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長生炭鉱「刻む会」が会見 宇部市の回答を得て坑口を開ける工事着手へ 「異議なしと判断」 10月26日には坑口前で集会も

(9月4日付掲載)

宇部市の回答を得て記者会見をおこなった「刻む会」の井上洋子共同代表(右)ら(2日、宇部市)

 山口県宇部市床波の長生炭鉱で82年前に起きた水没事故の犠牲者183人(うち136人が強制連行で日本に渡った朝鮮半島出身者)の遺骨を遺族に返還する運動を続ける市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(以下、「刻む会」。共同代表/井上洋子、佐々木明美)は2日、宇部市内で会見を開いた。刻む会は、犠牲者の遺族の高齢化が進むなかで、今年中に坑口を開ける工事に着手する計画を発表している。そのための手続きとして、坑口付近の土地の所有者である宇部市(会の独自調査により判明)に対して掘削工事の実施に「異議がないか」を確認する通告書を提出していた。会見では、8月26日に宇部市から回答書が出された内容をふまえて、10月26日までに坑口を開けるための工事に着手することをあらためて宣言した。井上共同代表は、「“国は遺骨の位置や深度が不明のため調査は困難”といっている。であれば国が調査に動けるように、私たち日韓市民が一緒になって坑口を開けて、ここに遺骨があるよと、1日でも早く国に突きつけたい」と坑口を開ける意義を訴えた。

 

 刻む会は、2014年から宇部市と「問題解決協議会」を48回開催し、遺骨発掘事業への協力を求め続けてきたが、「土地登記ができていない」などを理由にあげて、10年間、事態が進まない状況が続いてきた。そうしたなか今年1月から、「国や行政がやらないのであれば民間で調査する」ことを表明し、坑口を開けるための掘削工事に着手するために宇部市と交渉しつつ、手続き上の問題も弁護士とも相談しながら進めてきた。

 

地下に長生炭鉱の抗口があると見られる場所(宇部市床波)

 刻む会事務局長の上田慶司氏は、宇部市から8月26日に回答が届いたことを報告し、その内容を読み上げた。宇部市は、「長生炭鉱の坑口があったと推定される土地は、隣接地との境界確認ができておらず、坑口の場所が判然としないため、使用許可をさせる状態にない」と回答している。これを受けて刻む会は「この文章を読むと、宇部市が、この土地(坑口付近)が市の所有であることは認め、その土地か隣接地のどちらかに坑口があることも認めていると解釈できる。宇部市は掘削しないでほしいと主張できるのにしていない。具体的な“異議”はなかったと解釈している。事実上工事を認めているものと判断した」として、掘削工事を実施すること、10月26日までに坑口を開けることを明らかにした。

 

 また宇部市が「使用許可が出せない」理由として、「坑口付近の土地の境目があいまいなため」と回答していることについて、「坑口は宇部市の土地にある」とし、その根拠として、当時の技術労働者や複数人の朝鮮人労働者や関係者の証言をもとに作成した「長生炭鉱坑口周辺平面略図」や、宇部市の公的資料や、法務局の土地所在図を示した。

 

 さらに回答書のなかで、宇部市が「国によって遺骨収集事業が進められる際は、協力していきたい。国による遺骨収集が進むよう努めていく」との見解を示したことをあげ、「宇部市は国が遺骨発掘をするなら全面的に協力するといっている。でも私たち市民が遺骨発掘をやろうとしたら、それは協力できないというのは納得できない。そしてその理由が、土地の境目に坑口があるかないかということだが、宇部市は坑口がどこにあるかを調査したこともないと思う」と指摘した。そのうえで、刻む会が坑口を開けて市民の力で調査を進めていくが、その際には「宇部市は国に一緒に調査への協力を呼びかけていただきたい。随時実施している国と刻む会の東京での遺骨調査の協議にも、宇部市も参加してほしい」と呼びかけた。

 

 刻む会は、8月8日に山口県にも協力を求めて表敬訪問をおこなっている。

 

市民の力でと激励の声 人道と平和のために

 

 そして刻む会は、10月26日に「坑口を開けたぞ! 82年の闇に光を入れる集会」を開催することを発表した。この集会には韓国や日本の遺族も招き、集会後は坑口に移動し、クラウドファンディングなどで後押しした多くの協力者に向けて坑口が開いたことを知らせる。同時に、本坑道からの調査開始を宣言する場ともなる。

 

 井上洋子共同代表は「遺族にとっては、肉親が暗い闇のなかに82年間も閉じこめられていた。坑口をめざして逃げてきた多くの人が途中で息絶えた。人道的な面から見て、まずはそういう人たちにとって坑道に光が入ることは大事なことだと思う。政府は見えない遺骨は扱わないといっている。私たちは次には残されているご遺体を、市民の手で見える遺骨にしたい。それを宣言する集会になると思う」と語った。

 

 上田事務局長は、クラウドファンディング(目標額800万円)の状況を報告した。このプロジェクトは「国が動かないのであれば市民の力で坑口を開けよう。そして遺骨発掘を政府に迫ろう!」と日本、韓国で呼びかけられているものだ。7月15日にスタートし、9月2日現在まで570万円に達し、クラウドファンディング以外で、直接の振り込みによる寄付額が230万円をこえ、合わせて800万円に到達していることを報告した。クラウドファンディングは10月13日までおこなわれるが、このままいくと1000万円をこえていくだろうとのべた。それによって調査費には、当初予定の150万円から400万円以上あてられることになり、安全面を第一におきながら本坑道からの潜水調査ができるとした(遺族の招請に650万円を充てる)。

 

 「国や行政が動かないなら私たち市民がやろうという激励の言葉やカンパが届いている。この思いを受けとって実現したい。82年の長生炭鉱の闇に光を入れ、必ず遺骨を探し出す、その工事に着手したい。全国のみなさまに、日本社会に、世界のみなさまに、人道・人権・平和・友好の事業である長生炭鉱の坑口を開け、ご遺骨を遺族に返すとりくみに対しご支援を訴える」と呼びかけた。

 

次回調査のため長生炭鉱のピーヤ(排気筒)を調査する「刻む会」(7月31日、宇部市床波海岸)

 さらに10月26日の集会から間を開けず、10月29~31日に第1回の潜水調査を実施し、まずは本坑道からダイバーが30~100㍍入って行く予定だという。その潜水調査の結果をもって来年の1~2月には1㌔㍍先への本格的な坑道遺骨調査を計画しており、韓国やタイなどの一流ダイバーを招請することも視野に入れている。「坑口の1㌔㍍付近から坑口に向かう坑道でたくさんの人が亡くなっている。そこまで調査を進めていくためにも、岸のピーヤの潜水調査を実施する。坑口とピーヤと二つの出口がある状態にすることで安全性が高まるからだ。また専門家やダイバーなどの意見もふまえ、安全第一で事業を進めるために、私たちも最大の支援と準備をおこなっていきたい」とした。

 

 また遺骨収容後は、全国のDNA鑑定・安定同位体検査・人類学などの知識を有する専門家に対して、遺骨返還プロジェクトチームへの参加の要請をスタートすることも発表した。チームの中心的メンバーとして、沖縄遺骨収集ボランティア・ガマフヤーの具志堅隆松氏を座長候補とし、「さまざまな研究者とつないで遺骨を遺族に返還することを、民間を中心にやっていく。そして日本政府、韓国政府にも協力を求めつつ進めていきたい」と語った。

 

 井上共同代表は、「長生炭鉱の犠牲者は強制連行、強制労働の象徴的な事件によるものだ。戦争が終わって80年も経つなかで、名前も年齢もわかっていて、日本にも韓国にもご遺族もいる犠牲者の遺骨をそのまま捨て置いていく日本の社会について、私たちはきちんと訴えていきたい。私たちは遺骨発掘と返還の過程を通して、日本の植民地の歴史とどう向き合っていくのかが問われていくと思う。なぜ朝鮮人の方が日本の海で亡くなったのか、なぜ海の中にそのままにされているのか。それを考えること、遺骨を発掘することをとおして、命の尊厳を守り人権が大事にされていく社会をつくることになるのではないかと思う」と語り、あらためてこの事業を成し遂げていく意義を強調し協力を訴えた。

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