中国電力の上関原発計画は計画浮上から27年目を迎えている。現在、建設予定地である四代田ノ浦地区で敷地造成のための埋め立てへ向け、山口県からの許可を待つ状態となっている。7回も着工が延期され、詳細調査も延期に次ぐ延期でのらりくらりと作業が進められてきたが、ここに来て強行突破に乗り出してきた様相だ。中電と二井知事は突っ走りの様相だが、町民はまるでさめており、県民で支持するものはほぼいない。町内で行ってきた世論調査をもとに上関原発を巡る情勢を見てみた。
全県団結の意識性も強まる
中電は二井知事の鼻息の荒さを当てにして、埋め立てに突っ走ろうとしている。「いくら逆らっても無駄であり、原発はこれで出来るのだ」といって宣伝がされている。ところが推進で踊る町民がいなくなっている。
漁民のなかでは、「埋め立てが始まれば残る補償金の半分ももらえる」という騒ぎがある。しかし冷静な意見として、「所得と見なされてもらった半分はほとんど税金になって巻き上げられる」といわれている。2000年にもらった補償金の半額分は、手続き上は補償金の扱いになっていないといわれ、税金は取られていない。しかし「増税」、「徴収」で目の色を変えている国税当局が、上関だけの補償金は税金を取らなかったという前例をつくるわけがない。推進派漁民も結局はだまされた結果になる。
かつて最大の推進派勢力をなしていた商工業者は、すでに「だまされた」の意見が圧倒している。土建業者もほとんどが、「原発が来る前に倒れてしまう」状態といわれている。いまではダンピング競争でやっていけない。原発の工事も、海は五洋建設、建屋は鹿島建設と決まって、地元は入り込む余地はない。入っても、ダンピングで叩かれ、儲けになるどころではないといわれている。
商工会が旗を振ってつくった、中電から優先的に受注するという組合は、中電から相手にされず解散になっている。原発建設に伴い作業員が大量に入ってくれば、「飛ぶように物が売れる」といわれていた商店も、その前に極端な衰退状態だ。
推進派で鼻息が荒くなっているのは柏原町長と大西漁協運営委員長といわれ、原発がらみの企業設立などで利権突っ走りといわれている。その他大勢の推進派との格差は拡大状態になっている。
現在、町内では高齢化が急速に進行している。農漁業、海運業を筆頭にそれにつながる造船業など地場産業が軒並み廃れている。みんながいっているのは、「人が住めない町になったのではたまったものではない」ということだ。
そして、「寂れているのは上関だけではない。今では日本中じゃないか」と、日本をつぶしてきた売国政治が問題との政治論議が強まっている。それは岩国の米軍基地に反対する岩国市民や広島の頑強なたたかいへの共感ともなっている。さらに「都会でも住めなくなって、上関に戻ってくる」という現実であり、これからどういう社会になろうと「海と山を残す」必要度が大きいものとなっている。年配者は、戦争で負けたが、海と山があったから立ち上がってきたという経験とあわせて語られている。
原発反対の拠点となってきた祝島で、二井知事への抗議行動につづいて、上関町議会への抗議行動が取り組まれた。町役場では、久久に警官隊がものものしく動員された。山戸氏、清水氏らインチキ「反対派」が完全に浮き上がって、今まで上手に島民を抑えていたのが役に立たなくなっていることをあらわした。祝島では、暗い、警戒心に満ちた雰囲気がなくなり、重しが取れたような状態で、町内でももっとも活気がある雰囲気となっている。そしてみだりに挑発的な行動をしたりすることが批判されたり、原発は大きな国策とのたたかいであり、祝島島民が下から突き動かして運動をし、全町、全県民と団結しようという意識性が強まっている。
総選挙でも重要争点に 岩国基地問題と共に
上関原発をめぐる力関係で中電側は町民を動員する力がまるで崩壊しているという実際である。原発をめぐる手続きは、埋め立て申請をしたからといって、とんとん拍子ですすむわけではない。
今後の手続きで見ても、埋め立て同意を迫られる二井知事を県民は放っておかない。総選挙もあり、山口県では岩国基地問題と共に上関原発が重要な争点となる。仮に埋め立てまでは突っ走ったとしても、虫食い状態の未買収の土地を買わざるをえない。今買収工作はあまりしていないが、「買わなくても原発は出来る」と思わせて、あきらめるのを誘うという手口である。
また長島に通じる道路は、橋が1本あるだけで、この上関大橋も大型トラックが通行するためにはやりかえなければならないし、避難道路としてはもう1本の道路と橋が必要である。送電線の計画はまるで公表されていない。それどころか、送電線が通るはずの室津半島の山の上には、風力発電の風車がならんで遮っている。
また巨大地震の問題があり、伊方原発と上関原発の周辺は、国が指定する地震の重要観測地域にある。島根でもごまかしていた中電であり、この調査は徹底したものが要求されることになる。また避けられないのが米軍岩国基地に空母艦載機が移駐する計画があり、戦争の場合に標的となる対策をどうするのかという問題がある。原発の沖合海域は厳戒地域となるが、漁業権消滅は埋め立てまでの範囲で、その沖を占有使用するためには、再度の漁業権消滅の手続きがいる。
ざっと見ただけでも、山ほどの手続きがある。埋め立て申請というのは、やっと入り口に入った程度なのだ。要は、町民があきらめなければ、原発は容易に進むことは出来ない関係である。
現在原発をめぐる動きは、表面上では中電の一人勝ち、突っ走りの様相だが、町民との力関係で見ると、線香花火の火が落ちる最後の光景ということができる。実際の力関係としては、推進の力が崩壊し、どんでん返しの様相が強まっている。町長と、町議会を推進派とインチキ「反対派」から奪い取ったら終わりとなる。
世界情勢も大きく動いている。原発回帰の音頭をとるアメリカでは、サブプライムローンを発端とした混乱の中で大手証券会社リーマン・ブラザーズが破産するなど大金融恐慌がまき起こっている。今後日本でも大きな影響が波及することが懸念されている。小泉政府から続く規制緩和、構造改革で外資が続続と乱入し、日本の富がアメリカに吸い取られていることに国民の怒りが沸騰している。大間原発の旧電源開発も外資が株で乗っ取るのが問題になったが、中電のような小さい電力会社もこの先どうなるかわからない。原発どころの騒ぎではないのだ。
近く行われる総選挙は、岩国基地の増強問題と共に、上関原発問題が重要な争点となる。