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サマにならなかった下関市長選 「どちらも嫌だ」が62・5% 怒りの集団ボイコット

 下関市長選は14日に投開票を迎え、現職の前田晋太郎が再選を果たした。前代未聞の37・52%という低投票率が物語るように、選挙ははじめから終わりまでしらけきったもとでおこなわれ、およそ62・48%の有権者が棄権する事態となった。安倍晋三前首相のお膝元の首長選として全国からも注目を浴びていたが、なぜこのような選挙になったのか、その選挙模様を振り返りながら記者たちで分析してみた。

 

下関市長選の出陣式での前田晋太郎(左)と安倍晋三(7日、下関市)

出陣式をおこなう田辺よし子元市議(7日)

  結果を見てみると、投票率は前述の通り。前回市長選からおよそ10㌽近く落ち込んだのが象徴的だ。これには市役所界隈もさすがにどよめいている。選挙の体をなしていないからだ。過去にこれほどの低投票率だった市長選はちょっと記憶にない。これが何を意味しているのかを真面目に考える必要がある。コロナ禍だけが理由ではない。

 

 21万6871人の当日有権者のうち、投票したのが8万1363人。棄権した有権者が13万5508人にものぼった。「こんなクソみたいな選挙に付き合えるか!」とか「二者択一というけど、どちらも支持できない」という拒否反応みたいなものは期間中も方々で耳にしてきたが、これほど露骨に選挙そのものが拒否されるとは思ってもみなかった。

 

 しかし、それが下関の6割もの人々、つまり半数以上を占める人々の共通の思いであり支配的な感情なわけで、いわゆる「無関心だから投票に行かなかった」という代物ではない。はっきりと公言する人もいたが、「この選挙には行かない」という有権者の明確な意志が含まれているのだ。あちこちで友人知人と話してみて、「ふざけた選挙だよな…」と多くの人が口にしていたし、それは実感する。

 

  はっきりいってしまうと、あまり好かれてない者がしゃしゃり出て我こそが選択肢なのだと主張しても、誰も相手にしなかった――に収斂(しゅうれん)されるのではなかろうか。いずれの候補者にもいえることだ。この低投票率には、この街のみんなの「ふざけんなよ!」の思いが多分に含まれている。

 

 下関市民がなぜこれほど今回の選挙にしらけ、ある意味キレているのかがわからないよその人、とくに安倍政治に批判的な人たちのなかで、低投票率という現象について「下関は民度が低い」などという言葉も飛び交っているが、民度が低いのではなく、悲しいかな選択肢となった候補者の人気が低いのだ。そうして好かれていない、あるいは信頼されていないために、結果として「相手にできるか!」という選択をした人が多かった。

 

 人物評価というのは、地域で共に暮らしている有権者の見方がリアルに反映されるものだ。それで冷ややかに拒否されるというのは、むしろ候補者なり陣営の側に問題があるということだ。下関のような田舎の地方都市の選挙で、63%が相手にしないとは余程のことだ。村八分という言葉があるが、六分だって大概なものといえる。

 

 なお、他者に向かって「民度が低い」などという言葉を平気で口にできる人の民度とはどれほどの民度なのだろうか? とは思う。結果が思ったように転ばなかったら、その度に「民度が低い」などといっていたら何も変わらないし、変えることなどできない。今回の市長選の場合、なぜ63%もの人が投票所に足を運ばなかったのか、前田も支持しないが田辺も支持できないという投票行動の裏側にどんな思いがあるのか、その原因・事情を突っ込んで考察しないことには始まらない。単純じゃないのだ。

 

 選挙とは人物評価が直結するし、リアルな選択肢として「こっちが嫌だ」ならAorBの二者択一に参加もするだろうが、「どちらも嫌だ」が大半を占めた。端的にいうと田辺では対抗馬になり得ないと幻滅した人々が多かったからこんな結果になったのだろう。それを「けしからん!」とは思わないし、下関で暮らすみんなの思いが正直にあらわれた選挙だったように思う。シビアだし恐くなるほど手厳しいものがある。

 

  前田晋太郎の得票が5万7291票。田辺よし子が2万2774票。この結果について、下関の各界の人々の評価としては「田辺が予想以上に善戦」「前田は少なすぎる」「この調子だと、安倍晋三は衆院4区で相当に得票を減らす」でほぼほぼ一致している。自民党・公明党・連合山口までオール与党で挑んで5万7000票程度というのは、どう見ても少なすぎるのだ。組織力が崩壊しているのか?と思うものがある。

 

 前回の市長選で前田の得票は4万8896票だった。対する中尾が4万5546票。松村正剛が1万958票。安倍派と林派がガチンコで保守同士の争いをくり広げ、自称市民派の松村(市議時代は中尾与党だった)が割る形でかつがつ安倍派が勝利をおさめた。今回の選挙では何度も報じてきたように、林派は山口3区鞍替えで安倍派と手打ちして、市長選には候補者を擁立しなかった。宙に浮いた林派の票がどうなるのかも見所だったが、たいして前田には流れなかったことが結果としてわかる。前田が前回から増やしたのは8395票。1万票も上乗せできていない。つまり、林派をとりこめていない。

 

  表面的には林派の企業群も前田の後援会員集めには一定程度付き合ったりはしていたし、自民党下関支部としても一致して前田支持を打ち出し、出陣式には林派の市議や県議たちも勢揃いしていた。しかし、おつきあい程度という印象も拭えなかった。サンデンの営業所に行けばリーフを置いて前田の室内ポスターも貼ってはいたが、運転手たちに後援会員集めを強いるようなことまではしていなかった。林派としては、むしろ同時進行の萩市長選の方が最大の関心事で、河村建夫・田中文夫兄弟を叩きつぶそうと全力を投入している有り様だ。

 

  林派がつれない態度というか、本気で動いていなかったのは歴然としているが、林派の面々からしたら「どうしてオマエ(前田晋太郎)の応援をしなきゃいけないの?」も本音だろうと思う。まぁ、あくまで対抗馬は出さないというのが最大の協力だったのだろう。プラスアルファでちょっとだけ付き合ってやるかみたいな感じにも見える。選挙といえばプロ集団ともいえる山口合同ガスもおとなしかったし、いざ林派が選挙を構えるとなったらこんなもんじゃない。「合同ガスは選挙が本業。ガスは副業」と下関では昔から冗談混じりに語られてきたが、それだけ林派の選挙というのは徹底している。今回についてはある程度の協力はしつつ、静観していた風にも見える。

 

  一部で「林派が田辺よし子の応援につくかも」みたいなデマを東京のメディアとかフリージャーナリストが書き散らかしていたが、下関では「バカじゃないのか」と笑われていた。どうも田辺本人が吹聴していたようで、陣営のなかでも「Y市議(林派)のつてでN工務店(林派)が応援してくれている」とかのはったりをかましたり、名前を出された当事者からすると事実に反するので仰天するような話も飛び交っていた。自民党下関支部で干されるレベルの話だ。

 

 どうしてあんなはったりを平然とかますのかは本人以外には理解ができないのだが、林派がまるで水面下で応援してくれているような話を流布して、安倍派林派の感情を利用しつつ一部をとり込みたかったのだろうか――と話題になっていた。

 

 そんなはったりによその人というか、東京の人はコロッと欺されるみたいで、恐らく真に受けたのだろう。いずれにしても嘘は流布したらいけないと思う。他人に迷惑がかかるから。Y市議とかN工務店などは立場もあるし、たまらないと思う。安倍晋三の118回の嘘も除夜の鐘の煩悩の数をも上回るすごいものがあるが、そうでない側も嘘やはったりはいけない。それで振り回された人も随分いるようなので、付き合い方には気をつけた方がいいと思う。というか、メディア関係者については、記者なら自分で裏付け取材して見抜けよ! とは思う。

 

  田辺については周囲の想定以上に得票を得たとはいえると思う。これは、そうはいってもアンチ前田の批判票が一定数あることを示した。陣営は「目指せ6万!」とか「8対2から6対4まで追い上げている!」(根拠不明。どこの報道機関も世論調査すらしていなかった)などと期間中も好きなことをいっていたが、やはり足場が乏しく有権者から相手にされていなかったのも事実なのだ。しかし、モリカケ桜とか、安倍晋三の私物化政治への嫌悪や批判も鬱積しているし、前田ではダメだと判断した人が一定数投票した結果といえる。二者択一に参加した人もいたのだ。

 

  夜八時の当確すなわちゼロ打ちがなかったのは、接戦で得票が読めなかったからではなくて、どこの報道機関も出口調査すらしていなかったし、そのような選挙だったからに過ぎない。斯くして全有権者に占める支持率をあらわしたとき、前田が26・4%、田辺が11・1%、どちらも支持せずが62・5%という結果になった。

 

 前田晋太郎が再選を果たしたとはいえ、その基盤は実は脆い。もっと別の有力な玉が対抗馬としてあらわれ、がっぷり四つの選挙戦になった場合は吹き飛んでいくことをあらわしている。田辺よし子に勝ったからといって喜べるような代物ではないのだ。

 

 田辺が出てくれたおかげで無投票は回避でき、「信任を得た」体裁は整ったかも知れないが、敵なしだった割に得票はサマになっていないという現実がある。37%という低投票率が47%に戻れば2万2000票余りが動き、57%になれば4万4000票余りが新たに動く。投票率60%といっても決して高いわけではないが、批判票の受け皿として有権者に受け入れられる陣営が登場して、そのような白熱した選挙になった場合、つまり泡沫相手ではなくもっとまともな選挙戦になった場合は、支持率26%などすぐにひっくり返されるのだ。

 

注目の衆院4区の選挙  二度の放り投げに批判世論

 

 A 前田の出陣式には安倍晋三が直々に乗り込んで、1日中選挙カーに張り付いていたのが印象的だった。これまた代議士本人が市長選に姿をあらわすなど前代未聞で、安倍派の人々に聞くと「衆院4区が心配で仕方がないみたいだ」「次の国政選挙への危機感なのだ」と揃って話題にしていた。モリカケ桜、コロナ禍の2度目の放り投げを経て、「次はないよね」と街中でも平然と語られる状況にあるし、さすがに批判世論はすごいものがある。「この国を守り抜く」の安倍晋三ポスターを見ながら、「コロナ禍で放り投げといてよくいうよね」と笑っている人も多い。

 

 今回の前田晋太郎の得票を見て、「代議士が直々に応援に回ってあの程度。4区は相当に減らすだろうね」「むしろ逆効果だったんじゃないか?」と語られている。「田辺ですら2万3000とった」と自民党関係者の衝撃は大きかったようで、そうでない候補者が出てくる山口4区において、この街のみなさんからオマエが受け皿になれ!という力が働いたときに果たしてどうなるかだ。投票率37%ということはまずない。それこそ投票率が60~70%になるような本気の選挙戦を空中戦ではなく地上戦でたたかう戦略が必要だろう。

 

  4区は安倍晋三とれいわ新選組・竹村かつしの一騎打ちになるようだ。れいわ新選組のポスターは街中に増えているし、またそのことが有権者のなかで「最近、れいわのポスター増えているよね」「もっとやれ!」と話題になっている。それは今回の市長選のように「相手にできるか!」みたいな空気や反応とはまるで違うものがある。コツコツとポスター掲示のお願いに来るものだから、貼れない人でも「地道に頑張ってるじゃないか」と話題にしている。いわゆる根無し草がフワフワと宙に浮き上がって反安倍で踊り狂うような類いではなく、一歩一歩地域コミュニティに入り込んで人々とつながり、対話をしながら力を束ねていくような過程こそが大切なのだろう。

 

 ネット依存のプロモーションなど影響力はたかだか知れている。選挙区をたたかううえで重要なのは地上を這い回ってリアルの世界で有権者とつながることだ。そこでみんなの思いに学び、一つ一つの要求を拾い上げて政策とつなげていくことが必要だと思う。昔の政治家は1年に3足靴を履きつぶさなければ半人前とかいわれ、徹底的に足を使って努力していた。最近の選挙は「○○旋風」とかの表現をしたがるが、風は吹けば飛んでいくし、飛ばされていくものでもある。しっかりと地に足つけた政治家こそが強い。

 

 4区で竹村かつしがどこまで得票を伸ばすのか、この度の市長選は評価がまるで別物なので比較対象にはならないが、そうはいっても自民党としては痺れる前哨戦にはなっている。

 

  この間、「長周新聞が田辺よし子に手厳しいのはなぜか?」という質問も受けるのだけど、安倍派の対抗馬だったらみんな素晴らしいというような安易な評価がなぜできるのだろうか? また現実には、長周新聞が手厳しいのではなくて、市民のみなさんが手厳しい評価をしているというのが選挙結果をご覧になればわかると思う。63%もの大多数を占める有権者の複雑な思いもひしひしと分かるからこそ、現実をねじ曲げて報道するわけにはいかないし、厳しい評価があるという事実も伝えてきたつもりだ。みんなが「田辺よし子こそが対抗馬としてふさわしい」と思えば、投票率ももっと爆上がりして、楽勝で勝っている。

 

  例えば安倍晋三の虚言癖がけしからんとかも遠慮なく書くが、同時にそうでないいわゆる左翼の側の嘘やはったり、汚れも付き合えるものではないし、あるがままの現実に評価を加え、けしからん場合には批判を加えるのが新聞だ。今回の場合、反安倍の東京発プロモーションかなにかで田辺をまるでジャンヌダルクのように描くのは無理があるし、そのような嘘は書かないというだけだ。ここは譲れない。だいたい、そんなことしたら下関市民の皆さんに笑われるではないか。新聞としては、なぜ六割以上もの有権者が選挙に行かなかったのかをきっちりと教訓化するのが仕事だろう。そしていえることは、今回の場合、候補者や陣営の側に相手にしてもらえない相応の問題があったということだ。

 

 あと、これは補足的なことなのだけど、東京界隈のメディア関係者が取材もせずに聞きかじりで記事にしたり、物知り顔で書く頓珍漢な報道も目にしてきたが、そうした取材不足な記事や、憶測や願望をもとにして書かれた記事を見た人々が判断を誤ってしまう現実について、なんだかな…という思いがしないでもなかった。罪作りだな…仕事が適当だな…東京ではそれでメシが食っていけるのかな…とか思いつつ、最終的にはいい加減にしろという状態だった。「民度が低い」という言葉が投げつけられるのもその延長線上にあるのだと思う。

 

  いずれにしても、候補者は誰でもいいという選挙などないことがくっきりとあらわれた選挙だった。それ以上でも以下でもない。そして、某界隈での読みとして語られていた投票人数8万の6対2という予想が、微妙にずれてはいるがほぼほぼドンピシャリだったことも「ほほぅ…」と思わせるものがあった。

 

白熱する萩市長選  林vs河村の全面戦争

 

 A 下関市長選は無風で終わったが、目下白熱しているのはむしろ萩市長選だ。林芳正の3区鞍替えの代理戦争みたいなもので、林派としては宇部市を抑え、美祢市を抑え、山陽小野田市も抑え、萩市も林派が市長ポストをとれば、3区内の全市のコンプリート完了ということになる。現職の藤道を林派が全面支援し、対抗馬として河村建夫の実弟である田中文夫が県議を辞めて市長選に挑んでいるが、まさに全面戦争の様相だ。

 

 自民党県連は藤道の応援に回り、県議会議長の柳居俊学はじめとした県議たちがわんさか応援に乗り込んでいる。林芳正本人に加えて安倍派県議も林派県議も岸派系列も含めて出陣式に雁首をそろえ、60㍍ほどしか離れていない目と鼻の先で田中陣営も出陣式をしているといった有り様だった。公明党も自主投票とはいうものの、実質的に藤道支援に回っている。これに対して河村・田中陣営は危機感をあらわにして「よそ者が萩市を乗っ取ろうとしている!」と叫んでいる。

 

萩市長選の出陣式に臨む現職の藤道健二(左)と林芳正(14日、萩市)

  自民党県連としては「3区は林芳正に」が既定路線で、今回の選挙で完膚なきまでに河村建夫・田中文夫兄弟を叩きつぶしに行っている風だ。県選出の代議士連中のなかでも河村が浮いていたのは周知の事実だったが、4区の安倍からすると林が選挙区から出ていってくれれば安泰と思っている側面があるし、林からしても今回の3区鞍替えは政治生命をかけて挑んでいるような印象だ。

 

 河村の後ろ盾となっている二階派との全面衝突にもなるが、林芳正は既に住民票を下関から宇部市に移し、3区からなにがあっても出馬するという意気込みを行動で示している。

 

萩市長選に挑む前県議の田中文夫(左)と河村建夫(14日、萩市)

  下関の林派のなかでは、とくに古くから林派を支えてきた支持者たちのなかで、住民票を宇部市に移して下関から出て行ったことへの怒りみたいなものも渦巻いていて、「長年支持してきたのに情けない」「どうして4区で挑まないのか」「これは裏切りだ」と語る人が多い。あの中選挙区時代を支えてきたという自負もあるからだろう。

 

 安倍派との全面戦争をくり広げるならまだしも、恐れをなして逃げ出していった印象に映るようで、林派の矜持からなのか「みっともない」と怒っている。安倍晋三との軋轢で古賀敬章が下関から出て行き、小沢一郎にとり入って福岡を選挙区にしたのもそうだが、どうしてコイツらいつも逃げ出すのか――と。

 

  それこそ、今4区で安倍派と林派が全面対決をすれば、林が勝つぞという見方だってある。もう首相まで上り詰めて終わった人なのだから、安倍晋三が比例に回って今度は林に譲れよ! という世論もある。林義郎が選挙区を安倍晋三に委ねて自分が比例に回ったのと同じように、安倍派も林派に対して礼を尽くせと――。しかし、林芳正は3区横取りを選んだ。それが双方にとって都合がいいからだ。

 

  山口県は昔から政争が激しい。4区なり下関ではとり残された林派がどんなポジションで振る舞っていくのかも微妙だ。今回の下関市長選は手打ちして対抗馬を出さなかったものの、出せば互角以上の力を持っているのも事実なのだ。今後は手打ちや取引をしつつ、影響力だけは保っていくのだろう。そんなやり方を見て、街の皆さんは「さすが林派の小商人(こあきんど)商法」などと陰口を叩くのだと思う。

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