名護市長選に続いて東京都知事選、山口県知事選と安倍政治への審判を問う選挙が連続して控えているなかで、首相のお膝元である山口県では、上関町で福島事故後初の町議選が2月16日に実施されようとしている。計画浮上から30年以上をへて、「全国最後の新規立地」といわれた上関原発計画は、表面上は福島のほとぼりが冷めるまで塩漬けにしつつ、しかし安倍首相が登場して以後は再稼働・原発輸出へと舵を切り、水面下で祝島の漁業権など権利関係を粛粛と処理する動きがあらわれてきた。選挙戦そのものは、推進・反対の議席数がどう変化しようが、大勢に何ら影響がないのが特徴で、原発にぶら下がって町を売り飛ばしてきた者たちが30年前と同じ調子で「推進」「反対」を主張し、どこまでも飯の種にしていく姿を見て、町民の多くがしらけている。中電傀儡(かいらい)町政のもとででき上がってきた支配構造に対して、町民の意志をどう突きつけるのか、福島事故を経験したなかで、全国に何を示すのかが問われる選挙となっている。
全国から注目される町民の力
今回の選挙から上関町議会は定数が12から10に削減されることになった。反対派からは、漁業補償金を受けとり、柏原町政に息子の新居まで世話してもらった岩木基展が引退し、推進派からは長老の佐々木が引退して無投票になると指摘されてきた。ここに町外から移住してきて、前回選挙では100票もなかった「日共」候補が名乗りを上げ、限りなく無投票に近い選挙をしてお茶を濁すのか、それとも推進派で出馬するか否か態度を明らかにしていない現職がもう一人引退して、完全な無投票になるのかが取り沙汰されている。
推進派では四代地区の山谷議長をはじめ、右田、西、篠川といった議長になりたがっているメンバーのほか、岩木和美、海下、嶋尾、河村の現職がみな出馬すれば八人。その枠外から新たに出馬する動きは見られない。反対派では岩木引退の他に、祝島の山根が引退して山戸貞夫に交替し、現職・清水が出馬すると見られている。反対派としては長島側がゼロになり、候補者擁立の段階から祝島の2人に絞り込むものとなった。
山戸貞夫再登板については、年末段階まで息子が出馬するとされていたのが、反対派島民の集まりで父親が「私が出る!」と主張しはじめ、この間、漁業補償金受けとり騒動でこっそり賛成票を投じてきたと見られる部分が、それに呼応して応援にまわっていることが不可解な動きとして島民のなかで話題にされている。
このなかから誰が当選しても、大勢にはさほど影響など及ばないことが町民の実感となっている。推進派を見ても30年前と同じ調子で「原電を誘致すれば何でもできる!」「人口減少著しい上関が発展する!」以外に主張する内容がなく、福島事故をへて何を教訓にし、どう責任をもって推進するのかという論点など皆無。時代遅れの認識を恥じる気配もなく、引き続き30年前そのままの姿で原発誘致を叫んでいるのが特徴となっている。
反対派も年収300万円の議員ポストにあぐらをかいているだけで、これが議会で3人になろうが四人になろうが大差なく、仮にゼロになったとしても、祝島の漁業権をはじめとした実際斗争で住民が譲らなければ、原発手続きは一歩も前に進めることなどできない。30年をへて、議員というのがみな中電の使用人か準社員のようになりきってしまい、彼らが議会のなかで推進、反対を叫んだり、その増減が少し変化したところで、原発が建設に向けて動き出したり、あるいはその逆の現象が起きるわけでもなく、これまでと変わりようがないのが実際の力関係となっている。
町内高齢化率6~9割 人口は25年で半減
この間、町民世論は大きく変化してきた。東日本大震災で福島事故を経験し、30万人近くが故郷を追われる姿を見て、他人事でない問題として新規立地の見直し世論が広がってきた。
「原発ができれば雇用がうまれる」「商売も繁盛して町が発展する」といってきたが、震災前、祝島に漁業権を手放させるためにゼネコンが押し寄せ、「原発はもうできるからあきらめろ」のパフォーマンスを展開したさいも、町内業者は押しのけられて、みな東京や外部の専門業者、中電職員が天下った土建業者などが駆けつけて、仕事をゴッソリ持っていくシカケを見せつけられた。
原発を推進する国、県、電力会社、製造メーカーやゼネコンというのが、「上関のため」に原発建設を進めているわけではないこと、寂れて廃島になろうが、福島のように住民が叩き出されようが、決して心を痛めるような連中ではないことを実感させるものとなった。
原発騒動がくり広げられてきた30年で、上関町内は見るも無惨な衰退を遂げてきた。「原発ができれば」といって町政上層部が利権にありついている間に、産業振興は放置され、住民生活は置き去りにされてきた。その結果、県内でも屈指の過疎化、高齢化に直面し、全町的に地域コミュニティーが崩壊しはじめていることが、深刻な問題になっている。
人口減少の推移をこの25年間だけ振り返ってみてもすさまじいものがある。平成元年に6034人いた上関町の人口は平成25年末段階で3281人(45・6%減)まで減少し、町全体の高齢化率(65歳以上が占める割合)は51・05%と、県内でも群を抜く老人の街に変貌している。
地域ごとに平成元年から25年末までの人口の推移を見てみると、上関地区では四半世紀前に1633人いたのが1017人(37・7%減)まで減少し、現在の高齢化率は38・74%。室津地区は1774人いたのが1074人(39・5%減)になり、高齢化率は42・45%。戸津地区は447人から255人(43%減)になり、同55・29%。これらの地域からは、およそ4割近くの住民がいなくなった。
奥地はさらにひどい状況で、白井田地区は551人から247人(53・4%減)になり、高齢化率は70・42%。蒲井地区は127人から61人(52%減)になり、同93・44%。四代地区は308人から128人(58・4%減)になり、同61・71%。八島は142人から37人(73・9%減)になり同73・45%。祝島は1052人から452人(57%減)になり、同94・59%と、軒並みすさまじい人口減少と高齢化が進んだ。産業が育たず、また行政にその関心がなく、ひたすら「原発」の夢見心地に浸ってきた結果にほかならない。原発政治、すなわち国策がもたらした無惨な荒廃が広がり、目を覆いたくなるほどかつての人情あふれる町の面影が失われようとしている。
高齢化率60~90%の地域が続出し、残された高齢者が次次と亡くなって廃屋が増える。その廃屋を更地にしようとすれば、一軒400万~500万円もの代金を吹っかけられて、老人世帯がカモにされる。高齢者の町でありながら老人たちの受け入れ先は蒲井にある定員30人の特別養護老人ホームだけで、「死者が多いのに墓が足りない」といって、最近では墓地をつくるために町が土地を買いとる動きも見せている。
福島では事故後、みなが戻ってきて学校や病院、商店などすべての地域コミュニティーが機能しなければ、町の再建は難しいことが問題になってきた。ところが上関は原発が来る前から、福島と似たような状態になっている。一般的な地方切り捨てに加えて、原発に町を売り飛ばしていく政治がやられた結末で、その犯罪性を問題にしないわけにはいかない。人が住めない町作りを推進してきた議員や町長は、みな町外に家を建てたりマンションを購入して、逃げる準備を完了していることも特徴だ。
こうした状況のなかで町政が何をしているのか見てみると、十数億円もかけて室津では巨大な公民館と市場の建設が始まり、その工事には原発工事がストップして仕事にあぶれていた日立建設が入り、上関中学校の建て替え工事には、こちらも原発工事からあぶれて資金繰りに困っていた井森工業が仕事を与えられ、箱物に注ぎ込まれる交付金の多くは町外に持って行かれる。
原発作業員や飯場で暮らす作業員用に建設した温泉「鳩子の湯」の運営企業「なごみ」には中電社員が天下って采配を振るい、販売している商品といえば広島などで調達してきたものばかりであることも話題になっている。中電立地事務所の退職者が天下った町外土建企業が仕事を奪っていったり、寄ってたかってよそ者が町を食い物にしている姿を暴露している。
町を復興さす力の結集 全町全県の団結で
町議選は今のところ候補者そのものの動きが乏しく、できるだけ無風で終わらせたいという願望がありありとなっている。このなかで、争点は何かを鮮明にすることが重要になっている。
安倍首相が「新規立地は考えていない」と発言したことを反対派が宣伝しているものの、現状では祝島が漁業権を手放さず、補償金の受けとりを拒否しているから手がつけられないだけで外国にまで原発を輸出してすすめている者が国内の新規立地をあきらめるわけがない。全国、全県世論との力関係など見ても、新規立地をごり押しするのは容易ではないが、将来的な利権を温存するコースとなっている。
福島事故を経験して明らかになったことは、上関町民にとって、ここまで町を崩壊させられたうえに原発を持ってくるとなると、難民になることを覚悟しなければならないことを意味している。津波であれ、地震であれ、事故が起きれば住民はどこに避難すればいいのか、高齢者の多い町から誰が避難させるのか、福島のように二度と故郷に戻れないような事態に遭遇した場合、生活再建まで誰がどのように責任を持つのか等等、こうした問題について議員どもはいったいどう考えているのか、みなで問い詰めることが待ったなしとなっている。福島と同じように難民になるしかないというのであれば、その覚悟で推進することを呼びかけなければ、自分だけ別荘を確保しているというのでは町民は怒る。
難民にならなければいけないのは上関町内だけでなく、30㌔圏内なら柳井市や光市、田布施町、平生町などで暮らす住民たちも他人事ではない。瀬戸内海漁業も壊滅的な打撃を受けることは避けられず、原発手続きも「関係八漁協の合意」では済まない。瀬戸内コンビナート地帯も甚大な影響を被ることは避けられない。瀬戸内海側の県内地方議会がみな「白紙撤回」「凍結」を決議しており、推進するというのなら柏原町長なり議員どもはどう説明するのか問われなければならない。
さらに、安倍首相が憲法改定、秘密保護法や安保基本法の制定、集団的自衛権の行使などを叫び、尖閣問題で近隣諸国と武力衝突の危機をひき寄せたり、戦時国家作りで暴走しているなかで、戦争になれば原発は明らかに標的にされることが疑いない。そのさいに柏原町長や議員どもはどう対応し、責任を持つのか問われなければならない。「おまえ、30年前と同じことをいってどうするのか!」と町民があちこちで追及すべきところへきている。県知事選候補者も同じで、上関原発計画や米軍岩国基地についての対応は具体的に見解をのべさせることが求められている。
上関原発計画は、祝島が漁業補償金を受けとらず、断固として拒否していることから漁業権問題が解決せず、暗礁に乗り上げている。祝島では、下から住民が団結を強めていることが最大の力になり、裏切りや恫喝に真っ向から斗争を挑んで打ち負かしてきた。町議選は全町団結の力を結集し、町民が下からつながって、売町政治による町の破壊を許さない力を見せつけること、町民の論議を広げて柏原町長であれ、推進議員や反対議員であれ、締め上げていく力を強めることが求められている。空疎な選挙戦構図ではあるが、売町政治にダメージを与え、これを解体する力をいかに強くするか、町を復興させる町民の力をいかに強くするかが最大の課題となっている。中電や原子力村の番頭になりきって、威張り腐ってきた連中が青ざめるような状態をつくることが、上関の展望を切り開くことになるのは疑いない。
名護市長選や東京都知事選、山口県知事選とつながったものとして、全国から注目されている。