山口県の二井県政が、ウソと脅しで上関原発建設に身を乗りだしている姿が暴露されている。1昨年来、二井県政は「最高裁判決で漁業権問題は解決済み」とまるで漁業権がなくなったようなウソをいい、中電に公有水面埋め立て許可を出して、祝島にたいしては漁業補償金の受け取りを迫り続けて行き詰まっている。最近では祝島の運営委員選挙で「山戸氏は要職につかないのが合併の条件」と、漁協運営の常識もかまわずごり押しの姿勢。信漁連問題、県一漁協合併問題などによって、漁業者を激減させ、沿岸の漁業基盤をつぶしてきたが、水産行政の権力を漁業の振興のためではなくて、中電という私企業の原発建設のために、瀬戸内海漁業を壊滅に追いこむために使っている。祝島の問題は、ますます全県の漁業の問題として、全県的な関心を呼んでいる。
祝島で4月24日に開催された組合員集会に、この春退職した梅田孝夫・元農林水産部審議監が柳井水産事務所次長とともに現れ、県漁協といっしょに「山戸氏は運営委員になれない」「合併したときの約束だ」と主張したことが全県で物議を醸している。全県の漁協関係者たちは「そんな話は聞いたことがない」「一支店の運営委員問題に県が必死になるなど、よほど政治が動いているのだ」と一様に驚いている。
水協法では禁治産者や未成年者、暴力団員以外は正組合員であれば誰でも理事になる資格があること、漁業者が推薦しているのに元県幹部が出ていって「立候補したらダメ」などと指導すること自体おかしなことだと口をそろえる。「裏約束など組合員が総会で承認していない内容はすべて意味をなさない。総会で選出して承認されれば、監督官庁や統括支店が“認めない”などという関係ではない」「ムチャが過ぎる。県は何を企んでいるのか?」と大話題である。
このことについて柳井水産事務所の中島所長に問うと、「水産事務所は山戸氏の運営委員の問題には関わっていない。運営委員の問題は漁協の事だ。梅田氏は退職しているが、当時山戸氏の問題に関わっていたから行ったのだろう。水産事務所としては決算の報告があるから参加した」のだとごまかしている。
ちなみに、県漁協が昨年「漁業補償金を受け取れ」と迫った説明会に県が同席したことについて、当時の農林水産部担当者は「県は補償金問題には関わっていない。運営委員の問題があるから監督官庁として祝島に行ったのだ」と釈明していた。その時時で主張がかわる。県庁内でも、責任も権限も何もない退職してただの人になった者が出て行くということは聞いたことがないと大話題になっている。
二井県政農林水産部が、漁協総会の議決でしか変更しようのない祝島の漁業権が「最高裁判決の判決で変更された」といって突っ走ったり、運営委員を県漁協が認めなければ立候補できないというのをわざわざ元審議監を乗り込ませて証言させたり、水産行政の非常識の連発となっている。中電も工事妨害で1日500万円の損害賠償を求める裁判をしたり、見込みがないのに祝島上陸作戦を強行したり、やることが冷静さを失っていることが特徴となっている。これは祝島が補償金を受け取らなければ、二井知事の公有水面埋め立て許可は無効であり、原発は終わりになるという危機感を持っていることを、ますます人人に印象づけている。
2000年に支払った5億4000万円(10億8000万円の漁業補償金のうち半額)の供託金没収が5月に迫るなかで、焦りがひどくなっている。
県一漁協合併が転機に 祝島を巡る動き
祝島を巡る動きを見た場合、県一漁協合併が大きな転機になった。祝島について県水産部は、もともと特例として計画除外だったが、2004年暮れに急展開で「合併対象にふくめる」と発表。何も情報が知らされていなかった地元漁業者には、考える猶予すら与えない奇襲作戦であった。
県が祝島漁協を合併対象に加えたのは、祝島漁協を解散させ、漁民の権利を奪い、とくに漁業権を放棄させること、そして中電が原発を好き勝手にできて、内海漁業の壊滅をはかるという全県漁業にとっての重大問題だった。05年1月末の祝島の臨時総会では、合併議案を否決に持ちこんだものの、県が乗りこんで監査で漁協経営を調べ上げ、山戸氏らが突然退場。その後推進派の運営委員らが登場して「祝島は推進になった!」と長島側の推進派陣営が小躍りする状況になった。
合併しないなら信用事業が続けられなくなり、系統団体から脱退して信漁連出資金の毀損(約6900万円)問題が発生すること、くわえて信用事業清算にともなう貯払い資金など約9600万円の確保が求められ、漁協欠損金(約1600万円)の解消までプラスされると恫喝。逆に合併したら信用事業が継続でき、漁協欠損金と職員退職金をあわせた約2200万円、県漁協への出資金増資約4300万円ですむとし、「150万円負担か、60万円までの負担か」とはかりにかけて合併させたのは、ほかならぬ県水産部であり、その当時に柳井水産事務所長だったのが梅田氏であった。
反対派側の力を削いで、05年末に祝島漁協が合併を決議した際には、環境調査にかかる協力金2000万円の供託金を法務局から取り戻して漁協の負債解消に突っ込むことと、漁業補償契約の無効を訴えた裁判の取り下げを決めるなど、白旗を揚げるような状態にもなった。
そして、推進派運営委員が牛耳ったなかで漁業補償受け取りを何度も決議しようという動きに発展。これにたいして島の婦人たちを中心に住民が立ち上がり、昨年2月の総会では2票差という僅差で受け取り決議を阻止することとなった。一連の過程で、県の水産行政担当者が推進派漁民に電話を入れてそそのかしたり、誘導してきた関係がある。
しかし、二十数年にわたって上関原発を阻止してきた祝島の婦人をはじめとする島民をだますことも抑えつけることもできなかった。下からの巻き返しの行動が一気に高まった。それは田名の阻止行動で突破し、全県的全国的な連帯を広げつつ強力な力となっていった。そして今年一月の総会では大差で否決。「原発はできるから諦めろ」の大がかりなパフォーマンスは頓挫した。
「山戸氏が要職につかないのは合併の条件」などという騒ぎは、要するに祝島の運営委員会を推進派が握るようにしようというもので、中電と二井県政の悪あがきにほかならない。それは祝島だけの問題ではなく、全県の漁民の問題として受け止められている。
祝島の補償金問題については、県漁協が5月6日に開催する理事会で、21年度決算とあわせてその扱いが報告されると見られている。県漁協が原発建設のために特別の動きをしているが、それは全県の組合員の合意を得たものではない。全県の漁民をさんざんに搾り取る県漁協であるが、内海漁業を原発で壊滅させる県漁協は全県漁民の組合であるのかどうか鋭く問われている。
県内漁業者は急減 根に信漁連問題
山口県では、2005年を前後した漁協合併問題で、自民党林派による悪事のツケを同派所属の二井県政が力ずくで漁業者にかぶせた結果、数千人もの漁師が生きる糧を奪われ、金を奪われ、生産意欲を奪われるなかで、沿岸漁業の衰退がいっきに進行した。最後的に内海漁業をギロチン刑にする上関原発を二井県政が推進することへの怒りは尋常ではない。
2008年漁業センサスを見てみると、県内の漁業就業者数は6723人にまで減少している。5年前の2003年調査で8084人だったのから16・8%もの減少率となった。全国的には6・9%減なので、10も上をいく異常事態が起きている。漁船の数は7432隻から5981隻へと1451隻減少(19・5%減)し、そのうち906隻が1~5㌧の小規模な漁船だった。65歳以上の占める割合が49・5%で、“水産県山口”の未来を担う30歳以下の漁業者は194人(2・8%)しかいない。90年代からの20年来で漁業者はほぼ半減である。
他県と比較しても漁業の衰退がすさまじい問題の根本に信漁連問題がある。それは80年代を通じて黒井漁協の故桝田市太郎氏(黒井漁協組合長、林派県議団長)がマリンピアくろいに注ぎ込んだり、国債の先物取引で野村証券に手玉にとられるなどして、信漁連が203億円もの欠損金を抱えたのが引き金になった。マリンピアは当時自民党総裁選に立候補した林義郎代議士の「献金マシーン」と揶揄されるほどで、自民党水産部会長が鳴り物入りで推進した事業が破綻し、全県漁民の預金が焦げ付いているのに、長年にわたって県水産部も水産庁もひた隠しにしてきたものだった。
ところが問題が発覚した後、平井知事につづく二井知事がやってきたことは、信漁連問題を解決するというのではなく、これによって漁協を締め上げ、国や大企業の政治目的のために利用することであった。林派の悪事は手柄に化けた。
山口県政は、90年代に信漁連問題が表面化したことを受けて、再建のために総額21億円を「支援」するかわりに「漁協合併をすすめること」「県がすすめる公共事業に協力すること」という条件をつけた。豊北町、豊浦町、萩市、長門市や油谷町、下関市響灘海区、防府市などで漁協の大型合併へと誘導。さらに米軍岩国基地の沖合移設、宇部の産廃処分場建設、下関の沖合人工島、また上関原発埋立同意など、長年行き詰まっていた大型事業を前に進めた。大企業や米軍の要求を実現するために、漁協が反対できない仕掛けをつくり、沿岸の大規模な漁業破壊をすすめたのである。
同時に各漁協からは信漁連にたいして、総額104億円(倍額増資12億円、早期是正増資70億円、緊急増資22億円)も増資させた。それは信漁連からの借金証文を書いて、出資金に振り替えるというものであった。2005年の県一漁協合併で、残り100億円の負債解消をやる段になると、その架空増資は“死に金”になっただけではなく、逆に「合併しないと各漁協さんの負債になりますよ」の脅しに利用された。
県一漁協合併に際して、農林中金が五〇億円を「真水で支援する」といい、県が約二五億円を貸して「支援する」といい、県議会も二井知事も「今回が最後だぞ!」と豪語してきたが、だいたい漁業者は「今回」も「前回」も迷惑をかけた試しがない。迷惑をかけてきたのは、自民党林派関係者なのだ。そして、政治家に媚びて信漁連のデタラメ経営を水産庁や県水産部が長年にわたって黙認してきたからなのだ。
200億円もの預金を食い潰した信漁連は、責任を県下の漁協に転嫁して、県漁協を乗っ取った。魚を売ればピンハネ、油を買っても網や資材を買っても支店どころか本店までが二重にピンハネで、おまけに組合員には60万円までの不足分を増資させ、7万5000円の協力金まで巻き上げる。まさに山口県漁民の苦難を増幅させる「漁協」が誕生した。その県漁協が祝島に乗りこんで、二井県政の水産行政の実働部隊として原発推進の側で恫喝やウソを繰り返している。
権威を増す祝島の斗い 行詰る県・中電
水産行政の権力を漁業をつぶすために使う、地方公共団体を国や特定企業の利益のために使う、上関原発をめぐる二井県政の振る舞いは、全県民の大きな怒りを呼んでいる。そして祝島島民の補償金受けとりを拒否する断固としたたたかいは、全県の漁民、県民のなかで尊敬に値するとしてその権威をましている。追いつめられているのは、祝島島民の側ではなく、二井県政、中電の側である。
上関町民のなかでは、回ってくる中電職員の顔色が暗いと話題になっている。町内の推進派が、工事がまったく進まないとして、警察や海上保安庁に祝島の抗議行動の取り締まりを要請したりして、焦っている姿が話題になっている。祝島が補償金を拒否したら、本当に原発は終わりなのだという実感が広がっている。