はじめに
下関市議会正副議長は、飲み会帰りのタクシー代を私たち市民の税金で払っている。おかしいのではないかと、これまで何回も問題提起してきた。
問題提起後、半年以上も経つのに市議会も市長もこの問題を解決しようとせず、放置したままなので、不正、不適正支払い分を市へ返還するよう求めて住民監査請求をおこなった。
住民監査請求の結果は、
○公用車を使った日なら、私的な飲み会の帰りでもタクシー代は税金で支払ってよい。
○公用車を使った日なら私的な飲み会帰りに友人を送って大回りして帰っても、そのタクシー代は税金で支払ってよい、という結果となった。
市民の誰ひとりとして納得することのできない、また、常識では考えられない驚くべき監査結果であった。
多くの市民の方々から、改めて本件の全体像と問題点を知りたい。特に住民監査請求の関係については詳しく知りたい、という声が寄せられた。
このようなことから、これまでの経緯とこのたびの住民監査請求についてまとめたものが、この調査報告書である。
この問題は複数の市民から、市議会議員がよく豊前田や細江、唐戸などで深夜まで飲んでいるが、帰りのタクシー代は自分で払わず、市が払っているようだ。市民の税金を飲み会帰りのタクシー代に使っているが、こんなことが許されるのか。おかしいではないか--。このような情報が寄せられたことが発端である。
調査チームで、新旧正副議長4人の公用タクシー券使用状況や、その日にどのような公務及び用務(公務等)があったのかなど、使用の事実関係を詳しく調査した。
その結果を分かりやすくまとめたものが別表1である。1人平均10カ月間の短い調査期間にかかわらず、使用回数225回、使用金額144万9470円と多い。しかも、そのうち公務等に使用したことを証明することができない、いわゆる私用で使ったのではないかと思われるものが非常に多いことが分かる。
4人の平均値を見ると、公用タクシー券を使用した全部のうち、回数で143回(64%)、金額で94万540円(65%分)は公務証明がなく、私用で使ったのではないかと思われる状況である。吉田副議長にいたっては公用タクシー券使用分の全部が、公務証明がない使用となっている。公務証明が漏れているものがあったにしても、ひどい使用の実態である。
そもそも公用タクシー券の使用基準がどのようになっているかが問題となるが、公用タクシー券使用基準について市議会事務局は「成文の使用基準はないが、公務(市役所の行事等)または用務(正副議長として他団体に会うなどの仕事)に使用する」ということであった。
公金支出なのに、支出の根拠となる使用基準が成文でないこと、また、用務というあいまいな使用基準で支出していることは、これはこれで大きな問題であるが、一応「公務又は用務に使用する」ということであった。
市議会事務局に対し「『公務』で使ったものは案内文書等の公務を証明する文書で分かるが、『用務』で使ったというものが、本当に用務に使われたのか否か分からない。どのような用務に使ったのかを示してほしい」と聞いたところ、「『公務』は分かるが、『用務』については市議会事務局はスケジュール管理をしていないので分からない」という回答であった。そこで直接4議員に用務の内容等を聞いたが、きちんとした説明は得られなかった。
このようなことで、「用務に使った」という確認は、市議会事務局もしていないし、使った本人もきちんとした説明ができないという状態なのに、「用務で使った」として、税金からタクシー代が支払われていることが分かった。
公用タクシー券は、私用に使っても市議会事務局には分からないようなシステムになっており、公金が大変杜撰な手続きで支出されている。使用基準に合おうが合うまいが、そんなことには関係なく、公用タクシー券が四人の議員に渡され、使用された代金がそのまま支払われている。
このように、市議会事務局は四人の議員が使ったタクシー券が、「公務又は用務に使う」ことになっている公用タクシー券使用基準に適合するか否か、即ち、公務・用務か、それとも私用で使われたかを審査することなしに、全て公務・用務に使用されたとして支出している。
市議会事務局職員がこのような疑わしい公金の支出をノーチェック状態で支出していることは職責上大きな問題である。これは予算執行の責任者である市長の責任でもある。
公用タクシー券の使用実態とその問題点を数回報道したので、その後、市内部で再調査、再確認するなどして、議会が自浄能力を発揮するか、あるいは市長が返還を求めるかして、不正、不適正使用と思われるものは市に返還されたのだろうと考えていた。
しかし、再調査、再確認もしていないし、一円も返還されていないことが判明した。
このまま放置することはできないので、公用タクシー券を不正・不適正に使用した4名の議員は、不正・不適正使用分を市に返還すること、また、市長は4名の議員に返還を求めること、の二点を求めて、令和2年4月6日付で住民監査請求書を監査委員に提出した。
令和2年6月3日、監査結果の通知文書「下関市職員措置請求に係る監査結果について」を受けとった。
その後、公文書公開請求により、監査経過の記録、関係職員意見陳述書、4名の議員の意見書等の関係資料を入手した。本池議員の6月18日の住民監査に関する市議会一般質問もあって、本件住民監査の全体像と問題点がよく分かった。
以下、本件住民監査請求の結果と問題点について検討してみる。
1 住民監査請求の結果と問題点
監査結果は、「ア 公用車が使用された日には公務があったと認める」、「イ 公務等の後にタクシーで帰宅するためにタクシーチケットを使用しているので4名の議員がタクシーチケットを使用した理由は適当と判断する」ということで、4名の議員は、公用タクシー券を不正、不適正には使っていないという結論であった。これで、下関市議会正副議長は、
○公用車を運転した日なら(たとえ公用車を私用で使っていても)、私的な飲み会であっても、帰りのタクシー代は税金で支払っても良い。
○公用車を運転した日なら(たとえ公用車を私用で使っていても)、一緒に飲んだ人を乗せて大回りして帰ってもそのタクシー代は税金で支払っても良い。
ということになった。市民の誰一人として認めることのできない監査結果である。
市政をチェックするのが役目の市議会トップとナンバー2が、みずから公用タクシー券を不正、不適正使用に使用し、その使用が適正かをチェックするのが役目の市議会事務局はチェックしていない、これではいけないと住民監査請求をすれば、監査委員が不正、不適正使用を適正と認める、これでは下関市政は救いようがない状態である。
先に調査チームの報告書でのべたように、「ア公用車を使っているから公務があった」と監査委員は認定しているが、そのように認定することはできない。
別表2で分かるとおり、調査した6カ月間に、市役所での公務がない土、日、祝日に、公務で使ったという証明もないのに林議長は23日間、吉田副議長は10日間それぞれ公用車を使っている(運転している)。市役所は閉まっている土、日、祝日に公用車を使ってどこに行ったのか、何の公務があったのか分からない。その他にも、ここには表示していないが、平日の19時以降の使用で、公務に使ったことが証明できない使用が、林議長は28日間で87時間、吉田副議長は、50日間で202時間もある。また、この他にも公務証明のない早朝の使用があるが省略した。なお、戸澤、亀田前正副議長の公用車使用状況は調査していない。
以上のように正副議長の公用車の運転状況を調査した結果、公務があるとは思えない日や時間帯に公用車を多く使っていることが分かった。このため、「議長、副議長は公用車を自家用車代わりに使用しているのではないか--」と、昨年すでに指摘しているところである。監査委員も公用車の使用状況を調査したら、そのことが分かるはずであり、「公用車を使っているから公務があった」とはいえないことが分かったはずである。
「公用車を使っているから公務があった」は、明らかに間違った認定である。
次に、「イ (公用車を運転した日は公務があったと認められるので、その日にタクシーで帰っても)公務等の後にタクシーで帰宅するために使用しているので使用は適当である」という結論も、不正、不適正な使用と思われるものでも適正とする、極めておかしな結論である。
公務が17時前後に終わり、その後の公務がないのなら準備された公用車で帰ればよい。そのために専任の運転手と公用車が準備されている。公用車で帰れば無駄なタクシー代を使わずに済む。
公務が終わった後、本人が勝手に、いわゆる私用で夜遅くまで飲んで帰るのに、どうしてそのタクシー代を市民が負担しなければならないのか。私的な飲みごとで夜遅く帰宅するのに、そのタクシー代を税金で支払ってよいという市が他にあるだろうか。
もし、17時以降の飲みごとも私用ではない、公務等で飲んだのだというのなら、いつ、どこで、どんな飲みごとがあったのかを説明すべきである。それが客観的に証明できるものを示すべきである。
市民が不正・不適正使用ではないかと最も疑問に思い、監査委員によく監査してもらいたいと願っていたのは、17時までの公務等が終わった後の公務証明のない飲みごとが、公務等に関連しての飲みごとであったのかどうかという点である。しかし、監査委員は17時以降の飲みごとが公務等であったか否かは全く調査しないまま、公用タクシー券の使用は適当であるという判断をしている。17時以降の飲みごとが私的、個人的なものであっても、その日が公用車の運転をしている日なら公用タクシー券を使って帰宅しても良いという判断をし、決定している。6月市議会の一般質問で本池市議の、「極端ないい方をすると、午前中に1時間でも公務があれば、その後ほぼ1日中プライベートであっても公用タクシーの使用は『適当』ということになるが」という質問に対して、小野代表監査委員は「現在議会がそういう扱いをしていることについては、適正、適法なものだと判断した」と答えている。
この答弁で納得できる市民がいるだろうか。今日の厳しい社会、経済状況のなかで、日々真面目に一生懸命働いている多くの市民にとっては悲しくなるような、市民感覚から大きくかけ離れた答弁である。このようなことが、市議会一般質問の答弁でよくいえるものだと思う。
これでは「公金は、『最小の経費で最大の効果』を上げるよう使用すべき」と指導しなければならない監査委員が、無駄使いを是認していることになる。さらには、飲み会帰りに友人を乗せて大回りして帰ったために、タクシー代が通常の倍かかっていることがはっきりしているのに、これについても当人の、使用の正当性には関係のない言い訳にもならない言い訳を是認したのか、何らの指摘もせず、適当な使用としている。
これは明らかに公金の私的使用を是認する誤った結論となっており、これでは監査委員が違法な支出を容認していることになる。明らかに違法な結論である。監査の存在価値は、小さな事務的ミスの指摘もそれなりに大事なことであろうが、真に大事なのは、権力者の不正、不適正行為を指摘し、止めさせることにある。巨悪を眠らせないことにある。その姿勢を貫いてほしい。
以上のべたように、監査委員の「公用タクシー券の使用は適当」という結論は、基本的調査事項たるべき公用タクシー券使用実態の調査、究明をしないまま、議会の主張をそのまま正しいとする妥当性のない論理、論法で成り立っており、正しい結論にはなっていない。これでは市民の誰一人として、妥当な結論だと思わないのは当然であろう。
6月18日の市議会一般質問での本池議員の質問に対する小野代表監査委員の答弁要旨を後述するが、これを見ると市民に代わって公金支出をチェックしてくれているのか、肝心なことは何も調査、監査をしていないのではないか、監査委員としては少し無責任ではないかと詰問したくなるような答弁が、くり返されている(当初、市議会事務局への質問を予定していたが、市議会事務局が、急遽、自分たちへの質問は禁止するという決定をしたため、監査委員への質問となった。急なことであり、小野代表監査委員には若干気の毒な面はあるが)。
それではどうしてこのような通常では考えられない監査手法と監査結果になったのか。
本件監査を巡っては、普通では考えられないようなことが頻発している。何か特別な理由があったのか。どのような監査の背景があったのか。今後の市政監視の教訓、参考のためにも、公文書公開請求で得た諸資料や小野代表監査委員の議会答弁を基に考えてみたい。
2 どうしてこのようなおかしな監査手法と監査結果になったのか。監査の背景は
1 監査制度の弱点及び正副議長を監査するというプレッシャー
下関市は4人の監査委員で構成されているが、そのうち2名は市議会議員から、他の2名は識見を有する者の中から、いずれも議会の同意を得て選任されることとなっている。
小野代表監査委員(市職員OB)、大賀監査委員(弁護士)の両氏ともに前田市長の提案の下、市議会の選任同意を得て、平成30年5月と3月にそれぞれ就任している。いずれも戸澤議長の時である。このように、2名が市議会議員であり、他の2名も就任には市議会の同意を要するということで、元々、監査委員選任のしくみが市議会の旧来の悪弊等には切り込みにくいようになっている。
そのうえ、今回は新旧正副議長4人に対する住民監査請求であり、しかもそのうちの1人、亀田議員は現職の監査委員である(なお亀田委員はこの監査には加わっていないが)。これが、本件監査の手順や結果を左右した最大の理由であろう。
監査する側の監査委員も、小野代表監査委員は、市職員時代から永年にわたって市議会といろいろな関係があっただろうし、関谷監査委員は元議長なので、公用タクシー券関係者の1人でもある。4人の議員も議会事務局も正当な使用だと強硬に主張している。
このような状況下では監査委員にも、監査委員事務局の職員にも有形、無形のプレッシャーがあったことは想像できる。
そのことが、議会側の主張がすべて認められ、議会側の望みどおりの手順と結論になった最大の要因ではなかろうか。監査として公用タクシー券使用基準に基づいて適正に使用され支出されているかどうかを厳密に調査し監査すべきなのに、小野代表監査委員の議会答弁や監査の記録を見ると、監査が独自の考えや主張に基づいて調査したり、議会側に再調査を命じたりという気はなかったようだし、実際に何もしていないようである。
議会に対して、痛いところを聞いたりダメだとはいいづらいこと。後に示すように立証責任が監査委員にあると思って、監査委員には正副議長が公用タクシー券を私用に使ったと立証できず、私用だともいえないこと。このようなことから議会のいいなりになるしかないと考えたのではないのか。監査の経過記録や上記の小野代表監査委員の市議会での答弁は、それを裏付けているように受けとれる。
2 市議会事務局が使用実態に反する主張をしたこと。監査委員がその主張をそのまま認めたこと
令和2年5月19日の監査委員会において、市議会事務局が意見陳述をおこなっている。
その発言要旨を見ると、市議会事務局は、不正、不適正な使用はしていないという主張の理由として「公務後の各種用務が終了した後、その場所から自宅まで公用車を使用することは当然である。但し、公用車の運転従事者の労働環境の改善や体調管理のため、公用車の代替手段としてタクシーを使用することもある」とのべている。
「用務終了後、その場所から自宅に帰っている」から適正使用だと主張しているが、その主張と使用の実態は大きく違っている。
1カ月に約10日以上、土、日、祝日を除けば2日に1回、少なくとも3日に1回、市民感覚からすれば、まさに連日のようにといってもいいほどの頻度で、深夜の12時近くに豊前田、細江、唐戸などの夜の繁華街から帰宅する。しかも、そのほとんどがどのような各種用務があったのか、本人も市議会事務局も説明ができない。これまでも再三にわたって指摘しているように用務からの帰りなのか、私用からの帰りなのか市議会事務局は分からない。
それが実態である。「公務、用務終了後、その場所から帰っている」は、ウソである。使用実態は無茶苦茶で、本人も市議会事務局もその使用内容を説明できないということでは、誰が考えても私的な飲み会帰りである。
本件住民監査請求においては、このような飲み会帰りのタクシー代を税金で支払うのは不正、不適正な公金使用であるから返金すべきである、と公用タクシー券一件ごとに調査資料添付のうえ、監査請求している。
使用実態は違うのに、もっともらしく論理をすり替えて正当性を主張する市議会事務局には驚くばかりである。また、これに対応する監査委員の態度も不可解である。
監査委員は、公用タクシー券使用基準に則って適正に使用されているかを確認するのが職務である。監査委員としては、市議会事務局が「公務、用務終了後、その場所から帰った」というなら、「どのような公務、用務があったのか。何を根拠にそういえるのか。四人の議員から聞いたのか。どのようにして分かったのか」などを最低限聞かなければならない。本件監査の結果を左右する核心的問題点である。どうして聞かなかったのだろうか。
さらに驚くことには、意見陳述終了10分後に開催された第4回監査委員会で、「公務や用務が不明な場合は、その日に公務や用務がないことや私用での使用を立証できないので、返還を求めない」と、本件公用タクシー券の使用は適正であるという事実上の決定がなされている。本当に公務用務に使われているのかが争点になっているのに、公務用務に使われたかを判断するために必要な質問は一切しないままに、即ち、事実はどうだったのかという真相究明のための努力はまったくしないままに、上記のように「公務用務が不明な場合は~返還を求めない」という決定をしている。
また、普通は市議会事務局の意見陳述があったら、その主張は正しいのか、主張に根拠はあるのか、監査請求にどのような影響があるのか等、主張の中身をよく吟味、検討するはずで、そのための時間が必要なはずである。重要な問題であればあるほど、その吟味、検討を慎重におこなってから次のステップに進むのが普通である。
しかし、意見陳述終了直後から開催された監査委員会で、市議会側の主張を慎重に吟味、検討することなく「使用は適正」とする事実上の結論が決定されている。
また、意見陳述の場で、公用車の運転がない複数日の用務について、監査委員の質問に対して、市議会事務局から詳しい説明がなされた。用務についてはスケジュール管理をしていないのでわからないはずの市議会事務局が、この質問に対しては即座に詳しい説明をした。
監査委員の質問とこれに対するスムーズな市議会事務局の回答、また、公務用務の実態は調査せずに、公用車の運転記録で公務用務の有無を判断するという監査の手順と決定、これらを見ると、どこか市議会側と監査側両者のストーリー的なものを感じるし、シナリオどおりという感は否めない。
また、このとき、亀田前副議長の平成30年12月19日夜のタクシー券使用についての質問があった。19時45分に山の田の自宅から竹崎まで、22時に竹崎から自宅まで公用タクシー券を使用しているが、これについて市議会事務局は「竹崎での『議会事務局職員との議会運営の意見交換』」があったためと説明した。
副議長が市議会事務局の職員と議会運営についての意見交換をするのに、どうして夜の8時頃から10時頃まで、竹崎まで出かけて意見交換しなければならないのか。勤務時間中にいくらでも意見交換できるはずである。議会運営についての協議や相談ではなく、「意見交換」という言葉にその夜の会合の実態があらわれている。仕事上、本当に意見交換の必要性、緊急性があったのなら、市議会事務局が急いで副議長宅に行くか、市役所に来てもらって相談するはずである。
さらに調査してみると、12月議会は12月18日が最終日であることが分かった。市議会が終わった翌19日夜に、急いで議会運営の意見交換をする必要性があったとは考えられない。事実関係を客観的にみれば、市民や市職員の誰もが、12月議会が終わっての打ち上げ飲み会に亀田議員も参加したのだろう、そんな飲み会に参加するのに税金を使って--と思うはずである。
それを「意見交換会」があった、これも公務等であり公金の使用は適正だと公の場で主張する市議会事務局の感覚には驚くばかりである。監査委員は騙せても、市民は騙されない。亀田議員本人が監査委員としての自身の名誉にかけて、公金使用の説明責任を果たすべきである。「どうして一九日夜にする必要があったのか、なぜ竹崎まで行く必要があったのか、場所は竹崎の何処か、どのような意見交換があったのか、議会事務局の誰が参加したのか」など、市民が疑問に思っていることに率直に答えるべきである。市民が納得できるよう、説明責任を果たしていただきたい。それが監査委員としての最低の責任であろう。
なお、戸澤前議長は、当日夜は別の公務が入っていた。
3 公金使用正当性の説明責任、立証責任は誰にあるのかについて
先にのべたように、令和2年5月19日の住民監査請求に係る監査委員会(第4回)で、本件監査の方向性と結論を事実上決定するような重要なことが次のように決定されている。
ア 公務や用務が不明な場合は、その日に公務や用務がないことや私用での使用を立証できないので、返還を求めない。
イ 複数人で乗車している事例は、適当ではないが市に損害が生じていないため、返還を求めない。
監査委員会でどうしてこのような間違った決定がなされたのか理解できない。
まず、「ア 公務や用務が不明な場合は、その日に公務や用務がないことや私用での使用を立証できないので、返還を求めない」についてであるが、「監査委員側が私用での使用を立証できないから、返還を求めない」と決定するのではなく、「議会側が私用での使用はしていないことを立証できないから(立証できないのなら)、返還を求める」とすべきである。
市議会側は、公用タクシー券は公務や用務で使用することになっており、その通りに使用している、私用には使っていないと、何の証拠も示さずに主張している。
私用には使っていないということを説明・立証する責任は、使った4名の議員本人と、その使用は適正であると決定して支出手続きを進めた市議会事務局が負っている。
もし、「監査委員側に立証責任があり、監査委員が立証できないなら公金使用は全て適正になる」というのなら、公金の使用者が一切の関係資料を出さず、黙秘したために立証できない場合は、全て適正ということになってしまう。監査委員には捜査権はないので、強制的に調査することができない。お手上げである。
本件監査請求において、監査委員には4議員に公務や用務があったか否かということや、私的使用を立証する一義的な責任はない。公務用務に関する諸資料は市議会側にしかない。
4議員の犯罪の有無をとり調べるのなら、とり調べ側に犯罪を立証する責任があるだろう。
しかし、公金が正しく使われたかが問われている問題である。公金を使った者に説明責任があるのは当然のことである。そして、説明責任とは、説明はウソではないということを立証する責任、すなわち立証責任と一体のものである。
公用タクシー券を使った4議員本人に公務等で使ったことの説明を求め、説明・立証ができないのなら、原則返還を求めるべきである。事務局に対しては、どのような理由、根拠で適正な使用と認め支出手続きを進めたのかを問わなければならない。それに対して説明・立証ができないのなら、市議会事務局の支払いミスを指摘したうえで、返還を求めるべきである。
公金の管理、支出については、いいかげんなことは許さない、誰が何といってもダメなものはダメ、という厳しい目で監査していただきたい。議会の甘さ、いいかげんさを許してはならない。
立証責任について、もしも監査委員側に全ての立証責任があると考えたのなら、監査委員はどのような立証のための努力をしたのか。立証責任があると考えたのなら、本当に公務用務のみに使われているのか、使用の実態を詳しく調査し、監査しなければならない。市議会側に説明と証拠の提出を求めなければならない。もし市議会がそのことができなかったなら、原則返還を求めるべきであるし、市議会がそのようないいかげんな使用と支出をしていたことを指摘しなければならない。それが監査委員としての最低の職務である。
しかし、監査側には立証に向けての事実究明の跡が見えない。立証の努力もせずに、立証できないから適正だというのでは、「最初から適正ありき」ではないかと疑いたくなる。
立証責任がある市議会の責任を免除したうえに、市議会の責任を問うこともなく、また自らの事実究明の努力もしないままで、早々と返還は求めないと決めたことは問題である。
次に「イ 複数人で乗車している事例は、適当ではないが市に損害が生じていないため、返還を求めない」についてであるが、吉田副議長が友人を乗せて大回りして帰宅したことは、本人自身がすでに1年前に認めている。このたびの住民監査請求にあたっての本人の意見書「住民監査請求に関する意見等について」でも意見とともにタクシーを利用した状況を記述している。大回りしたために、通常の倍近くのタクシー代がかかっていること、市が払うべきではないタクシー代を支払ったために、市に損害が生じていること、このことは半年前に立証できている。
監査委員は何を根拠に「市に損害が生じていない」と認定したのか。全く理解できない。また、吉田副議長の対応も理解不能である。本人が支払うべきでない公金を支払ってしまったと気づいたら、誰にいわれなくともすぐに市に返金すべきである。それが市民の一般常識だと思うが、どうして本人がいまだに返金しないのだろうか。本人は正当なタクシー券の使用だったと考えているのだろうか。監査も住民監査請求がなくても返還を求めるべきである。それがどうして市に損害がないと認め、返還しなくてもよいと決定することができたのか。明らかに間違った決定である。この決定は、「不適正な使用でも、議会側の主張通りに全ての使用は適正とした」という何よりの証拠となる決定であろう。
4公用タクシー券使用基準が明文規定ではなく、基準が明確でないこと
公用タクシー券の使用基準が明文ではなくあいまいであることが、タクシー券使用の曖昧さと監査結果の曖昧さをもたらしている。公金を使用するのにその使用基準が成文ではなく、不明確というのは考えられないことである。監査委員も監査結果報告書の中で「議会事務局で使用するタクシーチケットに明文の使用基準がないことを確認した。文書によらない基準では混乱が生じるおそれがあるため、市長において改善が必要である」旨指摘している。
市議会は使用基準があるというが、その基準は曖昧である。「用務」という定義のはっきりしない曖昧な言葉を用いたり、使用基準をあえて成文化せず曖昧にして、自分たちに都合の良いように使用範囲を拡大している。
我々が問題を指摘してから1年以上経つのに、いまだに使用基準を制定せず、不正、不適正使用を続けている。林議長と市議会事務局長の責任は重大である。
自分たちに聞いてこられては都合の悪い一般質問を止めるためには、数日のうちに決めたのに、使用基準の成文化はいつまでもしない。議会のエゴ、自分たちのエゴ優先で、市民はまったく無視されている。
いくらいわれても成文化しないのは、今の曖昧なままの方が自分たちに都合が良いということと、説明のつかない不正、不適正な支出をしてしまったこれまでのものを正当化できる使用基準を作ろうとするからであろう。「公用車を使った日なら、個人的な飲み会帰りでも税金で帰ってよい」あるいは「飲み会帰りに大回りして友人を送って帰っても良い」という基準が作れるはずはないのだが、現在運用している基準を正当化するために苦慮しているのだろう。
いつ、どのような内容の使用基準を制定するのか、注視する必要がある。
5 4人の議員の意見書について
以下の文書は、本件についての4人の議員の監査委員あて意見書である。
監査委員は市民に代わって監査しているものであることから、監査委員あての意見書は市民に向けての意見書、釈明書でもあると考え、市民の皆様にお知らせすることとした。
見て分かるとおり、公文書公開請求により交付された意見書は、氏名欄が黒塗りされている。どのような理由で氏名欄を黒塗りして、誰の意見書か分からないようにしたのか理解できない。公金を正しく使ったと自己主張している文書なので、自分の名前を出すべきである。氏名を隠す理由も必要もないのに隠すのは、意見書でのべていることに自信がないからか。意見書の中に、2人の意見書がまったく同じものがある。コピーして名前だけ書いたのだろうか。この問題に誠実に向き合っての意見書なのだろうか。
意見書を読むと、4人の議員の公金に対する意識、市民への説明責任、議員としての責任感、倫理観等の有無、軽重の一端を垣間見ることができる。
意見書に対する調査チームとしてのコメントは控え、市民の皆様の率直な評価とご意見をお聞きしたいと考えています。
(参考)令和2年6月議会での本池市議の一般質問(要旨)
6月18日市議会一般質問(要旨)
本池議員 「公務があったと判断された理由は『公用車が利用された』というそれだけか」
小野代表監査委員 「公務があったから公用車が迎えに行った。公務があった日は全てその1日は公務があったと議会は判断しているということで、帰りが公用車かタクシーの場合、全て公務による乗車と判断した」
本池 「市役所で公務があっても18時前後には終了する。23時、24時まで公務があると認めるのか」
小野 「公務が全部夜まで続いたのかとかそこまでの認定はしていない。公務があり、最後に食事をして帰っても、公務であるというルールで議会事務局がこれまでやっているということであれば、監査がそれを公務だ公務でないということを調べるものではない」
※17時で公務が終わり、その後の18時から23時までのあいだに公務、用務があったのか、なかったのかということは、公用タクシー券の公務使用か、私的使用かの分岐点となる問題である。本件監査の基本となる問題である。それなのに、議会が勝手に定めた公金使用のルールであっても、「議会がそのルールでやっているというのなら、監査がそれに異を唱えることはできない」というのなら、監査は議会のルールに黙って従うのみということか。監査はなんのためにあるのか、となってしまう。
本池 「午前中に1時間でも公務があれば、その後ほぼ1日中私用であっても公用タクシーの使用はOKとなってしまう。監査委員は公務終了後のプライベート後にも公用タクシーを使用することを『適当だ』と判断されたのか」
小野 「飲食後にタクシーを使用することの適否は監査結果に記載していない。このことに関する監査委員の統一見解は読み取ることができないので私から見解を述べることはできない」
本池 「今の言葉なら午前中に公務があり、その後のプライベートの飲み会であってもタクシーを使うことはありということになるがそれでいいのか」
小野 「監査請求があった『4名の議員が市に返還して補てんすること』『市長がその損害金の補てんを求めること』の二点について監査した。中身をどうだこうだというものではなく、現在議会がそういう扱いをしていることについては、適正適法なものだと判断した」
※それではなにを監査して「適当」と判断したのか。監査の視点、ピントがずれていないか。住民監査請求は、単純に議会の扱いがおかしいといっているのではない。現実に市に損害が生じていると具体的な金額、根拠を示して請求している。具体的に中身を調べないと判断できないはずである。それがどうして「中身をどうだこうだというものではなく」なのか。
また、いわれるように議会の扱いを監査したというのなら、正副議長が使用基準に反して私用に使ってもチェックできないという議会の扱いが、どうして「適正・適法」なのか。いっていることが支離滅裂の感があり、矛盾している。
本池 「個人的な活動と用務の判断基準は何か。内容を確認されていないのならどう判断されたのか。内容を確認していないのであれば、『用務』だと認定した判断基準がないということになるが」
小野 「議会事務局から提出された行事予定表などを見て、これは公務だろうと判断した。また、『公務』『用務』『それ以外の使用』の区分けだが、今回の監査対象になるのは請求のあった議員に対する請求、市長に対する返還の二点だ。これを基に公務用務があったと(認定した)。議会事務局は公務があれば、公務等ということで、私用がいくらか入っているものについても、全て公務等があったという運用をしている。これについて監査がいけないとか、結果通知には認定していない」
※公務による使用と私用との区分けの判断基準を質問しているのに的確に答えていない。「これを基に公務用務があったと判断した」というが「これ」とは何かわからない。
本池 「私用も含まれていたが、議会事務局が公務・用務と認めているから監査委員としては何もいわないということか」
小野 「何もいわないのではなく審査の対象にしていない、今回の監査請求にあった二点について、適正であったかそうでないか、勧告すべきか棄却すべきか判断する材料には入っていないということだ」
※監査請求の結果である「使用は適正」が、信用できるものではないということが、この答弁にもはっきりあらわれている。公務用務に適正に使用されたのか否かを確実に判断するためには、「本当に公務用務に使われたのか、使われたというならどのような公務用務に使われたのか」を調査しないと判断できない。この住民監査請求に対して正しい判断をするためには必須の調査である。
しかし、市議会側がどのような用務があったかを説明できないため(私用に使ったことを否定できないため)、監査委員としてしなければならない調査はせず、「公用車を使った日は公務があった」という、議会側に都合の良い判断材料を使ったのではないか。
以上のべたように、監査結果の「公務用タクシーチケットの使用は適当である」という結論は間違っている。
1カ月間に10日間以上にもわたる深夜の飲み会帰りの公用タクシー券の使用や、友人などを送って大回りして帰宅するために使った公用タクシー券が、「全てが適当」であるはずがない。監査結果は市民感覚とも大きくかけ離れたものである。
監査委員は不正、不適正使用だという市民の強い指摘に対して、市民が納得できるような調査はしていないし、納得できるような説明もできていない。この住民監査請求に対する答えを出すための基本的な調査、即ち、3日にあげず豊前田や唐戸で深夜までおこなわれた飲み会が、本当に公務等に該当する飲み会であったのか、それとも私用だったのかという基本的な調査と事実認定ができていない。何の用務に使ったのかを調査せず、分からないままで「使用は適当」としている。「公用車の運転日であれば、公務があったと認定する」、「公用車の運転日であれば、その日1日の行為、行動は全て公務扱いで良い」という間違った論拠、論理、論法を積み重ねたうえでの結論であり、これで正しい結論が得られるはずがない。
今回の監査が、正副議長を監査するということで、監査委員とその手足となる事務局職員にとってやりにくかったことは解るが、監査は市が自浄能力を発揮する最後の砦である。
市の腐敗を防ぐ重大な立場であり、市民に対して重大な責務を負っていることを自覚してほしい。監査にいってもダメだ、裁判しなければダメだ、となっては、下関市は終わりである。監査は弱者の小さなミスより、強者の大きなミスこそ指摘する。権力者の公金私物化には、毅然とした強い姿勢で立ちはだかってほしい。
この公用タクシー券問題は、当初はそれほど複雑な問題とは考えていなかったが、関係部署の対応ミスから、今では次の五つの問題になってしまった。問題点と、その責任者は、
1 不正、不適正使用し、説明責任がまったく果たせないこと~下関市議会正副議長の責任
2 この使用が適正であるか否かを、まったく審査せずに支出手続きをしたこと~市議会事務局の責任
3 この問題についての市議会に対する一般質問は、今後、させないと決定したこと~下関市議会議長と事務局の責任
4 住民監査請求に対して、調査不足のまま適当としたこと~下関市監査委員と監査委員事務局の責任
5 この問題は、不正、不適正支出の問題であり、最終的には予算執行の最高責任者である下関市長の責任である。
この問題は、下関市政が市民の信頼を得られるか、また、自浄能力を発揮し得るかの第一歩、試金石であると考えている。このたびの監査結果と市議会一般質問禁止措置によって、公用タクシー券不正、不適正使用問題は下関市政のガン細胞的存在になっている。特に、市議会一般質問禁止措置は、下関市議会先例集に加えたことによって、今後、市議会の改革が極めて難しくなった。下関市政、下関市議会の歴史上の一大汚点となる問題であり、決して看過することはできない。ガン細胞は早く摘出しなければならない。このまま放置してこれを許すと、国の「モリ・加計・桜」問題と同じように、無法と不正義がまかり通る下関市、権力者が公金と公権力を自分と自分の取り巻きのために使える下関市になってしまう。
さすが総理の地元と、全国から嘲笑されることは我慢できない。我々の責任も重いと自覚しているが、一番強いのは市民の声と行動、市民パワーである。これからも下関市を良くするために、是非、皆様のご意見等をお寄せください。(おわり)