上関原発計画をすすめる中国電力は6日、四代正八幡宮とのあいだで、炉心予定地内の神社地約10万平方㍍の土地売買契約を「正式に」結んだと発表した。この「神社地正式契約」劇は、中電、県、警察、マスコミ、公安委員、裁判所、弁護士、さらにヤクザ暴力団から神社本庁と、あらゆる道具立てがあらわれて、四代住民にペテンと脅しを加え、売却に応じなかった林春彦宮司を力ずくで解任し、先祖代代守りつがれてきた四代のお宮を中電神社にしてしまい、このたびの「正式契約」となったものである。「国策」とは不法不当の詐欺と強圧にほかならないことをひじょうにはっきりと教えるところとなった。この神社地売却問題、これで上関原発がすすむという印象は現地推進派にもなく、それをやらなければ上関の原発は終わってしまうということで、上関を生殺し状態でおき、原発利権をつづけるためのものとの受けとめが町内では一般的である。二井知事は、詳細調査にさいしては森林伐採などについての許認可権がかかるが、つぎの選挙の目もないところからタヌキの化けの皮をはがして積極承認に走るものとみられる。いずれにしても、新規原発を建設することなど、現地、全県、全国の力関係で見てできるものではない。しかし「やっつけなければ終わらない」のが重要な真理である。
利権温存のための茶番劇
地権者が多く住んでいる四代地区では6日午前中、神社の役職がない山谷良数区長が筆頭になって3人の「四代正八幡宮総代」連名で「お知らせ」と題する文章が配布され一方的に売買契約が通告された。「法律等で定められた一連の手続きが完了したことから、八幡宮責任役員・総代合同会議を開催し審議した」「速やかに土地処分の手続きを進めることは、地域の発展をはかる上でやむをえないと判断し、10月5日土地売買契約を締結した」と記されている。住民は、「いつでも、全部が決まったあとに紙だけが配られる」「常会を開いて氏子全員の同意をとるべきだ」と語っている。
神社地売却をめぐっては、神社本庁が林宮司を解任し、土地売り飛ばし専門として派遣された宮成恵臣宮司が、神社地売却の許可を求める具申を神社本庁におこない、今年8月20日、神社本庁が売却を承認。
漁業補償金も99年の東海村臨界事故のあとであったが、今回も関西電力・美浜原発の死亡事故が起きてすぐであった。上関は、全国の原発衰退が起きると、それの「まき返しパフォーマンス」の全国的な役を担わされているようである。
四代地区では、日ごろは住民の目に届くことのないお宮の片隅に「財産処分に関する公告」なるものがはり出され、財産処分を実施するとの紙が配られたのみだった。中電は、宗教法人法に定められた、10日間の公告期間の過ぎた8月31日に、約1億5000万円で売買予約契約を結び、法務局へ仮登記をおこない、5日夜に、「役員会」を開いたものと見られている。
四代地区住民のなかでは、この数年来の神社騒動で、先祖代代のお宮がとりあげられて中電神社になってしまったことに心を痛めている人が多い。また、数年来の神社騒動で地区民はまともにお祭りもできず、地区内の目を気にしてこっそりと林宮司の本務する室津まで個人の祭りをしてもらいに行く住民もいるという状態がつづいている。「四代正八幡宮は中電神社でもなければ、山谷神社でもない。四代の先祖から代代守りたいせつにしてきたものだ」「こんなことをしていたらバチがあたる」など語られる。
四代の住民のなかでは、まともな契約と認めている人はおらず、中電と県、山谷区長らによる神社地略奪・詐欺行為だとみなされている。
謀略でお宮も略奪 きりがない無法行為
神社地問題の経過は、中電や国、県というものが、国策と名がつくと、詐欺、脅迫、謀略のやり放題で、神社地どころかお宮まで住民から略奪したことをものがたっている。
ことは、94年からはじまった環境影響調査にさかのぼる。中電は、神社と林宮司を無視して、山谷氏とのあいだで違法な借地契約を結んで強行し、借地料として、約1500万円を山谷氏の個人名義の口座に振りこんだ。その金はいまだに住民にはなんの説明も、税務申告もされていない。裁判でも明らかにされたが、県の公安委員長をしていた二井知事ブレーンの末永弁護士がそっちの方について擁護する関係で、警察も検察も税務署も裁判所も「動かないこと岩のごとく」であった。
用地買収のはじまった98年には、環境調査のさいの不正契約と宮司排除といういきさつをひきついで、中電は開いてもいない責任役員会の議事録をねつ造し、宮司に神社地売却を認める「判を押せ」と迫らせたが、宮司は、筋を曲げることはできないと拒否した。
その後も中電と二井県政は、再三にわたり売却承諾を求め、山谷区長や県神社庁らを使って、宮司に圧力をかけたが、不当な脅しはつうじなかった。あくまで神社地売却を狙う中電は、99年以降林宮司の解任策動をめぐらせた。
山谷区長や推進組織が別の内容の説明で住民を脅して集めたハンコは林宮司解任の嘆願書にすりかわっていたり、祭りをボイコットさせて「神社運営の不正」と、中電の下請組織である「町づくり連絡協議会」に、宮司を中傷する何十種類のビラをまかせ、それを商業マスコミが騒ぎ、林宮司の抹殺をはかった。
また、破廉恥事件のでっちあげ策動や、身をかくした東京で命の危険を感じたり、「公安調査庁」などの名義で脅迫文書が送りつけられることもあった。かずかずのヤクザ的な無法行為は上げればきりがない。
中電と自民党二井県知事、さらに自民党代議士側は、県神社庁、神社本庁を買収して、神職として正当な主張をする林宮司を解任する策動をめぐらせた。「神様に仕える」という神社本庁の神様は、カネであり権力にほかならないことが証明された。裁判所も、公正どころか、中電に有利な訴訟誘導の違法行為をやり、弁護士もすぐに裏から手が回り中電に有利なはからいをするという格好で、これらもヤクザと少しも違わないことが証明された。
東海村臨界事故のあと、全国の原発計画がとん挫するなかで、全国にきわだって推進の旗を振ったのは二井知事であった。積極的に公開ヒアリングを誘致、林宮司解任の裏工作をすすめながら、宮司解任の「具申書」が神社本庁に上申されたら、二井知事が上関原発建設計画への同意を表明した。
二井知事が汚いところは、安全性を人一倍心配して、まるで反対のような理由をとうとうと語り、したがって同意するという、県民に理解できない頭の回路を示したことであった。
以上の事実は、神社地の「正式契約」というものが、法治国家の仮面をかぶった中電と国、県などによる不法略奪にほかならないことをあらわしている。日本は無法国家になっているのである。これは決着がつけられなければならない問題である。
建設の見込みなし 生殺し企む国・県
現在の情勢は、神社地売却の契約をしたところで、原発計画がそのまま進展する力関係にはない。局面とすれば、反対派が神社地売却の無効を訴えた裁判をすれば、計画は塩づけ状態となる。かずかずの裏切りをしてきた「反対派」幹部がここでも裏切りをすれば、手続きは少しすすむが、まだ問題山積のなかで、肝心カナメのときの裏切りのカードがなくなってしまうことになる。
また局面では、詳細調査をめぐって、二井知事の許認可問題が一つの焦点となる。合意のときには、「許認可しない」という雰囲気で合意したが、許認可の段階になるとどういって許可を出すのか、注目点となる。
町内の推進派は冷静である。これまで何度も、「原発は終わった」と思っていたら、鼻先にニンジンが下げられ、色めき立ったら、ハシゴをはずされた。知事合意で「やっと登山口に来た」(中電幹部)という状態。これが20年以上もたつと、4度や5度ではないのである。そのあいだに中電の振舞酒による夢心地のままに、多くの推進派が墓の中に入っていった。当時の「次代を担う」といわれた40代の若手は、手足で使われただけで、いまでは次代を担わないまま65歳以上の老齢人口の仲間に入ってしまった。
今回も、なにかを動かさなければ、上関原発問題がすっかり立ち消えになるというものであり、遠い将来にかけた原発利権を温存するというのが、中電や国、県の事情ということができる。
国や県の意向としても、今年度の上関町への地方交付税の減額に象徴されるように、「立地点」としての特別扱いはなかった。片山町長時代のように、公開ヒアリングを強行すれば36億円の協力金が確約され、電調審上程をすれば電源三法交付金の2年前倒しの約束がくるという、優遇もない。もっともこれは口先だけの優遇で終わった。こうして町財政はすっかりパンク状態になってしまったが、国も県も知らぬ顔をしている。
上関原発計画は、力関係としてできる見こみはないが、しかしやっつけなければ、終わりにならない。最大の犠牲は上関町であり、中電の原発利権のために、立ち腐れ状態で放置され、町のあらゆる活性化が押さえつけられるという問題である。
上関原発計画が浮上した1982年ごろと現在は情勢が大きく変化した。政府はアメリカのいいなりで、グローバル化、規制緩和、自由化といって、農業や漁業をやっていけないようにし、三位一体改革・合併といって町を解散させ、地方の住民がものをいうところをなくし、その生活を根こそぎ破壊する姿勢である。
そのうえに、米軍岩国基地には厚木基地の空母艦載機を移転させ、広島県沖美町では離発着訓練基地問題がくすぶり、その近くの上関に原発をつくるというのでは、米軍を恨む勢力が岩国基地をマヒさせるには上関原発を爆破する危険性が高くなる。それは広島をはじめ山口県だけでなく全国を放射能まみれにするものである。
国、県、中電のすすめる原発にたいして、日本国民の生命と財産を守り、地方の農漁業生産を守り、原水爆戦争を引き寄せることを阻止する課題として、それを完全に撤回させるための現地、全県、広島、全国と団結した力を結集することが重要な課題となっている。