下関市の安岡沖洋上風力発電の建設予定地の海に漁業権を持ち、そこで生活の糧を得ている山口県漁協下関ひびき支店(旧安岡漁協)の漁師たちが24日午後、下関市役所に出向き、ゼネコン準大手の前田建設工業(本社・東京)が計画している風力発電建設に中尾市長が反対を表明するよう求める陳情をおこなった。
3地区代表し若手漁師ら
この日、陳情をおこなったのは、安岡東町・本町・西安岡の3地区を代表する、20代から0代までの6人の漁師。漁師たちはひびき支店の正組合員48人のうち42人の署名・捺印と、安岡の漁業関係者五人の署名・捺印を携え、陳情書とともに中尾市長に提出した。しかし中尾市長は今回もあらわれず、市長代理の坂本副市長と砂原環境部長が対応した。
初めに陳情書が読み上げられた。陳情書は「洋上風車群の設置が計画されている久留見瀬は、安岡の海岸から1・5㌔㍍のところで、タコ漁やウニ・アワビ・サザエなどの漁場であり、安岡の漁師にとって大変重要な場所だ。洋上風車ができれば、海流が遮断されるので、藻場は荒れ、砂が堆積するなどの変化が起こり、先祖代々受け継いできた漁ができなくなる。漁師にとっては死活問題」とし、「下関市長は安岡沖洋上風力発電の建設にただちに反対を表明してほしい」と訴えている。
これに対して坂本副市長は、「事業者がおこなう環境アセスについて、認めるとか認めないとかいう権限を市は持っていない。アセスが終わって準備書が提出された段階で、環境審議会で検討されたことに対して意見を出すことができる。“ただちに”というのは難しい。今、市として意見をいう段階にない」という発言に終始した。漁師の代表は「漁民としてはアセスだけでなく建設そのものに対して反対している」と強調した。
総会決議のインチキを覆す
今回のひびき支店の漁師たちの陳情は、同支店の正組合員の3分の2を上回り、9割近くの漁師の署名・捺印によって風力反対の強い意志を中尾市長に突きつけることになった。その前日の1000人によるデモ行進をはじめ、全市的に大きく盛り上がる風力発電反対の世論と結びついて、建設予定地に漁業権を持つ安岡の漁師たちが一致して反対の行動を起こしたことは、この間流されてきた「漁師はカネをもらって賛成している」という風評を実際行動をもって覆すものとなり、同じ問題に直面している北浦海域の漁師たちを激励し、共に行動に立ち上がっていく契機になることは必至である。
また、昨年7月の同支店の総会で「風車建設に3分の2が賛成した」といわれてきたものが、実際には風車建設について漁師たちにまともな説明をせず、「反対すれば人工島2期工事の補償金がもらえなくなる」と煽るなど、まるで詐欺にかけるようなやり方で同意をとりつけたものであったことが明らかになった。そして、廣田統括支店運営委員長ら漁協幹部が前田建設工業と20年間、8億円で海を貸す契約を結び、その手付け金として1000万円を勝手に受けとっていたことが暴露され、漁師たちの怒りが爆発した。今回の行動は、昨年の総会決議のインチキを世間に広く暴露する行動となった。
なお、この陳情の場で砂原環境部長は、漁業者の同意をめぐって「風力発電の建設は、埋め立ての場合のように漁業権を放棄してくれというものではなく、海を貸してくれというものだから、補償金は出ない」と発言した。これはその前日、「陳情に行くな!」と漁師たちを恫喝した廣田氏とまったく同じ理屈である。
安岡沖に計画されている風車は、1基の出力が4000㌔㍗で、羽の動く直径であるロータ径は180㍍、海面から羽の先端までの高さが220㍍となる巨大な建造物で、その高さは海峡ゆめタワー(143㍍)の1・5倍である。それを15基も海の中に建設することになると、そのために海底を掘り返して直径5㍍以上のタワーを埋め込み、水深10~25㍍のところに洗掘防止用ブロックを積み上げ、海底ケーブルを海底1㍍の深さでそれぞれの風車から陸上の変電所まで敷設する大がかりな工事になる。それは漁師の陳情書にあるように、海とそこに住む生物の生態系や、漁業者の操業に影響を与えないわけがなく、それはまぎれもない漁業権侵害行為である。
安岡に計画されているのは、これまでに前例のない大規模洋上風力発電施設であり、そこで全国に迷惑をかける前例をつくらせてはならないという漁師たちの行動となっている。
【陳情書】
私たちは、先祖代々安岡の海の恵みを受け、生活の糧を得ている安岡の漁師です。この安岡の海に下関とは縁もゆかりもない東京の一企業が、営利目的で洋上風力発電施設を建設しようとしています。なぜ先祖代々受け継いできた安岡の海を明け渡さなければならないのでしょうか。
洋上風車群は安岡の海岸から1・5㌔㍍離れた久留見瀬の側です。久留見瀬はタコ漁やウニ・アワビ・サザエなどの漁場で安岡の漁師にとって大変重要な場所です。
洋上風車ができれば、海流・波浪の状況が激変し海底や海岸が荒らされます。風車のオイル漏れやタービンの事故で海面は汚染されることにもなります。
洋上風車によって、昔から慣れ親しんだ安岡の漁場は一変します。海流が遮断されるので、藻場は荒れ、砂が堆積する、などの変化が起こることが容易に考えられます。これは、世代をこえて継承してきた漁ができなくなることを意味します。洋上風車は、安岡の漁師の生業に深刻な影響を与えます。
風車の基礎が魚礁になるという意見がありますが、風車の振動や、シャドーフリッカーによって、魚は逃げていくと思われます。
タコ漁は早朝まだ暗いうちから海に出ておこないます。タコツボの仕掛けは、1本約1000㍍、タコツボは10㍍間隔でつけられるので、1度に約100個のタコツボを船上に引き揚げます。このため洋上風車群の周辺では細かい作業はできず、そのうえ非常に危険な操船を強いられますので、これまでのような漁はできなくなります。まさにわれわれ漁師にとっては、死活問題です。
洋上風車ができれば、風車の支柱によって、漁のための自由な航行が妨げられるばかりか、荒天時には衝突の危険もあり、夜間の衝突も考えなければなりません。安岡あるいは吉見など周辺の漁師はつねに航行の危険と隣り合わせになるのです。
また、風車の近くは危険です。経年劣化によって、強風時でなくても部品等の落下が考えられ、そうなれば、風車建設の海面では安全操業ができないということになります。
先月、安岡連合自治会は、風車建設反対の決議をおこない、その旨を前田建設工業に通告しました。なかでもわれわれ漁師の多くが居住する西安岡・安岡本町・安岡東町では住人の約八割が建設に反対しています。
私たちの生活が一企業の利益目的のために存続の危機に直面しています。私たちは、この地域の揺るぎない“自然・景観・海産物”・“住民”・“地域”を、次の世代に受け渡していけるように、私たちは建設反対に全身全霊を尽くしていきます。
陳情事項
一、市長は安岡沖洋上風力発電の建設に直ちに反対を表明し、安岡の漁師の生活を守ってください。