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補償なき埋立工事は違法――上関原発計画をめぐる中電訴訟について 明治学院大学名誉教授・熊本一規 

 中国電力は1982年に山口県の熊毛郡上関町への原発建設計画を打ち出して以来、40年余たっても建設工事に着工できていない。2011年3月に福島第一原発事故が発生し、原発をめぐる社会状況は大きく変化しているにもかかわらず、いまだに旧態依然とした計画を撤回もせず、今年10月には期限が切れる公有水面埋立免許延長を山口県に申請すると同時に、祝島の漁民がボーリング調査を妨害しているとして、山口地裁岩国支部に提訴している。この問題をめぐって17日、漁業権問題にくわしい明治学院大学名誉教授の熊本一規氏がオンライン学習会で中国電力の訴状の論点を整理したうえで、その誤りを以下のように指摘している。以下、紹介する。

 

*       *

 

海は公共用物である

 

熊本一規氏

 これまでの経過を簡単に説明すると、2011年の東日本大震災以降は中電の大きな動きはなかったが、2019年の11月ごろからボーリング調査をやろうとしてきた。それに対しては調査が違法であることについて文書でのやりとりを何度もやってきた。また、現場で祝島の漁民が釣り漁業をやることで調査はできない状態だった。ところが中電は民事調停をやるといってきた。その1回目の公判が10月5日に開かれたが、驚いたことに中電は「法的な論争は一切しない」といい、民事調停は終わった。それで法律論はあきらめたのかと思っていたが、10月25日に民事訴訟を提訴してきた。その訴状のおもな点を紹介し、それが間違っていることをこの報告で説明していきたい。

 

 まず海は、公共用物、公共用水面ということだ。海は公共用物ということはみんなが知っていることで、海では釣りもヨットも海水浴もだれもが自由にできる。

 

 「公共用物」というのは法律用語だが、直接に公共の福祉の維持促進を目的として、「一般公衆の共同使用に供される物」という点が大事だ。だれもが自由に使える、共同使用できるということだ。その公共用物である水面を「公共用水面」という。例としては海、河川、湖沼などが公共用水面の例。そのほかに海浜、道路、公園などがある。

 

 公共用物の本来の目的は、「一般公衆の共同使用に供すること」だ。公共用物の使用には、「自由使用」「許可使用」「特別使用」の3種類がある。そのうちの「自由使用」が大原則だ。その他は例外的になる。

 

 「許可使用」とは、「一般的に禁止されているような使用」、ほかの人の使用を妨げる恐れがあるような使用だ。たとえば、道路工事は道路の許可使用になる。だれもが道路工事を自由にやったら、歩行者や車が自由使用できなくなる。だから道路工事は一般的には禁止されているが、道路工事が必要な場合には、一般的禁止を解除して認める。一般的禁止の解除が許可ということになる。許可を得て一般的禁止が解除されて使用可能になる。例としては道路工事とか屋台とかデモもそうだ。

 

 「特別使用」は、特許または慣習により成立する特別な使用で、これは権利になる。自由使用や許可使用は権利にならないが、特別使用は権利になる。例としては道路に電柱を建てる、道路の地下に水道管を埋める、水道管を設置して継続的に使用する。許可使用の場合は一時的な使用だが、特別使用の場合は継続的に使用するというのが違いになる。

 

 そのほか漁業権の例がある。漁業権には免許を受ける漁業権と慣習にもとづく漁業権がある。祝島の人たちの漁業権は慣習にもとづく漁業権だ。

 

 特別使用をしたい場合はどうするか。特許を通じての特別使用だが、占用許可を受ける。ボーリング調査のときに一般海域占用許可というのを中電が申請して占用許可を得ていた。申請して占用許可を得たらこれが特別使用になり権利になる。田ノ浦の海浜に桟橋がある。あの桟橋も海浜の占用許可を申請して占用許可を得てつくっている。

 

 公共用物の管理(管理者は国又は公共団体)の話に移る。

 

 公共用物の管理は、私物の管理とは異なる。目的は公共用物の本来の目的を達成させるために管理する点に特色がある。公共用物本来の目的とは、「一般公衆の共同使用に供する」 ことだ。一般公衆の共同使用に供するというのが公共用物にとっては一番大事なことだ。それを達成させるために管理する。

 

 私物の管理の場合は、俺の物だから俺が勝手に使っていい、処分していいとなるが、公共用物の管理はそれとはまったく性質を異にして、一般公衆の共同使用に供するというのが一番の目的になる。そのために管理している。だから、国が管理するからといって国が勝手に使用したり処分したりできるわけではない。

 

中国電力の主張の誤り

 

 中電訴状の主張は以下の2点だ。
 1、公有水面埋立権に基づく妨害排除(予防)請求。
 2、占有権に基づく保全請求。

 

 まず1の埋立権に基づく妨害排除請求だが、次のような論理展開をしている。
 ①公有水面を支配し管理する権能は国がこれを有する。②国から委任を受けた知事から①の権能に基づく埋立免許を付与された者は、埋立を排他的におこない、土地を造成することのできる地位を取得する。③埋立免許取得者(埋立権者)は、埋立の竣功認可の告示のとき、埋立地の所有権を取得する。④ゆえに、埋立免許に基づく公有水面埋立権は、埋立地所有権の確保を可能にするため、埋立工事の竣功を妨害する者を排除し、あるいは予防する権能を内在させていると解すべきである。

 

 これが埋立権に基づく妨害排除請求の主張だ。①と②はまちがいとまではいえないが、とても誤解を招く表現だ。③は正しい。④は明確に誤りだ。

 

 次に2の占有権に基づく保全請求についての主張。
 ①埋立免許取得者は、公有水面の一定部分を占有して埋立工事を施行する権能を付与されるのであるから、占有権に基づく保全を請求できる。

 

 埋立工事をして埋立地になる海域を埋立区域と呼ぶ。埋立工事をする海域は埋立施行区域と呼び、埋立区域は埋立施行区域のなかに含まれる。中電は、埋立施行区域の海域を占有できる、占有して埋立工事を施行することができるのだから、そのなかに入ってきてほかの使用をする人たち、漁民などに対して、それは占有している区域に勝手に入ってきたわけだから、占有権に基づいて保全を請求して排除することができると主張している。


 民法一九九条では、占有者がその占有を妨害される恐れがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができるとしている。
 中電の占有保全の訴えは明確に誤りだ。

 

 中電訴状の主張の要点を整理する。
 要点1は、埋立免許取得者(埋立権者)は、埋立工事を妨害する者を排除し、あるいは予防する権能を持つ。それをより正確にいうと=埋立免許取得者(埋立権者)は、埋立施行区域内において、埋立工事以外の水面使用に対し、妨害排除(予防)請求権を持つ。ということだ。

 

 妨害排除(予防)請求権とは、物権ないし物権的権利の持つ請求権であり、物権的請求権と呼ばれる。物権とは「物を支配する権利」で、代表的な物権は所有権。

 

 要点2は、埋立免許取得者は、公有水面の一定部分を占有できるという主張=埋立施行区域内の水面を占有できるというものだ。

 

 「占有」とは、自分が利益を受ける意思によって物を現実に支配している事実・状態をいう。わかりやすくいうと、私がこの時計を持っていて、この時計を自由に使っているが、私が占有しているということはいえるが、所有しているかどうかはほかの人には正確にはわからない。どこで買って領収書を保管していて自分が買ったのだということを証明できなければ所有権があるかどうかはいえない。通常はこの時計を持っている人が占有権だけでなく所有権も持っているだろうと推定される。占有というのは事実上の支配で、それは所有とは呼ばないで所持と呼ぶ。占有とは事実上支配しているということだ。民法は占有権という物権を認めている。例をいえば、大家は家の所有権を持ち、借家人は家の占有権を持つ。地主は土地の所有権を持ち、借地人は土地の占有権を持つ。

 

 結論を先にいえば要点1、2はいずれも誤りだ。以下、公有水面埋立法や判例等に基づいてそれを明らかにしていく。

 

 公有水面埋立法(大正10年)の定める埋立の手続きは以下の通りだ。
 ①まず埋立事業者が知事に埋立免許を申請(二条)
 ②埋立施行区域内の水面権者(漁業権者を含む)の埋立同意を得なければならない(四条三項)
 ③同意が得られれば知事が②の埋立同意をふまえて埋立事業者に埋立免許を付与できる(四条)
 このあとが大事だ。大抵の場合、埋立免許が付与されたらそれを大きな問題だととらえて取り消しを求めて争うのだが、私の考えでは、埋立免許が付与されても大騒ぎする必要はない。ほとんど紙切れに等しいもので、肝心なのは④と⑤だというのが私の考えだ。
 ④埋立免許取得者は埋立施行区域内の水面権者に補償すべし(六条)と規定されている。埋立免許を得たからといって喜んで埋立工事にかかれるわけではない。まず埋立施行区域内の水面権者に補償しなければならない。
 ⑤埋立免許取得者は水面権者に補償した後でなければ着工できない(八条)


 ④と⑤、六条と八条が大事な規定だ。

 ①から⑤の手続きから次のAとBがわかる。


 A、埋立免許が出されても、埋立施行区域内には水面権が存在し続ける(④、⑤より)。
 B、水面権者に補償しなければ埋立工事は違法になる(④、⑤より)。

 

 とくにBがとても大事なことだ。違法である内容を示している。どういう法律に反しているかというと、公有水面埋立法六、八条違反、憲法二九条違反になる。財産権は侵害してはならないと規定している。漁業権は財産権にあたる。補償もしないで工事をやれば憲法二九条違反になる。

 

 重要なのは、埋立免許が出され、埋立権が生じてもA、Bにはかわりがないことがとても大事なことだ。

 

ボーリング調査に抗議する祝島島民(2005年6月、山口県上関町)

水面権者への補償は必須

 

 さらに公有水面埋立法にもとづき中電訴状の要点1、2が誤りであることを見ていく。

 

 水面権者に補償することによって初めて埋立工事は適法になるということだ。これがとても大事なことだ。だから、補償なしの埋立工事は違法であるから、妨害排除(予防)を請求できるはずはない。

 

 中電は祝島の漁民に補償していない。だが中電は祝島の漁民にも補償したと主張している。いつ補償したかというと、2000年の補償契約で補償したといっている。びっくりするようなことで、22年前に補償したと主張している。それに対して文書で反論し質問した。

 

 第1にどうして2000年の補償契約で2019年からボーリング調査をやることを予測できたのか。補償というのは、実際に損害を与えるような行為をやるとき、その前にやらなければならない。2019年からのボーリング調査で漁業権を侵害することにともなう補償はその前にやらなければならないが、それを2000年にやっているというのだから驚く。では2000年に2019年にボーリング調査をやるということをどうやって予測したのかと聞いている。答えられるわけがない。

 

 2番目に、仮に予測できていたとしても、どうやって漁業補償額を算定したのか。漁業補償の算定は、実際に漁業権の侵害行為をやる前の直近の3年間ないし5年間の漁獲データにもとづいて算定しなければならないということになっている。なのに、どうやってそれを22年も前に算定できたのかとたずねている。

 

 3番目に、祝島の漁民も22年前からメンバーがずいぶんかわっている。22年前に補償したからといって、別の人たちもたくさんやっている漁業に対して侵害していいとはならない。

 

 4番目に2000年の補償契約に基づいてできるといっているが、契約に基づく債権は10年で消滅する。2000年の補償契約は10年たったら紙切れになっている。なぜそれを持ち出せるのか、と聞いている。中電はまったく答えられなかった。

 

 中電は補償なしの埋立工事をやっている。これは違法だから、これがうまくいかないからといって妨害排除請求をしたら、違法行為を妨害するなといった主張になってしまう。まったく通用しない話だ。違法行為をやっているということは、漁民の漁業権を侵害しているから違法行為になる。権利の侵害、漁業権の侵害がうまくいかないからといって権利侵害をじゃまするなといっている。これは八つ当たりとしかいいようがない。思うようにいかないからといって八つ当たりするのではなく、祝島漁民が漁業をやってくれているおかげで中電は違法行為を犯さずにすんでいる。補償もなしに埋立工事をやったら違法であり、その違法行為をやらずにすんでいるのは祝島漁民のおかげだから、むしろ感謝しなければいけない。感謝もせず権利侵害をじゃまするなというのはとんでもないことだ。少なくとも違法行為を犯してきたことを反省すべきだ。反省もなく、違法行為を妨害するなと妨害排除請求を主張するのはおかしなことだ。

 

 そもそも仮に埋立権が物権で妨害排除請求権を持っていたとしても、違法な補償なしの埋立工事にともなって妨害排除請求をすることはできないが、埋立権はそもそも物権ではない。物権については物権法廷主義がある。民法一七五条で規定されているが、民法その他の法律で定めたもの以外は創設できない。だから、法律にこの権利は物権であると規定されていない限りは物権は創設できない。公有水面埋立法には埋立権が物権である旨の規定はまったくない。

 

 漁業権については物権とみなすという規定がある。物権であるという規定ではないが、物権的権利と呼ばれて妨害排除請求権もある。埋立権については物権であるとも、物権とみなすともまったく規定されていない。だから物権法廷主義にもとづけば物権ではないということになる。

 

 したがって中電の訴状の要点1、2は誤りということになる。
 要点の1は、埋立免許取得者は、埋立工事以外の水面使用に対し、妨害排除(予防)請求権を持つ。補償なしの埋立工事をやっておいて妨害排除請求などできるはずがない。それと埋立権はそもそも物権ではない。
 要点2は埋立免許取得者は埋立施行区域内の水面を占有できる、という主張については、A、埋立免許が出されても、埋立施行区域内には水面権が存在し続ける。中電は占有できるというが、それは埋立施行区域内にはほかの人が入ってこれないということだが、この主張は誤りだ。

 

大審院と最高裁の判決

 

 要点1、2が誤りであることを示す大審院判決昭和15年2月7日の判決がある。その口語訳は以下の通り。

 

 ・埋立免許は、これを受けた者にその埋立を条件として埋立地の所有権を取得せしめることを終局の目的とするが、
 ・埋立免許自体によって直ちに公共用水面の公共用を廃止する効力を生じるものではなく(埋立免許が出されても公共用水面であることにはかわりはない。水面権が存在し続ける)、公共用と相容れない施設の建設ないし埋立実施によって公共用廃止の効力を生じる。
 ・施設ないし埋立の実行により、漁業権は漸次減縮し、さらにはまったく消滅するに至る。
 ・要するに①埋立免許がなされても公共用水面であることにかわりはない(漁業権は存続する)。
 ②漁業権は施設ないし埋立の実行により漸次消滅していく。

 

 これは要点1、2はいずれも誤りであることを証明している。
 さらに要点2が誤りであることを示す最高裁田原湾判決がある。最高裁の昭和61年12月16日の判決で、最高裁田原湾判決と呼ばれている。

 

 「海は、古来より自然の状態のままで一般公衆の共同使用に供されてきたところのいわゆる公共用物であって、国の直接の公法的支配管理に服し、特定人による排他的支配の許されないものであるから、そのままの状態においては、所有権の客体たる土地に当たらないというべきである」。

 

 この判決では海は「特定人による排他的支配の許されないもの」であるから、「そのままの状態においては、所有権の客体にも占有権の客体にもあたらない」としている。海は所有することも占有することもできない。中電の主張は埋立権者が埋立施行区域を排他的に占有できるという主張だったが、田原湾判決は特定人による排他的占有はできないということだ。所有も占有もできない。要点2が誤りであることを証明している。

 

 仮に、埋立免許取得者が埋立施行区域内の水面を占有できるならば、ボーリング調査のさいになぜ一般海域占用許可を申請したのか。中電は埋立免許を得たことによって埋立施行区域内の水面を占有できるのだと、他人が入ってくるのを全部出ていけといえるんだと、中電が祝島の漁民にここは私たちが占有しているのだから、おまえたち出ていけといえるのだと主張するのだが、ボーリング調査をするさいに、占有権にもとづいて自由にやればよかったのに、一般海域占有許可を申請したのですかという問題だ。これは自己矛盾をきたしている。

 

中電訴状①、②について

 

 中電の主張がまちがっているということについては公有水面埋立法と大審院判決、最高裁田原湾判決で説明してきたが、中電の訴状の主張のどこがまちがいのもとになっているのかの補足的な説明をする。

 

 中電の訴状では、妨害排除請求権の主張を①~④まで紹介して③は正しい、④はまちがっている、①と②は誤解を招く表現だとした。①と②について補足説明をする。

 

 ①「公有水面を支配し管理する権能は国がこれを有する」という主張だ。これは国が私物を管理しているのと同じような表現だ。
 国が公有水面を支配し管理しているから国が勝手に自由に使用、処分できるという表現になっている。公共用物については私物と違って国が管理するからといって、国が勝手に使用したり処分したりできるわけではない。それを理解していない表現、それとは矛盾する表現、私物の管理であるかのような表現になっている。

 

 さらにおかしいのは②の方だ。
 ②国から委任を受けた知事から①の権能に基づく埋立免許を付与された者は、埋立を排他的に行い、土地を造成することのできる地位を取得する。

 

 これは中電の妨害排除請求、占有保全、どちらも正当であるかのような錯覚をいだかせる文章だ。埋立を排他的に行い、土地を造成することができるのだ、とする誤解を招きやすい表現だ。

 

 そのことを説明するために、山口真弘・住田正二が昭和28年ごろ書いた「公有水面埋立法」の逐条解説の本がある。これは必ずしも全部正しいことが書いているわけでないが、少なくとも埋立法の解説書としてはもっとも正しい本だ。その158~160頁にある文章を紹介する。

 

 「公有水面埋立権の内容は、一定の公有水面において排他的に埋立をなし、土地を造成し、埋立地の所有権を取得することにある」、ここの「排他的に埋立をなし、土地を造成し」というのは中電の②の文章と似ている。

 

 山口・住田の方はより正確な説明をその後やっている。「したがって、同一の公有水面において、二つ以上の公有水面埋立権が同時に存在することはできない」「排他的に埋立をなし」のところでの排他的はほかの水面利用を全部排除できるのだという感じに受けとれるが、そんなことは書いていない。二つ以上の公有水面埋立権が同時に存在はできないという意味の排他性だ。

 

 「したがって埋立許可権者は、すでに埋立の免許を存する公有水面に、重ねて埋立免許をすることができない」。そのあとにまた「しかしこの排他的な効力は、埋立を行い、土地を造成すること、およびそのために当該公有水面を占用すること、ならびに埋立地の所有権を取得することにのみ及ぶものであり、埋立を妨害しない限度において、他の目的のためにその水面を利用することは、公有水面埋立権の侵害ということはできない」とある。他の使用に対してそれを排除することはできないとしている。

 

 排他性を持つのはほかの公有水面埋立免許、埋立権に対してのみであって、ほかの水面使用に対しては排除はできないということだ。そのあと念を押すように「したがって、当該公有水面において、水泳をし、通航をし、又は魚釣りをするがごときは、もちろん公有水面埋立権を侵害するものではない」ということだ。

 

 だから、埋立免許が出ても、公共用水面であり続け、水面権は存在し続けるということだ。山口・住田はそういう意味で排他的に埋立をなしと書いているが、それを歪曲して中電は②のような印象にしている。③は正しいが、④のような結論は間違った主張につながっていく。

 

中電のボーリング調査を阻止する祝島の漁業者や島民たち(2005年6月、山口県上関町)

漁業権とは物権的権利

 

 今まで埋立法や埋立権の側から説明してきたが、今度は逆に祝島の漁民の側からの説明をする。


 漁業権は財産権であり、かつ物権的権利であるということだ。

 

 1、漁業権は財産権である。
 ①漁業権とは「漁業を営む権利」である。
 ②「免許に基づく漁業権」(共同漁業権、定置漁業権、区画漁業権の三種類)と「慣習に基づく漁業権」(許可漁業や自由漁業。祝島漁民の営む釣り漁業は慣習に基づく漁業権)があり、どちらも財産権である。「公共用地の取得にともなう損害賠償基準要項」で認められている。
 ③漁業権を補償なしに侵害する行為は財産権の侵害を禁じた憲法二九条違反になる。

 

 2、漁業権は物権的権利であり、妨害排除(予防)請求権を持つ
 ①「免許に基づく漁業権」は、漁業法で「物権とみなす(物権的権利)」と規定されている。物権そのものではないが物権とみなす、物権的権利であるということだ。妨害排除請求権を持っている。
 ②「慣習にもとづく漁業権」はどうかというと、これは「公共用物使用権」にあたり、慣習に基づく公共用物使用権、例としては慣行水利権や温泉権があるが、それは「慣習法上の物権」とされている。こちらは「物権とみなす」ではなく、「物権」とされている。

 

 「慣習法上の」とはどういうことかというと、慣習はいろいろあり、古くからおこなわれているものが慣習になるが、慣習を担っている人たちのあいだで、法的拘束力があると意識されているものが慣習法上の権利になる。単なる慣習と、慣習法上の権利とは違ってくる。

 

 すなわち「免許に基づく漁業権」も「慣習に基づく漁業権」も物権ないし物権的権利であり、物権的請求権(妨害排除請求権および妨害予防請求権)を持つ。

 

中電の訴状はすべて失当

 

 まとめとして、上関原発の埋立・調査と漁業権の関係について説明する。

 


中電訴状の主張
 1、公有水面埋立権に基づく妨害排除(予防)請求
 この主張は公有水面埋立法六、八条および大審院昭和15年2月7日判決で否定されている。
 2、占有権に基づく保全請求
 これも同じく公有水面埋立法六、八条および大審院昭和15年2月7日判決、最高裁田原湾判決で否定されている。

 

 ちなみに中電は今回の民事訴訟の被告を「祝島島民の会」としているが、漁業を営んでいるのは祝島の漁民であり、「祝島島民の会」ではない。被告を間違えている。本来なら被告をまちがえて訴訟を起こせば、それだけで却下となるようなまちがいを犯している。

 

祝島の漁民の漁業権について
 1、漁業権は財産権である。
 予め損失補償を支払わないと侵害できない(公有水面埋立法六、八条、憲法二九条からいえる)。中電は補償も払わないで侵害しているのだから、違法行為を犯している、ということだ。
 2、漁業権は物権ないし物権的権利である。
 祝島漁民は漁業権を侵害する調査・埋立に対し妨害排除(予防)を請求できる。

 

結論
 ①中電訴状の主張はいずれも失当、まちがっているということ。
 ②祝島漁民に補償されない限り、中電の埋立・調査は違法行為にあたる。
 ③違法行為を犯しているのは中電であって、祝島漁民は今までのように自由漁業、釣り漁業を営んでいるだけ。
 ④妨害排除(予防)を請求できるのは中電ではなく祝島漁民であるということ、だ。
 以上の説明にもとづいて質疑がおこなわれたなかで、以下の点について補足の説明があった。

 

 山口県漁協が、中電が祝島の漁民に支払ったとされる漁業補償金を預かっている点について。

 

 補償金を受けとれる資格があるのは埋立やボーリング調査によって損害を受ける者で、実際に漁業を営んでいる漁民だ。国や事業者は免許を受けるのは漁協だから、補償金を受けとるのも漁協だといったごまかしをやってきている。それはおかしな話で、漁協は免許を受けとるだけで漁業を営んでいないので、補償金は受けとれない。

 

 さらにおかしなことには上関原発の場合、補償金は共同漁業権管理委員会に支払われた。それが今山口県漁協にわたっている。なぜ管理委員会に支払われたかというと、温排水による漁業損害を8漁協の共同漁業を営んでいる漁民が受けるが、共同漁業権が損害を受けるということで管理委員会に支払われた。今の埋立施行区域内で漁業をやっているのは祝島漁民だけだ。だから今の埋立・調査で補償金を受けとる資格があるのは祝島漁民だけだ。

 

 管理委員会に支払われて山口県漁協に預けられているというのも非常におかしな話だが、本来なら委任状をとっておかなくてはならない話だ。祝島漁民から祝島漁協が委任状をとって、祝島漁協から管理委員会が委任状をとって、そのうえで共同漁業権管理委員会に支払わなければならなかったのだが、そういう委任状もまったくとらないで管理委員会に支払った。むちゃくちゃな手続きでやっている。

 

 中電は山口県漁協を使って祝島支店の総会で補償金受けとりを画策したが、受けとりを拒否された。かりに総会で可決したらどうなるか。可決するには3分の2以上の同意がいる。総会決議は漁協という団体の意思決定ができるので、仮に可決されたら今県漁協があずかっている補償金を祝島漁協が受けとる。しかしそれから先は本来なら自由漁業を営んでいるのは各漁民だから、漁協が受けとった補償金を漁民が受けとらないといけないかというとそんなことはない。受けとるかどうかは各漁民が判断することになる。それが法的には正しい。可決されても全員が補償金を受けとらないと埋立はできないということになる。これは法的には正しいが、権力はいくらでもごまかしをやってくる。総会で可決されるとこれで補償金問題は解決したとごまかす恐れがあるので、総会で可決されることは防いだ方がいい。

 

 次に財産権のなかの物権はどのくらいの位置を占めているのかについて以下のような説明があった。

 

 民法には私人の持つ権利のことが紹介してある。財産権は、経済的価値を持つ権利。財産権のなかに物権と債権がある。物権はものを支配する権利で、誰に対しても主張できる。それに対して債権は、契約を交わした相手、特定の人に特定の行為を要求することができる権利にすぎない。誰に対しても要求できるのではなく、契約を交わした相手方にのみ主張できる権利だ。これが物権と債権の大きな違いだ。

 

 物権は物を支配する権利だから、支配が妨害されたら妨害排除請求、妨害予防請求、返還請求の三つの物権的請求権がある。物権となればこうした強力な主張ができる。

 

 今、埋立権と漁業権が対峙しているような状態だが、漁業権が物権、物権的権利であるということがとても強いことになる。中電の方も埋立権が物権ないし物権的権利であると主張したいのだが、補償金も払わないで埋立工事をやるのは違法なので、妨害排除まで請求できるはずがないというのが一つと、埋立法には、埋立権が物権であるという規定はまったくないから、物権法定主義にもとづけば物権ではないということになる。

 

 漁業権が物権的権利であるということは明らかで、争う余地がないから祝島漁民の方が強いということになる。

 

 中電が論拠として出してきたのは、運輸省港湾局長が昭和28年12月23日に出した通達だ。そのなかに「埋立免許を受けたものは公有水面の一定部分を占有して埋立工事を施行する権能を付与されるのであるから」という一文がある。港湾局長が法制局に問い合わせてそれをもとに港湾局長が通達を出している。この通達自体がまちがっている。この通達だけで、ほかにはなにも証拠になるようなものはなかった。一片の通達を証拠にしなければならないほど貧弱な証拠で、それだけ彼らの論拠が薄弱だ。しかも、昭和28年の通達は、最高裁の田原湾判決は昭和61年だから、それより30年以上前の通達だ。本当は田原湾判決が出されて、所有も占有もできないという判決が出た時点で通達は撤回されなければおかしいのだが、その辺も問題にしていきたい。中電の論拠は薄弱だということだ。

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