原発問題を争点にした上関町議会選挙(定数14)は、来る2月12日に投開票が迫っている。上関町の町議選は、電調審上程をめぐって緊張していた1998年に推反談合の無投票という芸当を演じて日本中をアッといわせた。今度は、推進派と「反対派」の候補の対決というのはだれがみても格好だけで、どっちへ行っても推進にすすむという仕掛けがすっかり暴露された選挙となっている。どっちの方も、「町の発展のため」「町民のため」にというのは格好もなく、我が身の食いぶち議員報酬300万円をつなぎ、町の売り飛ばしに貢献することで中電に認められ、自分がいいことをするという姿がありありなのである。信頼のおける反対派が候補者としては皆無で、一方の推進派はさらに中電配下の我欲ばかりである。こうして選挙は中電が町民からとり上げた形となってしまった。それは金力、権力の力である。しかしそれは、町民を動員できなくなったということであり、真に恐れているのは二種類の候補者の側である。選挙は、すべての推進・「反対」候補者を震え上がらせるような町民の力をどう示すかとなっている。選挙戦の特徴を見てみた。
負け戦誘う「反対」 最初から縮小の体制
今回の町議選では、定数14にたいして現在「反対派」が、はなから5人しか出馬しないといわれている。推進派はなにもせずに九議席奪還できることになる。前回選挙では推進八にたいして反対六だったのが、その後室津地区の外村勉議員が推進派に寝返り、戸津地区の推進派・浜田義勝議員が亡くなって、現状の議席数は一応「8対5」で推移してきた。
町民が驚きをかくせないのは、「反対派」の側からは、祝島漁協の合併・漁業権放棄の裏切りをやった山戸貞夫氏(元職)が、子分の清水敏保氏を引き連れて再登場することである。山戸ジュニア出馬の噂があったがすっかり立ち消えとなった。漁業権放棄や魚価のピンハネ問題がとりざたされた年末段階で、山戸氏自身の余裕がなくなったものと見られる。また漁協合併によって組合長給料もなくなるからとも見られている。漁協合併問題にともなって漁業権放棄を誘導する役割を演じ、原発推進に道を開いたが、このことについて「反対派」の他候補者たちの態度は、いまのところ「裏切り賛成」の様子である。
高齢で議会答弁が聞こえていないと指摘されていた蒲井地区の上杉良一、「共産党」看板の小柳昭の両議員は引退とされている。上杉氏の後釜には、補欠選挙で登場しいまや上関町議会の「ファースト・レディー」こと村田喜代子議員がおさまる。小柳議員の引退は「日共」修正主義裏切り者集団のメンツにかかわるが、本人が党派の会議で「やめる」といったのだと話題になっている。後釜候補と目された部分も、先行して推進派の選挙をやったりして、袋小路状態。
上関地区からは岩木基展議員が出馬。反対派の代表と柏原町政与党のかけ持ちで、「今度は推進派から出るのではなかったのか」と、地区民は井戸端会議の議題にのせていた。
外村氏が裏切った室津からは、商業マスコミが勝手に「反対派代表」に祭り上げた平岡氏が初登場。すでにあいさつ回りもはじめている。だが「反対」陣営ではもっとも落選圏内の候補ともみなされている。元高校の理系教師で、原発やウランの科学的構造を「バカな町民」に教えたがる癖があって、評判はよくない。
乱立気味の推進派 ひしめきあう過去の人
「反対派」が縮小体制で負け戦を誘ったのにたいして、乱立気味なのが推進派だ。9人の当選は確実なわけで、いまのところ12人は出てきそうな気配と話されている。激戦になりそうなのが室津・白井田地区。室津の佐々木議長と、白井田の高齢新兵・吉崎芳男議員は間引かれて引退との噂が立ったものの、本人たちはやる気満満。ただで引くわけがないと見られる。
白井田地区からは、町長選で突如出馬辞退して以後、過去の人になっていた右田勝氏(元職)が生き返りを狙って始動。関係する人人のなかで出馬を宣言している。町長の夢はあきらめたことを意味するが、それに焦っているのが前回町長選のはずみで右田氏から地盤を譲り受けていたとされる吉崎氏で、推進派候補のなかではもっともピンチ。同地区の「鉄砲撃ちの名手」こと篠川源次議員(白井田)も、これまで熾烈を極めてきた右田・篠川戦争に吉崎氏、さらに「反対派」の村田議員まで参戦して焦り気味。
室津地区では、様子見もふくめて推進派五人がひしめきあう。前回選挙で、中電のひいきを受けて500票以上もかき集めた西哲夫議員は楽勝モード。議長ポストを狙っているともいわれているが、佐々木議長も引退の可能性はゼロ。
鞍替えの外村議員は推進派土建業者の支援や、故河本広正氏につらなっていた反対派を切り崩して当選するのだと鼻息荒いが、地区内の評価はどこへ行っても「裏切り者」とか「自己破産者」といった類。各地区推進派の面面にせっせと年賀状を出してアピールに余念がない。ちなみに、議員が年賀状を出すことは禁じ手。
補欠選挙で3日まえに出馬表明して、余裕の当選をはたした井上勝美氏(中電下請組織の町連協事務局長)も病気が完治しないが、「3日まえまでわからない」といわれている。親せき関係で右田氏とも重複するといわれているので、折り合う可能性もあるといわれている。補欠選挙で中電から応援してもらえなかった、室津・白浜地区の小浜鉄也氏が、立候補者の世界では「かならず出てくる」と見られている。
上関地区は岩木和美議員がすでに親せき関係もある八島地区に昨年末には上陸したりと、おう盛に活動を展開。「タンス預金」を配ってお縄になった神崎氏が公民権停止で出馬できない分、もう一人推進派から出馬しなければ体裁がとれず、候補者選定がすすめられている。断った人間が続出といわれ、数人にしぼりこまれた結果、町長辞職した加納みすか氏、上関漁協元組合長の大西一治氏、若手漁業者の名前が浮上しているが確定にはいたっていない模様。加納氏が出馬すれば、推進・反対両派のダブル岩木に加えて、一族支配が露骨すぎるという指摘もある。大西氏は海域を取り仕切る裏方業が専門だが、表舞台に出てくるのは疑問という声もある。
戸津地区も候補者選びで難航。昨年に推進派組織の戸津親和会が決定したという候補者が不人気で立ち消えになったといわれ、その後「上関町最大のゼネコン」浜田組社長が立候補するという案もあるが、まとまっていない。四代地区からは、借地料横領疑惑の山谷良数議員。
推進派の側も過去の人がひしめきあう程度で、新しい力が登場する元気はすでにない。なお、前回の補欠選挙では推進派の乱立抗争にたいして、告示日前日に中電上関立地事務所が候補者を呼びつけて裁定を下したいきさつがある。候補者そのものがどう変化するかは最終局面までわからない。「中電のみぞ知る状態」と語る推進派議員もいる。
運動再建が不可欠 町民の意志を形に
こうして選挙の候補の顔ぶれを見ると、「オール推進」というような状態。それは中電の金力、権力の力によるもので、中電が町民の選挙を乗っとってしまったわけである。しかしこれは、推進派候補も「反対派」候補も町民を動員できなくなったことをあらわしている。町民世論の大きな特徴は、町民のなかの選挙への熱気がまったくといっていいほどないことである。候補者は、いくら候補者同士で争ったとしても、町民の前に出るのを恐れており、のきなみ落選候補としての条件を備えているといってもよい状態である。
選挙のたびに推進派、反対派の候補を担いで町民を争わせてきたが、これは中電が仕組んだだましであったことがあまねく暴露されてしまった。推進派も「反対派」も幹部のあいだは仲良くして、かれらひとにぎりの幹部だけがいいことをして、町民は若者も年寄りも住めない町になり、町が売り飛ばされてきたことが、すべての町民の実感となっている。
町民のなかでは、中電が町を乗っとった現実がさめざめと語りあわれてきた。町政の上層部などは町長も議会も、町民がどうなろうが自分の飯のタネしか心配しておらず、町を売り飛ばすことしか念頭にない連中だとみなされている。昨年末の国勢調査の速報では、上関町の人口の実態は3700人余りで、山口県内ではもっとも人口減少率がいちじるしかった(5年間で14%とダントツのトップ)。町並は歯抜け状態が急速に進行し、人が住めない町へ転落の過程をたどっているのである。
「それならほんとうの反対派が選挙に出ればよい」というが、上関町では中電の許容枠をこえて登場することにたいして、袋叩きにする脅迫か、買収してとりこむ力だけは発達している。カポネ親分が支配しているような状態なのである。
このようななかで、上関原発を押しとどめ、中電に抵抗してきた力は、原発に反対する頑強な町民の力である。こうしたほとんどの反対者は「隠れキリシタン」のように表に出てこない反対者になってきた。親類縁者の勤め先から嫁ぎ先にいたるまで、網の目のような中電の支配網がおよぶなかで、反対を貫きとおしてきた力である。だが、幹部の裏切りや内部の切り崩しを乗りこえて、選挙のたびに四割の反対票は崩すことができない存在となってきた。
この中電の国策をバックにした金力、権力の支配構造をうち破るには、大衆的な運動を再編することが不可欠である。しかもその力は、国策をうち負かす全県、全国と連帯した力である。選挙は推進派候補といかさまな「反対派」候補の対決などではなく、中電と町民の対決である。
推進、「反対」両幹部を使った中電の町民支配の構図をマヒさせ、町民の主権を回復し、町の売り飛ばしに対抗する町民の意志を形にするなら、町民の側の勝利となる。