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82年ぶりに開いた長生炭鉱の坑口 徐々に全貌が明らかに 遺骨調査に向け掘削工事進む

坑口を開けるための掘削工事を見守る井上共同代表(9月24日、山口県宇部市床波)

 山口県宇部市床波海岸にあった長生炭鉱の水没事故で犠牲となった183人(うち136人が朝鮮半島出身者)の遺骨収集をめざす「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(共同代表/井上洋子、佐々木明美)は9月25日、坑口跡地と推定される土地での重機による掘削作業で、ついに炭鉱の入り口(坑口)を発見した。事故発生直後から閉じられてきた坑口を82年ぶりに開け、遺骨発掘に向けて大きな一歩を踏み出した。30年以上活動を続けてきた関係者も歴史的な瞬間に涙した。

 

 刻む会は、9月19日から坑口への進入経路を確保するための工事に着手し、24日から掘削作業を開始した。25日の工事では、坑口とみられる構造物ともにそれを塞ぐために設置されていた丸太が見つかり、それを外すと勢いよく海水が流れ始めたという。その後、潮が引くと穴からの海水の流出も止まるため、水没した坑道と繋がっていることが確認された。

 

長生炭鉱の坑口が発見された瞬間。坑口とみられる穴から勢いよく海水が流れ出した(9月25日、刻む会提供)

坑口発見時の掘削現場(9月25日、刻む会提供)

 刻む会の井上洋子共同代表は、「工事初日(9月24日)の作業で坑口が見つからず、どうなるかと思っていた。坑口辺りにゴミが大量に捨てられていたという証言があったため、今日の作業で生活ゴミが大量に出てきたので、これは坑口があることに間違いないと思っていた。82年前に坑口に向かって逃げてこられた人たちのために、これからも掘り進めて坑口を開けることが第一だと思う。全容が明るみに出れば、ここに炭鉱があったこと、生きたくても生きられない人がいたという実感を多くの人が持てるようになると思う。次なる段階である遺骨収集に入れるよう工事を続けていきたい」とのべ、多くの関係者や支援者に感謝をのべた。

 

 坑口発見の報を受け、父親が長生炭鉱で働いていた宇部市在住の在日朝鮮人男性は、「日本人の人たちがこれほど一生懸命とりくんでくれることがありがたい。感謝の気持ちでいっぱいだ。韓国の遺族も喜んでいると思う。2013年に追悼広場ができるまでは、浜辺で慰霊祭をやっていた。朝鮮人が強制連行されて奴隷のように扱われたことは、遺族からすれば恨みしかないが、遺骨が返還されることになれば気持ちも晴れるだろう。強制連行は日本人がやったことだが、それは一部の者が悪いわけで圧倒的日本人はそうではなかった。私たちも、そこは分けて見ている。今、これほど日本人の方が遺骨を返還するために尽力されていることに心から感謝したい」と語った。

 

 長生炭鉱に近い西岐波地区の自治会役員は、「坑口を開けると宣言されてからの展開の早さに驚いている。一刻も早く遺骨を返そうとしている刻む会の人やスタッフ、ダイバーの人たちの力、また支援の力で進んでいるのだと思う。人情としてご遺骨を故郷に返してあげたいということでみなが心が一つになっている事に感動している」と話した。

 

徐々に明らかになる坑口の全貌

 

坑口を掘り進めるショベルカー(刻む会提供)

木製の枠で囲まれた坑口(刻む会提供)

姿を現した長生炭鉱の坑口(9月30日、刻む会提供)

 さらに9月30日の工事では、地下5㍍に埋まっていた坑口の全貌が明らかになった。刻む会によると、見つかった坑口の横幅は2㍍20㌢、高さは1㍍60㌢余り。入り口の木製の屋根や支えも残っており、掘削過程では労働者や石炭を運んだと思われるトロッコの線路が大量に出土したという。

 

 82年前に起きた水没事故直後、坑道内に労働者を残したまま坑口は閉鎖され、戦後一度も開けられることなく、存在そのものが闇に葬られてきたが、遺骨発掘と遺族への返還を求める多くの支援者や市民の力によってその姿をあらわした。これまで想像することしかできなかった坑口を目の当たりにして、「おーい! 聞こえるかー、坑口が開いたぞー」と奥に向かって呼びかける刻む会メンバーの姿も見られた。

 

 掘削工事は引き続き10月8日までおこなわれる。10月末までに坑口周囲の整地や安全確保をおこなったうえで、特殊技能を持つタイバー有志による潜水調査に移る予定だという。

 

 また10月8日午前10時からは、刻む会による経過報告記者会見が予定されている。10月26日に、韓国や日本の遺族を招いて「坑口あけたぞ! 82年の闇に光を入れる集会」を坑口ひろば(宇部市床波の長生炭鉱跡地)で開く。

 

 長生炭鉱の坑口を開け、遺骨発掘をする資金を募るために刻む会が実施しているクラウドファンディングは2日現在までに753万円(支援者1061人)に達しており、締め切りまで11日間を残して、目標とする800万円に迫っている。

 

 クラウドファンディングは以下のサイトから。


 https://for-good.net/project/1000940

 

発見された長生炭鉱の坑口(中央の穴)の全景。沖には2本のピーヤ(海面に突き出した排気筒)が見える(9月30日、刻む会提供)

 

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この記事へのコメント

  1. 胸がいっぱいです。
    長年、遺骨発掘のためにご尽力下さった刻む会の方々に感謝します。
    9月初旬に訪れた時は、抗口は雑草で覆われてました。
    展開の速さにびっくりしてます。
    在日コリアン三世ですが、祖父母が歩んできた歴史を胸に刻んで、子供や孫たちの明日に思いを馳せて、今、自分にできることを考えて実践したいと思います、

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