春の統一地方選が近づくなかで、都市部、地方を問わず全国的に地方議会の顔ぶれを決める争いがしのぎを削ってくり広げられている。ここ山口県でも山口県議選が3月31日告示、4月9日投開票の日程でおこなわれ、直後には衆院山口4区と2区の補選が4月11日告示、23日投開票の日程で実施される。いまのところ県議選は15選挙区のうち6選挙区が無投票になると見込まれ、衆院補選についてもいまいち盛り上がりに欠ける状態が続いている。山口県における統一地方選は何が争点になっているのか、補選情勢ともあわせて記者たちで分析してみた。
野党自滅がもたらす自民独り勝ちの構図
A いよいよ3月に入り、県議選でいえば選挙本戦まで1カ月を切ったわけだが、2月初旬の市議選に比べても候補者たちの動きが見えない。いったいどこで前哨戦がくり広げられているのだろうか? と疑問に感じるほど陣営や候補者たちの存在感が薄い。
下関でいえば、県議選・下関選挙区の定数9に対して、名乗りをあげているのが現職に加えて万年落選してきた「県議選の名物男」が出てくるのみで、選挙をやるまえから結果がわかっている――というのが面白みに欠ける一つの要因になっているようだ。彼が毎度出馬することで無投票阻止にはなるものの、現職からすれば「選挙で選ばれた」という体裁だけは整えてもらえる関係で、当落に影響ないならこれといって毒にも薬にもならない。実質的には無投票続きといってもおかしくないのが県議選だ。本来なら脅かす存在が出てこなければいけないのだが…。供託金30万円の市議選に比べて、県議選は60万円。あれだけ有象無象が出てきた市議選と比べてもおとなしすぎる。散らし作戦ではないのだろう。
日頃から生態が見え難い「中2階」みたいな存在なのが県議会で、市議に比べても有権者からの監視の目は行き届きにくい。市議に対してはふんぞり返って先輩面を吹かせているし、政党の序列からすると格上扱いされている。しかし、日頃から県政及び選挙区のために何の役に立っているのか分からないのも彼らだろう。独特な存在だ。
B 下関選挙区の定数9の内訳を見てみると、自民党が6でそのうち安倍派が4、林派が2、公明1、共産1、立憲1と棲み分けている。公明はもともと2議席もっていたが、組織票が先細りになる趨勢を読みとって近年は1議席に集中するシフトをとった。今回の選挙では現職の先城が引退して市議だった前東が昇格する。自民党現職は顔ぶれはそのまま。安倍派で見ると、友田が8期目をかけて挑むほか、西本、平岡(安倍事務所秘書出身)、高瀬(瓦そば)、林派では同じく8期目をかけて挑む塩満、林事務所の秘書出身だった林哲也が引退して、その息子が新人として出てくる。共産、立憲はそれぞれ現職が立候補する予定だ。
県議選でいえば、下関ではかつては「市議選3000、県議選1万」というのが安全な当選ラインと見なされていたが、近年は低レベル選挙が常態化している。前回選挙では立憲・酒本の5600票台まで当選ラインが落ちた。これは市議選に毛を生やせば当選も可能といったレベルで、「実質的な無投票状態」だからこそ当選できている面々が幾人かいる。自民党の高瀬や林といっても6000票そこらで決して威張れたものではない。
無投票にはならないので成績表だけはこうして更新されていくが、選挙の度に得票を減らしている実態が浮き彫りになっている。立憲はたかだか1議席を守るのに必死で、どれだけ労働組合なりの組織票が先細っているのかと思わせている。下関市議選での連合系候補者の低得票が話題になったが、はっきりいって消滅の趨勢なのだろう。市議会や県議会において、自民党にすり寄って紐みたく振る舞っている実態に辟易している関係者も多いし、闘う姿勢が欠片もないことが、いわゆる「野党」とも見なされていない要因なのではないか。すでに馴れ合いと惰性の世界に溺れている。従って、いまさら「闘う野党なのだ!」と吠えたところで、なんだか残念プロレスを見せつけられているような空気になってしまい、世間一般としては萎える。
C 斯くして、特段努力もせずに当選だけは見えているものだから、余裕の前哨戦といったところなのだろう。得票はアホみたいに減らすだろうし、成績表は過去最低が更新されるだろうが、脅威になる陣営がいない選挙なのだから、やはり「実質的な無投票」なのだ。余裕をかましているのはそのためだ。必死に挨拶回りをしているとかの話すら耳にしないし、とにかく動きが乏しい。市議選ではじゃんじゃんそうした動きが話題になって飛び交っていたのに、あまりにも落差が激しいものだ。まあ、市議選とリンクして恩義を売って候補者の支持母体をとり込んでいくとか、存在感をアピールするとかはやっていたが、選挙構造そのものは政党間の棲み分けをきっちりやったうえでの無風なのだ。
D 山口県内のよその選挙区といっても同じようなもので、自民党現職に対抗する勢力が弱体化していることから、露骨に無投票をやるところも少なくない。一つには野党解体といっても過言ではない状況が関係している。いわゆる「保守王国」などと表現されるが、そうしたピラミッド構造のもとで残念プロレスで欺瞞してきた野党が自滅していき、候補者擁立すらおぼつかない選挙区が幾つもあるということだ。定数の多い地域では一つ二つの議席を分け与えてもらえるかもしれないが、そうした隅っこ暮らしに甘んじている実態がある。対抗勢力などではなく、その存在感としてはぶら下がった紐なのだ。しかも、かなりたるんでいる。ええ、ええ、緊張感もなくたるみきっている。
国会とて似たようなものだが、腐れ野党の欺瞞のベールがこうして剥がれ落ちている。有権者としては選挙で思いをぶつけたくても、誰でも良いとはならないし、「付き合ってられるか!」(棄権)が5割を占めるという状況については山口県に限らず真剣に向き合わなければならない問題だ。昨今の選挙で低投票率が続いているのは、一つには選択肢のなさが反映しているし、これを「無関心」の一言で片付けるのは政治的怠慢だろう。
そして、「選挙に行かない有権者がけしからん!」といって、ただ悲憤慷慨(ひふんこうがい)するのも矛先が違うのではないか。政治勢力であるならば、そこにどう働きかけていくのか、リーチしていくのか真剣に挑んでいくことが求められるし、またそこにしか勝機はないのだ。裏返せば無限の勝機が詰まっているし、伸びしろしかない勢力として5割が存在していると見られるかだ。日本の政治状況を俯瞰(ふかん)して見たとき、この五割の半分を味方につけただけで自民党の得票など凌駕してしまうわけで、目先思うようにいかないからといって「選挙に行かない5割のバカ!」などといっているような政治勢力には、「オマエがバカなのではないか?」と考えさせないといけない。
日本の政党政治はどう見ても支持基盤が脆弱化している。そのなかでくり広げられる統一地方選についても、くたびれた政党政治に喝を入れることが最も求められている。すぐに何かがどうこうなるわけでもないが、野党壊滅、自民党独り勝ちというしらけた空気のなかで、持って行き場のない思いは一方では充満しているし、政治不信をぶち破っていく過渡期なのだと思う。それは全国的にも普遍的な課題なのではないか。火が着いた日にはすごいことになる予感はある。乾ききった草に火がついたら、燎原の火の如く燃え広がるのと同じような気がする。そういう意味で巷は乾ききっているのだ。
安倍派改め吉田派に? 候補擁立したものの
B ところで、県議選の直後には山口県では衆院山口4区と2区の補選がおこなわれる。4区は安倍晋三の逝去で急遽おこなわれることになり、2区については岸信夫が体調不良を理由に議員辞職したことから実施される。4区には安倍派の下関市議だった吉田真次が擁立され、2区は岸信夫の子息である信千世が出馬する。岸・安倍ブランドが力を失い、首の皮をつなぐといっても引き継ぐ実力者がおらず、右往左往している印象だ。
C 山口4区は結局のところ、「10増10減」の影響で次期衆院選からは消滅する。新3区に統合されて、山口県では代議士ポストが4から3へと減る。このイス取りゲームの過程で自民党派閥同士による攻防戦が激化している。最後の4区については、安倍晋三が亡くなってから候補者選定が進められたもののなかなか決まらず、最終的には安倍昭恵と伊藤後援会長の決定という格好で吉田真次が担がれることになった。
昨年12月末で閉じていた東大和町の安倍事務所だったが、新たに吉田事務所として看板を付け替え、再就職するはずだった安倍事務所の秘書たちも大半が戻ってきて選挙実務に奔走している。畑村も3月6日に戻るとか戻らないとか安倍派の人間が話していた。あの秘書軍団が揃わなければ選挙はまず体を為さないだろうし、4月に入ってからは安倍昭恵がつきっきりで選挙区内の挨拶回りを展開するとかだ。現実的には安倍派としての面子をかけた最後のたたかいになる。新3区に林芳正を戻してなるものか! の意地からしても圧倒的な得票を叩き出さなければ格好がつかない関係だ。
A そうした現状を論議するにあたってどうしても気になるというか、些末なことかも知れないのだが、安倍派改め吉田派と命名した方がよいのだろうか? 吉田派と呼称すると安倍派の面々は「何が吉田派か!」といって怒り出しそうなので、旧安倍派と呼ぶのが正解なのだろうか? ちょっとよくわからないので、どう呼んだら良いのか安倍派の人たちには会った時でいいから、それぞれ希望を教えてほしいとも思う。
「吉田の派なんかではない! 安倍派だ!」というなら、正確には旧安倍派と呼ぶべきだろうし、こっちだって困る。とりあえず、現状では吉田派といってもみんなが「はぁ?」な状態なので旧安倍派としておくけど、今後とも吉田真次代議士体制のもとで地盤を引き継いでいくというなら、必然的にネーミングは吉田派ということになる。「吉田派の西本健治郎(県議)」「吉田派の前田晋太郎」とかになる。なんだか吉田真次の目下の県議や市長みたいな印象で、まるでピンとこないのだが…。あれらの縦系列の序列からするとそうなる。
D 確かに安倍晋三がいなくなった以上、安倍派と呼び続けるのも違うような気がする。ただ、旧安倍派に属してきた人たちには、その人たちなりのプライドもあるだろうし、受け入れがたい現実なのではないか。その後、音を立てて崩れ始めた牙城について、複雑な思いもあるようだ。新3区に林芳正が戻ってくるのを嫌悪しているし、それに対して林芳正も「新3区でたたかいます」と明言できないのが現状だ。これもまた、「石橋を叩いて渡る」どころか「石橋を叩き回して渡る」といわれるほど慎重というか、おっかなびっくりで立ち回っている。「度胸がない男」といわれるのは、そういうところに起因している。
A ただ、傍から見ていて、2月初旬の下関市議選は安倍派の弱体化を端的にあらわしていた。旧安倍派になっていく過程でもあるのだろう。頭がいない以上、新3区への再編では防衛戦を強いられているわけで、なんだか防戦一方のようにも見えて仕方ない。安倍支配のピラミッドの構造を崩してなるものか! と抗ってはいるのだろうが、市議選では安倍派が共倒れして議会でも最大会派としてのポジションを失った。どう見ても林派に勢いがある。相撲でいうところの、張り手からの突っ張り、突っ張りで、のど輪をひっかけているような光景だ。それを第三者たる我々は、「のこった、のこった!」と行司役みたいなことをして眺めている。どっちが勝ったからといってどうってことない。
下関市議会の形成逆転 「みらい」がポスト独占
B 兎にも角にも、下関では議長選の結果、香川が議長になり、安岡が副議長になった。そして常任委員会の主要ポストも選挙後に最大会派に成り上がった「みらい下関」が総なめにして、議長選で手を組んだ「市民連合」にも枠を与えてやり、余り物を「創世下関」が分け与えられた格好になった。極めて惨めな扱いを受けている。委員長ポストについての相談や事前合意もなく、みらい下関が創世下関を完全に袖にして決めてしまった。この数年来に渡って、議長・副議長ポストはじめとした主要ポストを独り占めにしてきた創世下関だったが、こうも立場が綺麗に逆転するものなのかと驚かれている。あまりにやり方が露骨なため、みらい下関も少しやり過ぎだろうといわれているくらいだ。
D この議長選の過程で、旧安倍派で構成する創世下関は改選の結果5人まで縮小してしまい、数の上ではどう考えてもみらい下関に及ばなかった。みらい下関といっても旧安倍派に足を突っ込んでいた者も含まれるわけで、林派と安倍派の冷や飯組の寄り合い所帯みたいな側面があった。
安倍在任中は安倍事務所と直接つながった創世下関が我が世の春を謳歌していたし、なんでもかんでも「安倍事務所に聞いてみる」「安倍事務所が○○といっている」といわれれば、みらい下関としてはそれ以上抗うことができない関係に置かれていた。いわば自民党会派の二軍みたいな存在だった。市政にまつわる情報も前田市長及び創世下関(市長の出身会派)に牛耳られて、「亀田、井川、阪本、吉田の4人が好きにしている」ともっぱらだった。
ところが市議選を経て、林派としてはテコ入れした新人も幾人か当選させ、みらい下関は一躍12人の最大会派に昇格した。創世下関のメンバーとしては「安倍派としての再結集」を呼び掛け、みらい下関のなかでも安倍派寄りの木本、田中、星出の3人を中心に引き抜きをはかったと見られている。2人で1セットといわれる戸澤、東城にも声がかかったようだ。ところが股割きになって創世下関になびいたのは星出ただ1人で、どうしようもなくなって自民党会派ののけ者だった関谷にまで声をかけて引き込んだ。関谷まで創世下関の会派入りをするのだから、これまでの経緯からして、もう恥も外聞もあったものではないのだが、それだけ追い詰められていたのだろう。とにかく七人まで頭数を増やして、公明党の5人とタッグを組んでようやくみらい下関と並ぶ12人を確保した。
しかし、ここでキャスティングボートを握ったのが市民連合だ。創世下関+公明みらい下関の議長選争いが12対12で拮抗するなか、労働組合を基盤にした山下、濵岡、秋山の3人組がどっちにつくのかが勝負の鍵を握った。安倍派凋落の局面で林派と手を握ったのがこの面々で、そうなると創世下関としてはもはやどうしようもなかった。
負け戦となる議長選には候補を担がず、しかし「香川議長体制だけは我慢ならない」という思いから、公明党ともども白票を投じるという挙に及んだ。公明党は昔から安倍派とタッグを組む補完勢力として認知されているが、ここでも白票を投じるという共同行動をとった。創世下関としては「せめて議長が木本なら投票には応じる」という格好で粘ったようだが、それをみらい下関側ははねつけた。安倍派及び創世下関の総反発があることは百も承知の上で、白票だらけの議長選の結果、香川・安岡体制を押し切った格好だ。
ある意味、これは宣戦布告にも似ている。あぁ、始まったな…といった印象だ。「それにしてもやりすぎ!」が庁舎内外の大方の反応だ。これまで好き放題に議会を牛耳ってきたのだから、そっくりそのまま我が身に跳ね返っただけといえばそうだが、まるで立場が逆転した。
A 市議選後、一つにはみらい下関の再分割が焦点になったが、旧安倍派所属だったはずの数人がなびかず、流れを読んで勝ち馬のみらい下関から離れなかった。いまさら少数派に与しても損ではないかという判断が働いたのだろう。ならば新しい時代すなわち林派が天下を握っていく趨勢に与して身を任せた方が得で、「安倍さんは亡くなったのに、いつまで安倍派なんていっているの?」などと口にする者までいる。これを薄情というのか、合理的というのかはわからないけれど、正直といえば正直。市議選を経て明らかに流れは変わったし、海底で激しく潮がぶつかりながら逆流がうねり始めたということだ。
みらい下関は単純に全員が林派ではないし、先程あったように安倍派と林派の寄り合い所帯みたいなものだ。前回選挙でも得票が見込めず、母親が安倍事務所に土下座して票を割り振ってもらったといわれる男とか、さまざまいる。議長になった香川といっても学生時代から安倍事務所にかわいがられて育てられたような男だ。実兄が江島市長時代に社会人採用で役所に採用され、秘書課長を務めたり江島ブレーンとしても有名だ。これらの面々を林派が上手に取り込んでいくのだろう。
D 香川が議長になることについて旧安倍派が敵愾心を燃やしているのは、次の市長選で前田晋太郎体制が揺らぐという危機感からだ。議長を経て市長に躍り出てくると見なしている。香川はもともと安倍事務所とのつながりも濃いが、市長になりたくて仕方がない男として知られてきた。かつて友田、中尾、香川で三つ巴の市長選を戦ったさい、友田が割って入ったのを受けて、安倍事務所の老秘書が「友田のバカが!」とぼやいていたのを覚えている。「本命は香川だったんだな」と思ったくらいだ。市民派としても仕込みをしていたし、当時はまさか安倍事務所の秘蔵っ子だなんて思っている人も少なかったが、友田が市長選に割り込んだおかげで、江島後の市長ポストは遠ざかった。その後はなかなかタイミングがなく、安倍派が前々回選挙から前田晋太郎を市長に担ぎ上げて自分に目がないとなると、林派に取り入って市長候補として躍り出るという道を選択しても、さもありなんと大方が見なしている。旧安倍派としては、それは節操がないとして腹を立てるのも無理はない話なのだ。
2区も4区も票数に注目 有権者の審判は?
B いずれにしても潮目は変化している。議会が香川・安岡体制になったことは前田晋太郎にとっては相当なプレッシャーだろうし、先立つ衆院山口4区補選、次期市長選、次期衆院山口新3区と数年のうちに連続して節目の選挙を迎えていく。このなかで、県議選は面白みに欠ける選挙になるとして、直後の衆院山口4区がどうなるのかは大いに注目されている。
安倍晋三は最後の衆院山口4区で前回選挙から10万4000票から大幅に減らしてかつがつ8万400票そこらだった。それ以前は10万票を余裕で叩き出していたが、第二次安倍政権を通じて地盤は存命中からすでに弱体化の趨勢にあった。今回の補選で吉田について「圧勝」といっていいのは10万票台を叩き出してからだろう。
A ただ、林派が選挙協力するのか? という疑問がある。決起大会に顔を出したとかの表面的な話ではなく、実態においてだ。新3区に戻ってくるな! といわれながら選挙協力するわけがないだろう。とはいえ林派の協力があってはじめて10万票台を叩き出せるのも事実であり、これが無言のボイコットなんてことになった場合、安倍派+公明党だけで果たしてサマになるのだろうか。しかも担ぎ上げるのは吉田だ。いったい誰が相手にするのだろうか? とは思う。
だいたい、安倍派だけ見ても吉田真次が次なる我らが大将などと思っている人間は恐らく一人もいない。先輩市議や県議たちになるとなおさらだ。「吉田派の西本健治郎」などといわれたら恐らく西本は腹を立てるだろうし、あの男は前田晋太郎が衆院に移って、自分が市長ポストに就きたいのが本音ではないか。吉田が補選候補に担ぎ上げられることについて、どんな感情を抱いているのだろうかと思う。先輩を飛び越していくことになる。仮に自分が西本本人だったら、補選応援で壇上に立たされたとして笑えない感情しかないと思う。
D 4月から安倍昭恵が付きっきりで吉田の応援に入るというけれど、本気で応援するなら4月といわず3月から入ればよいではないかという安倍派内部からの不満も耳にする。いかにもアリバイ的な感じに映っている。先日、岸田文雄が補選のテコ入れなのか下関にもやってきて、シーモールパレスに自民党関係者が集められていたが、いざ選挙実務についての具体的な話に及んだ段に、席に残っていたのは創世下関の議員たちばかりで、他はみなそそくさと帰っていたのも印象的だった。市議会ではバチバチのバトルをくり広げているし、亀裂が入ったまま衆院補選も迎えることになる。
B 一方で四区補選には立憲民主党が統一教会問題を追及してきた有田芳生を擁立するという。だが、選挙過程での統一教会問題の暴露には注目が集まったとしても、選挙で勝てるかどうかはまた別問題だ。これまた、立憲民主党が4区においては市議1人、県議1人という体たらくで組織的にも弱体化が著しい。要するにぶっつけ本番の風任せなのが現実だ。従って相手が吉田真次ではあるが「ひょっとしたら勝つかも」なんてことはあり得ないから面白みに欠けている。日常的な政治勢力結集のための営みが乏しいのだ。
D とはいえ、吉田真次が何票叩き出すのかは新3区のイス取りゲームにもつながってくる。ダメだこりゃの数字になった場合、「林芳正を新3区に」の動きがいっきに強まるだろうし、第三者から見ていると、林派はうまいことボイコットして恥をかかせた方がその後につながるような気がしてならない。小商人(こあきんど)的な発想になってみて、損得からするとそうなるし、選挙区における安倍昭恵の影も排斥していくことになる。プレッシャーをかけていく意味でも、シレッと放置して安倍派オンリーの補選をやらせてみるというのは現実的だ。8万票そこら以上の衝撃が走ることになる。しかし、諸刃の剣で返す刀が林派にも向いてくる。新3区はそのように自民党自体が厄介な矛盾を抱えている。
A いまさらスマートに事を運ぶといっても無理で、下関市議会の議長選で林派としては宣戦布告しているに等しい。当然、市長ポストも剥ぎ取りにいくだろうし、新3区に戻ってくるのも時間の問題だろう。対して、旧安倍派としては補選の結果如何によってはさらに凋落の道を進むことになる。苦し紛れの吉田擁立がどうなるのかは注目だ。秘書が戻ってきて同じように蠢くといっても、御輿に担いでいる人間が別人でもあり求心力が問われる。
B 2区についても信千世が岸家の世襲をかけた選挙をするようだが、これまたどんな得票になるのかは注目される。2区についてはいまだに対抗馬が見つからず、どの道当て馬くらいしか出てこないから有権者は興ざめしている。
こうして1区高村正大、2区岸信千世、3区林芳正、4区吉田真次となり、このうち新3区を林と吉田が争っているのを見ていると、まことヒヨコ揃いみたいに山口県選出の代議士の顔ぶれは変化している。岸・安倍ブランドの凋落によって、今後は県政界のパワーバランスも微妙に変化していくだろうし、次期衆院選の候補者擁立については自民党県連内での攻防も注目されることになる。
A 対抗馬がいないなら選挙には勝てる。当然だ。目下、山口県では保守同士のイス取りゲームばかりが加熱しているが、こんなものは所詮私物化争いにすぎない。問題は、国政政党としてはいわゆる野党も存在していながらまるで県民に相手にされておらず、その支部に属する面々も片隅の隅っこ暮らしで充足していることだろう。この野党再編というか、一度既存の枠組みをぶっ壊して、新しい政治勢力を再結集することが求められているのではないか。立憲民主の迷走ぶりは泉になってから顕著だが、野党と見なしている人がどれだけいるのかだ。悶々とした政治状況を打破していく道筋がいる。
統一地方選は、そうはいっても安倍、菅、岸田と続いてきた自民党政治への審判が問われる。その結果が何を物語るのかは注目だ。