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「ブリヂストン レスキュー」って何だよ 下関市消防局が全国初のネーミングライツ導入

 下関市消防局は、新たな財源確保に向けて全国初となる特別救助隊へのネーミングライツを導入した。公募の結果、株式会社ブリヂストン(本社・東京都中央区)がネーミングライツ・パートナーに決まり、下関市消防特別救助隊は4月1日より「ブリヂストン レスキュー」として運用を開始している。21日に発隊式が開催され、隊員の救助服にブリヂストンのマークがとりつけられたほか、同社のマークがデザインされた救助隊の車両(特別工作車)も公開された。年額100万円(税抜)で、契約期間は2025(令和7)年3月31日までの3年間。それ以降は双方が合意すれば1年ごとの自動更新となる。

 

 下関市消防特別救助隊は中央消防署(21人)、東消防署(10人)、北消防署(10人)の三隊・計41人で構成される専門の知識と救助技術を身につけた人命救助の専門部隊。オレンジ色の救助服に身を包んだ救助隊員は、火災だけでなく交通事故・水難事故などあらゆる災害現場に出動し、特殊な装備を活用して「安全」「確実」「スピード」をモットーに人命救助に当たる。消防署内でも花形の部隊だという。

 

 ただ、装備や訓練資材にはお金がかかる。オレンジ色の救助服は分厚く、静電気を除去する繊維が織り込まれているなど特殊なつくりで、普通の制服が1着約2万円に対し、1着約4万円ほどするという。コンクリートを破壊して侵入する訓練も、一度穴を開けたコンクリートを何度も使用することはできない。下関市消防特別救助隊は国際消防救助隊に登録していて、40㌢㍍のコンクリートに穴を開けることができる水準が求められているという。公共施設を解体するさいに訓練に使用するなどの工夫をしているが、訓練用の資材は必須だ。市消防局は、新たな財源の確保によって「救助隊が強くなることで市民に還元していきたい」としている。

 

 しかし、特別救助隊の名前から「下関市消防署」の名前は消えてしまった。発隊式後に公開された訓練でも「ブリヂストンレスキュー到着!」というかけ声に変わっていて、事情を知らない市民なら「ブリヂストンの社員が助けに来てくれた」と思っても仕方がないものとなっている。市側から5年ほど前からネーミングライツの導入を求められてきた結果だが、火災現場や災害現場で命を張って人命救助することを使命とする消防局が、なぜ自分で金を稼がなければならないのか? という疑問は拭えないものとなっている。

 

下関市全体で16施設が導入

 

 全国の自治体で導入が進むネーミングライツをめぐっては、市民の知の拠点である大阪市立中央図書館が「辰巳商会中央図書館」と、まるで企業の一部門のような名前になるなど、いったい何のために設置された、だれのための施設なのかがわからなくなったり、市民が馴染んできた名称が変わり混乱を招くなどの事例もあいついでいる。

 

 ネーミングライツは公共施設の命名権を企業が買うビジネスだ。アメリカなどでは命名権を購入した企業が運営にも参画して価値を高め、命名権の価格を引き上げるといった命名権ビジネスとして運用されているという。日本の場合、一部スポーツ施設などで企業が億単位で契約を結ぶケースはあるものの、ほとんどがビジネスというより、財源不足に悩む地方自治体が公共施設や公衆トイレなどの維持費を捻出するために、お金を出してくれるスポンサー企業を探し、年間数百万、数十万円で契約を結ぶといった事例の方が多い。

 

 下関市でも各課に稼ぐ手段を見つけるよう指示が下ろされており、どの課も苦心して命名権を売却できそうな施設を捻出している。現在、市全体でネーミングライツを導入した施設は16件で、年間収入はおよそ1400万円だ【表参照】。なかには下関国際ターミナルのように、何度募集しても応募する企業がない案件もある。「稼げ稼げ」という空気が強まるなかで、市役所内では「入りのある課はいいが、入る金のない福祉部門は肩身が狭くなっている」と語られている。

 

 現在は1400万円程度だが、こうしてスポンサー企業頼みの割合が増えた場合、本当に公共性が保たれるのか、スポンサー企業に物いえぬ自治体になりはしないかという疑念は拭えない。そもそも、公共性を保ちつつ国民の生命や生活を守るため、お金のあるところから徴収し公平に配分する税制度が存在している。地方自治体が財政難でスポンサー収入に依存せざるを得ない状態は、税制度が機能していない結果ともいえる。

 

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この記事へのコメント

  1. 物申す市民 says:

    オーヴィジョンスタジアムで味を占めたのでしょう。
    ブリヂストンのロゴが入った救助車を見る度に恥ずかしくなります。
    市は人の命すらも金で売るのかと。

    このリストの後にも、下関警察署そばの細江町駐車場のネーミングライツも売却。
    最近も現在建設中の新総合体育館もケーブルテレビの「J:COM」の名称が冠せられることが決まったと報道されていました。

    市の財政難は重々理解していますが、16施設とここまで多い自治体は下関の他にあるでしょうか。
    他にもやりようはないのでしょうか。
    市民としてこれは異常なのではないかと感じますし、至るところに企業名、ブランド名、商品名を冠した施設だらけで恥ずかしく思います。

  2. 物申す市民 says:

    12/6にコメントさせていただいた者です。
    先日、県有施設ではありますが、海峡ゆめタワーの命名権も募集されていました。
    (同時に岩国市のシンフォニア岩国も)
    一応「海峡ゆめタワー」の名前を残すことは条件としてあるようですが、
    山口県や下関市のなりふり構わずぶりが露見しているようでなりません。
    下関のランドマークにまで手をつけないといけないとは…
    併設の海峡ゆめ広場や近隣の細江町駐車場、
    少し足を伸ばして下関駅前の人工地盤にも既に愛称が付いていますので、
    決定すればあの一帯はネーミングライツだらけのエリアになってしまいます。

    こちらのリストでは旧市内と旧豊浦郡4町含め16施設とのことですが、
    20施設、30施設に増えるのも現実味を帯びそうです。
    命名権売却は既にありふれたこととは言え、手当たり次第に命名権を売り、
    ありとあらゆる施設が企業名や商品名、ブランド名を冠せられている現状。
    県外、市外から来た人たちがこれを見てどう思うでしょうか…

    スーパーネーミングライツシティ下関と呼ぶのが相応しいように思います。

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