下関市豊北町粟野にある医療法人豊愛会豊北病院(伊藤實喜理事長・平石貴久院長)の閉鎖が決定した。スタッフへの給与未払い、取引業者への未払いをはじめ、医師不在や数々の不正行為、命と健康を守る医療とはとてもいえない患者の扱いなどが明らかになって2カ月。この間、行政からまともな指導が入ることもなく、医師不足等が改善されることもないまま、むしろさらなるスタッフへの給与未払いが起きるなど、状況は誰がみても悪化してきた。昨年12月の記者会見で病院側がのべていた、「スタッフ給与の未払い分を12月末に払う」ことや、「事業者への未払いは黒字化が見込まれる(今年)3月に払う」という話は吹っ飛び、1月末まできて病院そのものを閉鎖することが決まった。僻地医療を担ってきた豊北病院で何が起こっていたのか、閉鎖が決まるまでの混沌とした過程について記者たちで整理してみた。
閉院で帳消しにはできぬ無責任な対応
A 1月25日までの動きは前回の記事(1月26日付)で報じた通りだ。今回はその続報となるわけだが、簡単に振り返ると、未払いとなっている昨年12月分給与(給料日は12月28日)が支払い期日となっていた1月12日に払われず、次の支払予定日とされた1月22日にも払われなかった。1月20日、豊北病院の実権を握るコンサルの(株)Gateway(以下、ゲートウェイ、東京都港区元赤坂)代表の石川圭一氏が、残っているスタッフの前に説明にあらわれ、22日の給与支払いは難しいこと、23日~25日にかけて東京に行き、お金を支援してくれそうな会社の面接を本人が受けてくること、返事は26日になるとの説明をした。加えて、その会社の支援が受けられれば1月29日に未払い分は払えること、そのさいは豊愛会はなくなって新しい法人になるともいったという。また、支援を受けられなければ倒産し、給料ももらえなくなるとのことだった。
B その後どうなったのかが注目されていたが、関係者の話を集約すると、1月26日に「新しい法人が見つかったようだ」という話を看護部長がスタッフたちに伝えている。そのさい看護部長は、「新しい法人」が30日に残ったスタッフと面談し、残るのであれば未払いの給与を払うが、残らないのであれば払わないと「支援してくれる人」がいっている、とのべたという。「新しい法人」や「支援してくれる人」が本当にいたのか、本当にそういったのか、看護部長がスタッフを引き留めるためにいったのかは不明だ。スタッフが「払うなら残ってやってもいい」ならまだわかるが、「残れば払ってやる」というものだ。
A 1月30日にゲートウェイがつなげたと思われる別のコンサルが豊北病院にやってきた。彼らは豊北病院に残っているスタッフに対し、「未払い給与があることはまったく知らなかった」「これだけの収益(助成金も含め)があるのになぜ赤字になるのかがわからない」「豊愛会は残す」「ゲートウェイは撤退」「今後は経営をスタッフでおこなっていく」などと発言したという。この段階で数日前の「新しい法人」の話はどこかに消えてしまっている。
そしてひどいのはここからで、「今後の経営をスタッフでおこなっていく」内容として、その場で残ったスタッフ全員に理事になることを提案し、今後はお金の流れも明確化(見える化)していくとも話したようだ。スタッフたちは患者を心配していたし、未払い給与をもらえなくなることや職を失うことへの不安も抱えていた。そのようなところにいわゆる「うまい話」が転がり込んできたわけで、使命感とも相まって「自分たちで豊北病院を再建していくのだ!」と盛り上がったという。
B ただ、冷静に考えればおかしな話なのだ。豊愛会の経営状況はこれまでも書いてきたとおり火の車どころでない。豊愛会の法人登記(2023年11月現在)の資産の欄なんて「金0円(債務超過金2924万3315円)」となっており、「こんなの見たことない」と金融関係者も驚いている。これも2020年12月に登記されたもので今現在の状況は不明だ。さらに昨年からのことを振り返っても取引先業者への未払金、医師や看護師などのスタッフへの給与未払金がある。今後賠償請求だってあるかもしれない。さらには、医師不在でおこなってきた医療や介護事業の報酬返還を行政機関から求められることは明らかだ。
このような豊愛会の理事になれとはどういうつもりなのか。理事になるということは倒産のさいは責任を負う立場になるのが普通だが、そうしたリスクは説明されたのだろうか。はたまた豊北病院の場合は違うというのだろうか。一方で、ゲートウェイは撤退といっていることをあわせて推測すると、逃げるにあたって経営の素人である看護師らをその気にさせ、負債をかぶせて消える気だったのではないかとも思えるもので、それが本当だったらひどい話なのだ。幸い、理事になることを承諾する前に閉鎖(倒産)が決定したようだが、スタッフたちが承諾して理事になっていたらと考えるとぞっとする。
A そして事態は一転し、2月1日、病院の閉鎖がいいわたされた。おそらく1月31日の夜にでも決まったのだろう。その前日までは「自分たちで再建していこう!」となっていたのに、返事をするよりも前に倒産が決まったようだ。その理由としては「支援してくれるところ」が支援を断ったからだそうだ。そして、そのことを1日にスタッフに説明に来たゲートウェイの石川氏は「もう来ません」といって帰っていったという話だ。逃げたというのが多くの印象だ。といっても、ゲートウェイ元代表の川﨑美穂氏については12月末で事務所に来なくなっており、連絡がとれない状況になっていたので、一足先に逃げたのだと関係者たちは口をそろえていう。そして2月1日から患者の移転を行政とともに進めている――というのが現在の状況だ。(追記:2月8日現在、先月までは確認できた株式会社ゲートウェイの公式ホームページは丸ごと削除されている)
介護事業も廃止へ 理事長ら不在のまま
A スタッフに起きてきたことは以上のようなことだ。そして、豊北病院がおこなってきた医療・介護の事業では、外来診療が終了となった。これまで医師不在でやっていたことが問題なのだから、厚生局が停止させたのだろう。入院に関しては、前述通り1日から保健所がかかわって患者の移転(転院・退院)を始めている。しかも電気代未払いにより5日には電気が止まるといわれ、大慌てで移転させているようだ。患者の状態や家族の事情などによって行き先はさまざまで、相談しながら進めているという。通所リハビリについては今月末をもって事業を廃止ということで利用者への説明を始めたようだが、外来も停止したなかで介護事業だけ続けられるはずもなく、これも停止となっているはずだ。大騒ぎになっている。
B 不思議なのはこんなに大ごとになっているにもかかわらず、責任者である伊藤實喜理事長や平石貴久院長は豊北病院には来ていない。伊藤理事長は、「東京上野マイホームクリニック」にいるようだ。2人が週末に来たのかどうかはわからないが、「もう来ません」と去っていったはずのゲートウェイの2人がちょこちょこ出入りしているということだ。理事長・院長不在のままコンサルが倒産手続きを進めているというのも異常な光景だ。そのこと自体、理事長や院長が単なるお飾りか名義貸しだったことをあらわしている。今後、理事長にはさまざまな責任が被さってくるだろうに、その状況をつくってきたゲートウェイに対し「なんてことしてくれるんだ!」と怒ることもないようだ。理事長・院長とゲートウェイの関係も普通ではないし、どうなっているのだろうかと思う。
行政は何をしている? 「市税横領」の声も
A 刻一刻と事態が進むなかで、行政もやっと重い腰をあげ、保健部(保健所)が2月1日から患者の転院・退院調整にかかわっており、市立豊田中央病院の職員が豊北病院にヘルプに入って患者の転院を進めている。すでに数名の患者が搬送された。下関市保健部(保健所)によると、豊北病院の「責任ある代表の方」から「入院医療の継続が困難になった。転院・退院の処遇を考え始めた。保健所として支援してもらえないか」との要請が入り、「すぐさま動け!ということで1日から協力している」とのことだ。
介護事業としておこなっている通所リハビリに関しては、市(福祉部)が何度も病院に連絡し、「今月末をめどに事業を廃止する方向」という答えを聞きだした。病院側は17人の利用者に対して説明を始めているといっているそうだ。しかし先ほども書いたように外来も停止したもとでは通所リハビリもできないので、2月末まで続けることもないだろう。2日には厚生局、保健部(保健所)、ハローワークなども査察に入ったようで、患者の移転からスタッフの処遇に関してまで検査がおこなわれたようだ。大量の書類を持ち帰ったようだし、今後各分野にわたって処理がおこなわれていくのだと思う。
B とはいえ行政の動きが遅すぎた。豊北病院の関係者のみならず市内の医療関係者たちみなが12月以降、「行政はなにをしているのか」という思いを強くしている。医師不在が何カ月も放置されてきているし、患者の命や健康を守るどころか、虐待とも受けとれるような「医療行為」が長らくおこなわれていたからだ。保健部(保健所)も「経営ではなく、患者の命と健康が一番だ」といっているが、そうであれば実際に起きていることを確認すべきだったし、その改善を求めるべきだった。一刻も早く救ってほしいからこそ、関係者は昨秋ごろから通報していたし、昨年末以降、本紙も記事にする前に状況を伝えてきた。倒産という事態まできて「注視してきた(している)」とか「勝手に民間病院には介入できない」とかいっても後の祭りだ。もっと早くに行政指導に入っていれば防げたことだってあっただろうし、同じ倒産でも取引業者の未払い金がまだ少なくて済んだかもしれない。
A 豊北病院にいたスタッフの市県民税(特別徴収)が納付されていないのに、なぜ納税課が動かなかったのだろうかという疑問もある。生活困窮などで払えない市民からとりたてることは推奨はしないが、このような本当に悪質なものほどきちんと徴収するべきだ。スタッフの給与から税金が天引きされているのに滞納者になっているケースもあり、少なくとも破産手続きが始まる前に動くべきだった。「破産したから徴収できない」として処理すればいいと思っているのかは知らないが、実際にスタッフの給与からは抜いているのだから、これを納めていないのは横領ではないのか。
閉院になったからといってチャラになるのだろうか。「倒産したのでとれませんでした」とするなら職務怠慢としか見られない。これまでに幾度回収に足を運んだのか。行かなかったのか。行かなかったのであればなぜしなかったのか、きちんと問われるべきだろう。「注視する」はいいが、いつまでしているかが問題なのだ。こうした行政の保身ともとれる対応が事態を悪化させたことは胸に刻んだ方がいいし、今からでも対応すべきだ。
ゲートウェイは責任とれ 実質の経営責任者
B 倒産という事態を受けて取引事業者もしびれている。覚悟はあったものの、数十万~数百万が回収できないとなると経営にも影響する。ここ数日間は「少しでも未納金を回収したい」と病院で待機する業者の姿もあったようだ。何度も電話をかけている業者もいるが、1月31日をもって最後の事務員が退職し、現在事務室は人員不在になっているという。スタッフには「もう来ない」といって帰ったゲートウェイの2人が外来用車両に乗って2日も来て若干の対応しているようだが、「支払いする気なんて感じなかった」と怒りを買っている。地域の病院だから…入院患者がいるから打ち切るわけにはいかない…と支払いがなくても物品を納入してきた業者もおり、そうした人々の思いをも踏みにじった。
A しかも2日は行政なども入っていたなかで、ゲートウェイの2人は忽然と姿を消してしまったようだ。これまでを振り返っても、事務にいた川﨑氏は1月はほとんど来ていないし、業者が支払いの催促をしてもなんの権限もない事務員がいるだけで「伝えます…」といった対応だった。支払いに対応する人がおらず、「不在のためナースセンターへ」との貼り紙にしたがって病棟に行っても、看護師は支払いに関してはまったくわからず、「伝えます…」しかいわれない。「どうなっているのか!」と怒り心頭だ。
職員の給与に関しては、実際に受けとった給与額と源泉徴収票が違う。昨年6月の給与も満額払ったように記載してあり、全額払われていない昨年12月分も払ったことになっている。そうした偽りの「所得」に基づいて税額や保険料が決まるのだからたまったものではない。源泉徴収票を書き換えて再発行しなければならないが、事務が不在なのでスタッフが右往左往している。本当にひどい状況だ。
取引業者への支払いも含めて、病院の資金の流れはゲートウェイの2人しか知らないようだ。12月末で病院に姿を見せなくなっていた川﨑氏に至っては、外来の売上を頻繁に持って出ていたようだ。一時期はコメを買いに走っていたが、その他はどこにいくらの支払いをしたのかわからない。そしていなくなった。これでは検証も継承もできない。
B 本人もわけがわからなくなったのか、最終的に放り投げていったというのが一連の行動からいえるのではないか。とても責任ある対応には思えない。こんなことは地元の経営者だったらできるわけがない。自分の身を削ってでも対応するだろう。ゲートウェイの指示で病院は運営されていたのだから、ゲートウェイは「もう来ません」ではなく、最後まで責任を持って対応しろ! ということだ。
行政が介入して解決を 翻弄される地域医療
B 豊北町は下関市のなかでも高齢化率がもっとも高い地域だ。最新のデータでは高齢化率は57・8%。医療・介護を必要としている高齢者は多いが、その受け皿となる施設もない。施設があったとて働く世代が少なく労働力が足りない。そうしたなかで豊北病院は唯一の入院機能をもった病院で、以前は地元のスタッフも多く地域住民から親しまれていたし、間違いなく過疎地の地域医療を担っていた。
豊北病院が閉鎖することで今後について心配されている。豊北の医療体制については行政主導で考えていかなければならないことはいうまでもない。豊北地域は医療・介護の市場競争から完全にはじき出された地域であり、これを民間任せにしてきたことも豊北病院の悲劇の一因ではないか。病院があるという事実に甘え、病院といえる状態ではない「病院」運営をずるずると長引かせてもそれは誰のためにもならなかった。もうからない地域だからこそ公共の介入で医療体制について考えなければならないのだ。
A 介護に関していうと、2025(令和7)年10月をもって、豊北町内の核であった特養が一つなくなる。数年前にデイサービスの受け皿も失われており、ずっと前から豊北町の高齢者たちは介護保険料を払っているのに介護が受けられない「介護難民」となっている。医療と同時に介護の実態についても行政は考えなければならない。「住みたい田舎ベストランキング・シニア部門」(宝島社)で1位(人口20万人以上の市)をとったと喜んでいる場合ではなく、そこで暮らす住民の立場に立って真面目に考えなければならない問題だ。
B 豊北病院でのここ数年のできごとは、地方の小さな病院が東京のコンサルに乗っとられ、めちゃくちゃにされたというものだ。故入船院長は生前、事業者に対して配布した手紙で、自分の理想とする地域医療について「医療機関は地域の一部で在り、地域を安定的に支えて行く為には地元企業・地元住民の方々と相互扶助の関係を構築してこそ真価が発揮できる」との考えであったと記している。かかわってきた人からの評価は別として、地域に貢献したいという思いは間違いなくあったのだと思う。しかしそこにつけ込まれ、2008(平成20)年ごろからコンサルが入れ替わり立ち替わりかかわって、入船院長個人の財産や病院の内部留保まで食いつくし、入船院長没後も現在のゲートウェイが診療報酬を可能な限りまで吸いとっていくことをやってきたのだろう。
豊北病院だけでなく、全国の地方で同じようなことが起きているのかもしれない。一般的に医師は医療には精通していてもそのほかに疎い場合も多く、悪質なコンサルや「もうけ話」のカモになりやすいといわれる。しかし、いくら責任者の弱さがあったとしても、人の命や健康がかかった病院経営を乗っ取り、今回の豊北病院のようにコンサル主導で医療崩壊をもたらすのであれば話にならない。こうした連中の餌食になり、苦境に陥った地方の医療機関が破綻に追い込まれるような悲劇を全国的にくり返してはいけない。本紙の報道の意義はそこにあると思っている。
A 2019(令和元)年末の一斉退職時点で、もう豊北病院は長くないと見ていた関係者も多かった。しかしゲートウェイの腹の中は別として、派遣看護師をはじめ優秀なスタッフが一定数集まって、患者に寄り添い尽力してきた。そうしたスタッフたちが患者のために勇気を持って声を上げ、豊北病院で起きていることを明るみに出してきた。
くり返しにはなるが、豊北病院が閉鎖となった今後、豊北の医療・介護について行政が介入して全力でとりくむほかない。ある意味、見て見ぬふりで放置したことでもたらされた事態でもある。市全体でみれば病院統合・新設の話もあるが、公共がおこなうべき医療とはなんなのか、改めて考える機会になるのではないか。
(2月5日付)
『”新しい法人が見つかったようだ”という話を看護部長がスタッフたちに伝えている。そのさい看護部長は、「新しい法人」が30日に残ったスタッフと面談し、残るのであれば未払いの給与を払うが、残らないのであれば払わないと「支援してくれる人」がいっている、とのべたという。「新しい法人」や「支援してくれる人」が本当にいたのか、本当にそういったのか、看護部長がスタッフを引き留めるためにいったのかは不明だ。』
ここの看護部長って植村明美でしょ?
洪水の時にニュースにも出てたけど、部長のくせに責任感無さすぎ。
ゲートウェイの川崎美穂、石川圭一、早々にとんずらした事務してた女とその夫。こいつらの名前は医療業界の人間は覚えておくべき。
豊北病院の資産、故人入船院長の個人資産、コロナで何億もの金を政府からもどこに消えているのか。国は徹底的に調査しろ