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なぜ今まん防解除なの? 医療体制は今も逼迫 村岡知事は何を考えているのか

 山口県の村岡知事は16日、新型コロナの新規感染者数が全国に比べて少なく、医療提供体制のひっ迫状況が改善されていることなどをあげ、まん延防止等重点措置の今月20日での解除を国に要請、国が解除を決めた。オミクロン株の感染拡大で、他の都道府県が延長を要請するなかでの逆行した動きだ。新規感染者数が100人単位で確認されている下関市では、医療機関でのクラスター発生も続いており、医療現場のひっ迫状況はおさまっていない。今年初めからまん延防止の対象区域となった岩国市など県東部地域から解除を求める声が上がってきた事情があるものの、封じ込めなければ再び感染が拡大し、自粛をよぎなくされることのくり返しになる。今こそ「まん延防止」を徹底しなければならない状況での解除に、医療機関や行政機関にも危機感が高まっている。

 

 

 「まん延防止等重点措置」を3月6日まで延長するのは、20日に期限を迎える北海道、青森、福島、茨城、栃木、石川、長野、静岡、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、福岡、佐賀、鹿児島の16道府県と、27日に期限を迎える和歌山県の計17道府県。東京都など3月6日までの期限で適用中の14都県を加え、31都道府県が「まん延防止」の対象となっている。大半の自治体がまん延防止の延長を求めるなか、解除を求めた山形、島根、山口、大分、沖縄の5県は20日をもって解除されることが決まった。

 

 山口県内では年明けから米軍岩国基地を発端に感染の拡大が始まり、1月9日から岩国市・和木町に「まん延防止等重点措置」が適用された。だがその後、県東部から次第に県西部へと感染が広がり、福岡県とも接する下関市では1月半ばから感染が急拡大し、同21日以降はほぼ毎日100人前後の新規感染者が確認される状況が続いている。客足は途絶えるのに、対象地域以外は補償や協力金が出ない状況のなか、まん延しきった2月1日、ようやく「まん延防止」の対象地域が山口県全体に拡大され、今月20日まで期間を延長してきた。

 

 しかし、ピークアウトの兆しも見えていない今月16日、村岡県知事は「まん延防止等重点措置」を20日で解除するよう国に要請した。「社会経済に大きな影響を与える強い措置を継続しなければならないような状況にはない」との判断からだ。山口県内の新規感染者が1月27日の445人をピークに減少傾向にあること、2月15日時点の「人口10万人あたりの1週間の新規感染者数」は143・1人と、全国で41番目に低い水準に下がったこと、病床使用率が先月26日に55・1%だったのが今月16日時点で38・6%に下がっていることなど、医療提供体制もひっ迫していないというのが解除要請の根拠となっている。

 

 しかし、グラフを見てわかるように、山口県内の感染状況はどう見ても「落ち着いた」といえる状況にない。医療現場からは「ひっ迫していない」という県の認識に反論があいつぐ。オミクロン株は軽症・無症状者が比較的多い傾向にあることから、全国と同様に山口県内も自宅療養がベースとなっている。2月17日時点で「入院・宿泊療養等(入院調整中の人も含む)」は山口県全体で2443人。そのうちおよそ1700人が自宅療養者だ(下関市は約500人)。陽性者の7割が入院せずに自宅療養しているということだ。新型コロナの初期にほぼ全員入院していた頃は「病床使用率」は感染状況をあらわす指標となっていたが、第六波はいわゆる「病床使用率」の低下が感染状況をあらわすものではなくなっている。

 

 もっとも陽性者の多い下関市で見ると2月7日~13日の「人口10万人当りの1週間の新規感染者数」は284・6人と、県全体の約2倍。「人口10万人当りの療養者数」は同期間で321・7人と高止まりを続けている。同時期の病床使用率は39%と、確かに数字のみを見ると「ひっ迫していない」かのように見える。ただ、市保健所は感染爆発で手が回らなくなり、濃厚接触者の調査を医療機関と重症化するリスクの高い高齢者施設にしぼっているため、1月半ばからクラスターとして認定されているのは医療機関、高齢者施設のみとなっている(1月…医療機関2件、高齢者施設4件、2月〈17日まで〉…医療機関2件、高齢者施設8件)。それによってコロナ患者を受け入れる医療機関には大きな変化が生じている。

 

 医療関係者は「現在、病床に入っているのは高齢者施設で発生したクラスターで容体が悪化した患者さんだ。そのほかの患者さんはそれぞれの高齢者施設や医療機関が自身の病棟で看護してくれており、容体が悪化すると搬送されるという体制をとっている。病床使用率は39%で余力があるように見えるが、認知症の方や動けない方もいるためスタッフの負担は大きく、これ以上病床使用率が上昇するとあっという間にひっ迫してしまう状況だ」と話した。

 

 コロナ病床では防護服を着用しての看護となるが、そこに介護の要素も加わるため、今年初めの10~30代の患者が多かった時期とは様相が異なるという。さらに、市内に四つある総合病院のなかでもクラスター発生があいついでおり、その他の医療機関に一般診療の患者も集中する。別の関係者は「病床使用率だけで、感染が落ち着いたと見てほしくない」と話した。

 

 クラスターの発生した高齢者施設や医療機関は、病棟内に独自にコロナ病床を設置し、他の入院患者とわけて専属チームをつくるなどしてコロナ患者の看護に当たっている。県がいう「確保病床」ではないコロナ病床が各病院・施設で増加しており、決して病床使用率が低いわけではない。

 

 また、保育園や学校など子どもを通じて保護者である看護師が感染したり、医療機関内のクラスターで看護師が感染し、出勤できなくなる事例も多発している。山口県内の医療機関では一つの病棟で看護師のほとんどが感染し、休まなければならなくなった。患者も複数感染したが、治療を中断すれば患者の命にかかわるので病棟を閉鎖することはできない。陽性患者を他の患者と隔離するゾーンを設置し、看護師は他の病棟から経験者を応援で配置するなどして対応しているところで、院内のひっ迫状況が語られている。

 

 下関市は「まん延防止」解除にともない、「ふくふく子ども館」など児童館の閉館期間の延長や中学校の部活動中止の延長など、独自の感染防止対策を発表したところだ。

 

「他の業種も支えて」 飲食からの切実な声

 

 「まん延防止等重点措置」が解除されると、飲食店などに出ている協力金は支払われなくなる。だが、感染拡大が続く下関市では解除されて客足が戻るような空気ではない。高齢化が進む下関の町。飲食店の顧客の多くは重症化リスクの高い高齢者であることも、客足が戻らない一つの要因だといわれる。また、一見客を入れて感染が店内で発生することも怖いので、常連に限っている店も少なくない。

 

人通りのない豊前田(19日、下関市)

 

 繁華街で居酒屋を営む店主は「解除されても人は来ない」という。今、時短営業で1日2万5000円が支払われているが、通常の営業で5000円の利益を上げるには2万円の売上が必要だという。2万5000円の粗利を得るためには1日10万円稼がなければいけない。客足が戻らない状態で1日10万円を稼ぎ出すのは困難だ。2万5000円入るのであれば補償の方がいいが、「そうすると怠け癖もついてしまうよね」と複雑な思いを語る。

 

 コロナ3年目を迎えた今年、コロナ融資の返済が始まる。だが、返済ができる状況ではない。「借りた以上は店を続けないといけないが、いつまでこの状態が続くのだろうか。スナックやラウンジは閉めた店が多い。従業員の給料が払えないからだ。コロナ前は繁盛していたような店が閉店するのだから、水商売は相当な打撃だろう」といった。

 

 別の飲食店主も「まん延防止が解除になったからといって、お客さんが来るとは思えない」と、解除によって再び飲食店が厳しい状況に置かれることへの懸念を語った。周囲の店を見ても昼間の客足ですら少ない。自身は夜8時まで営業しているものの、誰も来ないのだという。「このところ感染者(下関市内の)は毎日100人をこえている。まん延防止を解除すれば、我慢していた若い人で動き出す人も出てくるだろうし、コロナはぶり返すのではないか。ちょうど卒業式や進級・進学、送別会がおこなわれる時期になるが、みな例年のようには動かないと思う」と話した。危惧するのは、下関が解除されると「まん延防止」が続く九州から人が流れ込んでくることだ。「時短や休業は、あくまでコロナの感染を減らすためだったはずだ。今も減っていないので、せめて後20日くらいはやるべきだ。もしどうしても県と国がやめるというなら、市が1日1万~2万円でも出して続けるくらいすべきではないか」と指摘した。

 

 別の居酒屋店主も「下関はコロナ感染が減っていないのになぜ解除? と思った。怖いのは九州のお客さんが次々に下関に飲みに来るのではないかということだ。うちは“県外からの一見さんはお断りします”と書いているが、黙って入るお客さんがいるとわからない。その人たちが悪いということではないが、コロナを抑えるためには、感染が増えているところに来ても、行っても困る。もちろんお客が来れば店は助かるが、私たちも早く安心して営業できるようにしたいので、なんとしてもコロナを抑えたい」と話した。

 

 ただ、長らく協力金頼みとなっている状態には複雑な思いを語る飲食店主も多い。ある女性店主は、「コロナになってから、協力金や支援金、給付金などの申請に追われてきたが、一番大事な飲食店の誇りのようなものを忘れてしまうのではないかと感じることがある。スマホでなにかもらえる支援金はないか、国は県は市は…と毎日そればかり考え、“お客さんにおいしい料理を食べてもらう努力”を忘れてしまうのではないかと思うことがある」と話した。

 

赤間プラザも閑散としている

 

 他業種から「飲食店ばかりにカネが出て…」という声が聞こえてくることもつらい点だ。「みんなでコロナを抑え込み、安心して営業できる状況を作るために、国や県、市が他の業種も支えてほしい」という切実な願いが各地で語られている。

 

コロナ融資返済始まる 事業者救う対策を

 

 飲食店主たちが異口同音に語るように、協力金などが出ない物販などの事業者はより厳しい状態で、逆に「まん延防止」の解除を求める声も少なくない現実もある。

 

 酒を扱う事業者は「やっと解除になりホッとしている」と話した。通常1日14~15軒の注文があるが、飲食店が休業していた期間は1日2件ほど、ひどいときはゼロの日もあったという。「飲食店は1日換算で補償が出るが、関連する業者には出ないので本当に困る。店を開けてもお客さんは来ないのだろうが…」と話した。

 

 同じく酒類を扱う事業者も解除を歓迎している。「今回は、前回よりも厳しい。コロナで売上が減ったので支援金の申請をしたが、本社の売上が減少していなかったので対象にならなかった」と話し、「店を開けても客は来ないだろうが、うちは解除した方がいい」といった。

 

 卒業式やイベントの中止が続いてきた生花店も同じだ。市場に店主たちが集まると「早く解除してほしい」と話題になってきたという。ある店主は「花は売れないのに支払いは待ってくれないから、3月6日まで延長になったらどうしようかと不安に思っていた。店を開けても人は来ないだろうが、まったく動かないよりはまし」と話した。まん延防止が全県に拡大した2月1日から花の仕入れを止めている店主もいるという。1日の売上がゼロの日があったり、月の売上が1万円など、これまでにない事態になっていると実情が語られている。店主の一人は「本当はあと数年でローンを返済し、店を閉めるつもりでいたが、コロナで収入が減り、支払いが滞ったので、もう少し頑張らなければならなくなった。しかし、見通しが立たない」といった。

 

 靴を扱う商店主は、店をたたむ相談も始めている。一人もお客が来ない日があり、休業させている従業員には自腹で給料を払っているという。雇用調整助成金の申請も考えたが、決算時期を迎える事業者が多い今の時期、税理士も手一杯で、それ以上の手続きに手を割けない。事業復活支援金の申請も始まっているが、「これから事業を続けられるかどうかもわからない。給付金を受けとるのはやめようかと思っている」という。

 

 アパレル関係の商店主は、「私たちのような衣料品はお客がぱったり途絶えてもなにも出ない。今、冬物から春物に移っていく時期だが、残った冬物の買いとりで大変な苦境にある。メーカーも生産を縮小したり、返品の受け入れを減らしたりして自分のところを守るのに一生懸命で、小売店は誰も助けてくれない。春物を仕入れても売れるのか、また売れ残ったらどうするか、毎日頭を抱えている。飲食店のように組合もなく、自分で考えて動くしかないが、不安ばかりで夜もなかなか眠れない。これから店をどうしたらいいのか、廃業するしかないのかと暗い気持ちになるばかりだ」と話し、まん延防止で飲食店だけに協力金が出ることに納得ができない思いを口にした。

 

 国の事業復活支援金の申請が始まっており、対象になる事業者もいる。だが、「2018年11月~2021年3月のあいだの売上に対し、同月比30~50%減少している」という支援金申請の条件を満たす水準まで売上が減ると、毎月の家賃や光熱水道費が支払えなくなる――という状況まで追い込まれている事業者も多いのだ。

 

 岩国市など県東部から解除を求める声が上がっているのも、こうした支援金が不足し、事業者の経営が立ち行かなくなっていることがある。コロナ感染を抑制し、再び安心して営業できる状況をつくるためには、「まん延防止の解除」ではなく、事業者への支援を徹底して、今のまん延状況を抑え込むことが先決だ。

 

 さらに、今後の最大の解決事項として、返済が始まるコロナ融資のとり扱いがある。多くの事業者がコロナが始まった初年度に無利子・無担保のコロナ融資を受け、かろうじて事業を継続してきた。経済が好転しない状況のまま3年の据置期間が終わり、返済が始まれば多くの事業者が立ち行かなくなり、「バタバタ倒れるのではないか」という危惧が各業種で語られている。すでに、返済の見通しが立たないことから廃業したスナックなどもあるといわれる。

 

 観光関連の事業者の一人は「ほとんどの事業者が、もともと借金を抱えたうえでコロナ融資を受けている。コロナ融資は劣後ローンとする、もしくは半額チャラにするくらいの対応をしなければ、多くの事業者が立ち行かなくなる」と指摘した。

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