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漁業権放棄は三分の二同意が不可欠 祝島巡り「補償交渉決着」の偽装

 上関原発計画に伴う漁業補償金10億8000万円の受けとりを拒否してきた祝島で、2月28日に県漁協が申し入れる形で「総会の部会」が開かれ、これまで拒否してきた漁業補償金の扱いについて、急きょ、無記名投票で多数決がとられ、受けとり賛成31票、反対21票で受領を決定する出来事が起こった。事前に動きを察知していた商業マスメディアが当日は会場となった祝島公民館を囲み、「補償金受領可決」「祝島が一転して受け取りへ」「原発計画へ意識変化」などと大騒ぎをして、まるで漁業補償問題が完全決着し、祝島島民あげて屈服したかのような扱いをし始めている。インチキ極まりない補償金受けとり騒動の実態を、祝島現地で取材した。
 
 祝島島民の斗う力は健在

 祝島支店の組合員には、県漁協本店から2月20日付で「総会の部会の開催について」と題した文書が送りつけられていた。そのなかで議案の一つに「漁業補償金について」と記されていたことから、反対派の漁業者たちは昨年2月の組合員集会で「今後は支店内で漁業補償金については協議しない」と緊急動議を可決していることを上げ、決議を無視して議案提案するのは認められないと文書を送付。何通かの文書で県漁協側とのやりとりがくり広げられたが、28日当日を迎えていた。
 総会に先立った議長選では、通常なら反対派の代表が就いていたのが、この日は29対24で敗れ、恵比須利宏運営委員長が議長に選ばれた。その采配で無記名投票になだれ込み、蓋を開けたら賛成31票、反対21票という結果になった。正組合員53人のうち出席したのは42人。残りの11人は委任状を提出していた。山戸貞夫元組合長本人は出席せず委任状参加だった。
 前回総会では漁協組合員以外の住民たち、とくに婦人たちが公民館に駆けつけ、「漁業補償を受けとるな!」と仲間たちを援護射撃し、島ぐるみで県漁協幹部らを撃退した。しかし、今回の総会は一般住民にはほとんど知らされないまま開催された。30年間にわたって原発反対を貫いてきた島民にとっては、まさに寝耳に水の事態で、ニュースや新聞で見聞きしてビックリすると同時に、「30年間頑張ってきて祝島の恥だ!」「福島事故も収束していないこの時期に、全国から応援してくれている人たちに見せる顔がないじゃないか」と強烈な怒りが広がっている。「どうしてこのような事態が起きたのか」というのが大半の島民の思いとしてある。前回の決議からわずか十数票がひっくり返ったことで、祝島全体が原発計画に賛成に転じたような扱いがされることに、我慢ならない思いが充満している。
 島民の会のリーダーである清水敏保町議らが、なぜ阻止するために全体を動員しなかったのか、開けて通したのかという疑問や不信も募っている。中電社員の上陸を阻止してきたような祝島島民のパワーは健在であるのに、補償金を受けとらせようと攻勢をかけてくる県漁協を招き入れ、フリーハンドで重要な決定をやらせていくこと、切り崩し容認の姿勢についても批判や疑問の声がうっ積している。

 3分の2同意得られず 「受取り決定」の実態

 今回の「受けとり決定」でマスコミはさも漁業補償が完全決着したかのような扱いをしている。しかし、漁業権放棄をするためには総会の3分の2以上の同意が不可欠である。実際に祝島を除いた関係7漁協では、107共同漁業権管理委員会が補償交渉を妥結する前に、総会における3分の2同意という正規の手続きを踏んでいる。祝島支店の正組合員は53人なので、この場合、3分の2以上になるためには35票が必要となる。31票では足りない。さらに、「受けとり」を過半数で決めたから漁業権放棄が認められた、というのも乱暴な話で、いずれ正規に総会を開催して漁業権放棄への同意をとらなければ通用するものではない。仮にゴリ押しで配分委員会が協議して配分基準を作ったとしても、総会にかけられて3分の2以上の同意が得られなければ配分までたどりつけない。31人の賛成では手続き上も前に進みようがないのが実態だ。
 公有水面埋立法では漁業権の権利者である漁業者に対して「損害賠償をしなさい」となっているものの、「漁業権を放棄しなさい」とはなっていない。21人が漁業補償金の受けとりを今後も一貫して拒否し続けた場合、「3分の2同意」が成立しないのはもちろんだが、漁業をやりたがっている者が漁業権を行使することについてだれも止めることはできない。海面が空いていれば、漁場として利用するために漁業権が免許されるというのが基本原則なのだ。補償金を返却して漁業権を再度交付してもらった事例も全国ではある。
 上関原発をめぐる補償金問題は、2000年に関係八漁協(四代、上関、室津、祝島、平生、田布施、光、牛島)で構成する107共同漁業権管理委員会が、祝島の反対を押し切って中電とのあいだで妥結した漁業補償(125億円。うち四代漁協23億8500万円)をもって、「共同管理委員会の多数決で漁業権問題は決着済み」といってきた。しかし実際には、祝島の漁業権は消滅しておらず、補償交渉のテーブルについたことすらない。補償金受けとり騒動は、祝島が漁業権放棄に同意し、さらに補償金を受けとり、妥結の判を押さなければ原発はどうにもならないことを暴露してきた。だから、二井県政および山本県政の側は県漁協を使って、「漁業補償金を受けとれ」と必死に工作してきたのだ。解決済みならムキになる必要などなかった。
 本来なら関係漁協すべての同意、すなわち漁業権放棄の決議があってはじめて出せる公有水面埋立免許を2008年に二井知事が先走って許可し、「管理委員会の議決に拘束される」という弁解の道も用意した最高裁判決を、「祝島の敗訴」といって騒ぎ、「祝島の漁業権はなくなった」「原発はできるのだからあきらめろ」と大がかりなパフォーマンスを打った。
 当時、中電は土建業者を焚きつけて飯場建設や現地田ノ浦での採掘などをやり、今にも原発ができるような雰囲気をつくっていった。それとセットでまずは祝島漁協を山口県漁協に吸収合併させるよう県水産部が誘導し、さらに県漁協を通じて漁業補償金の受けとりを迫っていった。宙に浮いていた漁業補償金は長年法務局に供託金として眠っていたが、10年の時効が来て国庫没収になる寸前、つまり漁業補償交渉決裂となる2010年段階でも祝島が拒否したことから県漁協が慌てて引き出し、預かる格好になった。合併していなければ2010年時点で国庫没収となり、原発計画は振り出しに戻っていたことは疑いない。国庫没収によって既に7漁協へ支払っている金もパーになることから、大慌てで「受けとれ!」「受けとらなければ高額の税金だけかかってくるぞ!」(その後も受けとっていない補償金に対して、高額な税金が税務署から請求されることなどなかった)等等、ハッタリや恫喝など何でもありで迫っていったが、祝島ははねつけていた。
 なお、身を乗り出して延長戦に引きずり込んだ県漁協の役割、補償金受けとりを何度も脅迫するなど、県水産部や祝島内部からはできない役割を果たしてきた悪質さについても、問題にしないわけにはいかない。自民党林派がこしらえた203億円もの信漁連の負債を全県漁民に尻拭いさせ、その解決と称して合併に巻き込み、瀬戸内海の売り飛ばし役を率先して買って出る。しまいには、中電や県政の後押しを受けた密漁専門家(上関町室津出身)が組合長にまで上り詰めるという、漁業とは相容れない組織のデタラメな実態についても、水産県がこれほど壊滅してきた原因と合わせて、考えないわけにはいかない。
 こうして2009年から3度にわたって受けとり拒否を採決してきた。これまでは「原発はできるからあきらめて受けとれ」だったのが、今度は「福島事故もあったし、原発はできないから受けとれ」といい、いずれにしても受けとらせることに必死なのが県漁協および、背後でいつも糸を引いている県政である。

 デタラメな国策と対決 首相お膝下の暴走

 安倍首相が原発再稼働を打ち出したもとで、山本知事も公有水面埋立許可について「延長しない」としていた公約を「延期」にすり替え、新規立地を進めていく方向に軌道修正しはじめた矢先の祝島襲撃となった。ここ数年の動きの中では、岸信介の支持基盤だった祝島に、自然エネルギーで有名になった飯田哲也が首相夫人の安倍昭恵を連れて行き、「安倍さんは原発推進ではない」と反対派を挙げて歓待したり、おかしな懐柔がやられていた。
 祝島の補償金受けとり工作は、直接には二井県政が強制した漁協合併の過程で仕かけが施された。漁協運営のあらを探して、使い込み疑惑を抱えた山戸組合長を解任させ、元反対派で推進派に転じた勢力に権限を持たせた。そして表では、二井知事の埋め立て許可、中電の補償金の残り半金の支払い、そして最高裁判決と進み、裏では上関の大西運営委員長などが柳井などで、飲ませ食わせの接待攻勢をかけて側面作戦を展開。2009年段階では祝島の漁民は崩れたと思われたが、ギリギリの攻防で島民全体の立ち上がりによって拒絶した。泡を食ったのが二井県政と中電で、国税や最高裁判決などを振りかざし、県農林水産部が県漁協を引き連れて、行政権力によるウソと脅しで乗り込んだが、これも押し返された。
 3度挑んではねつけられ、4度目となった今回の総会では、元反対派で県水産行政とパイプを持ってきた恵比須利宏運営委員長ら、新興の推進派と見なされてきた勢力に加えて、反対派内部の人間が綿密に連携して議長選を乗り越え、無記名という名前を出さない格好に持っていくことで、11人を反対派から崩す芸当をやった。反対派の内部から「もらわないと損だ」と組織して回る部分がいたことも明らかになっている。大西運営委員長のところへ、環境調査の迷惑料をこっそり受け取りに行ったのも31人だった。
 上関原発は全国最後の新規立地といわれ、東日本大震災以後は政府の新設から外れたり、二転三転して現在に至っている。来年度から上関町に入るはずだった原発関連の12億円の予算も、立地の実現性が見えないことから見送られている。全国的に原発反対世論が高揚し、全国54基の再稼働すらままならないなかで、首相のお膝下から突破するといって安倍―山本県政ラインで新規立地をゴリ押しするといっても、少少でないハードルが海も山もまだまだ山積している。しかし、このなかで抽象的に「反対世論が強いから」といって全国世論頼みで阻止できるわけではない。今回の漁業補償受けとりのような具体的な案件で原発立地につながる手続きを開けて通すなら、107共同漁業権の書き換えと同じように裏切りの二の舞で、原発が終わりになるところまできて、30年の苦労を水の泡にしかねない。
 いずれにしても、祝島の漁業権放棄については総会の3分の2同意が必ず必要で、その手続きは一度も祝島ではやられていない。補償交渉のテーブルについたこともないまま、中電が振り込んできた補償金を「受けとる」ことを3分の2以下の多数決で決めて「漁業補償交渉の完全決着」とするインチキがやられている。虚構の「漁業補償妥結」をひっくり返す余地はまだいくらでもあるし、決着などしていないのだ。
 祝島の補償金受けとり拒否のたたかいは、全瀬戸内漁業を守る国益にたった、デタラメな国策に反対するものである。米国の尻馬に乗ってTPP、原発再稼働など安倍政府が有頂天になって暴走を開始したなかで、祝島のたたかいを支える共同のたたかいを全県、全国で強めることが必要となっている。全県、全国団結で連帯を広げながら、祝島や上関現地のたたかいをこれまでにも増して強力なものにしていくことが待ったなしである。

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