下関市では65歳以上の新型コロナワクチンの集団接種の予約が5月10日に、個別接種の予約が5月17日に始まったが、およそ1カ月をへた現在もコールセンターには電話がつながらない、医療機関でも断られるなど、予約すらとれない状況に置かれている65歳以上の市民があふれている。もともと国のワクチン確保が遅れ、地方自治体が振り回されてきたのが原因ではある。だが、下関市の場合、合併して県内第2位の面積を擁し、約9万5000人(うち施設入所者が約6500人)と県内最多の対象者を抱えているのにコールセンターの電話は23台しかなく、集団接種会場が1カ所のみなど、実情に即した体制がとられないことが混乱に拍車をかけている。「集団接種は政治ショーにすぎない」ともいわれている。
山口県全体で見ると、1回目の接種率が全国3位となっており、比較的順調にワクチン接種が進んでいるといえる。県内他市に状況を聞いたところ、多くの自治体が4月下旬に予約を開始し、65歳以上の高齢者への接種率は早いところで60%をこえており、多くの自治体で30~40%にのぼっている【表参照】。岩国市のように、集計のタイミングの関係で把握している接種率は低いものの、医療機関での個別接種も進んでおり、予約率は70%をこえているという事例もある。早い自治体では今月中にも64歳以下の次の段階の予約を開始する予定で、下関市の遅れが突出していた。
各自治体ともに、予約受付を開始した当初は電話が殺到してつながらない状況が出たが、「回線を増設し、オペレーターを倍にして対応し、混乱は落ち着いている」(周南市)、「最初の混乱の教訓を踏まえ、電話の台数を倍にしたり、システムを二つにわけ、窓口でWeb予約のサポート体制をつくって再度開始した」(光市)など、状況を踏まえた対応をして、混乱状況はおさまっている自治体がほとんどだった。
なによりの違いは集団接種会場の設置だ。もっとも多い防府市は、JA山口県防府とくぢ統括本部JA会館3階大ホールで毎日集団接種を実施し、土曜・日曜日は市内の16小学校の体育館で実施している。それぞれの校区内にある医療機関に依頼し、医師と看護師を派遣してもらう体制を整えたという。高齢者にとっても身近な小学校に行けば接種を受けられるので、交通の便を心配する必要がない。当初は集団接種で8400人を想定していたが、予測以上に早く進んだため、6月7日に追加で4000人分の予約を受けつける予定だ。
山間部も多く、離島も抱える岩国市は、市内だけでなく、合併した由宇、美川、美和、錦、本郷、周東、玖珂のそれぞれの旧町村単位も含め全16カ所の集団接種会場を設置し、地元の医師会が接種業務を担当しているという。柱島・黒島・端島の三つの離島については、柱島共用会館を集団接種会場にして、島ごとに日にちを決めて接種する体制をとっている。市内の医療機関は、個別接種をおこないつつ、集団接種会場での業務がある場合は医師・看護師がセットになって会場に出向いて業務を担当している。担当課は「普段から形成された連携を集団接種会場でも生かせることは強みだろうか」と話していた。
同じく離島を抱える萩市も全7カ所の接種会場を設置している。旧萩市内のほか、合併した須佐地区、田万川地区、離島の見島・相島にもそれぞれ集団接種会場を設置している。周南市も旧市町単位で設置しているほか、大津島の住民に対しては64歳以下も含む全島民への集団接種を完了している。
山口市は当初3カ所で集団接種を開始したが、7月末までに2回目の接種を完了するには、およそ5600人ほど集団接種の対象を広げる必要があると推計し、3カ所増設することにしたという。
また、集団接種会場は少ないものの、医療機関と連携をとってスムーズに進めている事例もある。光市は集団接種会場は1カ所だが、予約率が累計で91・4%と、ほぼ完了している。9割を医療機関での個別接種でおこなうことを想定して体制づくりをし、「現在、65歳以上の予約枠が1000人以上残っているが、予約は横ばいとなっており、希望者はほとんど予約できたのではないか」という。今月17日には16~64歳の基礎疾患を有する人の受付を開始、24日には60~64歳、7月1日には高校生年齢(16~18歳)や12週以降の妊婦、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高校関係者や民生委員、障害児通所事業やコミュニティースクールなどに携わる人たちの受付も始まる予定だ。
美祢市は県内で唯一、集団接種会場を設置していないが、医療機関と連携してリアルタイムで接種の進行状況を把握しており、接種率は約47%となっている。宇部市も医師人口が多いという強みもあって、68医療機関、18病院での個別接種が先行しており、接種率は約3割となっている。集団接種(11会場)が8日に始まる予定で、さらに進む見込みだという。
どの自治体も、トラブルや混乱、失敗はあるものの、どうすれば高齢者が受けやすくなるか、それぞれの実情に合わせて体制づくりをし、混乱が起これば対処するというように、柔軟に対応しているようだ。
下関市は集団接種会場は1カ所しかなく、市保健部は増設する予定はないとしている。旧四町には会場まで1時間以上かかる地域もあるが、域内の医療機関で予約を断られ、あきらめている人たちもいる。離島についても、蓋井島は安岡病院の申し出で「民間による集団接種」が決まっているが、六連島の接種体制は決まっていないという。
一方の医療機関での個別接種がスムーズかというと、ほとんどの医療機関がいっぱいいっぱいの状態だ。「もう予約は打ち切った」「今予約すると10月になる」といわれる高齢者も多く、「いったいどうすればいいのか」と途方に暮れている。接種券を65歳以上に一斉に送るというスタート時点での失敗から立て直しがなされないままで、医療機関に吸収する余力がない状態で64歳以下の予約が始まった場合、さらに目詰まりする可能性も指摘されている。
前田市長のリーダーシップを問う声が各地で上がるなか、前田市長が「災害時に災害対策本部長である市長が感染して対応できなくなるのは大変なリスク」として、集団接種で余剰ワクチンが出た場合、優先的に接種を受けることを表明し、さらに市民を怒らせている。今がまさに災害時。今リーダーシップを発揮できない市長に「災害対策本部長だ」といわれても…というのが市民の率直な感想だ。「行政も頑張っている」といって市民に我慢を強いるのではなく、「どうすれば市民が安心できるのか」という発想に転換し、実情に即した接種体制をつくることが求められている。