新型コロナワクチン接種をめぐって混乱をきわめていた下関市も、6月中旬ごろから体制の拡充がうち出され、予約すらとれない状況をはじめとした混乱が少しずつ解消され始めている。毎週月曜日には繋がらない電話の前で一日ストレスをためていた高齢者も、予約ができたり、接種ができて安心したと話す人も増えてきて、ようやく7月2日に64歳以下に接種券を発送することも発表された。山口県内他市は、全国の自治体のなかでも接種事業が前倒しで進んでおり、6月中に64歳以下の優先接種に着手した自治体も多い。現在の進行状況などを聞いた。
県内他市では、65歳以上の高齢者へのワクチン接種が終わりつつある【表参照】。1回目の接種を終えた人の割合は、もっとも高い光市で90・7%、そのほか多くの自治体で70~80%台となっている。2回目の接種を終えた割合も、ほとんどの自治体で40%をこえている状態だった。接種を希望しない高齢者もいるため、ほぼ終了の目途が立った自治体では64歳以下の次の段階の接種に移っている。
もちろん、人口規模や医療体制など各自治体で事情が異なるため、接種率のみで比較することはできないが、やはり予約・接種体制ともに立て直しが遅れた下関市は現在も遅れをとった状態だ。
他市の事例を聞くと、それぞれの市民の実態に合わせて集団接種会場を設置したり、医療機関と連携をとり、スムーズに接種を進めることができるよう体制づくりをしていることが、接種の進行状況の差になっているといえる。
高齢者の実情に合わせ 周南市
住民の生活形態に合わせ、きめ細やかに体制を組んでいるのが周南市だ。対象となる高齢者では約4万8400人のうち、1回目接種済みが約71%、2回目が37・5%となっている(高齢者接種が前倒しで進んでいるため、64歳以下の接種も一部含まれる)。
周南市でも予約を開始した当初は、電話がつながらない状況が発生した。予約センターも強化したが、同時にインターネットでの予約が難しい高齢者が多いことや「日時はいつでもいい」という人が多いことを考慮して、「おまかせ予約」の体制をつくった。必要事項と希望会場を書いてFAXか郵送で市に届けると、市が接種日を決め、ハガキか封書で日時を知らせる制度だ。高齢者の場合、電話で予約しても日にちを聞き間違えたり、カレンダーに印をつけたのが間違っているのではないかと心配する人も少なくない。紙ベースで申し込む制度はこうした高齢者に好評で、2000件程度を想定していたところ、7000件の申し込みがあったという。密を避けるため、正式な相談窓口はもうけなかったが、支所や本庁に相談に来た場合には職員が対応した。
「おまかせ予約リスト」は、急きょキャンセルが出た場合にも利用し、リストにある市民に職員が電話をかけて来てもらうなど、キャンセル対応にも利用できた。市にとって手間は非常に大きいが、他部署に立ち上げたプロジェクトチームがこの業務を担当したという。
また離島の大津島は最初に集団接種を実施して完了したほか、市内から離れた鹿野地区などには月に一度、集団接種会場をもうけた。高齢者にとって生活圏から離れた場所に行くのは大変なことだ。子どもたちと「近くのホームセンターまでしか行ってはいけないよ」などと約束している高齢者も少なくないが、会場が地域内であれば軽トラに乗って行くことができる。担当課は「見知った顔のある会場と、そうでない地域に出向くのは高齢者にとっては大きな違い」と話した。
こうした高齢者接種でのきめ細やかさは、現在進んでいる保育士や学校関係者、高校生などの接種体制づくりにも生かされている。周南市はすでに60~64歳(約8400人)、15~59歳(約6万7400人)に接種券を発送しており、6月16日に60~64歳、6月30日に64歳以下の基礎疾患のある人の予約が始まっている。
保育士、小・中・高校の学校関係者は、山口県の大規模接種会場の枠を優先的に充てることにしており、今週末に接種が始まる。とくに保育士は一つの園で多くの先生が抜けると保育園が回らなくなるので、希望者を集約したうえで、日時をバラして各園に割り当てるように市が調整している。土曜日に接種し、副反応が出ても日曜日に休めるようにすること、副反応が長引く保育士がいても園が回る人数が確保できるよう、一つ一つの園を想定して体制を組んでいる。
また7月10日、8月21・28日の3日間は、15~18歳(高校生年齢相当)を対象にした集団接種を予定している(予約開始は7月3日正午)。会場は徳山駅裏にあるホテルサンルート徳山。「高校生は自分で移動できる年代だが、駐車場を基準に設置したキリンビバレッジ周南総合スポーツセンターなどの会場はむしろ行きにくい。登校で使うバスや自転車で行きやすい会場を検討し、交通の拠点である徳山駅周辺に設置した」という。
担当課は「細かい調整をするのは手間がかかるが、市民が安心して接種できるよう、運用しやすいように私たちが汗をかかないといけないという思いだ」と話した。
集団接種会場の運営についても、医師会には医療機関が休業する木曜日・土曜日の午後を中心に参加してもらったり、徳山中央病院が運営可能な会場・曜日、市民病院が運営する会場・曜日など、それぞれが可能な規模と、参加できる曜日・場所を組み合わせて体制を組んでいるところも同様だった。
医療機関と緊密に連携 光市
13市のなかでも進行が早いのが光市だ。65歳以上の高齢者1万8541人の予約率が93・5%に達した(6月16日)ことから、64歳以下の市民2万5420人への接種が始まっている。
6月17日に64歳以下の基礎疾患のある人、高齢者施設等の従事者の予約を開始し、6月24日に60~64歳、7月1日に高校生年齢相当、妊婦の予約が始まっている。7月8日に16歳未満の子どもの保護者、妊婦の家族、8月上旬にその他の人という順に予約が始まる。
また、クラスター発生予防の観点から、5人以上の職場を対象に光市独自に事業所接種の体制をとっている。50人以上300人未満の事業所は医師が出向き、300人以上は複数の医師が出向く体制をとるほか、5人以上50人未満の事業所から申し込みがあった場合は集団接種会場または医療機関で実施するなど、ケースバイケースで調整しながら接種を進めている。幼稚園、保育園、小・中・高校など学校関係者も事業所接種の枠組みで接種を実施しており、7月1日に高校が終了し、学校関係者の接種はほぼ終わった。6月30日時点で、64歳以下の市民のうち2230人が1回目の接種を終えている。
光市の場合、個別接種を中心に据え、かかりつけ医で安心して打てるよう体制をとったという。一般予約を受け付ける23の医療機関と、かかりつけの患者を対象にした7医療機関の計30医療機関だ。医師会との事前の話し合いで、予約は市がとりまとめることになったため、予約率をおおよそ把握しているほか、入院患者などへの接種状況も随時報告を受けているという。担当課は「医療機関とはほぼ毎日のように連絡をとり、連携を密にしている。医師会が協力体制をとってくれているのが一番大きい」と話していた。
一方、下関市の前田市長は、下関の遅れの要因として、「医療従事者の優先接種のさい、予約をとっていたらワクチンが届かなかったことがあり、“ワクチン供給が確実になってから”という慎重な姿勢に転じてしまった」と説明している。
国のワクチン供給が不明確だったことで地方自治体が困惑した側面は大きいものの、こうした他市の事例を見る限り、市民の生活事情をよく理解して体制を組んだり、問題が生じたさいに柔軟に体制を変更するなど、住民視点に立ってニーズを把握し、対応できるかどうかが鍵だといえる。
64歳以下の接種に移行 県内の多くの自治体
そのほか多くの自治体が高齢者接種が前倒しで進んだため、余剰枠を使いながら64歳以下の接種に移行している。山口県独自に定めた優先接種対象を踏まえ、おおむね、基礎疾患を有する人、高齢者施設等の従事者、60~64歳、警察・消防職員、小学生(12歳以上)、中・高校生、幼稚園、学校関係者などを優先して接種する体制をとっている。県が設置している広域接種会場の割り当てをこれら優先的に接種する人に充てている自治体もあった。
・岩国市
離島は接種終了。約7万3000人に対し、高齢者と同程度(16カ所)の集団接種会場をもうけて実施する予定。基礎疾患を有する市民に対しては別に会場をもうけ、7月8日に接種が始まる。
・柳井市
6月18日に接種券を発送済み。予約開始の日程は以下の通り。
7月1日…基礎疾患のある人、介護サービス・障害福祉サービス等事業所従事者、保育園・児童クラブ従事者、身体障がい者手帳または指定難病受給者証を所持している人、60~64歳
7月8日…教員、幼稚園従事者、高校生、中学生、小学校6年生
7月15日日…その他の64歳以下
・下松市
6月18日から、年代別に順次接種券を発送済み。60~64歳、基礎疾患のある人などは接種券が届き次第予約可能。そのほかの予約日程は以下の通り。
7月12日…50~59歳
7月14日…40~49歳
7月16日…30~39歳
7月19日…29歳以下
・防府市
高齢者の接種が前倒しで進んだため、基礎疾患のある人や民生委員、訪問活動をおこなう人などが優先してすでに接種を受けている。予約開始の日程は以下の通り。
6月28日…基礎疾患のある人、60~64歳など
7月1日…警察・消防、12歳以上の小学生、中高校生、学校関係者、子どもにかかわる施設等従事者、障害のある人、障害者施設従事者
7月5日…60歳未満
・山口市
高齢者の枠が残ったため、高齢者施設の従事者や幼稚園・保育園、小・中学校の関係者、看護学生、児童クラブ関係者などが優先してすでに接種を受けている。
6月30日に60~64歳、基礎疾患のある人などに接種券を発送。7月13日に12歳以上の小・中・高校生に、7月15日に15~59歳に接種券を発送する予定。接種券が届けば予約可能。
・宇部市
6月23日に障害のある人、7月1日に基礎疾患のある人、高校生、小・中学校関係者の予約を開始し、7月1日から接種が始まっている。小・中学校関係者は、学校医、宇部市の集団接種会場もしくは県の広域接種会場で接種するなどの形をとる。
・山陽小野田市
16歳以上のすべての市民に接種券を発送済み。12歳以上の中学生に対しては7月16日に発送予定。予約日程は以下の通り。
6月21日~30日…基礎疾患のある人、高齢者施設従事者、60歳以上
7月1日~18日…警察・消防、小・中・高校など学校関係者
7月19日~…その他すべての12歳以上の人
・美祢市
以下の日程で予約を開始している。
6月28日…基礎疾患のある人、高齢者施設等従事者
7月5日…小・中・高校、教職員、児童クラブ従事者
7月12日…上記以外の六四歳以下
・萩市
島しょ部は高齢者と一緒にすでに終了している。6月27日から64歳以下の集団接種も始まっている。
・長門市
6月18日…60~64歳
7月5日…基礎疾患のある人、高齢者施設等の従事者
7月12日…それ以外の60歳未満、の日程で集団接種の予約開始。
・下関市
7月2日に12~64歳の市民に接種券を発送予定。届き次第、基礎疾患のある人、高齢者施設等の従事者、障害者、障害者施設等の従事者、幼稚園・保育所、児童福祉施設等の従事者、60~64歳、小・中・高校など学校関係者の予約を開始する(7月1日発表)。
再びワクチン供給逼迫 職域接種中止に
県内では6月中に接種券の発送を終えた自治体も多かった。現在、再び国のワクチン供給が不安定になっており、職域接種の申請が中止されるなどしている。
高齢者への接種が前倒しで進んだ自治体は、64歳以下の市民の接種も前倒しで進んでいるが、遅れをとった自治体の64歳以下に本当にワクチンが回って来るのかどうか、不透明になっている。
なお、各自治体に今後の体制を聞いたところ、電話・Web予約の割合や、集団接種会場の設置の必要性も高齢者の場合と異なってくるため、「平日の接種会場が空き始めているので、土・日に集中していく方向で現在調整中」(周南市)、「集団接種会場を3カ所もうけていたが、各医療機関や東京理科大学、公的病院(小野田赤十字病院、山口労災病院、山陽小野田市民病院)の3カ所で足りるため、集団接種会場を一つ縮小する方向」(山陽小野田市)など、現役世代に合わせた対応が検討されている。
コロナワクチンは全体的に遅れ気味になりました。
オリンピック関係者、選手にワクチン接種を優先するため
そちらに回すことになったとの理由です。