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瀬戸内海を壊滅させる原発

 瀬戸内海の心臓部に中国電力が国内最大級の原発を建設しようとしている。中電は祝島をはじめとする住民や、瀬戸内海漁業者、計画に反対する圧倒的県民世論を振りきって詳細調査に着手し、それに山口県・二井関成知事が海面使用などの許認可を乱発してお膳立てしている。漁業権がかかる祝島、上関町漁民のみならず、全県の漁業者とりわけ内海側漁業者のなかで、県一漁協合併ともあわさって、二井県政・中電による漁業破壊を許すなの声が強まっている。瀬戸内海という閉鎖海域に、伊方原発1~3号機がぼう大な温排水をたれ流しているが、そのちょうど真正面に上関原発をつくるというのは、瀬戸内海漁場への影響ははかり知れないものがあり、度はずれた漁業破壊である。崖っぷちに立たされた漁業者にとっては一歩も譲れない問題になっている。
   
 山口県瀬戸内海区の漁獲量 15年間で6割も減少
 瀬戸内海区では、この10年ほどまえから漁獲が著しく減少していることが深刻な問題になっている。とりわけエビや貝類がめっきり獲れなくなっている。中国・四国山口統計情報センターの統計によると、1989年に3万4146㌧あった山口県瀬戸内海区の総漁獲量は、昨年実績で1万2245㌧。64%も減少している。
 魚種別に見ると、エビ類、貝類、カレイ類の減少が著しい。エビ類は92年には9012㌧あったのが急激な下降線をたどって、03年には1538㌧にまで落ちた。実に8割強の減少である。カレイ類は16年まえに1982㌧だったのが983㌧。貝類になると8149㌧だったのが876㌧と九割も減少した。
 上関の建網漁業者は「カレイ類がへった」という。おもに冬に獲れていた魚種が減少して、この5~6年でカラフルな熱帯魚やガザミ類がふえた。以前は寒い時期、1~2月頃に何百㌔とカレイ類が獲れていたのに、めっきり網にかからなくなった。「海水温が上がっていること以外に考えられない」という。
 上関近海の一本釣り漁業者に聞くと、昔よく釣れていた甘ダイやコブダイ、イサキといった魚が「幻の魚」あつかい。スズキ、アコウ、クロクチ、アイナメなど昭和20年代の高級魚や、グチ、ハゼもへった。貝類ではアサリがめっきり獲れなくなった。「マダイがいなくなったかわりに、そんなに釣れる魚ではなかったチダイが急増した」。網がちぎれるほどのクラゲの異常発生や、サメがふえたこと、四国の太平洋側、足摺岬あたりの魚が入ってきたことや、マグロを追いかけた話、熱帯海域にいるはずの針千本が網にかかるようになったと語られている。
 異変のもっとも大きな特徴は、近年海水温がしだいに上昇していることがどの海域でも共通して上げられている。海水温の微妙な変化にも敏感なエビがまずいなくなったといわれるほか、山陽町や宇部・小野田地域の沿岸では、五年ほどまえから夏場になると、沿岸漁場に大小100匹ほどのエイの群れが押し寄せては、くちばしで海底を突っつき回して、干潟の貝類を食べつくすようになった。
 なかには畳一畳分ほどの大きさのものまでいる。海底が凸凹になるほどの勢いで、「10㌧ほどのアサリならペロッとたいらげてしまう」「大きな貝でもかみ潰して捕食している」と地元漁師たちは語る。上関海域でも目撃情報があいついでおり、建網についた魚も食べていく。本来なら南方に生息するはずのナルトビエイが瀬戸内海に入りこんで、漁場を荒らしているのである。駆除してもへる様子はなく、砂地に子どもを産み落としていくという。卵ではなく、漁師が腹を踏んづけたら親そっくりの形をしたのがそのまま出てきて泳ぎはじめる。海水温の下がる冬場になると、どこに行ったのかわからなくなる。

 瀬戸内海の異変に拍車 伊方3号機運転開始で
 自然界での一般的な温暖化による変化もあるものの、「温暖化」のせいにばかりして原因をはぐらかすことはできない。この海域での大きな変化は「温暖化」に上乗せして伊方原発の温排水が94年12月からそれまでの2倍にふえたことがいっそう拍車をかけたことは疑いないと漁業者らは指摘している。1号機、2号機(ともに56・6万㌔㍗)にプラスして89万㌔㍗ある3号機が運転開始した時期とちょうど符合して、山口県内海側の漁獲が急激な下降線をたどっている。
 上関原発は計画では137万㌔㍗2基。伊方よりもはるかに多量の温排水と塩素をまき散らすもので、7度上昇した温排水の量は、1秒間190立方㍍、年間にすると水深30㍍として14㌔四方分というぼう大な量となる。ひじょうに水深の浅い周防灘と接した海域で排水口から出てきた潮がいったり来たりするなかで滞留し、沖合に広がっていく。温排水は表層の風に乗っても広がっていく。最近とくにひどい夏場の太陽熱とあわせて、温排水が出るとどうなるか、予測できないものがある。伊方と上関の両方から巨大原発の温排水が押し寄せれば、内海漁業が壊滅の危機になることはだれの目から見ても明らかである。

 宇部などでもエビ激減
 宇部岬の漁業者男性は祝島住民の行動をニュースで見て、「けっして上関の人たちだけの問題じゃない。瀬戸内海漁民全体の首がかかった問題だ。本来、漁協が一丸となって抗議行動に応援に行ったっておかしくない。他人事じゃないんだ」と心情を吐露した。
 宇部岬では県の産廃処分場建設で潮流が変わり、ノリ養殖が壊滅的な打撃を受けているまっただなか。同漁協はかつて昭和の時代には約30億~40億円もの生産金額を誇っていたのが、昨年は近年でも最低ラインだった前年度約8億4000万円をさらに下回って約4億5000万円にまで激減した。生産枚数も過去最低と思われた1昨年約8100万枚から約5400万枚まで減少した。企業のゴミだめ建設のためにひき起こされた、まぎれもない“人災”が問題化している。
 漁協関係者の一人は「今回の合併計画にしても上関原発にしても、周防灘や瀬戸内海漁業をつぶそうとしているように思えてならない。近年の海の変化はすさまじいものがあるのに、原因究明の調査すらしないのは水産行政の腐敗だ。原発をつくったらまちがいなく瀬戸内海の最後を意味する。山戸組合長の動きは意味不明だが、合併したら漁業権はまちがいなく奪われる」と断言した。
 宇部新川のベテラン底引き漁師の一人は、「かつては2時間くらい底引きを引っぱったら、網が上がらないくらいエビが獲れていたのに、伊方3号機が動きはじめてさっぱりだ。上関と伊方の両側から温排水が流れはじめたら、瀬戸内海は死の海になるぞ」と危機感を抱いていた。
 漁港近くには、子どものおやつでおなじみの“カッパえびせん”の加工業者がいたが、10年ほどまえからエビが揚がらなくなって撤退した。「いままで漁業権の線引きで“おまえたちは関係ない”といわれてきたが、おおいに関係ある。瀬戸内海がつぶされるというのに、だまっておられるか!」。若手漁師らとワイワイ論議をはじめていた。

 全県の漁民の声を形に
 山口県ではこの10年来、信漁連再建のぼう大な負担を漁民にかぶせてきたのと同時に、自民党林派を中心にして水産庁、県水産部の擁護の元でつくった信漁連のぼう大な欠損金を、県が「支援金を出して救済する」見返りとして、「県のおこなう公共的事業に協力すること」という条件をつけ、岩国基地拡張の沖合埋め立て、下関の人工島などの埋め立てを認めさせ、漁場を破壊してきた。上関原発も、狭い共同漁業権関係漁協だけを買収して、壊滅的な打撃を受ける内海漁民に文句をいわせないやり方ですすめてきた。
 ところが最近では、県の21億円の支援金は貸付金であり、返済せよといい出した。こうして漁民をだまして、山口県の漁場に甚大な被害だけを与えて今日にいたっている。
 岩国基地沖合拡張にともなってつぶされた広大な藻場干潟の消滅海域は83万平方㍍。多くの魚類の産卵場、幼稚魚の成育場であり、水質浄化機能をはたしていた広大な藻場・干潟が消滅して、米軍基地が拡大している。下関の沖合人工島も、近海でもっとも豊かな瀬を奪い、潮流を激変させ、深刻な漁場破壊となっている。前述の宇部産廃処分場も山口県のノリ養殖のメッカを壊滅に追いこんだ。
 山口県の水産行政は、中電や宇部興産などの工業優先、米軍崇拝で、その下請になって漁業を破壊してきたと判断できる。上関原発は、歴史ある内海漁業を壊滅させるという暴挙である。同時に、県1漁協合併は「経営基盤強化」「足腰の強い漁協」などといっているが、上関原発をつくるなら県1漁協もはじめからぶっつぶす気であるとみなすほかない。
 信漁連の食いつぶしは、桝田市太郎元県議ら自民党林派の悪事によるものだが、上関原発も、平井知事にかわって二井知事・林派が利害をからめて推進している。知事同意後、二井知事の娘を嫁にやっている林義郎元代議士の実弟・林孝介氏(県商工会議所連合会会頭)が、最大株主の山口県の代表として中電の取締役に就任したいきさつもある。林派の山口合同ガスは、中電柳井火力からガスを買う関係となり、芳正代議士も佐藤信二代議士を追い落として山口県2区に影響力を広げようとしてひんしゅくを買ったこともある。
 上関原発計画について、信漁連のつけ回し・1県1漁協合併問題とあわせて、県の漁業破壊の最大のものとして、全県の漁民の声を形にして二井県政に強力な圧力を加えることが必要になっている。それは上関町内の漁民を励まし、原発撤回の強力な力になる。

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