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社員のほぼ全員が社長交代求め嘆願書提出 パワハラ常態化も耳貸さぬ本社 林芳正代議士の親族企業サンデン子会社の山電タクシー

(9月6日付掲載)

林芳正議員の親族企業・サンデン交通本社(下関市)

 下関市でバス事業などを展開するサンデン交通グループの一つ、下関山電タクシー(清水英治社長)の社員たちが、社長・所長のパワハラや経営実態を疑問視し、会社存続のために調査・対応を求める嘆願書を8月19日、サンデン交通本社(竹重秀敏社長)に提出した。9割の社員の賛同署名が付されるという異例の動きだ。ところが、サンデン交通本社は子会社の社員たちから提出された嘆願書の内容について調査もしないまま、あろうことか嘆願書作成者、持参者、署名した社員の名簿をハラスメントの当事者である下関山電タクシーの社長・所長にひき渡し、現在、嘆願書提出にあたった社員たちへの報復が始まっていると問題になっている。企業コンプライアンスが求められる時代にあって驚くべき対応だ。自民党総裁選への出馬が報じられている林芳正衆議院議員だが、自身の親族企業の舵取りができないで果たして日本の国の舵取りができるのかと、疑問の声が上がっている。

 

「会社存続のため社長交代を」 嘆願書が訴える実態

 

 サンデン交通本社に提出された嘆願書の内容は次のようなものだ。

 

 「この度、下関山電タクシー労働組合、現役乗務員、嘱託乗務員、運行管理者一同は清水社長の交代を切に求めます。このような嘆願書を提出することは非常に不本意ではありますが、清水社長の経営手腕、社員管理能力に対し非常に危機感を感じ、これ以上看過することは会社存続に影響するものと考え、やむを得ず提出するものです。竹重社長様、サンデン交通本社経営陣の皆様には山電タクシーの現状を正確にご理解頂くためにも社員に対する聞き取り、調査等を実施して頂ければ幸いです」

 

 嘆願書には、社員の声やパワハラ事例が列記されている。一部を紹介すると、社長の考えに異論を挟むことは一切許されず、異論をのべると退職に追い込む/社内のパワハラを放置/社長自身がパワハラをする。声を荒らげて恫喝する/残業手当を支給せず、勤務時間に出来ない者の能力を批判する/乗務員を自分の好みで差別し、○○には仕事を回すなと指示する/宇部空港シャトルバスの収支を隠蔽し、低利用率を心配すると激高する/体調を崩し、診断書を提出しても無対応で、休ませずに体調が悪化する/必要な人材も気に入らなければ誹謗中傷し、自主退職に追い込む/社員が休憩時間をとれない現状を放置し改善しない/必要のない新車(タクシーに不向きな車種)を独断で買う、などだ。

 

 この嘆願書には役職者・新入社員を除く49人のうち48人が賛同の署名を連ねている。「社長の交代」まで踏み込んだ内容の嘆願書がほぼ全社員の連名で提出されること自体、異例中の異例だ。

 

 その背景には、パワハラ問題だけでなく、「このままでは会社が存続できない」という危機感があるようだ。

 

意見した課長に退職強要 嘆願書提出に至る経緯

 

 社員たちの話によると、約3年半前に清水英治社長が就任して以来、ワンマン的な経営が続いており、社長・所長のパワハラでやめていく社員が増加していたという。退職届の理由欄に「パワハラを受けたため」と記載した女性社員に、2カ月分の給料を支払うことで退職届を書き換えさせるといった事例もあったようだ。そうしたなか、管理職のなかで信頼を得ていたA課長が自主退職に追い込まれようとしたことが、今回の嘆願書提出の契機になっている。

 

 A課長が自主退職を迫られた発端は、社内で「下関と宇部空港を結ぶシャトルバスの利用率が少なく、利益が出ていないのではないか?」という声が多いことから、今年5月、労働組合が収支の報告を求め、それに激高した社長のパワハラをA課長が身を挺して止めようとしたことだ。

 

 山口宇部空港シャトルバスは、もともとサンデンバスが運行していたが、2021年9月に路線を廃止したことを受け、同年10月1日から下関山電タクシーが運行を開始した経緯がある。「下関~山口宇部空港線の代替交通を確保するため」として、2022、23年度の2年間は、下関市と山口県が「山口宇部空港利用促進振興会」(参与・村岡知事、会長・UBE株式会社会長)を通じて補助金を出してきたが、今年度から補助金ゼロになっている。ちなみに補助金は、22年度が下関市1460万円、山口県1460万円の計2920万円、23年度は下関市300万円、山口県300万円の計600万円だった。

 

 このため山電タクシーは、マイクロバスを購入したり、車庫を改造するなどの投資をおこなったが、乗客ゼロのときもあるような状況で、「補助金なしでは赤字になるのが目に見えていた」と社員たちは指摘している。「もともとは社長も今年度は3カ月くらいやってやめるといっていた」ともいわれているが、清水社長は労働組合が収支の報告を求めたことに激高して回答を拒否。「今後は組合とどのような協議もしない」と宣言したうえ、労働組合の中心メンバー2人に貸切等の運収のいい仕事を回すなと指示したという。

 

 この指示を受けたA課長が「それはさすがにできない」と拒むと、「もう自分に逆らう課長もだめだ」といい、3人いる管理職のうちの1人であるA課長の排除が始まったという。「管理職なのに労働者の立場に立ちすぎだ」ということのようで、「A課長が力を持ちすぎた」と漏らしていたとも囁かれている。

 

 A課長は配車室をとり仕切っており、1日1000本以上かかってくる電話を受けて乗務員が効率よく走れるように配車するという神経を使う仕事を担ってきた。「配車によって運転手の売上は1割くらい変わってくる。課長は配車が上手で、みんなが平等に売上が上がるように配車している。いなくなると困る」と乗務員たちも話している。社長にいいたいことがいえない空気のなかで唯一、社長に対して意見するA課長に、乗務員をはじめ社員からの相談も集中していたようだ。

 

 一方、A課長自身も、管理職をしながら早朝出勤や夜勤、休業者の代替出勤などの激務が続き、「赤字だ」という社長に解決案を提案するものの実行されないため何度も提案するといった関係性が続いたことなどが重なって、ストレスから心療内科に通いながら仕事をする日々となった。「療養が必要」という医師の診断書を会社に提出していたが、ほとんど休暇はとれず、むしろ療養が必要な期間に時間外勤務もこなす状況だったという。

 

 山口宇部空港シャトルバスの件を契機に排除が露骨になっていた7月、A課長が体調の悪化もあって「もう乗務員の方でやらせてほしい」と所属変更を願い出たところ、清水社長はそれを「脅し」とみなし、A課長を辞職させるよう部長に指示したことから、社員たちは本社への直訴に踏み切ることとなった。「A課長が辞めたら社内がさらに混乱する」という思いが共有されたようだ。

 

パワハラ当事者に名簿渡す サンデン本社の対応

 

 代表の6人がサンデン交通本社に出向き、社長、会長、専務、サンデン労組宛の計4通の嘆願書を提出したのは8月19日。だが、本社は山電タクシーの社長・所長の2人(本社からの出向組)を呼んで話を聞いただけで、社員たちに対する聞きとり調査は今もなされていない。社員たちは清水社長らから「嘆願書は受け付けていない。差し戻しになった」と説明されている。だが4通とも提出者のところには返送されておらず、どこにあるのか不明な状態だ。

 

 清水社長らが本社に呼ばれた数日後、A課長は清水社長に呼び出され、「嘆願書、ムダになりましたね。課長の処分については追っていいます」などといわれ、その数日後、別の管理職から「年内にあなたがいいタイミングで自主退職をするように」といい渡されたという。明らかに報復であり、一方的な退職の強要といえる。しかも「社長の温情で、年末まではいてもいい。年末のボーナスをもらうのは許す」といったという。

 

 現在、A課長は「自主退職する理由がない」と、拒否する意志を伝えているところだ。そのほかの署名した社員たちも「なぜ嘆願書を書いたのか」と会社側から追及されているといわれ、嘆願書・署名名簿をこともあろうにハラスメント当事者にひき渡したサンデン交通本社の対応が問われるところとなっている。

 

 嘆願書に署名したさい、社員たちはみな、本社が来て混乱を解決してくれることを期待していた。しかし、サンデン交通本社の対応は、解決どころか報復措置を容認しているとしか見えないものとなっている。「片方のいい分だけ聞いて嘆願書を突き返し、なかったことにされた。今の時代に、会社が1人に対して辞めろなどということはあり得ないのではないか」と本社の対応を問題視する声は強い。

 

 清水英治社長は、サンデンバスの出身で、サンデン交通労働組合の執行委員長をしていた経歴を持つ。タクシー関係者たちによると、下関山電タクシー社長は5年の任期で交代するが、労働組合出身者が社長になるケースが多いようである。労働組合出身者が労働者を守るどころか退職強要も辞さないというなら、サンデン交通労働組合の存在意義も問われるところだ。

 

社員ないがしろにする体質 会社の存続憂う社員ら

 

身内企業のパワハラ問題への決断が注目される林代議士

 社員たちは「このままでは会社の存続が危うい」と危機感を語っている。10年前には約130人いた乗務員も、今は60人ほどに減少しており、その多くが70代だという。「新しい人が入ってこれる環境にするために改革が必要だ」と改善を求める声と、それをよしとしない社長との対立が根底にあるようだ。「タクシーに不向きな車種を社長判断で購入し、使われずに放置されている」といったことも、社員たちが経営を心配する点として語っており、どちらが会社のことを考えているのかわからないような状況でもある。

 

 いずれにせよ、人手不足が深刻なタクシー業界において、もっとも大事にすべきは社員であり、それをないがしろにする企業はしっぺ返しを食らうことは疑いない。ましてや毎年2億円前後の補助金(公金)が投入される公共交通機関であり、総理大臣を目指そうかという代議士の出身企業(林家の同族経営)である。より一層のコンプライアンス意識が求められることはいうまでもなく、「日本の舵取りの前に地元身内企業の舵取りが求められる」との声もある。

 

 この件について、サンデン交通本社に見解を求めたところ、「社内の問題なので、この件に関してはお答えできかねる」という返答だった。サンデン交通がこのままパワハラや不当な退職強要を容認するのかどうか、対応が注目される。

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この記事へのコメント

  1. 海の若大将 says:

    社内の処遇やパワハラをめぐっての内輪揉めは良くある話で、記事だけからは、何とも評価しがたい。ただ日常的に宇部空港の往復に山電タクシーを使う身としては極めて大きな不安を感じざるをえない。処遇への不満、人間関係のもつれ、人員不足からくる過密スケジュール等が重大事故につながる例は多い。大事故が起こってからでは手遅れであり、是非早期に市当局や運輸管理局等行政の場に持ち込んでいただきたい。事故が起こってからでは遅い。

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