中国電力は上関原発計画の原子炉設置許可申請の説明会をやるとして、23日定期船で祝島に行ったが、祝島島民が断固とした抗議行動を展開し、中電側は船から降りることができず、すごすごと引き返した。時折雨が降りしきるなか、婦人をはじめ漁師、農民など150人以上が波止場を埋め尽くし、中電に抗議した。
今回の抗議行動を前にして22日、島民の会の名前で「23日午前10時より島民集会を行う」という趣旨のチラシが配られた。それは「説明会は祝島自治会長が開催不能として断っている」「祝島は大多数の島民が上関原発計画に反対しており、漁協祝島支店は補償金受け取り拒否を決議している」「原発をつくるための説明会など認めるつもりは全くない」というものだった。島民の大多数の意見として「上陸を阻止する」というのは一致しており、今回の行動になっていった。
午前10時前になるとぞくぞくと島民が集まり始め、波止場には「上関原発絶対反対」の幟や旗が立てられ、「原発建設のための埋め立て反対」「公有水面埋め立て許可の取り消しを」などと書かれた横断幕などが掲げられた。婦人たちを中心に波止場の先に集まり、中電を待ち構えた。
10時30分すぎに中電職員を乗せた定期船が到着。準備事務所の岩畔所長以下、本社の社員も含めて総勢一五人が船の中で立ち往生した。顔を出して「祝島の方方にはお詫び申し上げます」「説明会を聞きたいという方もおられる」とか細い声で話す中電にたいして、島民が「何で今ごろ来たんか!」「帰れ!」「原発をやめるといいなさい!」「白紙撤回以外にないぞ!」「第一次産業で食べていけんといったのは誰か!」「埋め立て免許は無効だ!」など口口に思いをぶつけた。
船の入り口は「上関原発絶対反対」の幟や旗でふさがれ、婦人たちが体を張って上陸を阻止した。また隠れてこそこそと写真を撮る中電社員にたいして、「勝手に撮るな! あんたらに28年間の苦しみは分からんやろうがね! とっとと帰りなさい!」とあちこちから声が上がった。
にらみあいが続いた後、11時30分すぎに中電は上陸をあきらめ、船の前部で12時30分の出発まで外の様子をうかがいながら小さくなっていた。12時30分に船が出航するときには、みんな口口に「よかったね!」「一歩も祝島の土を踏ませんやったね」と喜びあった。
中電は「今日は上陸できなかったが、また明日も同じ時間に来ます」といって帰っていった。島の人の話では、中電が公民館を4~5日間借りているという。
参加した婦人は「とうとう中電は上がれなかった。みんな雨のなかだったけど参加していたし、特に高齢のばあちゃんたちが体が悪いのを頑張って参加していた。みんなの思いが噴き出ていたし、自分ももっと頑張らないといけないと思った」とうれしそうに語った。そして「中電は金でどうにかしようとしているが、祝島は絶対に補償金を受け取らない。金を使ったらどうにかなると思っているかもしれないが、そうはさせない。絶対に負けられないとやっている祝島の者をこれ以上だますことはできない。明日も来るといっているが、絶対に上陸させない」と強く語った。
漁師の一人は「中電は上陸したという実績をつくろうとしたが、まったくできなかった。おばちゃんたちが前面に立ってやっていたし、やっぱり今回もおばちゃんたちの力が大きかった。何回来るか分からないが、最後は汚い手を使ってこっそり上陸してくるかもしれない。これからも中電を一歩も島には上がらせないというのでやっていく」と語った。また「中電がここまでしてやってくるということは、祝島が補償金を受け取っておらず、工事が前に進まないからだ。これから二井知事の埋め立て免許無効とあわせて、はっきりしてくると思う。もうだましはきかない」と語った。
農業を営む高齢婦人は「抗議行動に参加したが、みんな28年間の思いをぶつけたと思う。これまで本当にずっとだまされてきたし、補償金の問題やその他様様なことで島民は苦労してきた。中電は今まで一度も祝島と話し合いを持たず、だましてやってきたが、今さら何が説明会かと思う。中電はまったく工事ができていないが、それは当たり前のことだ。祝島が補償金を受け取っていないのにできるはずがない。中電は祝島をばかにしていると思うが、ここまできたら白紙撤回までたたかう。ふり出しに戻さないといけない」と語気を強めた。
国土廃虚にさせぬ斗い 全国的な共感広げる
上関原発計画が浮上して28年、中国電力の職員は、遊漁の客を装って忍び込んだことはあっても、公然と祝島に渡ったことは一度もない。祝島島民の合意を得るという行動をまったくしていないし、一度も頭を下げてお願いに来たことがない。28年間、自らは後ろから糸を引いて、各種の代理人を使い、祝島島民に筆舌に尽くしがたい苦労を押しつけた。漁業権問題が最大の問題だが、「補償金を受け取れ」というのも、二井知事、県漁協まかせで、しかもウソと脅しであった。そういう非礼非道の限りを尽くしておいて、今さら当然という顔をして乗り込むといっても、祝島島民が認めないのは当然の心情である。
中電の祝島に乗り込もうという試みは、原子炉設置許可申請に当たって、祝島だけ説明会ができないというのでは役所の書類で困るという事情があるにせよ、それ以上に代理人方式でやってきて、漁業補償金受け取り拒否となって、すっかり追い込まれた焦りをあらわしている。漁業権問題で、ウソと脅しのバクチをやって失敗し、二井知事の埋め立て許可は無効であるだけでなく、祝島との漁業交渉が最後的に決裂することとなったからである。
中電が焦って乗り込もうとするが、それがますます祝島島民の斗争精神の火に油を注ぐ効果となり、中電の行き詰まりを暴露し、全町、全県、全国の共感と支持を強める効果となっている。祝島島民が自分たちの生活を守るだけではなく、内海漁業と日本人の魚食を守り、またミサイルの標的となって国土を廃虚にすることを阻止するという行動が、全国的な共感を広げるものとなっている。