上関原発建設計画とかかわって、14日に山口県漁協本店が漁業補償金を巡る総会の部会を柳井事業所で開催し、祝島に受けとりを迫ったのに対して、祝島の漁師たちは過半数をこえる正組合員28人分の書面を持って漁業補償金配分基準(案)を否決した。賛成したのは議長をのぞく24人だった。会場周辺には祝島だけでなく上関町周辺地域や全県から人人が応援に駆けつけ、早朝から熱気みなぎる抗議行動をくり広げた。祝島では総会の開催が通知された六日以後、様様な攻防がくり広げられたが、「抗議行動をやろう!」と下から機運が盛り上がっていった。真相を伝える本紙号外が周辺地域にも1万枚まかれ、この日の決戦に注目が高まっていた。圧倒的な世論と行動を前に、県・中電の意向をくんだ県漁協は手も足も出せなかった。首相のお膝元で、この期に及んで新規立地を進めようとする動きに鉄槌を食らわすものとなった。
福島原発事故以後激変する世論
今回の総会の部会開催を巡っては、多くの島民から福島原発事故の収拾がまったくつかないなかで、いまだに原発推進の動きがあらわれていること、沖縄・辺野古への新基地建設と同様に粛々と推進策動が進められることに強い怒りが語られ、いかにはねつけるか真剣な論議が交わされてきた。号外配布とも合わせて周辺市町の住民からも祝島の行動を支持する声が高まり、「ともに上関原発建設反対で頑張ろう」との声が多数寄せられ、祝島全島を激励した。祝島だけのたたかいではなく、周辺地域、全県、瀬戸内海沿岸の命運を握るものとして、使命感に燃えたたたかいとなった。
10日には正組合員28人が「柳井市での総会開催に抗議する」ことを県漁協本店に通知していた。総会前日の13日には、正組合員28人が県漁協本店の森友信組合長にあてて漁業補償金に関する議案を否決する議決権行使書面を提出し、重ねて漁業補償金は一貫して受けとらないことを通知した。県漁協本店は当初、議案を否決する書面に関して「受理できない」として拒否していた。しかし祝島の関係者が水協法や定款などを調べると同時に、水産庁や県幹部などに問い合わせをおこなった結果、「受理しないのはおかしい」との回答を得て、再度県漁協本店に確認。ようやく夕方になって「受理した」と連絡が入った。
総会の部会会場となった県漁協柳井事業所前には、漁協の事務所とは思えないほどのバリケードが築かれ、深夜から早朝にかけて「立ち入り禁止」の紙が貼られた内側で、夜通し警備員約10人が直立不動で警備するなど、抗議行動を極度に恐れていた。バリケード内からは、県漁協職員と見られる数人がビデオカメラで周囲を撮影しながら警戒。動く人を見つけてはすぐさまカメラを向けて顔を撮影するなど、およそ漁協事務所とは思えない光景となった。また行動開始後は私服警察官も多数紛れ込み、カメラで撮影をおこなっていた。
当日午前8時前後には、祝島からの定期船が到着。婦人たちや漁師など祝島島民、さらに下関市民の会の婦人たちをはじめ、柳井、宇部、萩、岩国など県内各地から総勢100人以上が結集した。祝島から持ち込まれた「上関原発絶対反対」の幟が空にはためき、みなが整然と総会の部会の開催を待ち構えた。
祝島島民の会は、今回の総会の部会に関して13日に議決権行使書面が正式に受理され、議案が否決されることが決定したため、今回については准組合員が出席し、状況については「後ほど報告をおこなう」と説明した。
9時からの総会の部会前には、今年4月から准組合員となった4人に対し、本店側が総会の部会への参加を拒否し、開催の通知さえも送っていないことが明らかになった。「なぜ案内が来ていないのか」「祝島の問題なのになぜ准組合員が入ってはいけないのか」との意見が噴出。さらに4人について准組合員になるさい「補償金を受けとらない」という一筆を書かされ、今回の総会の部会について「補償金にかかわる問題であるから通知しない」「今回は参加できない」といわれていることも明らかになった。
島民は「水協法25条には“加入制限の禁止”という条項がある。“新たに組合員になる人に困難な条件を附してはいけない”というものだ。一筆を書かせる時点で水協法に違反しているのではないか」「県漁協の判断は水協法より上なのか」と抗議した。県漁協本店職員は、「(4人は)補償金問題にかかわらないことを承認しているから立ち入りもできない」と主張。その後建物の中に入っていた恵比須利宏運営委員長が呼び出され、3人が入れるようになったものの、「参加」ではなく「傍聴」という形になった。
その後、総会の部会へと向かう准組合員たちに「頑張れ!」と声援が飛び交い、県漁協に対しては「もう補償金は国に戻しにいけ!」という声が上がった。
海売る県漁協を批判 総会後喜びの声広がる
総会の部会後には准組合員を代表して清水敏保氏が「賛成24、反対28で否決しました!」と報告。集まった人人は大きな拍手で迎え、みなが「よかった!」「やった!」と喜びあった。賛成は本人出席が12人、委任状が13人だった。それに対して反対は議決権行使書面通り28人だった。
部会には、本店から仁保専務理事(旧萩市越ヶ浜漁協職員)、前田幹事など退職後も県漁協に居座っている幹部職員が出席した。県漁協が示した補償金の配分案は、水揚げや従事年数などを参考に額が決められ、平均で正組合員1700万円、准組合員100万円、漁業補償交渉妥結がおこなわれた平成12年以降に死亡した組合員に100万円、職員に100万円で、支店に7%留保するというものだった。説明後には配布した資料を回収する徹底ぶりだった。
補償金受けとりに反対する組合員側は、議決権行使書面が当初認められなかったことも含めこれまで県漁協はすべてごまかしながらやってきたことや、2年前の2月に受けとりを可決したとする問題に関しても、「定款に書かれている(総会の部会に)参加した組合員の中から議長を選出することがやられず、議長の選出方法は県漁協本店の理事会が決めるとやってきた。これは違法であり、規約通りにおこなわれていない」と指摘し、「漁業権の放棄は3分の2である」と主張した。これに対して仁保専務理事は「祝島支店としては漁業権の消滅にはあたらないから過半数でいいのだ。埋め立てで漁業権が消滅したのは上関、四代であるからこの場合は3分の2の同意だが、祝島は影響補償だから過半数の同意でいいのだ」といって押し通した。最後に投票が無記名でおこなわれ、予定通り否決となった。賛成派からの発言はなく、投票後は解散となった。
島民の会の代表は、「これからも漁業権放棄には3分の2の同意が必要であること、2年前に可決したとされるものに関しても“受けとらない”という方向で否決をとっていく。さらに水協法などを勉強したうえで“3分の2”を通していく」とのべ、全体で確認した。県漁協は総会後の本紙の取材に対し「取材拒否。ノーコメント」と発言。ひきつった表情での対応となった。
寒いなか、会場の外では多くの支持者が待機していた。結果を知らされると喜びの声が広がり、祝島から駆けつけた婦人たちは「全県・全国の支援があってここまでこれた」と感謝の思いを口にしていた。
下関から参加した婦人たちは、「行ってよかった。祝島の人たちが頑張っているのは直に伝わってきた。みなをだまして原発を推進しているのは許せない。祝島だけの問題でなく、私たちの問題でもある。一緒になってやっていきたいと強く感じた。長周新聞が号外を配ったことで、祝島現地や周辺地域が励まされて行動になっていったと思う。福島があれほどの事態になっているのに推進することは許されない」「80代の戦争体験者の人も多かった。上関原発反対の思いのなかには戦争反対の思いが込められていると思う。私たちも頑張らないといけない」と連帯の思いを語っていた。
全県から参加した人人も、「海を守るべき県漁協が海を売る側に立っている。こんなことがあっていいのか」「私たちは祝島の応援というだけでなく、自分たち自身の問題として今回の抗議行動に参加している。ともに頑張りたい」と語り、全県全国が団結してたたかっていく決意をみなぎらせていた。
郷土廃虚にして平気 国民を守らぬ売国政治
公有水面埋立許可の失効を免れるために、村岡県政が毎年春になると補償金受けとりを迫っている。安倍政府が原発再稼働、海外輸出を打ち出すなかで、お膝元である山口県から新規立地の突破口にする動きがあらわれている。福島であれほどの惨状を作り出しておきながら、反省もなく「福島の事故があったからこそ世界でも最も安全な原発技術を提供できる」「福島は完全にコントロールされている」と吹聴し、郷土の山口県民も同じ目にあって構わないというデタラメなものである。
上関原発計画の推進手続きを麻痺させてきたのは祝島の漁業権問題で、これが前に進まないことには手がつけられないことから、推進勢力が必死に懐柔工作をくり返してきた。これに対して、祝島が断固として補償金受けとり拒否を貫いていることが全県、全国を励ましてきた。原発は祝島だけの生活を破壊するのではなく、いざ事故が起きた場合には周辺20~30㌔圏内の住民は生活圏を追われ、棄民状態にさらされることは福島事故が実証した。瀬戸内海沿岸を壊滅的な状態に追い込む重大問題であり、利害関係者がカネが欲しい、欲しくないという問題にとどまらない。
福島事故で、国は国策として推進しておきながら、避難民を人間扱いしなかったし、メルトダウンしたことをわかっていながら、メディアも政府も真相をひた隠しにして、住民たちは放射能が降り注ぐなかに置かれた。「国民の生命」など屁とも思わない為政者が、事故の検証もいい加減なまま開き直ってゴリ押しを始めている。アメリカに集団的自衛権を行使して肉弾になれといわれれば地球の裏側まで日本人が戦争に駆り出され、核のゴミ捨て場になれといわれれば日本列島を差し出す。ミサイル攻撃の標的に名乗りを上げながら、そこに原発を再稼働させたり、新規立地を推進するのだから、これほど無謀な売国政治はない。
地震列島に54基も林立させてきたのは、アメリカの要求に従った結果であり、独占価格のウラン燃料を買わされ、消費のはけ口として利用されてきたものだ。原発輸出といっても新たな消費先の開拓であって、そのエネルギー戦略の先兵として日本の原子力メーカーが駆り出されているに過ぎない。日立は米GE、東芝は米WHと組んで世界でシェアを奪いあってきたが、主導的に海外の原発で権益を広げているのは米国原子力メーカーである。日本企業を隠れ蓑にするのは、事故が起きた場合の製造者責任を日本の原子力メーカーなり日本政府に負わせるためで、リスクだけ押しつけて、利益だけ得ていく関係を浮き彫りにしている。
独立と平和、全国的な政治課題とかかわって上関原発反対斗争を発展させること、全県、全国の団結できるすべての人人と連帯し、推進策動を粉砕することが迫られている。