上関原発建設をめぐって、祝島の漁協が補償金の受け取りを拒否したなら、祝島の漁業権は生きたままとなり、原発建設は終わりになる。11月24日に山口県漁協(田中傳組合長)の森友信専務(室津漁協出身)と幹部職員が、県の梅田農林水産部審議監、仲野柳井水産事務所長の同席のもと、祝島の組合員を集め補償金についておこなった説明のインチキが明らかになった。
組合員に配った「祝島支店の漁業補償金に対する税金の取扱いについて」という作成者不明の文書は、「中電と広島国税の話し合いによる」として、補償金を受け取って配分したらほとんど税金はかからない、「来年5月15日までに、祝島漁協が受け取り拒否して法務局に供託されている補償金の半金(5億4031万5000円)を取り戻さないと国に没収される」、昨年の残る半金(同額)について、国税当局から「受け取らないと、収益補償部分(全額の6・9%)について、県漁協が法人税を申告する必要がある」と説明した。
さらに2年間のうちに補償金が受け取られなければ、祝島支店の所得として法人税の申告が発生する」とし、「予想される」3億7822万円を「祝島支店に法人税として負担していただくしかない」と強調している。
これについて本紙が広島国税局に問いただしてみた。県漁協が配った文書のコピーを預かって3日後に古賀裕志・広報広聴室長補佐が解答に応じた。「個別の案件には守秘義務があって当事者以外には答えられないが、こんな文書は初めて見るし、国税局のだれがこんな見解を伝えたのかもわからない。県漁協さんがつくられた文書なら、これが国税局から聞いた見解かどうか直接そちらに確認してほしい」と困惑した様子でのべた。
「一般論として、補償金のような営業外の収益は、“収益が実現したとき”に計上するのが原則。それには、お金が振り込まれたというだけでは不十分で、漁業権について当事者同士が合意し、完全に契約問題が解決したという段階でなければ“実現”とは判断されない。金が振り込まれても係争中であったり、契約問題が解決していなければ、それは宙に浮いたお金であり、決着するまで収益金とは見なされない」「このようなケースは珍しく、事実関係や諸事情をよく調査したうえでなければ判断できるものではない」との説明であった。
つまり、漁業補償交渉が完全に成立したという前提があって初めて「収益」と見なされるのであり、現在の状態では課税は発生しないということになる。県漁協が配った文書は国税の名を語ったインチキであった。県漁協の森友専務の暴走なのか、県農林水産部か中電の作成であるのか、いずれにしても組合員をだまして否が応でも補償金を受け取らせようという醜い行為である。
推進派が唯一よりどころとするのは昨年末の「共同管理委員会の漁業権契約は有効であり、祝島もそれに拘束される」という最高裁の判決である。それは7漁協の契約は有効であるし、それは祝島も認めなければならないという程度の意味であり、祝島の漁業権が無効になってしまったことを意味していない。祝島の漁業権放棄は、総会で3分の2の議決がいり、補償金を受け取って初めて成立する関係である。県農林水産部、県漁協、最高裁まで一緒になって大騒動をしているのは、祝島に補償金を受け取らせ、漁業権を放棄させなければ原発はにっちもさっちもいかない、これこそ最大の焦点だという事情をあらわしている。