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気炎上げる林派、安倍派はそっぽ どうなる?衆院山口3区 自民党離れは加速 林芳正の地元入りで浮き彫りに【記者座談会】

「林よしまさ文月の集い」で登壇した自民党山口県連所属の国会議員や県議ら(7月21日、下関市)

 下関市の海峡メッセで7月21日、林芳正後援会主催のパーティー(参加費4000円)が開催され、林派の支援者を中心におよそ1000人が集った。岸田政府のもとで内閣官房長官をつとめる林芳正の地元入りとなり、来年10月までにおこなわれる次期衆院選に向けた新山口3区の足場固めとなった。内閣支持率が低迷するなかで解散総選挙をするわけにもいかず、死に体と化している岸田政府であるが、9月の自民党総裁選、さらには来年夏の参院選、来年10月の任期満了にともなう衆院選と国政選挙が迫るなかで、代議士界隈の動きも活発になっている。下関を含めた新山口3区では、安倍晋三が銃殺された後、長年二番手で冷や飯を余儀なくされてきた林芳正が選挙区を奪取し、目下「長州9人目の宰相に」と林派だけが気炎を上げている状態にある。地元には四半世紀にわたって主流派を占めていた安倍派もいるなかで、いったい新山口3区はどうなろうとしているのか、様子を記者たちで分析してみた。

 

◇◇    ◇◇

 

林芳正代議士

  21日に海峡メッセで開かれた「文月の集い」にはおよそ1000人くらいが集まっていた。同じ下関でも安倍晋三が地元で開催していた新春の集いとか後援会のパーティーと比べると、人数的には明らかに少ないのが特徴だった。林派の催し物だからそんなものなのだろうが、安倍派のおもだった面々というか、選挙でも旺盛に動いていたような人たちの姿がほとんどなかったのも印象的だった。事前に案内もされていなかったようで、「文月の集い? なにそれ?」という人も少なくなかった。次の衆院選を睨んだ足場固めなら、安倍派をどう取り込んでいくかが最大の肝になるのだろうが、あまり進展はないのだろう。

 

 もともとが林の支持基盤ではないから、おそらく縦系列や連絡網の接点もないのだろう。自民党支持のおもだった企業等には声がけできても、末端までには及ばない。安倍事務所から支持基盤やノウハウを引き継いだ訳でもなし、「さあ、いまからは林派の時代だぞ!」と同じことをやろうといっても無理があるのは否めない。同じ自民党の国会議員といっても、安倍事務所系列で統率されていた企業や支援者は基本的にフリーの状態で、自民党だからといって「次の衆院選は林芳正を支持する」という訳でもない。だいたい「林芳正のために!」という熱量が皆無なのだ。下関ではむしろ自民党員がすごい勢いで減っていることが話題になっているくらいだ。

 

 B 私設秘書の人数としても安倍事務所の体制に比べて林事務所は及ばなかったし、安倍晋三の生前は芳正本人が隣の旧山口3区に鞍替えして、秘書たちも宇部市の俵田邸を拠点にしていたくらいだ。下関には「出戻り」なわけで、一回捨てた郷土に「安倍晋三が死んだからやっぱり戻ります」という格好にもなっている。林家が代々、代議士として地盤にしていた選挙区ではあるものの、ここ何年かの手薄な状態から再び組織していくとなると、いまのように林派の面々だけが「これからは林派の時代だぜ!」みたいな調子で沸き立っても、浮き上がるだけなのではないか。ちょっと根無し草が浮いているという印象なのだ。

 

林芳正後援会が開催したパーティー「林よしまさ文月の集い」(7月21日、海峡メッセ下関)

 C 文月の集いも、まさに「浮き足立っている林派」「冷め切って距離を置いている安倍派」が可視化されたような印象だ。そして、パーティーでみなを驚かせたのが、来賓として招かれていた県選出の国会議員たちを差し置いて、県議会議長の柳居俊学が真っ先に挨拶したことだ。こうした政治家のパーティーでトップに誰が挨拶するのかは、冠婚葬祭みたく序列みたいなものがあって、主催する側の意図や配慮がにじむものだが、県知事の村岡よりも先に柳居俊学がマイクを握り、その後から村岡が挨拶することになった。通常ではあり得ない順番に、大半の参加者が「えっ?」と絶句していた。

 

 下関での催し物にたとえると、来賓として市長、議長が招かれている場で、香川議長が先陣切って挨拶して、前田市長が二番手に回されるのと同じだ。要するに誰がその場のボスであるかを物語っているわけで、自民党山口県連のボスは柳居俊学であり、村岡県知事よりも後に挨拶させるなどもってのほかという配慮がなされている。「自民党山口県連の天皇」「山口県政の天皇」などと揶揄する人もいるが、まぎれもなく上座にいるのだ。

 

柳居俊学県議会議長

  村岡県知事からすると、安倍晋三に取り入って官僚から知事に転身したものの、県庁や県議会では柳居俊学の影響力が強すぎて好きにさせてもらえず、安倍晋三逝去で完全に後ろ盾を失って、もはや柳居のいいなりになるほかないのだろう。飾り物みたくなっている。この柳居と林のタッグで旧山口3区での河村建夫追い出しも実現したし、長門市長選や萩市長選でも自民党山口県連すなわち柳居の介入によって、林派が市長ポスト争奪に乗り出した。いずれも失敗に終わったが、安倍派のなかには林が新3区に君臨していくことと併せて「柳居俊学が下関に手を突っ込んでくる」と警戒している人は少なくない。安倍派の県議会議員どもも、柳居に頭が上がるものがおらず、へこへこしている状態なのだそうだ。

 

 D 文月の集いでは、来年夏の参議院選が控える北村経夫が挨拶したくらいで、旧4区から安倍後継として国会議員になった吉田真次は紹介のみ。乾杯の音頭を任されたのが、なぜか自民党山口県連所属で比例中国ブロックから国会議員になっている杉田水脈で、これまた林芳正を思いっきりヨイショして取り入ろうと必死なのがありありだった。今度は林芳正なり柳居俊学に気に入られようという魂胆なのだろうか。次の国政といっても、杉田水脈はもともと山口県民でもなんでもないし、安倍晋三がお気に入りをねじ込んだだけといわれ居場所などない。自民党山口県連のなかでの居場所確保も大変なのだろう。安倍派の人たちのなかでは「これまで散々、安倍先生、安倍先生!と群がっていて、あの様はなんだ」とぼやいている人もいる。

 

  あと、公明党の比例中国ブロックの代議士が来賓の挨拶をしたが、これまで安倍のパーティーで挨拶することはあっても、林が主催する集いで公明党が挨拶したことはない。これからは林派と組んでやっていきます――ということなのだろう。さすが、強者にすり寄るプロフェッショナルとでもいおうか、公明党は抜け目がない。

 

  文月の集いは冒頭取材だけ入ることができて、乾杯の段になって記者はみんな閉め出された。会場入り口では、西中国信用金庫の職員たちが動員されたのか、参加者の鞄を開いて持ち物チェックしたり、なんだかスタッフみたく動き回っていたのも印象的だった。林派傘下の企業からも動員されたのだろう。

 

 D 斯くして「林派だけが大喜びで気炎を上げている」とは俯瞰(ふかん)してよく言い表したもので、まさにそんな感じだろう。市議会議員や県議会議員などは、大半が潮の流れを察知して林派に取り入り、これまで「安倍先生、安倍先生!」といって安倍派のような顔をしていた連中も含めて、今度は林派に媚びへつらっていくという流れもあるなかで、では全体がそうなっているかというとそうではない。議員どもは市政、県政での利権やポジション争奪もあって節操もなく門徒替えをやるが、選挙区全般としては冷めている。

 

 そして、これまでは主流派だった安倍派も流れ解散的な感じでバラバラになりつつあるし、新たに吉田真次が安倍派の代議士として地盤を引き継ぐといっても、土台無理なものは無理なのだ。相手にされていない。安倍派としては後援会長も逝去し、ゴッドマザーといわれた安倍洋子も逝去し、岸信夫も人前に出られないほど容態が悪いといわれるなかで、新山口2区に岸信千世が挑むといっても、それこそ柳居俊学に怒鳴られ回されているような状態だ。戦後からこの方続いた岸家の政界での影響力は消滅に向かっている。県政界でも同じで、安倍&岸兄弟で好きにしてきた時代は終わったことを物語っている。

 

 そうした安倍派解体&フリー転向のもとでの林派の台頭ではあるが、同じ自民党だからといって安倍派の面々をそっくり林派が取り込める訳でもない。むしろ、そっぽを向いている人も多いなかで、デビュー戦となる新山口3区初の選挙だけは近づいている。さあ、林芳正はいったい何票とれるでしょう? が注目されているわけだ。

 

盤石とはいえぬ情勢 燻る禍根に離党も増加

 

  新山口3区は、下関市、長門市、萩市、美祢市、山陽小野田市、阿武郡が選挙区となる。旧3区の宇部市を除いた自治体と旧4区が合併した形だ。林芳正としては河村建夫追討で萩市、美祢市などには先行して足場を作ってはきたが、そのさいに河村派からは恨み骨髄で、しこりは残ったままだ。

 

 萩市長選では河村実弟に対抗馬をぶつけ、自民党山口県連を挙げて支援したが敗北し、長門市長選でも林と柳居がねじこんだ対抗馬が安倍派現職に敗れるなど芳しくない。地元有権者からすると、自民党山口県連といってもよそ者にほかならず、「よそ者が手を突っ込んでくる!」と猛反発をくらったのが現実だ。今回、長門市でもパーティーをやって、その場に江原市長が参加したというが、市長が角を立てないように参加してポジショントークはしても、選挙で死闘をくり広げた支持者たちの感情は別物だ。

 

 萩でも長門でも林派の市長は誕生しておらず、足場としては心許ない。むしろ保守層のなかの半分に恨みを買ってきた関係だ。それで「あつものに懲りてなますを吹く」なのか、さすがに下関まで安倍vs.林戦争が勃発した日にはたまらないと日和ったのか、次の下関市長選には林派の対抗馬をたてるのではなく、安倍事務所の秘書上がりの前田晋太郎を取り込む作戦に切り替えたようだ。安倍晋三のおかげで市長ポストを得たのに、前田晋太郎も前田晋太郎で移り身が早い。議長の香川が出馬するという見方もあるし流動的ではあるが、衆院選がいつおこなわれるかわからない現段階ではガチンコのバトルだけは避けたいのが本音だろう。今のところは波風を立てない動きになっている。

 

 B こうして選挙区の情勢を見たときに、林芳正の新3区デビュー戦は野党の対抗馬が貧弱である限り負けることはないにしても、決して盤石とはいえないことがわかる。「これからは林派の時代だ!」「長州9人目の宰相に!」と興奮して気炎を上げるのが林派だけで、そのほかの大半が冷め切っているか、むしろおもしろく思っていないなかで、上滑る可能性すら秘めている。だいたい自民党支持層がばらけている状態だ。

 

 A 新3区としては初の選挙になるし、その得票数はある種のバロメーターにもなるのだろうが、自民党に対抗馬はいないのに、プチ保守分裂選挙みたいなものになるのだろう。感情的な溝が存在している。選挙区で進行しているのは要するに「自民党離れ」なのだ。下関でも自民党員の離党があいついでいるというが、安倍派の人々の心境を聞いていてもそれは自民党離れを感じさせるものがある。自民党支持者のなかでも、統一教会とのズブズブの関係であるとか、裏金問題すらうやむやにしたままやり過ごすことへの批判であるとか、権力を握った者がおごり高ぶって私物化をすることへの批判は強いし、だからこそ安倍晋三も最後の選挙となった2021年の衆院選では10万票をとれずに8万票まで減らした。まあ、林派のサボタージュも効いたのかもしれないが、選挙区において、急速に支持を失ったことをあらわした。その流れはいまもって続いているし、むしろ加速しているといえるのに、「これからは林派の時代だ!」などと興奮しているのだとしたら世話はないように思う。

 

 C こと選挙という点について安倍派の人たちや林派の人たちとも話になるのが、安倍、林の選挙の違いについてだ。林の選挙を支援している関係者がぼやいていたが、「安倍晋三はどんな運動員に対しても、本人からお礼の電話がかかってきていた。それぐらい配慮がある。それに比べて林は一切挨拶しない。ありがとうが言えない。林芳正の選挙に携わったスタッフは、もちろん電話もないし感謝されたことがない。企業を回った場合、票を持っているような相手にはすごく頭を下げるが、一番身近で下働きをしているスタッフには頭を下げない。そういうのが選挙になると響いてくる。人に好かれないといけないのに、その人情がわかっていない。坊ちゃんだからお膳立てされてそこに行けばいいだけ。本当の選挙をやっていないから泥臭さがないんだ…」と――。

 

 安倍晋三を褒めるわけではないが、林芳正については「坊ちゃん育ちで頭を下げきらない」と昔から定評がある。

 

 A 長年、安倍晋三がいるおかげで選挙区がもらえず参院議員をやってきて、2021年の衆院山口3区が実質的には初の選挙だったといえる。参議院選なんて、自民党山口県連に頭を下げさえすれば当選できるという山口県の構図のなかで、こういったらなんだが、苦労もなく得たポジションだ。従って、政治家として選挙で鍛えられるという経験は皆無といっていい。

 

 B 問題は新3区にせよ、まともな対立候補がいないことだ。野党不在というか、自民党支配の枠のなかにすっかり取り込まれて牙を抜かれ、翼賛化して対抗勢力がいないという現実がある。それでせいぜい共産党が負け馬を擁立して、次の市議会議員選挙のために顔を売るとかが常態化している。山口県内では新2区がもっとも注目されるが、1区と3区については展望がない状態だ。

 

ケジメなき政治に審判 注目される山口2区

 

 A 2区については、それこそ岸家の御曹司として岸信千世が挑むが、これに平岡秀夫が立憲民主党から対抗馬としてぶつかる構図だ。前回の補欠選挙でそこそこ肉薄して、今回からは新たに周南市も選挙区に含まれることになるが、やりようによってはひっくり返す可能性がある。2区は上関原発問題や米軍岩国基地問題を抱える地域で、昨年からは上関への放射性廃棄物処分場建設すら持ち上がっているなかで、とても有権者の政治意識は鋭いものがある。

 

 平岡秀夫は2000年代に佐藤栄作の息子である佐藤信二を打ち負かして代議士になったが、その後、民主党政権の裏切りに幻滅した有権者からそっぽを向かれ、そこに岸信夫が出てきて連敗してきた経緯がある。補欠選挙では無所属で挑み、原発や基地問題についても自由に演説していたことが功を奏していた。今回は立憲民主党ということだが、歯に衣を着せて言いたいことの一つも言えないような選挙になると目はない。岸信千世が落選ということになると、岸家としては消滅に向かう。戦後政治の精算ともいえる側面を持っており、これはこれで注目されると思う。それこそ2区は柳居俊学の地元なわけで、仮に敗北でもした場合、「よその選挙区に手を突っ込む前に、自分のところの代議士ポストをどうにかせい!」という自民党山口県連内の不満がくすぶることにもなるのだろう。

 

  誰の目から見ても岸田政権はレームダックとなっているが、内閣支持率も15%とかの状態でズルズルと続いている。いずれにしても衆院選は来年10月までにはおこなわれる。この選挙では、安倍晋三―菅義偉―岸田文雄と続いてきた自民党政権への強烈な審判が問われる。「保守王国」などといわれてきた山口県でも少なからぬ変化は反映するだろうし、声なき声を表に出していけるような選挙にすることが切望されている。

 

 有権者の5割が投票を棄権し、支持率が公明党とあわせてたかだか25%程度の政党が権力ポストを握りしめて腐敗堕落しているというのは、統一教会との密月だったり、裏金を好き放題に懐に入れているとか、この間浮き彫りになってきた事実だけ見ても歴然としている。大企業やアメリカのいいなりの政治家なら何もなかったように無罪放免で、平然と国会議員バッジをつけているとか含めて、ケジメもなく異常極まりないのだが、それが現実だ。

 

 すぐに世の中が180度変わるようなことはないし、紆余曲折しながら変化していくのだろうが、既存の政治を突き破っていかない限り、まともな社会にはならない。山口県でもそうした力が個々バラバラな状態に置かれ、組織化されていないが、とくに政治に幻滅している5割にこそ思いは鬱積しているという実感がある。自民党の腐れ政治を乗り越えようという場合、5割とまではいわないでも、3割を動かすことができれば凌駕できるわけで、そこに挑んでいく政党が台頭して力を得ていくことが切望されている。

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