上関町に「電源立地等初期対策交付金」として年間最大計1億4000万円を国が交付している。山口県に対しても交付されるが、村岡知事は賛否を表明しておらず、交付金の申請や受けとりはしていない。

 

 中電は昨年4月から町内でボーリング調査を開始し、同11月に終了しており、今後は中電が活断層の有無などを調べたうえで「適地」かどうか判断し、結果を公表する。また同時に、施設の規模や事業の形態なども検討して提起する予定だ。今はその前段階ということもあって、報道各社も中間貯蔵施設問題を報じ始め、県内全域の関心も高まっている。

 

町が消滅することへの危惧 上関町内

 

原発計画浮上から40年――。町役場周辺の中心部でも高齢化が進み、空き家も増えた(山口県上関町)

 計画が浮上してから1年半が経過した今、上関町内では中間貯蔵施設建設に対して地域振興の希望を抱いている住民はいない。そもそもほとんど話題にならないといい、ある町民は「今までは原発推進のためにいろいろ運動してきた。上関原発計画をめぐって推進と反対で町が大きく割れてやりあっていたころは、“3人寄れば原発話”といわれるほど、常に話題の中心だった。しかし今は中間貯蔵施設建設のために一生懸命になっている者はいない。それよりも、“誰が亡くなった”とか“誰がどこの施設に入った”といった話ばかりだ。43年前に原発計画が浮上した当時は7000人の町民がいたが、今は2000人まで減っている。中間貯蔵施設は、実質関電の使用済み核燃料を福井県外に運び出すための施設であり、原発を推進するのとはわけが違う。もう私たちの出る幕ではない」と語る。

 

 別の住民は、上関町と中間貯蔵施設計画の関係を「末期ガンの延命治療だ」と例える。「中間貯蔵施設ができてほしいとは思うが、その理由は町に国の交付金が入るからだ。住民は減り続け、町財政はパンク寸前というなかで、この先も町としての機能やサービスを維持するため背に腹は代えられない。だがそれで地域振興になるかどうかはまた別の話であって、あくまで中間貯蔵施設とは今いる町民が、今いる場所で、今のまま死ねるための町財政延命治療だ。決して特効薬だとは思っていない」と複雑な心境を口にした。

 

 2011年の福島原発事故以後、「町の財政運営をどうしていくのか」という議論は町や町議会でも進められてきた。ある住民は「いろいろ議論があったが、結局これといった地域振興策は出せないまま、行き着いた先は中電に泣きつく以外なかったということだ。反対派の町議こそこういうときに原子力に頼らない魅力的なまちづくり政策をうち出せばいいと思っていたが、そうした熱量は感じなかった。賛成・反対問わず、どのレベルの議会なのかという思いはある」と語っていた。取材のなかでは、推進派の町議もそのことについて反省の色を滲ませており、町民からそういった声が多く届いているのだろう。約40年間原発計画でさんざん町を振り回してきた中電に頼み込み、関電のゴミをもらってまでして他力にすがらなければ「地域振興策」を生み出せない町政や町議会に対して、町民全体にもどかしさや情けなさ、失望がある。

 

 町内で住民に話を聞いてみると、原発や中間貯蔵施設問題以前に、上関町の人口減少や高齢化、地場産業の衰退への危機感や焦りが強い。

 

 ある男性は「このまま何もしなかったら、上関町がなくなる」と語る。町内では昨年、中心街で長年店を構えてきた天ぷら屋が閉店。地元で水揚げされる魚のなかから、市場に出ない雑魚を活かすために漁師の奥さんたちが手間賃を得て丁寧に処理し、それを集めて加工・販売するという循環のもとで長年成り立ってきた地場産業だ。「地元の店がどんどん閉まっていくのは寂しい。町内には酒屋もたばこ屋も新聞販売所もなくなった。漁師が年々少なくなって、道の駅では地元の魚や野菜も年々少なくなっている。赤字経営だと聞くが、それでも道の駅がなければ町民が買い物をする場所がないため、町が支えてなんとか維持している状態だ」と語る。

 

 高齢化や人口減少も深刻だ。2025年1月時点での町内人口は2190人で、高齢化率は58・66%。原発計画が浮上した当時から人口は3分の1以下にまで減少した。各地区ごとの役員が空席のままになっている所も多々あるといい、地域コミュニティそのものを維持できなくなりつつある。また、推進派の住民のなかでは、これまでは国政選挙などがあるときには出陣式に出席するように連絡が回っていたが、今は住民を組織して動けるような状態ではなくなっていることも語られていた。

 

 中間貯蔵施設建設計画が発表されてからこの1年半、国や中電から町民に対してまともな説明もないまま立地可能性調査だけが粛々と進められてきた。ほとんどの町民に何も知らせずに計画を発表した当初から現在に至るまで、町民は置き去りにされたままで、住民に話を聞いてみても中間貯蔵施設建設への熱量は希薄だ。

 

 ある住民は、「中間貯蔵というが、貯蔵期間は50年間ともいわれている。たとえ核燃料サイクルが回り出して使用済み核燃料を別の場所に搬出できるようになったとしても、日本国内で原発が動いている以上、新しい使用済み核燃料がどんどん上関に持ち込まれて貯蔵されることになる。つまり中間貯蔵施設がある以上、上関町には半永久的に使用済み核燃料が置かれ続けることになる。中間貯蔵ではなく永久貯蔵施設に名前を変えた方がいい」と話していた。

 

中電の身勝手さに反発 周辺の自治体で

 

上関町の位置と周辺市町

 中間貯蔵施設建設計画について知らされていなかったのは上関町民だけではない。柳井市、平生町、田布施町、周防大島町などの周辺市町の首長でさえ何も知らず、ニュースを見て初めて知るという状況だった。その後、「説明させてほしい」と中電が周辺市町を訪れたが、あまりに身勝手で周辺市町をないがしろにした態度に怒り、「帰ってくれ」と追い返した首長もいたという。

 

 なんの相談もなく上関町と中電、関電だけで決めて計画を発表したことに対して、周辺市町の自治体関係者の間には強い違和感がある。ある関係者は「中電といえば、原発建設のためなら水面下のさらに奥底まで徹底的に潜って裏の裏まで工作してきた根回しのスペシャリストだ。それが今回の中間貯蔵施設問題では、周辺市町のみならず上関町民さえもまるで部外者かのように扱い、乱暴に計画を発表した。“あの中電がそんなことをするだろうか”という衝撃が一番強かった。むしろ“町民や周辺市町が怒ることをわかってわざとやっていないか?”とさえ思った」と語る。

 

 別の自治体関係者も「まるで中電や上関町は周辺市町にケンカを売るようなやり方だと思った。上関を含めた柳井地域では、消防も水道も広域で連係して運営している。同じ地域住民としての生活があるなかで、こんな勝手なことをしていると周辺住民の感情を逆撫ですることになるし、自治体間の信頼関係にも関わってくる。原子力問題は周辺自治体としてもデリケートな問題としてみなが気を遣ってきたのに、それを無視して“中間貯蔵施設は上関町だけで決めます”ということは許されない」と語っていた。

 

 その他の自治体関係者の間でも、「上関町の最初の公表のしかたはよくなかった」「上関町の地域振興策について町長みずから“お手上げです”といって中電に頼むのでは、町民からしたらショックだったのではないか」「上関の住民から周辺市町の首長宛に“計画を止めるためになんとかならないか”“西町長を止めてくれ”という電話があるそうだ。そういう意味では周辺市町にも責任がある」という声もあった。

 

 周辺市町で、中電の姿勢に違和感が募るのと同時に、地元の事情を無視した関電の意向を強烈に反映した計画であることも自明のものとなっている。しかし、関電はいっさい地元に頭を下げに来ることもなく、中電を手先のように使って采配するため、余計にでも住民感情として「関電のゴミを山口県がもらうのは癪だ」という思いが強くある。そして何よりも、原子力政策を進める国が何一つ責任を負おうとしないことに強い不信感がある。

 

 周辺市町の首長たちは皆、中電や国、上関町とどのように関わり、住民生活の安心、安全のためにどう責任を果たしていくのか、対応に苦慮している。そのため現在、「各市町が単独で動くのではなく、集団で足並みを揃えて国や中電、上関町に意見をあげよう」ということで、柳井市の井原健太郎市長、周防大島町の藤本浄孝町長、田布施町の東浩二町長、平生町の浅本邦裕町長が議論を重ねている。

 

 昨年12月末には、周辺1市3町の議論のなかで、現在行き詰まっている核燃料サイクルをめぐる今後の見通しや、中間貯蔵施設の位置づけ等について、原子力政策を進めている国自身がきちんと住民に説明するよう要請する方針をまとめた。これまでは、上関町での住民説明を終えてから周辺市町での説明を求める方針だったが、今後は時期を待たずに「なるべく早い段階で責任ある説明を国に求める」という結論を出した。

 

 中間貯蔵施設は国内でも青森県むつ市でしか前例がないなかで、周辺市町の首長らも対応に苦慮している。国の制度や法律も曖昧な部分が多く、「住民への責任があるなかで中途半端なことはできない。だが、いまだによくわからないことが多く、むつ市周辺市町の対応などを参考に勉強しながら対応している」(周辺自治体首長)という状態だ。

 

 周辺市町のある自治体関係者は、「現時点では中間貯蔵施設がどんな施設なのかも分からず、どれほどの規模になるのかも分からないし、そもそも核燃料サイクルの仕組みすら曖昧でよく分からない。上関も含め地域住民や周辺自治体は置き去りにされてこの1年半ずっとモヤモヤしている」と語っていた。

 

 別の自治体関係者は「貯蔵した使用済み核燃料を50年後どこに持っていくかもまだ決まっていないなかで、中間貯蔵施設を建設してもいいのだろうか。国も中電も“大丈夫”“安全”というが、もしも何かあったときに誰が責任をとるのかも定かではない。電力を生み出す原発と違って、中間貯蔵施設には生産性がない。国も、上関の西町長も“使用済み核燃料はあくまで資源”だと主張している。だがそれは核燃料サイクルが成立し、再利用できて初めていえることであって、その実現可能性が見出せない以上、現時点ではゴミでしかない。こういうことをいえば問題になるかもしれないが、それが本音だ」と話していた。

 

山口県民の意志示すとき 選挙の重要争点に浮上

 

 中間貯蔵施設計画をめぐり、現時点では周辺市町の首長たちはみな軒並み厳しい態度を示している。というよりも、そもそもほとんど何の説明もなく、不明な点が多いなかで議論も判断も難しいといった状況だ。こうしたなかで、今年春には柳井市長選挙がおこなわれ、4年前に一騎打ちで200票差の激戦をくり広げた2氏が再び相まみえる。田布施町でもこの春町議選が予定されており、「原発・中間貯蔵施設反対派が数多く出馬する」ともいわれている。また、夏には参議院選挙も控えており、こうした選挙の過程で中間貯蔵施設問題は重要な争点にしなければならない。

 

 周辺自治体のある住民は「今どき、選挙で原発推進を訴えたところで票にならないことは誰もが分かっている。中電も全国の注目を浴びたくないだろうから、参議院選挙前までは立地可能性調査の結果は公表しないだろう。ただ、必然的に中間貯蔵施設への関心は高まるし、普段はみんなあまり話題にしないだけで、中電の対応や地元首長の言動はしっかり見ているはずだ」と話していた。

 

 上関町では40年以上ものあいだ原発計画を抱え、中電によって町政が私物化されてきた結果、産業も住民生活も地域コミュニティもズタズタにされてきた。原発建設計画は実質頓挫した状況のなかで、原発依存ではなく改めて現実的な町政の課題と向き合ったまちづくりの必要性が迫られていたにも関わらず、それでもなお原発政策にすがりつく町政に住民の多くが失望している。また、原発計画で町を二分して住民同士を争わせてきた中電が、関電の下請に成り下がって核のゴミを押しつけられる姿はあまりにも情けないと話題になっている。

 

 これまでさんざん国策に振り回されてきたなかで、今度は核のゴミの受け皿として「中間貯蔵施設」まで山口県が引き受ける筋合いはない。核燃料サイクルはすでに破綻しているにもかかわらず、強引に原子力政策をおし進める国の無責任こそ問題にしなければならず、今後控える参議院選挙でも重要な争点として山口県民の意志が問われている。

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