下関市豊浦町黒井の海岸沿いにある下関ゴルフ倶楽部(会員1019人)の運営を巡って、山口銀行の幹部やその仲間たちによる私物化が目に余るとして、是正するよう求める動きが起きている。この20年近くは創設者である大洋漁業・中部一族にかわって二代にわたって山銀トップが君臨し、現在、倶楽部の理事長は福田浩一・山口銀行頭取がつとめている。それ以前は田中耕三・山口銀行相談役がその座に就いていた。歴代の支配人には山口銀行の支店長クラスが送り込まれて運営にあたってきた。ところが、この運営方法が料金面だけ見てもきわめて歪なもので、特定の理事や役員、つまり支配人の上司にあたる山口銀行のトップやその仲間だけは、一般会員のおよそ半額の低額料金でプレーしていたことが発覚して、みなを驚かせている。山口県で一番カネを握っているはずの人間が、もっとも優遇措置を受けて安価な料金でプレーを楽しみ、しかも会計不明朗な工事や建物建設があいつぎ、その度に会員に負担が迫られることへの疑問が高まっている。下関なり山口県の政治・経済の構造を象徴する問題として「上流倶楽部」の実態に光を当ててみた。
下関や山口県の政治経済象徴
下関ゴルフ倶楽部は60年前に大洋漁業の中部利三郎が創設し、映画にもなった「伝説のアマゴルファー」中部銀次郎など幾人もの名ゴルファーを生み出したことで知られてきた。会員は下関市内に限らず、九州や他県にも多く、ゴルフを愛好する人人によってその運営資金はまかなわれてきた。山口銀行が身銭をはたいて資本を注ぎ込んでいるわけではなく、1000人以上もの会員が高額なゴルフ会員権(時価で取引される)を購入し、なおかつ毎年八万円の会費を納め、プレーする際も9134円支払うことによって運営されてきた。ゴルフというと、お金に余裕がある人でなければ近寄れるものではないが、お金がある人でも会員として負担する金額は決して小さくない。
11億円のクラブハウス 坪単価180万円
最近になって、この年会費を8万円から12万円に値上げするという案が浮上して、会員のなかから反発が起こった。クラブハウスを建て替えるために費用が必要なので、いっきに4万円上げるというものだった。年会費12万円といっても、ロッカー代や消費税を含めると実質14万円。門司ゴルフ倶楽部や若松ゴルフ倶楽部の年会費が8万円、宇部ゴルフ倶楽部や周南カントリーが5万円であるのと比較しても、かなり抜きんでた金額設定だ。「1階のトイレや2階の女性用風呂を2000万円かけて改修したばかりなのに、なぜ建て替えるのか」「赤字経営なのに、どうしてそんな無謀な事業をやろうとするのか」という声が次次と上がった。
原因となったクラブハウス建て替えを巡っては、昨年、同倶楽部の理事をつとめている関門港湾・清原生郎氏(安倍代議士の有力支援者)を委員長にして検討特別委員会が設置され、委員として伊藤昭男(安倍後援会会長)、林泰四郎(山口合同ガス)、川上泰男(長府製作所、下関商工会議所会頭)、中谷正行(下関市顧問弁護士)氏らが参加して月1回ペースで会合を重ねていた。その結論として、現在地に2階建て600坪のクラブハウスを建て替えることを打ち出していた。
11月26日に臨時総会を開催し、①建て替えについて、②年会費を引き上げることについて、③会員権の新規発行に伴う入会金額について(建て替えの為の資金調達)の賛否を問う旨が通知され、11月に入ってから会員には唐突に議案書が届けられた。
そして迎えた総会当日、「建設委員長(清原)に聞きたい! (総工費は)11億円といわれたが、坪単価が180万円ですよ! 豪華なマンションでも坪60万円でできる。更に特別豪華にして坪単価70万円でも4億円でできる。なぜ11億円になるのか説明義務がある」「(議案が届いて)2週間で11億円の決定はできない。清原さんの会社でも10億円の決済を10日でやりますか?もっと検討して欲しい」など反発の声が上がるなか、議長役の福田浩一理事長が議事を押し切って、賛成261、反対151であることが発表された。
白紙委任で出した人人については「代理人の氏名を記載していない場合は、理事長福田浩一を代理人とします」という手法で賛成票がかき集められ、さらに本音では反対したいと思っている人人のなかでも、山口銀行に融資を受けている企業経営者などには締め付けが加わって、賛成せざるを得ない人人も出た。とはいえ、ほぼ拮抗状態といえるもので、いかに反発が強いかを示した。
「クラブハウスは総工費11億円で、山口銀行と関係が深い清水建設が受注する」という噂が春過ぎから流れ始め、みなが「2期連続赤字なのに、どこから費用を捻出するのか?」と疑問にしてきた。そして、案の定の年会費値上げだった。赤字経営の回転資金確保という側面も指摘されている。
慣例だったと開き直り 返金求め裁判も
会員が怒っているのは、赤字経営の折にリベートが噂されるクラブハウス建て替えが浮上したこともあるが、山口銀行幹部やその仲間たちがすっかり私物化してしまい、遠慮なく会員負担でお金を巻き上げていく構造になっていることだ。しかも、理事長はじめ負担を迫る側は、みなよりも低額料金でプレーしていたからなおさらだった。支配人が口をすべらせたことによって、低額料金問題は瞬く間に会員のなかで話題となり、その真相究明を求めて今年六月の臨時総会も紛糾していた。
会員 「理事長は特別料金でプレーされていると聞いている。会員と同じ料金でプレーされてはいかがか?」
福田理事長 「それは個人の…。コース視察という制度がありまして、それは個人のあれですから…。この審議に何か…。視察プレーという制度がありますから、それを使わせていただいているだけです」
会員 「視察プレーならコース委員長にさせたらどうですか」
福田理事長 「コース委員長にもさせております」「歴代の理事長からそうなっているという事で、その制度を使わせていただいている。どうぞ、その後でも批判は受けますので、どうぞ次の機会に…」「もう目的事項と違いますし、お一人の発言時間が長くなりますので…」
会員 「1年前の総会で田口前キャプテンが年間150回もキャディフィーだけでゴルフをやっていると聞いたがおかしい。次回説明されるという事だったが?」
福田理事長 「そういう制度がありまして…」「本総会の目的事項と違いますのでご容赦ください」(会場がざわつく)
会員 「赤字になっているなかにおいて、低額、正規料金以外のプレー(定款にも記載なし)をされるという事については、これはゴルフ場に損害を与えたという行為ですから、取り戻すのは当然だと思う」
福田理事長 「それだけ3人の方はプレーしたとも誘客したともいうことになりますので、増やしたという見方も出来る訳ですから、田口キャプテンの何年間の行為について詮索するつもりはまったくありません」
等等のやりとりが交わされていた。
明らかになったのは、福田浩一頭取、田中耕三元頭取、林派県議だった田口三郎前キャプテン、梅崎弘毅現キャプテンなど役員たちが、「業務扱い」(コース視察)という名目で、毎回のプレー代につきグリーンフィ1500円、福利厚生費400円、施設補強費1300円、ゴルフ場利用税(県税)1100円、スポーツ振興基金、連盟協力費、ゴルファー保険等の費用が免除されていたことだった。一般会員がラウンドすると1日につき9134円するのに、役員は半額の4578円しか支払わずに済んでいた。月例杯や近隣クラブとの親善大会など他の一般会員と一緒にプレーしているのに、彼らは正規料金ではなく「コース視察」扱いとなり、賞品まで受け取っていたから、さすがに開いた口がふさがらなかった。
ゴルフの腕前といっても、例えば福田頭取の場合は「ハンディ一八、常時100打近く叩いているレベル」といわれ、これはどこにボールが飛んでいくかわからず、ボールを追いかけるだけで精一杯のレベルと見なされている。中部銀次郎とは違い、コースの視察どころではないのが実態のようだ。しかし、どんなに楽しくラウンドしていても「業務扱い」「コース視察」となるのだ。
会員らが下関ゴルフ倶楽部に問いただすなかで、沖田哲義(弁護士)、山本徹(西日本信用金庫)、西原克彦(山口リース・山銀の子会社)氏ら監事は「理事やキャプテンの重要な業務として、コース状況の把握、コースの見聞があるのです。業務としての利用であるから、山口県税務課も認めている。理事長やキャプテンは毎日でもラウンドし、日々のコース状況を把握する業務上の必要がありますが、プレー状況は少ない者で月平均1・4回、多い者で月平均7・4回程度のものであり、決して多いものとはいえない。むしろ少なすぎるのではないかとさえ、言えるものなのです」という見解を示している。毎日プレーした方が良いのならいっそのこと頭取をやめて専従のコース視察係になったらよいのではないか? と思えるような弁明となった。
その際、同時に明らかにされた差額プレーの回数などをもとに、この10月に会員の1人が代表して、下関ゴルフ倶楽部に返金するよう求めて地裁下関支部に訴えを起こした。福田浩一氏は理事長に就任した平成24年から88回にわたって、正規使用料よりも3200円低額な料金でプレーしたので28万1600円支払うこと、田中耕三前理事長は平成16年から計136回、同様の金額でプレーしたことにより、43万5200円支払うこと、田口三郎氏は平成17年の就任以来計622回分の199万400円、梅崎弘毅現キャプテンは平成24年から計63回分、20万1600円支払うよう求めたものだ。田口氏の回数が突出しているのは、県議の仕事もなく本人が週に何度もゴルフを楽しむ時間があることや、山口合同ガスなどの関係者を招いていたことが影響していると見られている。
なお、裁判の陳述書のなかで、役員側の証言者として登場した伊藤昭男(下関ゴルフ倶楽部元理事、安倍晋三後援会長)氏は古手を代表して、「差額プレー(役員の低額料金プレー)は昭和五九年から行われてきたのですが、それ以前は全額免除されていました」と述べ、理事長ら3人以外のメンバーについても①新会員懇親協議に参加する理事、監事は全額免除。②幹事会コンペ(年二回)に参加する総務委員、理事長、副理事長、キャプテンは全額免除されていることを明らかにしている。一部免除の制度については昭和59年の役員会で決定されたが、既に議事録は処分されているだろうと主張した。定款には記されていないが、数十年に及ぶ慣例だったのだと山口銀行トップや仲間たちは強調していくようだ。
不明朗な運営費も山積 リベートの噂絶えず
山口銀行の頭取といえば、下関だけでなく山口県の政財界のなかでもっとも権力を握る人間と見なされてきた。そこら辺の市長や県知事以上の権力者である。しかし、権力や金力を持っている者ほど料金を払わずにプレーする。客観的に見て「なんてケチ臭いんだ」と思われても仕方がないものであるが、今時は税金や補助金にたかるトヨタなどの大企業はじめ、他人や国民の負担の上であぐらをかいている者が珍しくなく、ある意味、その心象世界を反映した行為にも見える。「金持ちはカネを使わないから金持ちになるのだ」の言葉がピッタリと当てはまって、なんともいえない後味の悪さを残している。
会員の負担に寄生するというのが、果たして紳士の振る舞いなのか?恥ずかしくないのか?は本人たちの心の問題であって、今のところ「慣例なのです」で押し通す方向のようだ。
なお、「理事やキャプテンは昔から一部免除されている」と主張しているものの、現副理事長の中部哲二氏は全額支払ってプレーしてきたことも明らかになっており、全員が優遇措置を受けているわけではない。
近年は工事もあいつぎ、高麗芝からバミューダ芝に張り替えるといって会員から5000万円を集めたこともあった。しかし、あれほど「コース視察」しているのに管理が甘いのか、芝が痛んでいることも問題にされてきた。コースの維持管理は稲治造園工務所(大阪)に任され、その支払いとして年間7400万円が計上されているのに、他にも修理費、松管理費、消毒費などで毎年膨大な金額が計上されて、リベートの風聞が絶えない。明細を公表するよう求めても明らかにされない。4番ネット工事を友田組(安倍支援企業)に発注した2350万円についても、専門業者にいわせれば800万円程度でできるといわれるものだったが、作業明細と契約書の開示を求めても梨のつぶて。運営を巡って様様な疑問が山積している。
下関ゴルフ倶楽部が、かつての社交場から山口銀行の持ち物のようになってしまったことに、会員の多くが残念な思いを抱いている。役員には下関の政財界の主立ったメンバーが名前を連ねる倶楽部であるが、ピラミッドの頂点に山口銀行が君臨し、登場人物たちを見てみると安倍派や林派のもっとも発言力をもっている企業家やお抱え弁護士などばかりである。まるで下関の政治・経済の有り様を映し出している鏡のようでもある。
市政といえば、この間は箱物三昧が続き、駅前開発にせよ、市庁舎や図書館、博物館などその他の大型公共工事にせよ、自治体の指定銀行という立場を独占している山口銀行が背後に控え、積極的に推進してきたことは誰もが知っている。散々、山口県内を食いつぶした結果、地域は衰退が著しく先細りで、今度は新たな市場を求めて福岡県に殴り込みをかけ、目下、福岡銀行との壮絶なバトルを展開している姿も話題にされている。
ゴルフをするのに自分たちだけこっそり低額料金を楽しんでいた行為について、みっともないかどうかは第三者の判断に委ねるとして、その王様気分、負担は他人で自分だけが得をしても当たり前な感覚が、市政や県政、さらに地域の経済活動にいたるまで持ち込まれ、山口県の政治を動かしていることを考えた時、ゴルフに関心がない人間にとっても、決して無関係ではいられない問題となっている。海外に出かけて行ってはODAをばらまいている安倍晋三とも重なるものがあり、人のカネで自分が得意になる政治風土が育まれているからである。
恥ずかしい話ではあるが、潔く「全額払うようにしましょう」といわないところに、その性質がにじみ出ている。