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下関市議会で質問制限の新ルール タクシーチケット追及恐れ 本池市議(本紙記者)排除の露骨な措置

後出しで先例集に書き加え 

 

本池涼子市議

 下関市議会6月定例会で、昨年9月から本紙でもとりあげてきた下関市議会の議長・副議長の公用タクシーチケットの使用について、本池涼子市議(無所属・本紙記者)が一般質問しようと質問通告を提出した。ところが、議会事務局はこの発言通告の受理を根拠なく保留したうえ、その後の3日間で「議会に対する一般質問はこれを受理しない」とする一文を市議会の先例集に追加することを決め、本池市議の一般質問を不受理とする動きに出た。議会事務局の提案を受けた議会運営委員会はこれを承認し、6月8日、下関市議会に議員の質問権をみずから規制し、排除する異様なルールができあがった。言論の府を標榜する議会において、タクシーチケット問題を追及されたくないという議会トップ及び議会事務局の都合だけで、後出しジャンケンのように大慌てで先例集を決め、議会は誰からもチェックされない聖域にするという挙に及んでいるのである。この街の議長や副議長が夜中の11~12時まで歓楽街の豊前田や唐戸で飲み歩き、公務の証明もできないのにタクシーチケット(公金)を使い放題であるという実態があけて通されるのか、重大な関心が集まっているため、水面下で起こっている事実を公表することにした。

 

 本池市議が一般質問しようとしていたのは、前議長・副議長、現議長・副議長の公用タクシーチケットの使用実態についてである。この問題は市民からの通報を受けて本紙記者及び市民有志の調査グループが関係者への聞き込みや役所への公文書公開をはじめとした調査・取材をおこなった結果、平成30年1月から令和元年8月までの期間に4人の正副議長(前職、現職)が使用したもののうち、143回分の94万540円について、公務証明のない使用であることが明らかになった。公用タクシー券は、公用車と同等の基準で使用されるものだが、乗車記録・タクシーチケットの半券に残された記録には、夜遅い午後11時、12時などの時間帯に歓楽街である豊前田や唐戸から乗車しているケースが相当数含まれている。

 

 公用タクシー券の費用は、市財政=市民の税金から支出されている。しかし、「飲み会の帰りに公用タクシーを使用しているのではないか」という疑問がぬぐえない使用状況であり、本紙でもこの問題をくり返し指摘し、公務の証明を求めてきた。

 

 しかし市議会事務局は一貫して「案内文書のない日は用務のあった日であり、用務のスケジュール管理をしていないので回答できない」とし、結局何の公務があったのちに公用タクシーを使用したのか、明らかにならないままである。

 

 住民監査請求もおこなわれ、本池市議のもとにも「あのタクシー券の問題はどうなったのか」「議長・副議長は返金したのか」「市議会は何をしているのか」といった市民の声が多く寄せられていたことから、今回一般質問でとりあげようとしていた。

 

6月3日、本池市議が質問通告提出

 

 6月3日、本池市議は質問通告の第一項目に「下関市議会の公用タクシー券の使用」、質問先「議会事務局」として提出した。だが、その場で議会事務局は受理を保留した。本池市議によると、質問先が議会事務局であることが問題だということだった。

 

 6月定例会の一般質問の通告締め切りは翌6月4日だ。締め切りを過ぎると質問ができない可能性があるため、本池市議は議会事務局に結論を確認しに行った。

 

6月4日のやりとり

 

 白土議事課長は、一般質問の対象はあくまでも「執行機関」なので、議会事務局に対して質問はできないと説明した。しかし、「その根拠になるものはあるのか」と本池市議が問いただすと、根拠はないとしたうえで、「一般質問は法的に規定されているものではない」と説明。一般質問については、下関市議会会議規則で「市の一般事務について」と規定されているだけだ。白土議事課長はこれを「あくまで執行機関に対する一般事務というとらえ方」とし、考え方(解釈)の問題であるとした。

 

 本池市議がさらに「執行機関に対する質問でなければならないという規定はないのにダメなのか」と指摘すると、「明文の規定はないが、タクシー券の運用に関する事務について聞きたいのであれば、中の話なので(議会事務局に)今聞くこともできる」とした。結局、締め切り日の6月4日も、本池市議の質問通告の受理は保留されたままだった。

 

6月5日、議会運営委員会での岡本次長の提案

 

 翌6月5日、議会開会前に開催される議会運営委員会(各会派の代表などが議会運営について協議する委員会)で突然、議会事務局職員である岡本次長が、下関市議会先例集に「一般質問等の質問における議会に対する発言通告は、これを受理しないものとする」という一文を追加する提案をおこなった。参考にしたのは衆議院先例427の「議長に対する質問書はこれを受理しない」という一文である。衆議院は「議長に対する」としているものを、下関市議会は「議会に対する」質問を一切受け付けないという内容として追加するという提案である。

 

 議会運営を議論する議員の組織である議会運営委員会で、議員や会派からの提案ではなく、議会事務局から「このさいはっきりさせたい」と、議員の質問制限に関する提案がなされたのである。当初、メンバーの議員たちには本池議員の質問に関連していることの説明はないままで、唐突な提案だったようだ。

 

 岡本次長はこの提案で、議員の一般質問については地方自治法上の規定はないが、下関市議会会議規則で「議員は市の一般事務について議長の許可を得て質問することができる」と規定しており、質問の相手は「執行機関」であると説明。「一般質問の対象となる行政事務は執行機関の事務を指すもの」であり、「議会は執行機関でないため、一般質問の対象となる市の一般事務の対象外と考えられている」とした。

 

 市の執行部に対して公金が適正に使用されているか、政策が市民のためになっているかどうか、チェック機能を果たすのが市議会である。本会議の場で議員が別の議員に対して、あるいは議長に対して質問するのが不適切であることはだれもが納得できる。しかし、市議会の予算は市財政=税金から支出されている。市議会事務局の予算執行についてチェックし、質問することが封じられてよいものなのか。これについて岡本次長は、「議会の予算の執行権は議長が持っているわけではない。事務局職員が“市長部局職員との兼務”で予算の執行をおこなっている」とし、議会の予算の執行については市の一般事務に含まれ、一般質問の対象になると認めた。

 

 ところがそのうえで、「議会事務局の任命権者は議長であり、議会の内部事務は議長が統理しているので、解釈によっては議長への一般質問という見方もできる」という理屈をあげて、一般質問はできないと主張した。

 

 一般質問の対象であるが、回り回って議長への質問になるから一般質問ができないというのである。拡大解釈・解釈変更もいいところである。監視機関である市議会の質問対象からはずされるのであれば、議会事務局は公金支出の決裁をおこなっているにもかかわらず、公開の場で質されることのない聖域になる。「開かれた議会」どころか「閉ざされた議会」である。

 

 また岡本次長は、本会議では議員と説明員、証人などに発言者が限定されており、議会事務局は説明員になっていないことも答弁できない理由としてあげていた。議会事務局は議長が発言を許した場合にしか発言できないという。これについていえば、3月議会の予算説明のさいには総務委員会でしっかり説明員として予算説明をおこなっており、二重基準ともいえる説明である。

 

 さらに、「議会に対する質問については、わざわざ本会議の場でしなくても議会事務局に来ていただいて質問していただければ議会事務局職員がお答えできることだと考える」とのべていた。税金の使途の疑義について、一議員と議会事務局が非公式の場でやりとりすべきという示唆である。

 

 この日は、自民党・志誠会の林真一郎市議が、会派で議論したい旨を発言し、いったん持ち帰りとなった。

 

 本池市議に対しては、議会運営委員会終了後に議会事務局から、先例集の追加案が渡され、「事務局提案」としてこれが提案され、議運で持ち帰りになったことが伝えられた。

 

6月8日、議会運営委員会で先例集追加決定

 

議会運営委員会

 週が明けた8日(月)午前9時30分から開催された議会運営委員会の議題は、この先例集の追加と本池議員の一般質問通告の取り扱いについてで、各会派で審議した結果が持ち寄られた。各会派の回答は以下の通り。

 

 香川昌則(自民・みらい下関、前・現議長所属会派)…先例集に追加する案で適当だとなった。
 山下隆夫(市民連合)…うちの会派も一緒だ。
 吉村武志(自民・創世下関、前・現副議長所属会派)…追加案に賛成。
 林真一郎(自民・志誠会)…主旨は理解できるが、この時期に唐突感を感じた。会派で協議したところ、(本池議員の)通告書の内容であれば、議会で答弁するのではなく、今までのやり方で議員と話をすることもできるし、常任監査もいるので監査の答弁で可能ではないかという意見もあった。結論として反対ではないが、時期をいつにするのか。即実施ということかと受け止めたが、議長がぜひこの場で決めなければならない状況であるという判断ならいこうと思うという結論だ。
 桧垣徳雄(共産)…先例集に載ってしまえば今回の一般質問に限らず、一切本会議で発言ができなくなる。それでいいのだろうかという意見が大勢を占めた。合併前の議会で議員の半数近くが選挙違反でいろいろあったとき、議会に対する発言ができた事例もあったこともあり、わざわざ先例集に明記する必要はない。問題が生じたらその都度、議運で協議したらいいというのが会派としての考えだ。
 河野淳一(公明)…事務局案で適当。

 

 この報告を受けて木本暢一議会運営委員長が「大多数賛成ということで、反対意見もあったが、決をとっても結果は一緒と思うので」として、採決なしに先例集への追加を決定。これを受けて白土議事課長が、「今後、一般質問、個人質問、代表質問において、議会への発言通告はこれを受理しないという取り扱いをさせていただく」と宣言した。

 

 小熊坂孝司議員(自民・志誠会)などから、今後、議会に対する質問はどこでおこなうのかなど、疑問視する意見なども出されたが、先例集への追加は決定事項となり、ひき続いて白土議事課長から、本池議員の質問通告の第一項目を受理しないことが提案され、木本委員長が「先ほどの申し合わせにより、受理しない」とした。

 

6月8日のやりとり

 

 この日、本池議員は結論に対する説明を求めに行った。当初、本池議員は「先例集の追加案は事務局からの提案」と説明を受けている。本紙が複数の議員に確認したところ、どの議員も「事務局提案」という認識を持っていた。しかし、議会事務局の説明は次第に変遷しており、この日は「あくまで議会運営委員会でお決めいただいた」「申し合わせがされた」のだと強調していたようだ。

 

 衆議院の先例は「議長に対する」となっているが、下関市議会は「議会に対する発言通告は、これを受理しないものとする」と対象があいまいで、解釈次第ではどこまでも質問制限が可能となる。本池議員がこの「議会」とは具体的に何を指すのかを質したところ、白土議事課長は、「議事機関としての議会」であると説明。議会全般を対象にした質問は受理しないという見方を説明した。

 

 議会事務局であっても予算の執行をする以上、執行機関の役割を持っている。本池議員がこの点を指摘し、今回の質問通告は事務についてであり、みずからの一般質問は先例には当てはまらないのではないかと畳みかけたところ、白土議事課長は、「議事機関、執行機関の両方の役割がある。理論的には執行機関としての役割だが、それを理論的な部分でやるのか、という部分をみなさんにご協議いただいた。あくまでも議会内部の問題であり、内部でやれる。それを一般質問のなかであえてやるのかという話だ」といった趣旨の説明をおこなった。

 

 本池議員は、議会事務局に対して一切質問ができないルールが定められた点について、重大な問題であると指摘したうえで、今回は質問先を議会事務局ではなく「監査委員事務局」に差し替え、質問通告を再提出。この質問通告は「議会に対する」には当てはまらず「監査委員事務局に対する」もので断る理由がないため受理された。

 

聖域化された議会は誰がチェックするのか

 

 今回の先例集への追加は、本池議員の質問通告を受け、わずか3日間で決定された。根拠がないまま保留とし、あとから「不受理」とできるようルール変更する手法だ。黒川検事長の定年延長問題のように、違法行為をあとからルール変更して適法にするのが安倍首相の得意技だが、お膝元の下関市では今回の件しかり、下関市立大学の定款変更しかり、後出しジャンケンでルール変更をやってのけ、合法化する手法が横行している。

 

 さらに、本池議員が、今回の先例集への追加を議論した経緯のわかる決裁文書を要求したところ、決裁文書も存在しないことが明らかになっている。議会事務局の説明では、短時間の協議のなかで決まったことであり、いちいちすべてにわたって文書をつくっていないという。

 

 議員の質問制限ルールがスピード感をもって決定された一方で、議長・副議長の公用タクシー券の使用基準については、調査チームが最初に問題を指摘した昨年9月から約8カ月たったが、住民監査請求の関係職員の陳述の場(5月15日)で、高松事務局長が「使用基準をつくっておらず、策定についても検討中」とのべており、いまだにルールすら策定されていないことが明らかになっている。下関市議会は議員の質問制限のルールを3日間でつくりあげる能力はあるのに、タクシーチケット(公金)を適正に使用するようルールを定めることについては放置し続けるというダブルスタンダードを貫いているのである。

 

 問題なのは、本来なら議会事務局は厳正に公金使用について管理し、あからさまな飲み会帰りのタクシーチケットの使用については私用扱いで本人に負担させなければならないことだ。是々非々で公金の在り方に向き合わなければならないことはいうまでもない。ところが、これまでルーズだった事実を追及されると霞ヶ関の忖度官僚よろしく「タクシーチケットの使い方に問題はなかった」を貫き、それがために一般質問にまで議員の質問権を規制すべく「事務局提案」なる形で先例集への追加をエスコートし、排除する挙に及んだことである。議会運営委員会に委員長及び委員から提案があって議会運営の運び方を論議するならまだしも、訳の分からない議員たちを丸め込む形で議会事務局主導で知恵を付け、先例集への追加を決めていったやり方は前代未聞といえる。

 

 下関市議会事務局が先例集に追加した「議会に対する質問は」受理しないという文言は、参考にした衆院の「議長に対する質問は」受理しないという文言とも大幅に意味合いが異なる。恐らく日本全国の地方議会のなかでも、このような先例集をつくったのは下関市議会しかいないと見られている。議会制民主主義の建前やルールを平然とねじ曲げていくやり方が、まさに安倍政府そっくりだと市役所庁舎内の職員たちのなかでも話題になっている。本池市議のもとには、事の顛末を漏れ聞いた他部署の職員たちから「こうなったら、18日の一般質問はタクシーチケット一本で1時間追及してほしい。議会だけがなぜ聖域になるのか。私たち公務員も公金について厳正に向き合っているのだから、議長や副議長はみずからを律するべきだ」「今回の一般質問を排除したいというだけで、ここまでやるかと思う。監査委員に矛先を変えれば質問通告は排除できないので、今回は監査相手に頑張ってほしい」という声が寄せられ、行政知識も含めて指南してくれる人々も少なくない。こうして水面下では18日の一般質問に向けた準備が、本池市議及び調査チーム一丸となったもとで着々と進行している。当日は午後3~4時頃に一般質問の順番が回ってくる予定。本池涼子後援会はこの問題に関心のある市民の皆さんに広く傍聴を呼び掛けている。ネットでの視聴(下関市議会・議会中継)も可能。

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